業務改善助成金をわかりやすく解説 中小企業が知っておくべきポイント

2025年5月20日
近年、地域別最低賃金の着実な引き上げが進むなかで、低賃金の改善と事業の効率化は多くの企業にとって喫緊の課題となっています。こうした背景の中、初期コストを抑えながら、最新技術やシステムの導入を後押しする業務改善助成金が注目されています。本コラムでは、業務改善助成金をわかりやすく解説し、中小企業が知っておくべき要件やメリット、具体的な活用事例などを紹介します。
業務改善助成金とは?
業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資などを行いながら、事業場※内最低賃金を引き上げた企業に対して助成を行う制度です。
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事業場:事業場の適用範囲は、原則として同じ場所にある場合は一つの事業場とみなされますが、異なる場所や労働状態が異なる場合は別々の事業場とみなされます。
対象要件
中小企業または小規模事業者であることが前提となります。また、事業場内最低賃金が地域別最低賃金よりプラス50円以内であるなどの要件を満たす必要があります。法令違反や不当解雇などのトラブルを起こしていないかどうかも確認されるため、企業としてのコンプライアンス体制も整えておくことが求められます。
支給条件
助成を受けるためには、30円以上の賃上げや45円以上の賃上げなど、特定の金額以上の最低賃金引き上げが必要となります。また、引き上げの実施と同時期に生産性向上に関連する設備投資や研修などの取り組みを行うことが求められます。賃上げの実施時期も申請上重要なため、スケジュールには十分注意して計画を立てましょう。
業務改善助成金の目的
業務改善助成金が設けられた背景には、最低賃金の引き上げによる従業員の生活水準向上と、中小企業が抱える生産性に関する課題解消の両立を図りたいという国の方針があります。最低賃金を上げる一方で、業務改善や設備導入が遅れてしまうとコスト面の負担が増え、経営を圧迫しかねません。そこで助成金で費用をサポートすることで、中小企業が経営基盤を強化しながら従業員の収入アップを実現しやすくしているのです。
業務改善助成金では、賃金引き上げ額や労働者数に応じて助成率と上限額が設定されています。最大600万円の助成を受けられるケースもあり、導入内容次第では大きな効果が期待できます。助成金をうまく活用し、財政負担を抑えながら事業の生産性向上と従業員満足度の向上を目指すことが可能です。
最低賃金引き上げと生産性向上の関係
最低賃金を引き上げると人件費が上昇し、企業の収益構造への影響が大きくなります。しかし同時に、生産性向上に繋がるシステム・機器導入や業務プロセスの改善などを行えば、一人あたりの付加価値を高めることが可能になります。業務改善助成金は、このようにコスト増と生産性向上をセットで進めるための手段を企業に提供し、従業員の処遇改善と企業の持続的発展を同時に実現しようとするものです。
業務改善助成金のメリット
業務改善助成金を活用することで、享受できるメリットは大きく2つあります。
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キャッシュフローへの負担を軽減
設備投資や研修の費用が一部助成されることで、キャッシュフローへの負担を軽減できる点です。導入時にまとまったコストが必要となる最新システムやロボットを活用しても、助成金を活用すれば初期コストを低く抑えることが可能です。その結果、中長期的な事業計画をより安定的に進められるようになります。 -
離職率の低減
従業員から見ても給与が上がることでモチベーションが高まり、離職率の低減につながることが期待されます。生産性向上が実現すれば業務効率が上がり、より働きやすい職場環境を作り出すことができるでしょう。こうした好循環が企業全体の活力を底上げし、長期的な企業経営にプラスの影響をもたらします。
業種別の具体的活用事例
業務改善助成金を活用し、事業を改善した事例は多岐にわたります。
ここでは、いくつかの業種を取り上げて、どのような取り組みが生産性向上と最低賃金の引き上げに結びついているのかをご紹介します。
どの業種においても共通するのは、「生産性向上」と「従業員の処遇改善」を同時に進めるという点です。最新の設備を導入することで業務自体の効率が上がり、結果的に粗利益や売上高が増えて賃金引き上げの原資を確保しやすくなります。また企業イメージが向上し、採用面や定着率にも好影響を与えるため、中長期的な経営安定のため有効な選択肢となっているケースが多いです。以下の事例を、自社における改善策考案の参考にしてください。
飲食業:配膳ロボットを活用したホール業務の効率化
飲食業では、ホールスタッフの負担軽減と顧客満足度の向上を目的に配膳ロボットを導入する事例が増えています。オーダーを受けてから配膳までの流れが自動化されるため、スタッフは顧客対応に専念でき、サービスの質が高まります。また、人手不足の対策にも繋がり、従業員の働きやすい環境作りに貢献します。
介護業:福祉機器導入でケア業務を軽減
介護現場では、福祉用具や移乗補助機器などの導入によって身体的負担を大幅に減らすことができます。これにより、夜勤などハードなスケジュールでも作業効率が上がり、スタッフの離職を防止する効果も期待できます。
卸売業:在庫管理システム導入で在庫ロスを削減
卸売業では、在庫管理が売上や利益に直結します。システム導入により、正確な在庫数をリアルタイムに把握できるようになり、過剰在庫や品切れリスクを大幅に減らすことが可能です。業務負担の軽減に加えて、作業効率が上がった分を別の業務に割り当てられるため、結果的に売上増と賃金アップを両立することが可能です。
理容業:業界専用システム導入による予約・顧客管理の効率化
理容・美容業界では、予約管理や顧客データの蓄積が重要な課題です。専用システムの導入によって、顧客の予約状況や好みを一元管理しやすくなり、事業者は顧客満足度を向上させる施策を打ちやすくなります。こうしたツール導入で業務効率が上がり、時間的な余裕や売上向上が期待できるため、労働環境の改善にも役立ちます。
製造業:研修導入で従業員のスキルアップを実現
製造業では、高度な技術力が求められるため、専門性の高い研修やセミナーを導入するケースがあります。新しい製造工程や品質管理のノウハウを学ぶことで、製造速度や品質が向上し、結果的に収益性を高められます。こうした教育投資は、従業員のスキルアップにつながり、離職率の低減や組織力の強化にも大きく寄与します。
申請から支給までの流れと注意点
業務改善助成金の申請手続きは、交付申請から実績報告・最終的な支給決定まで段階を踏んで進むため、事前の準備が欠かせません。
まず、提出書類としては交付申請書に加え、事業場内最低賃金や導入する設備・研修内容を証明する資料が必要です。助成金の対象となる取り組みが、実際に生産性の向上につながるかを客観的に示せるよう、計画段階で明確な目標値や成果指標を設定しておくことをおすすめします。提出時期や手続き期限を誤ると助成金を受け取れない可能性もありますので、自治体や厚生労働省の最新情報をこまめにチェックしましょう。
賃金改定を行うタイミングも大切なポイントです。交付申請が認められる前に設備投資や賃金引き上げを行ってしまうと、助成の対象外になってしまう場合があります。しっかりとスケジュールを把握したうえで、申請から実施、そして実績報告の流れを円滑に進めることが重要です。
事前準備と交付申請書の作成
交付申請前には、まず自社内の業務フローや経営指標を整理し、どの領域を改善するのかを明確にする必要があります。申請書には具体的な導入内容と経費の見積もりを記載し、賃上げを行う従業員数や引き上げ額を詳細に示します。漏れや不備があると申請手続きが遅れるだけでなく、最悪の場合不支給になる恐れもあるため慎重に進めましょう。
賃金引き上げのタイミングと事業実績報告
賃金の改定は、交付決定後に計画どおり実施することが重要です。実績報告では、実際に行った設備投資や研修の内容が当初の計画と一致しているかを証明し、従業員の賃金が引き上げられた事実を明確に示す必要があります。手続き完了後に支給が確定しますので、不備が無いように資料をしっかり整備しておきましょう。
まとめ
業務改善助成金は、最低賃金の引き上げと生産性向上を同時に推進したい中小企業にとって、大きな支援となる制度です。要件や手続きを理解し、今後の事業展開に活かしていきましょう。
賃金引き上げのメリットは従業員のモチベーションアップに留まらず、企業全体のイメージ向上や離職率低減といった長期的効果にも繋がります。加えて、生産性向上を図るための設備投資や研修費用のサポートを受ければ、財政リスクを抑えたうえで組織力を高められる点が魅力です。具体的な要件や申請スケジュールは毎年アップデートされる可能性があるため、最新情報の確認が不可欠です。弊社ではそれらの情報を踏まえたうえで、お客さまの事業計画にあわせた情報をお届けすることも可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
Q&A
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Q1申請に関してのアドバイスを受ける際は、有償ですか?
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A1
業務改善助成金は就業規則の改定などもあり、申請に関してはお客さまご自身もしくは社労士さまが代理申請可能となります。
弊社にて専門家のご紹介も可能ですので、一度ご相談ください。-
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リモートによる制度概要のご説明の実施は無償で承っております。
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Q2リースは補助対象ですか?
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A2
リースも補助対象となります。ただし事業期間内における一括払いが条件となります。
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Q3ハードウエアは補助対象ですか?
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A3
ハードウエアの購入費用も補助対象経費となります。
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Q4パソコンの導入も補助対象となりますか?
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A4
特例事業者に認定されれば補助対象経費として認められます。
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特例事業者とは
原材料費の高騰など社会的・経済的慣行の変化等の外的要因により、申請前3か月間のうち任意の1月の利益率(売上高総利益率又は売上高営業利益率)が、前年同月に比べ、3%ポイント以上低下している事業者
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Q5申請はどのようにするのですか?
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A5
jGrantsによる電子申請もしくは、紙媒体による申請も可能です。
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提出先は各都道府県の労働局となり、丁寧なアドバイスを受けられると聞いておりますので書類お持ち込みによる申請をお勧めしております。
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jGrantsとは、デジタル庁が運営する補助金の電子申請システムです。国や自治体の補助金が、オンラインで申請できます。
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