人事労務DXとは何か?
企業の持続的成長を支える鍵
社会保険労務士法人ティムス

2025年4月28日
コロナ禍以降、人事労務DXというワードが日常にあふれるようになってきました。人事労務DXとは?と問うと、まだ多くの方がアナログのデジタルシステムへの入れ替えと捉えているのではないでしょうか。実際は単純なアナログからデジタルへのリプレイスではなく、人事労務DXとは経営課題の解消に関わる本質的なことであり、それは中長期的な企業発展には欠かせないものだと理解していくことがとても重要です。今回はその本質に触れる一つの機会としてお話をしてまいります。
はじめに
ここ数年における人事労務の世界は急激な変化の波が押し寄せています。先行きの見えない変動要素の多い流動的な時代です。
また人口減少・少子高齢化は止まらず、採用は日に日に厳しくなってきています。そして人事労務に関する次のようなキーワードをよく目にします。
「テレワーク・働き方改革・パーパス経営・人的資本経営・人材不足・採用難・人材開発・DX・少子高齢化・ダイバーシティ&インクルージョン・従業員エンゲージメント・リーダー育成」
これらはコロナ禍以降、人事労務の世界が急激に変化し、求められるものが変わってきたことを意味します。その先には、日本の企業において 、従来通りの方法では経営の継続ができなくなってきていることにつながっていきます。私が企業の経営者や人事担当者の方々とお話をしますと、皆さまの抱える問題はとても似ているものが多く、共通の課題を持っていると感じます。
例えば、
- 上司が部下をマネジメントできない
- 社内にコミュニケーションパスが形成されていない
- 育成計画が無い
- 社員の定着が悪い
- 自立型組織になっていない
- 経営理念やパーパスが浸透していない
- 前向きな能動的な社員が少ない
といったものです。
ここから垣間見えるのは、多くの企業は共通の課題を抱えており、その解決方法を模索し、悩んでいるということです。そして、対応策を簡単には見つけられずにいます。
共通課題の一つである採用の主な特徴として、これからの若い人材は、自身が働く会社の選定に置いて、企業の中身を非常にシビアに見ている傾向が強まっています。彼らの企業を選ぶポイントは、昔と違って大きく様変わりしてきたと感じます。採用倍率は高止まりし、職種によっては非常に激戦倍率となっています。4月には、新卒社会人の退職代行の件数が増加しているニュースが流れ、採用に関するハードルは上がり続けています。現在の超売り手市場では、企業は昔と違って選ぶ側ではなく、選ばれる側になっていることを気づく必要があります。
若手人材は、最初に入る会社をファーストキャリアと呼び、その後はスキルや成長を求め次へステップアップのために、セカンド・サードキャリアへのジョブチェンジを当たり前に考える時代となってきています。若手人材を採用し定着させるためには、大きく3つの柱で考え進めて行くことが必要です。
以下に、それぞれの柱を詳しく見ていきましょう。
人が集まる魅力的な会社作り
採用難による人手不足が顕在化してきた昨今において、採用の見直しは必須事項です。掲示型の採用媒体のみを使用しているケースでは、採用の入り口としては不十分と言えます。採用媒体の見直し、また社内でのリファラルやジョブリターンなどさまざまな施策を組み合わせていく必要があります。また、会社のコンプライアンスは当たり前にできていることも求められます。
そして何よりも新規人材が会社に採用された場合、今後どのようなスキルが身に付くのか、どのような育成計画があるのか、キャリアパスが明確か?などが問われます。入社後もその形が見えないとせっかく採用がうまく行ったとしても、早期に退職を招いてしまうことになります。日本の企業の多くは、この採用後のキャリアパス形成や育成計画の構築を苦手としています。今後は積極的にこれらの施策を実施していくことが重要です。
人材が育つ環境づくり
経営理念やパーパスの浸透によるベクトルの統一、何をすればスキルが上がり、対価が得られるのか明確な人事制度、職場内における相互に意見を言い合える心理的安全性の確保が必要となります。経営理念やパーパスの浸透はとても難しく中長期的な取り組みとなります。時代の変化に伴い、大企業をはじめこれらの施策を再注目し、取り組みを始めている企業が増えています。中小企業も同様に取り組むことが必須と言えます。
人事制度については、社内人材の多様性がふえた昨今では、従来の人事制度があてはまらないとゆがみを感じる企業が増えてきています。私の元にも毎月5~6件は、人事制度のご相談が来ます。これは、各企業が人事制度の必要性や制度を変革させるニーズに気づき始めたためです。同時に「従来の人事制度モデルでは対応できない多様性をどう捉えるか」がキーポイントになります。
そして従来の企業の在り方の多くが、上意下達の管理型マネジメントを基本としたビジネスモデルを元に成り立っています。
管理型マネジメントモデルは、一人の上司が複数の部下を効率的にマネジメントする必要があり、コミュニケーションはそれほど重要視されず、その中で特定の人とだけ人間関係を深めるために就業時間後のアフターを行うといった慣習がありました。
また社内においても、業務指示のみを聞いてちょうど良く対応すればよかったという時代を作ってきた背景があります。これらの副産物は、頑張っても適正に評価されない、適度に働いていれば安定した給与が得られる、と頑張らない人材を社内に醸成させる結果を招いてしまったと言えます。これからの時代は、スタッフと共に十分なコミュニケーションを交わし、多くの意見を取り入れ、イノベーションを引き起こし、共に会社の未来を創ることができる、積極的に能動的に働くスタッフをどれだけ育成できるかがとても重要な事だと言えます。そのためにも、普段から十分なコミュニケーションが図れる環境・仕組みづくりが大切になります。
継続的な育成環境
日本では義務教育から大学、専門学校、社会人とマネージャーに抜擢されるまでの間に、組織・マネジメント・コミュニケーション・部下育成について、専門的に学ぶ場がありません。その結果、それぞれのマネージャーが自身の過去、経験、常識という名の思い込みや間違った刷り込みが、バラバラの上司像やマネジメント方法を形成してしまっているのです。その結果、組織内では、マネージャーたちが異なる価値観や基準でマネジメントを行うといったゆがみの温床を生み出しています。これらを解消するには、若手人材に活躍してもらうための新しいマネジメント方法をしっかりと学ぶ必要があります。企業はこれらの育成に対して、新人教育以外に階層別教育などスポット研修を行うことはありますが、知識をINPUTするだけの研修は、自部署でのOUTPUTを引き出すまでには至らないことが多いです。
その理由は、企業の抱える課題や人材の問題が業ごとに異なるからであり、その解消方法も企業ごとに異なるためです。そのため、実地でどのようにOUTPUTするのかを寄り添いながら励まし、リーダー自身が積極的に学んでいただく必要があり、企業はその育成環境を整えていく必要があります。
特にリーダー層については、若手人材を率いる、経営層の想いを理解する点でも最も重要な位置づけとなります。私は、この層の育成を次世代リーダー育成と呼んでいます。継続的な育成は、人を大きく成長させることができます。リーダーが成長すればおのずと若手人材も成長し、組織が活性化します。結果、企業も反映することとなります。つまり人的資本経営となります。
まとめ
人事労務DXとは、これらの3つの施策を実施するために必要な前準備になります。前述の施策は、どれも企業にとっては新しいことを始めることになります。そのため施策を実行するには、多くの時間が必要です。企業が停滞せず発展し続けるためには、人事労務DXを基盤とし社内の効率化、生産性の向上、既存社員の業務をルーティンから付加価値業務へステップアップさせることが重要なのです。
人事労務DXは企業発展の土台になるものだと私は考えています。
そして成長し続ける企業は、もれなく人事労務DXに取り組んでいます。何から始めたら良いか分からない場合は、まずはどんな課題を解消し、何を目指すのかを考えましょう。そこが最初の一歩となります。
著者プロフィール
社会保険労務士法人ティムス
代表 穂積 完聡
貿易商社・製造メーカー営業を得て開業より10年以上。
労務相談、BPO、人事労務DXから人的資本経営コンサルティングまで幅広く活動し、奉行を活用したBpaaS、さらにはその後のコンサルティング、特に企業が求める次世代リーダーの育成を得意分野とし、人が関わるすべての分野をフォローできます!
OBCおよびパートナー企業との連携も多数実績あり、セミナーも全国各地で実施中。
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