中小企業白書から読み解く、限られた人材で事業を維持拡大していくための方向性
2024年7月25日
人口減少と高齢化が進む日本。特に中小企業は人材不足に悩む一方で、限られた人材で事業を維持拡大させていく必要に迫られています。そこで注目されるのが、省力化を促進する設備投資やITを活用した業務の効率化や生産性の向上です。本コラムでは中小企業白書を読み解き、ITの活用を進めていく上での課題や留意点についてご紹介します。
ますます進む人材不足
日本の人口動態は、高齢化とともに労働力人口が減少しています。
中小企業庁の2018年版「中小企業白書」によれば、わが国の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年の約8,700万人をピークに減少に転じて、2015年には約7,700万人まで減少しています。そして、この傾向は将来にわたって継続すると見込まれ、当時の試算によれば2060年には2015年の約6割の水準への減少が予測されており国内企業の人材確保は継続した経営課題といえるでしょう。(図表1-1)
特に中小企業は、この人材不足の影響を大きく受けています。人材確保の困難さは、事業の維持や拡大に影響を及ぼし、企業の成長を阻害する可能性があります。2024年版「中小企業白書」によれば、中小企業の人手不足は深刻な状況にあり、売上は回復傾向にあるが、人手不足と感じている企業が依然として多い状況が見て取れます。(図表1-2)
図表1-1:年齢別人口推計の推移
図表1-2:中小企業の売上額DI・従業員数過不足DIの推移
人手が限られる中で省力化の設備投資が注目されている
この様に人材の確保が困難な状況が続く環境下において、人材不足を解消するための一つの方法として、省力化の設備投資が注目されています。今年新設された省力化投資補助金は、中小企業や小規模事業者が新たな設備投資を行い、省力化を促進することを目的としています。具体的には、「中小企業等の売り上げ拡大や生産性向上を後押しするため、人手不足に悩む中小企業等がIoT・ロボット等の人手不足解消に効果がある汎用製品を導入するための事業費等の経費の一部を補助することにより、省力化投資を促進して中小企業等の付加価値額や生産性向上を図るとともに、賃上げにつなげること」を目指しています。この事業ではIoTやロボットなどの人手不足解消に効果がある汎用製品を「カタログ」に掲載し、中小企業等が選択して導入できるようにすることで、簡易で即効性がある省力化投資を促進することが期待されています。
デジタル化で業務を効率化して生産性を向上
また、人材不足解消の手段として業務をデジタル化し、業務の効率化と生産性の向上を図るという方法もあります。例えば、オンライン会議システムの導入を考えてみましょう。オンライン会議システムを導入することで得られるメリットには以下のようなものがあります。
- 従業員は場所を問わずに会議に参加することが可能となる
- 移動時間の削減や柔軟な働き方が実現できる
- 会議の録画や共有機能の活用による情報共有の効率化が図れる
そして、削減された時間を使って他の付加価値を生み出す業務に費やす時間を増やすなど、より良い成果を生み出すための時間に費やすことで組織の生産性を高めることができます。こうしたITツールの導入を支援するIT導入補助金という制度もあり、この補助金を活用することで、企業はデジタル化を進め、業務の効率化と生産性の向上が図れます。
中小企業におけるデジタル化の課題
しかし、中小企業におけるデジタル化には課題があります。2021年版「中小企業白書」によれば、もっとも大きな課題として「アナログな文化・価値観が定着している」ことがあげられています。これは、デジタル化に対する理解や受け入れが不十分であることを示しています。次に続く課題として、「明確な目的・目標が定まっていない」、「組織のITリテラシーが不足している」ことがあげられています。(図表2-1)専任のIT担当者を置くことが困難な中小企業にとって、組織のITリテラシー不足、IT人材不足を起因として、明確な目的・目標を定めることが難しい状況となり、結果としてアナログな文化・価値観が定着してしまっていることが推察されます。
図表2-1:デジタル化推進に向けた課題(業種別)
限られた人材は本業に注力し、生産性を拡大
それでは中小企業がIT化を進めるにあたってはどのような課題があるのでしょうか。2021年版「中小企業白書」によれば約6割の企業が「ITツール・システムを企画・導入・開発できる人材がいない」とされています。(図表3-1)人手不足の中、中小企業がIT人材を確保することが容易でないことが想像され、外部にITの導入を支援してもらうことも有効な解決手段であると考えられます。限られた人材は本業に注力し、IT化の計画や導入を外部の支援を受けて行うことで、業務の効率化や生産性の向上を図ることが事業を維持拡大させていく上で有効な手段であるといえるでしょう。
図表3-1:IT人材の確保状況
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