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あの社員の“やる気”はどこへ消えたのか? ~日本企業の職場から失われている大切なこと株式会社職場風土づくり

  • 会社の処方箋

2024年10月9日

ギャラップ社(アメリカの世論調査や人材コンサルティング会社)が世界各国の企業に実施した従業員のエンゲージメント調査結果として、日本企業の『やる気のない社員は70%に達する』という衝撃の事実を発表しました。

本コラムでは、“社員がやる気をなくす瞬間 ~間違いだらけの職場づくり”の著者 中村英泰が職場づくりの専門家として、幾つもの職場風土を改善した経験などを基に、社員の“やる気”が失われる理由とその対策についてお伝えします。

社員のやる気が高まる職場と、なくなる職場のちがい

私は職場風土づくりの専門家として、『社員にとって職場が、働くことを通じて成長できる場にする』という理念を掲げ、これまで700を超える企業に関わってきました。その過程で、多くの経営者・管理者、さらには社員に「今、職場で悩んでいることは何ですか?」という質問をすると、回答として最も多く聞かれたのが“やる気”に関することでした。冒頭のギャラップ社の衝撃の発表を見ても、それが特定の企業に限ったことではなく多くの企業の根深い問題であることを示しているようにも思います。

社員がやる気をなくす職場の特徴

続いて私から、おのおのに【それは何故でしょう?】と尋ねると、どちらも明確な説明はなく、『的を得ない“あいまいな答え”』が返ってきます。これは一例ですが、職場の上司は部下に、部下は上司に対して、お互いに理由のよくわからない、ハッキリしない問題を抱えているようです。

上司:「部下のやる気が低いんです」、「突然辞めたいといわれ困っています」、「資質はあるはずなのに、昇格はしたくないって言うんです」

部下:「上司の考えには付いて行けません」、「この会社で、働き続けるつもりはないです」、「昇格を打診されましたが、ありえないです、問題にかかわりたくないんです」

後ほどお伝えしますが、こうした上司と部下の間の“理由のハッキリしない問題”は、そのままにしておくことで、職場風土に悪い影響を及ぼすと共に「社員のやる気」を低下させる直接的原因になるため早期改善に動く必要があります。とは言え、対応を誤るとかえって複雑になるため、ことは容易ではありません。

職場風土の改善に入らせていただき、ヒアリングを進めて行くと上司と部下の間に、『理由のハッキリしない問題』が確認されることがあります。

その理由として、ビジネスパーソンに、会社や職場を仕事をするだけの場所と考え、周りの社員に無関心・未交渉・非干渉な人が増えているようです。そうした考えは、コロナ禍に国が行った「人との接点を8割減らす施策」を通じて急加速しました。

【あなたへ質問です】

あなたは、部下や同僚のキャリア形成にどのようにかかわっているか、自信を持って答えられますか?

いま社会変化の速度が速くなり、会社も組織ももちろん個人にも変革への期待が高まるなか、厚生労働省の調査から「仕事に強い不安や悩み、ストレスを感じる者が80%を超えていること」がわかっています。そうしたなか上司と部下、先輩社員と後輩社員、同僚が真摯(しんし)に先の様な問いに向き合うこととともに、職場を『単に、時間を浪費する場ではなく、時間を投じてお互いに大切にしていることを実現できる場』へ変えて行くことが求められる様になっています。

実際に、隣で働く同僚を“人”として認めたうえで、お互いの意見を根気強く妥協なく、結論ありきではなく互いの考えを重ねながら仕事に向き合える風土の職場は、先の無関心・未交渉・非干渉とは逆に、働く社員の“やる気”の高いことがわかっています。

社員のやる気が高まる職場

ここで、実際に私がかかわらせていただいた事例を紹介します。ある職場の女性社員が「結婚を機に、好きな仕事をこれ以上続けられない」と上司に申し入れました。残業や不規則な休日が彼女を悩ませていたようです。詳細は省きますが、われわれと共に上司と彼女、時に職場の社員も一緒になって議論を重ね、最終的に短時間勤務制度やジョブローテ―ションの体制を整えました。職場の仲間が一丸となって彼女1人のために会社の仕組みや体制までをも変えてしまったのです。2012年当時、本当の意味で働き方改革を実現している中小企業はあまり多くありませんでした。

さらに私の印象に残っているのは、本件で一緒に奔走した上司が口にした『私の役割は、企業を思って働く社員が、働きやすいように職場環境を整えることだと思っています』の言葉に強く感銘を受けたことです。その女性は、今でも同じ企業で働き続けていて、先日面談した際には「あの一件がなければ、こうして仕事に向き合うことなんて無かったと思います。」と、まるで昨日のことのように笑顔で話してくれました。

こうした物語が、自然多発的に生まれる職場は、社員の“やる気”が高まると同時に、人材採用難の現在、多くの企業が経営戦略に組み入れている“帰属意識(エンゲージメント)”がとても高いことは容易に想像できるのではないでしょうか。

社員のやる気が高まる職場づくりプロジェクト

ここまで読んでいただいた皆さまが、「今の職場を“やる気”の高まる職場づくり」や「今以上に“やる気”が高められる職場風土づくり」に取り組むことを考えた際に外すことのできない重要なステップをお伝えします。本コラムでは、ポイントを絞ってお伝えして参りますが、職場風土づくりにおいて、より詳細を確認されたい場合には著書「社員がやる気をなくす瞬間 ~間違いだらけの職場づくり」をお手にしてください。

トレンドに惑わされない

ある時、創業80年を迎えるメーカーY社から相談を頂きました。「当社は、この2年間社長以下社員一丸となり“ひとづくり”に取り組んで参りましたが、この数年エンゲージメント調査の結果が低迷するばかりか、離職者が増加しています。一緒に改善に取り組んでほしい」との内容でした。プロジェクトメンバーに入り、話を伺っていくと改善に必要なポイントが見えてきました。

Y社が取り組んでいる人事施策は素晴らしいものでした、人材育成基本方針の策定、評価制度と面談の実施、パーパスの定義、メンターメンティ制度や各種研修の戦略的実施、さらに定期的なサーベイの実施と戦略の見直しなど、これ以上ない状態が整備されていました、ではなぜ成果に反映されないのでしょう。

大きな理由としては、「企業が施策を選択した理由が、職場まで浸透していないこと」、「施策が、社員にどんな価値をもたらすのかが不明瞭であること」、「優良な施策が職場では、作業となり、社員の負担感を助長していたこと」にありました。また職場風土診断を行うと【受動型風土】であることもわかりました。※職場風土診断については図1・2を参照ください。

世の中に、イイことが私たちに本当に有益なことなのか、トレンドに惑わされることなくしっかりと判断することが求められています。その後、Y社では施策の再構築を職場風土づくりとともに行うこととなりました。

参考までに、下記に著書「社員がやる気をなくす瞬間 ~間違いだらけの職場づくり」から職場風土診断(簡易版)を抜粋して掲載します。皆さまが、“社員のやる気が高まる職場づくりプロジェクト”を始動させる際のご参考としていただけると幸いです。

図1

職場風土診断(簡易版)

A)接触の量がわかるチェックリスト:出社、退社のあいさつが交わされている。メールで簡単に済ませられることを、直接言い渡される。この1年で困りごとを相談されたことが複数回ある。昼食は、1人ではなくほかの社員を誘っていく。社内に接触の量を高めるための仕組みや制度がある。他部署の社員同士が立ち話(電話)をしている場面をよく見かける。上役への相談・報告はかしこまることなく直接言える。自身が忙しいときでも、部下や同僚が気にせず相談ごとを持ち込む。部下や同僚の繁忙期においても、気兼ねなく相談事を持ち込める。社内の他部署にも仕事以外の雑談でも話せる社員が複数名いる。 B)接触の質がわかるチェックリスト:出社、退社の挨拶が交わされる際、名前(呼称)で呼ばれている。他部署の人と飲食(ランチを含む)をする機会が多い。仕事以外の相談をできる(してくる)人がいる。会議になんの前振りもなく他部署の人が参加し、発言する。社外で仕事以外の都合で集まることがある。本人がいない場所で高評価や実績を称える発言がされる。過去に離職した社員とも連絡を取り合う。他部署の社員から相談を受けることがある。他部署の問題や課題に対しても日頃から提案や評価を行う。部下が5年後に描いているキャリアを知っている。人間関係の重要性について聞かれた際に自分の言葉で説明できる。

チェックリストは、職場の社員同士の関係性の状況を確認し、類型して判断するための職場風土診断(簡易版)です。ご自身の職場がどこに属するのか確認してみて下さい。

  • A.B.の両方が8つ以上の職場は、「創発型風土」の職場です。
  • A.量より、B.質が多い職場は、「能動型風土」の職場です。
  • B.質より、A.量が多い職場は、「受動型風土」の職場です。
  • A.量、B.質ともに5つ未満の職場は、「離散型風土」の職場です。

図2

職場風土の4類型

図:職場風土の4類型

あの社員の“やる気”はどこへ消えたか?

人口縮減社会が企業経営に超採用難という負の影響を与えるようになって久しいなか、やっとの思いで採用した社員の“やる気”がみるみる消えてゆきます。面接時に発したあの熱意はフェイクだったのか?と思うほどです。心理学において人の成長は、環境と個人の相互作用によって成立することがわかっています。もちろん、個人の側の問題もありますがその一方で、職場環境や職場風土が“やる気”の消失を助長させているとしたら、それを改善しないことには、いずれ次の世代が不在の状態で、事業計画を立てなければならなくなります。

長年の企業文化とともに醸成された職場風土が、明日から反転することはありませんが、お読みいただいているあなたが変わることで必ず職場は変わります。それは「一人でも多くの社員が、職場にいる時間を自分らしく過ごしてほしい」と思うことだけでも違います。

本コラムが、きっかけとなれば幸いです。

著者プロフィール

株式会社職場風土づくり
代表取締役 中村英泰
株式会社職場風土づくり代表。ライフシフト大学特任講師。1976年生まれ。人材サービス会社に勤務したのち、働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創るために起業し、法人設立。年間100の研修や講演に登壇する実務家キャリアコンサルタント。講演や研修はお気軽にご相談ください。

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