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2024年11月1日施行 フリーランス・事業者間取引適正化等法とは?アクタス社会保険労務士法人

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2024年8月8日

2024年11月1日よりフリーランス・事業者間取引適正化等法が施行されます。
フリーランスに対する取引の適正化や就業環境の整備のため、発注事業者に対し、取引条件の明示、報酬の減額や受領拒否などの禁止、育児介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等が義務付けられることになります。同法の施行は、これまで曖昧だった労働契約と請負契約の違いについても意識が及ぶものであり、「そもそも労働契約であるべきなのでは?」という疑義の端緒となりうるもので「偽装請負」リスクが増大したともいえます。そこで、本コラムでは、改正内容の解説のほか、改めて労働契約と請負契約の違いについてご紹介します。

フリーランスとは?

「フリーランス」とは、法令上の用語ではなく定義はさまざまですが、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)」(PDF:1.02MB)によれば、「実店舗がなく、雇い人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」とされています。

事業者との業務委託契約(請負契約や準委任契約)により役務提供をしますが、発注元事業者との間で情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件をフリーランスが自由かつ自主的に判断し得ない場合があり、取引条件が一方的に不利になりやすいといわれています。
よって、発注元事業者がフリーランスに対し、その地位を利用して不当に不利益を与えることは、不公正な取引方法の一つである優越的地位の乱用として、独占禁止法により規制されています。

さらに、労働契約を締結せずに、形式的にフリーランスとして請負契約や準委任契約などで仕事をする場合でも、労働関係法令の適用に当たっては、契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて、「労働者」であるかを判断することになりますが、その具体的な判断ついては、上記のガイドラインに照らして、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断します。少なくとも、以下に該当していないかは確認が必要でしょう。

以下のような実態がある方は、労働基準法上の「労働者」に当たる場合があります。※このような実態があれば直ちに「労働者」となるわけではなく、最終的には、契約内容やその他の要素を含めて総合的に判断されます。 発注者からの仕事は、病気のような特別な理由がないと断れない 発注者から、通常予定されている仕事の他に、契約や予定にない業務も命令されたり頼まれたりする 始業や終業の時刻が決められていて、始業に遅れると「遅刻」として報酬が減らされる 運送の経路や方法、出発時刻といった、業務の遂行に関することは、全部発注者から指示され、管理されている 報酬は「時間当たりいくら」で決まっている 受けた仕事をするのに非常に時間がかかるため、他の発注者の仕事を受ける余裕が全くない ...etc

(図表1)

各判断基準の関係(労働基準法)

労働者に該当すると判断された場合には、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法などのルールが適用されます。請負契約などにより役務提供をさせ、後日に労働契約と判断される場合は、個別の裁判によるもののほか、都道府県労働局の立ち入り調査により「偽装請負」として指導されるケースがあります。
もし、行政指導をしても是正されない場合、企業名を公表し、捜査機関へ刑事告発するといった対応をとられることになります。
さかのぼって労働契約として取り扱う必要が生じた場合、所得税など税金面のほか、残業代の清算や社会保険および労働保険の適用など労務について大きな影響を受けてしまいます。基本的には、労働契約が成立したとされる日にさかのぼり、労働関連法の適用を受けることを前提として個別に是正することになるでしょう。
具体的な是正については、労働時間と考えた場合における最低賃金や未払い残業代の問題、および社会保険の遡及適用とその間の保険給付に関わる問題、保険料納付の延滞の問題などさまざまな論点が考えられますが、ケース・バイ・ケースであり、体系化は困難です。
特に、業務上の傷病による「労災保険」の適用をめぐってトラブルになることが多いので注意が必要です。これらのことから、使用従属関係において労働契約である判断されるにもかかわらず、請負契約とする行為は絶対に避けるべきです。

フリーランス・事業者間取引適正化等法

さて、2024年11月1日に特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されます。図表2の通り、特定業務委託従事者(従業員などがいる法人や個人事業主のことで、以下、発注者といいます。)、が特定受託従事者(個人の事業者のことで、以下、フリーランスといいます。)に業務委託する際に適用されます。なお「従業員」とは、週所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者をいいます。
特に図表2の下線部「ハラスメント対策に係る体制整備」と、「育児介護等と業務の両立に対する配慮」が義務付けられることについて、補足解説します。

(図表2)

フリーランス・事業者間取引適正化等法

厚生労働省HP「説明資料」より引用

ハラスメント対策に係る体制整備

厚生労働省によりますと、発注者は、ハラスメント行為によりフリーランスの就業環境を害することのないよう、相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならない、とされました。
具体的には、図表3の①~③の対応について、フリーランスでも活用できる仕組みを整備しなければなりません。ただし、体制整備にあっては「労働法に基づき整備した社内体制やツールを活用することも可能」とされていますので、発注者が社内などで講じている「職場のハラスメント対策」と同様の仕組みをフリーランスに適用させることが可能です。

(図表3)

ハラスメント対策に係る体制整備

厚生労働省HP「説明資料」より引用

育児介護等と業務の両立に対する配慮

発注者は、6か月以上の業務委託について、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。詳細は図表4の通りです。
ただし、この配慮義務は、フリーランスの「申出に応じて」対応を講じることを求めるものであり、取引を行う全てのフリーランスの育児介護等に係ることを予め把握して配慮することまでは求められておりません。また、必ず要望を実現させる義務を負うわけでもないことに留意ください。

(図表4)

育児介護等と業務の両立に対する配慮

厚生労働省HP「説明資料」より引用

詳細は、厚生労働省HPに掲載してある説明資料を参照ください。取り組みに当たっては、労働契約と請負契約等で、役務提供の区別が明確に線引きされているか、の確認から入るとよいと思います。

まとめ

労働契約によらず、多様な契約形態による役務提供が可能な時代になりました。
また、兼業・副業をする際も、フリーランスの形態で行うことも一般化されていますが、実態が伴っていない場合を見受けます。労働契約か請負契約かの判断基準に十分な理解が及んでいないまま、急速に働き方の多様化が進展している印象です。繰り返しますが、今回の法改正を踏まえ、何よりもまず正しい運用になっているかを今一度確認し、誤解により大きな労務リスクを抱えているようなことがないようご留意ください。

著者プロフィール

アクタス社会保険労務士法人
スタッフ約200名、東京と大阪に計4拠点をもつアクタスグループの一員。
アクタス税理士法人、アクタスHRコンサルティング(株)、アクタスITソリューションズ(株)と連携し、中小ベンチャー企業から上場企業まで、顧客のニーズに合わせて、人事労務、税務会計、システム構築支援の各サービスを提供しています。

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