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“業務効率化のその先へ”
中小企業がDXで成果を出すために、今考えるべきこと
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)デジタル基盤センター

  • 会社の処方箋

2025年4月16日

「人手不足」、「コスト高」、「技術継承の壁」、中小企業が直面する課題は年々複雑化しています。その打開策として注目されるのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。しかし、「DX=ITツールを導入して業務を効率化すること」と捉えると、導入後の効果が見えにくく、現場のモチベーションも続きません。
本来のDXは、「顧客との関係を深め、売り上げを伸ばし、事業を進化させるための経営戦略」です。本コラムでは、実例を交えながら、中小企業が無理なく成果を出すためのDXの視点とポイントをご紹介します。

DXとは「業務改善」ではなく「価値向上の仕組みづくり」

「紙をやめてクラウド化した」、「表計算ソフトから業務システムへ移行した」、これらはDXの入り口にすぎません。DXの本質は、『デジタル技術を活用して顧客に提供する価値を高めること』にあります。例えば、営業活動のデータを活用して商談のタイミングを最適化したり、顧客の行動履歴をもとにリピート率を高めたりすることもDXの一環です。重要なのは、『効率化』ではなく『価値の再構築』を目指すことです。経営層と現場が一体となって「なぜDXをやるのか」、「何を変えるのか」を共有することが、成功の第一歩になります。

実例から学ぶ:少人数でもできるDXの進め方

少人数体制でありながら、現場主導で着実にDXを進めている製造業の事例があります。
この企業では、工程ごとに紙で記録していた作業内容をデジタル化し、タブレットを使って現場の作業進捗をリアルタイムで共有できる仕組みを構築しました。これにより、「どこで、誰が、何をしているか」が一目で分かる『見える化』が実現し、作業のムダや重複も削減されました。さらに、従業員が日常的に業務改善のアイデアを入力・共有できるカイゼン提案制度もデジタル化され、日々の小さな改善が組織全体の変化を生み出しています。こうした取り組みは、大規模なシステム投資ではなく、「身の丈に合ったDX」からスタートしたことが成功の鍵です。まさに、『できるところから一歩ずつ』という姿勢が、少人数でも成果を生み出すDXの現実解といえるでしょう。

「できるところから始める」とはいえ、どこから手を付けるべきか迷う方も多いはずです。まずは、日々の業務で「これ、手間だな」と感じる作業や、「誰かにしかできない作業」に目を向けてみましょう。そこにはDXのきっかけが隠れています。例えば、見積もり作成や進捗報告、在庫確認など、業務の『ちょっとした手間』の裏には、改善の糸口があるかもしれません。

国の支援制度(「DX推進指標」と「DX認定制度」)を活用する

「何から始めたらよいかわからない」、「自社の現状を把握できない」、そんなときは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が提供する「DX推進指標」が有効です。これは、自社のDXの取り組み状況を『見える化』できる自己診断ツールで、経営層と現場の対話にも役立ちます。実際、ある企業ではこの指標をもとに社内ワークショップを実施し、部門ごとの課題と次の改善テーマを明確にできたといいます。

さらに、一定水準の取り組みを進めている企業は、経済産業省の「DX認定制度」への申請も可能です。これは、自社のDXの取り組みを外部にアピールできる証しとなり、採用活動や取引先との関係強化にもつながります。また、認定を取得した企業からは、「信頼性が高まった」、「若手の応募が増えた」といった声も挙がっています。

いずれも無料で利用できる制度ですので、「まずは試してみる」という気持ちで取り組むことをお勧めします。最初は専門知識がなくても大丈夫です。経営層と現場が一緒にチェックシートを見ながら話し合うだけでも、『自社の課題が見えてくる』でしょう。

出典:

DXの失敗の多くは「目的の曖昧さ」から起こる

せっかくツールを導入しても、「現場に使われない」、「成果が見えない」というケースは少なくありません。その原因は、「何のためにDXを行うのか」が曖昧なことにあります。
成功企業の多くは、
現場課題の明確化 → 段階的な改善 → データ活用による継続的進化
というステップを丁寧に踏んでいます。『全体最適より部分最適から』という視点が、中小企業におけるDXの現実解といえるでしょう。

「オンラインIT Solution Forum」セミナーでさらに具体的なヒントを

5月に開催される「オンラインIT Solution Forum」では、実際に成果を上げた中小企業の事例をもとに、

  • 顧客管理・営業データ活用の方法
  • AI・自動化ツール導入の工夫
  • 少人数でも成果を出すDXの進め方
  • DX失敗を防ぐ考え方

など、実践的なノウハウをご紹介します。
「うちにもできそう」と思えるヒントをお持ち帰りいただける内容です。ぜひご参加いただき、自社にとっての『DXの勝ち筋』を見つけてください。

おわりに

どんなに小さな取り組みでも、『デジタルで仕事と経営をより良くする』意識があれば、それは立派なDXの始まりです。ぜひ今回のコラムをきっかけに、自社の未来に向けた第一歩を踏み出してみてください。

著者プロフィール

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)デジタル基盤センター
デジタルトランスフォーメーション部
部長 田中 秀人

特許庁審判部門長を経て、2022年7月から現職。企業および地域のデジタルトランスフォーメーションを加速するとともにガバナンスの高度化を図る仕組みを提供することを目的として、各種DX推進施策を実施。自治体のDX支援事業や企業主催のイベントにおいて審査委員として参画。

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