企業存続の鍵:なぜ今「技能継承」に取り組むべきか
2025年11月11日
国際競争が激化する現代において、日本の製造業が生き残るためには、高い品質と生産性を長期にわたり安定的に維持することが不可欠です。そのために最も重要な取り組みの一つが、熟練技術者が長年培ってきた技術・知識・ノウハウを次世代に伝える技能継承(技術継承)です。
本コラムでは、技能継承がなぜ企業存続に不可欠なのか、その難しさと背景、そしてDXやモーションセンサ技術を活用した解決策について解説します。
技能継承はなぜ進まない?ー製造業が直面する課題
多くの製造業事業者が技能継承の重要性を認識しているにもかかわらず、「うまくいっていない」「あまりうまくいっていない」との回答は合計で53.8%に上り、順調に進んでいる企業は少ないのが実情です。技能継承が滞ると、生産性の低下や品質の悪化を招き、企業の存続すら危うくなる可能性があります。
ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果
技能継承が会社としてうまくいっていると考えるか(単位:%)

このように技能継承が喫緊の課題となっている背景には、日本の深刻な少子高齢化問題があります。
経済産業省の調査では、製造業における若年就業者(34歳以下)数は緩やかに右肩下がりとなっている一方で、高齢就業者(65歳以上)数は緩やかに上昇傾向にあり、世界トップクラスで少子高齢化が進む日本において、技能・技術を受け継ぐ人材の不足が製造業に大きな打撃を与えています。
この状況は、熟練技術者が持つ「勘」「経験」「判断力」といったノウハウが後継者に十分に伝承されないまま、引退により失われてしまうリスクを増大させています。技能を継承しようにもその受け皿となる若手人材が不足している状況は、技能継承の取り組みを根本から揺るがす深刻な課題です。
技能継承の難しさー暗黙知と現場のリアルな壁
技能継承が進まない原因の一つに、熟練技術者のノウハウが「暗黙知」としてブラックボックス化していることが挙げられます。暗黙知とは、言語化や数値化が難しい知識や技術のことで、経験に基づく“勘”や“判断力”、“手の感覚”などが含まれます。これらは、マニュアルや作業標準に落とし込むことが困難であり、若手への継承を阻む大きな壁となっています。
例えば、熟練技術者と若手技術者が同じ作業をしていても、仕上がりや効率に差が出ることがあります。しかし、その違いを職人自身が言語化して説明することは難しく、結果として「なぜ違うのか」が共有されないままになってしまうことが、継承の障害となっているのです。
さらに、技能は単なる知識ではなく、個人の経験や身体的な動作に基づく実践的なスキルであるため、ある程度の「熟練度」がなければ教えること自体が難しい場合があります。加えて、暗黙知の壁以外にも、技能継承を阻害する構造的な原因が存在します。
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指導時間の不足:現場では日々の生産計画や突発的なトラブル対応に追われ、熟練技術者がマニュアル作成や教育に割ける時間が限られています。結果として、継承のための準備や仕組みづくりが後回しになりがちです。
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教育文化の定着:「見て覚えろ」「背中を見て学べ」という職人気質の考え方が根強く残っている現場では、体系立てて教える意識やスキルが育ちにくく、属人的な継承に頼らざるを得ない状況が続いています。
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熟練技術者の抵抗:長年の経験で苦労して習得したノウハウを「簡単には教えたくない」「自分で苦労して覚えたものだから」といった心理的な抵抗感から、積極的に開示しないケースも見受けられます。
このように、技能継承の停滞は単なる技術的な問題ではなく、現場の働き方や文化、心理的な要素が複雑に絡み合った構造的な問題として存在しています。
技能継承の方法:デジタル活用とモーションセンサ技術
熟練技術者のノウハウを次世代へ確実に引き継ぐためには、「可視化」と「標準化」が鍵となります。特に、組織全体のDXを推進し、ITツールを導入することが有効です。
デジタルを活用した標準化への変換
暗黙知(感覚的な知識)を形式知(言葉で表現できる知識)へ変換し、マニュアルやシステム化して活用することが大切です。デジタルを活用した技能伝承の主な方法として、動画マニュアルの作成やIoT/AIシステムの活用が挙げられます。
特に、動画マニュアルは製造業における現場教育に導入が進んでおり、主流になりつつあります。実際の作業風景を映像で残すことで、熟練者の微妙な手つき、身体の使い方、作業スピード、判断のタイミングといった言葉では表現しきれない情報を視覚的に捉え、そのまま記録・共有できます。
モーションセンサ技術を用いた「動作の可視化」の紹介
さらに可視化技術として、モーションセンサ技術を活用した方法があります。
モーションセンサは作業者の手や足に装着させて人の動きの変化を検知できるセンサであり、作業者の動作をデータ測定・分析し、波形を用いて可視化します。この技術を活用することで、これまで感覚的だった熟練の技術を定量的なデータとして把握できます。
技能継承支援サービスによる解決
熟練技術者の暗黙知を可視化し、安定した生産体制を構築するためには、外部の支援サービスを活用することが有効です。
技能継承支援サービスのメリット
キヤノンシステムアンドサポートが提供する技能継承支援サービスは、以下のようなメリットを企業にもたらします。
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生産体制の強化:熟練技術者のノウハウを可視化し、チーム全体に共有することで、属人化のリスクが減少し、安定した生産体制につながる
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作業標準化の推進:定量化されたデータに基づき効率的な作業手順を特定できる
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モチベーション向上:日々の改善活動の結果を継続的に測定することで、個人の成長実感を促進でき、若手職人のモチベーションアップにつながる
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教育ポイントの明確化:動画や写真だけでは見分けられなかった熟練者と若手の動作の違いをデータで明確にし、育成を効率的に進めることができる
技能継承支援サービス イメージ図

技能継承支援サービス
モーションセンサとカメラを用いて作業者の動作を測定・分析します。その結果をもとにフィードバックを行い、技能継承を支援するサービスです。
まとめ
ITを用いた技能継承は短期的なコストや負担を伴いますが、長期的な視点では人材育成投資であり、企業の将来的な利益、品質安定、国際競争力の維持に不可欠です。
熟練技術者の知見を失う前に、モーションセンサ技術や動画マニュアルといったデジタルツールを活用した外部の支援サービスを導入し、暗黙知の可視化と体系化を進めることが、現代の製造業における重要な経営課題の一つといえるでしょう。未来の技術と人材を守るために、今できる一歩から始めてみませんか?
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