2025年4月新設の「出生後休業支援給付」、「育児時短就業給付」とは?アクタス社会保険労務士法人
2024年11月29日
2025年4月1日から施行される雇用保険法の改正により、新たに「出生後休業支援給付金」と「育児時短就業給付金」が創設されます。
これにより、育児休業に関する給付金は4種類となります。
そこで本コラムでは、新設される「出生後休業支援給付」、「育児時短就業給付」について解説をします。
改正内容の全体像
雇用保険法の改正により、育児に伴う給付として、新たに「出生後休業支援給付金」および「育児時短就業給付金」が創設され、2025年4月1日に施行されます。
これにより、育児休業にかかる給付として、既存の「育児休業給付金」および「出生時育児休業給付金」のほかに、図表1のとおり、4種類の給付金が設けられたことになります。
実際に制度が始まると、事務処理が複雑になり負荷が大きくなる可能性があるため、抜け漏れが生じないよう、まずは、新たに創設される2つの給付についての制度理解を深めましょう。
出生後休業支援給付とは?
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目的
「出生後休業支援給付」とは、出生後の一定期間に、「夫婦ともに」育児休業を取得した場合に、従来の育児休業給付に上乗せ給付を受けることができる制度です。これにより、育児休業中の収入減をカバーし、特に男性の育児休業の取得を促進することを目的としています。
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支給要件
支給要件の詳細ですが、図表2の通り、出生の日から8週間(女性は産後休業後8週間)を経過する日の翌日までに、被保険者とその配偶者がそれぞれ14日以上の育児休業を取得した場合、最大28日間、通常の育児休業給付に「休業開始時賃金13%相当額」が上乗せされます。従来の育児休業給付の給付率67%とあわせますと、給付率は80%(手取りで10割相当)へと引き上ります。
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実務上の注意点
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父母で「支給対象期間」が異なる
夫婦ともに育児休業を取得していれば「いつでもいい」というわけではない点に、注意が必要です。
「夫婦ともに育児休業を取得した場合」と認められる支給対象期間が、父母によって異なります。父親は、出生の日から8週間を経過する日の翌日までになります。それに対し母親は、産後休業後8週間を経過する日の翌日までとなっています。
なお、本稿執筆時点(2024年11月)においては、まだ確定されていませんが、「育児休業を取得した場合」の詳細内容は「育児休業給付金または出生時育児休業給付金の支給の対象となる休業(当該配偶者が公務員の場合は、各種法律に基づく育児休業)」として調整中です。育児休業という単語に「当然、出生時育児休業も含めて考えるべき」ということを行政当局内で詰めている段階になります。実務上必要となる詳細な案内文書の公表を待ちましょう。
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支給要件の例外が多い
支給要件で「夫婦ともに育児休業を取得した場合」としていますが、例外があります。
配偶者が専業主婦(夫)の場合、一人親家庭の場合、配偶者が自営業・フリーランスの場合などで、雇用保険に加入していないことがありますが、このような家族構成などによる不公平などを解消するため、「夫婦ともに」の要件が除外される場合があります。詳細は下記のとおりです。多岐にわたることが確認いただけると思います。
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(1)配偶者のない者(※配偶者が子の法律上の親でない場合、配偶者から暴力を受け別居している場合等を含む)
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(2)被保険者の配偶者が適用事業に雇用される労働者でない場合
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(3)配偶者が産後休業を取得している場合
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(4)その他厚生労働省令で定める場合
- 配偶者が日々雇用される者である場合
- 配偶者が労使協定に基づき事業主から育児休業を拒まれた場合
- 配偶者が育児休業の申し出ができない有期雇用労働者である場合
- 配偶者が育児休業給付の受給資格がない場合 等
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父母で「支給対象期間」が異なる
育児時短就業給付とは
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目的
「育児時短就業給付」とは、育児と就業の両立を図りやすい職場環境を整えるため、育児のために時短勤務を行い収入が低下した場合に、その収入を補うものとして給付する制度です。国は、子育て対策として、時短勤務を活用しやすくすることに集中的に取り組む必要があると考えており、新設されました。
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支給要件
支給要件の詳細ですが、2歳未満の子を養育するために時短勤務をした場合、育児時短就業中に支払われた賃金の10%が支給されます。
ただし、下図のように、休業前の賃金と比べ、時短後の賃金の減り幅が10%に満たない場合は、この給付を受けることで、休業前にもらっていた賃金を超えてしまうため、賃金を超えないように給付率の調整を行います。
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実務上の注意点
給付手続きに際して、申請者の負担が最小限となるように検討されています。従来の育児休業給付に関わる手続きのほかに、時短勤務中における賃金月額等の記録や証明書等の添付書類の提出が求められる可能性がありますので、関係書類を準備できる環境を今から整えていきましょう。
また、支給要件の詳細は、
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(1)育児時短就業の開始前の原則2年間にみなし被保険者期間が12カ月以上あったとき
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(2)育児休業給付金または出生時育児休業給付金の支給を受けていた場合で、休業終了後、引き続き育児時短就業をしたとき
となります。つまり、育児休業と時短勤務の間に空白期間があっても、上記1の要件に当てはまれば、受給要件を満たすため給付を受けられることになります。前述の出生後休業支援給付と同様、詳細の資料の公表後に確認するようにしましょう。
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まとめ
「出生後休業支援給付」、「育児時短就業給付」ともに、手続きの詳細については、今後予定されている行政から発出されるリーフレット等を待つ必要があります。
そのうえで、「出生後休業支援給付」は、本来「夫婦ともに」育児休業を取得した場合に給付されるものであるものの、例外が多く、手続き実務上で判断を誤らないよう、支給要件に照らした社内チェック体制の検討が必要でしょう。
また、「育児時短就業給付」は、時短勤務中における賃金月額等の記録や証明書等の添付書類の提出が求められる可能性がありますので、関係書類を準備できる環境を整えていくことが求められるでしょう。
本コラムの育児休業等給付以外にも、並行して2025年4月および10月に改正育児・介護休業法が施行されます。詳細は、コラム「育児・介護休業法が2025年に大幅改正、改正内容と今から備えておくべきこととは?」を確認ください。
著者プロフィール
アクタス社会保険労務士法人
スタッフ約200名、東京と大阪に計4拠点をもつアクタスグループの一員。
アクタス税理士法人、アクタスHRコンサルティング(株)、アクタスITコンサルティング(株)と連携し、中小ベンチャー企業から上場企業まで、顧客のニーズに合わせて、人事労務、税務会計、システム構築支援の各サービスを提供しています。
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