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介護報酬改定 テクノロジーの活用促進

  • 会社の処方箋
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2024年4月16日

令和6年度介護報酬改定は、人口構造や社会経済状況の変化を踏まえ、「地域包括ケアシステムの深化・推進」「自立支援・重度化防止に向けた対応」「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」「制度の安定性・持続可能性の確保」を基本的な視点として行われています。
ここでは、「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」の視点に注目し、介護人材不足の中で、介護ロボットやICT等のテクノロジー(介護機器)活用による生産性向上、職場環境の改善を狙った改定項目を紹介します。

介護ロボットやICT等のテクノロジー(介護機器)活用促進の背景

高齢化等による需要増加にも関わらず、医療介護分野とも、人材確保の状況が悪化しています。有効求人倍率は介護関係職種で3~4倍程度の高水準であるとともに、入職率から離職率を差し引いた介護分野の入職超過率は-1.6%に落ち込むなど介護人材の確保が難しい状況です(図表1参照)。

図表1 医療・介護分野における人材確保の状況

図表1 医療・介護分野における人材確保の状況

このように、生産年齢人口が減少していく一方、介護需要が増大していく中において、介護人材の確保が喫緊の課題となっています。
そのため、介護職員の処遇改善を進めるとともに、介護ロボットやICT等のテクノロジーの導入等により、介護サービスの質を確保し、職員の負担軽減に資する生産性向上の取組を推進することが重要であるとして、今回の改定で「生産性向上推進体制加算(I)(II)」が新設されました。

現行 改定後
なし 生産性向上推進体制加算(I)100単位/月(新設)
生産性向上推進体制加算(II)10単位/月(新設)

【対象サービス】
短期入所系サービス(介護予防)、居住系サービス(介護予防)、多機能系サービス(介護予防)、施設系サービス

生産性向上推進体制加算(I)(II)の算定要件

生産性向上推進体制加算(I)(II)の算定要件の概要を図表2に示します。

図表2 生産性向上推進体制加算(I)(II)

算定要件等

【生産性向上推進体制加算(I)】(新設)

  • (II)の要件を満たし、(II)のデータにより業務改善の取組による成果(※1)が確認されていること。
  • 見守り機器等のテクノロジー(※2)を複数導入していること。
  • 職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活用等)の取組等を行っていること。
  • 1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供(オンラインによる提出)を行うこと。
    • 生産性向上に資する取組を従来より進めている施設等においては、(II)のデータによる業務改善の取組による成果と同等以上のデータを示す等の場合には、(II)の加算を取得せず、(I)の加算を取得することも可能である。

【生産性向上推進体制加算(II)】(新設)

  • 利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の開催や必要な安全対策を講じた上で、生産性向上ガイドラインに基づいた改善活動を継続的に行っていること。
  • 見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入していること。
  • 1年以内ごとに1回、業務改善の取組による効果を示すデータの提供(オンラインによる提出)を行うこと。

(※1)業務改善の取組による効果を示すデータ等について

  • (I)において提供を求めるデータは、以下の項目とする。
    • 利用者のQOL等の変化(WHO-5等)
    • 総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の変化
    • 年次有給休暇の取得状況の変化
    • 心理的負担等の変化(SRS-18等)
    • 機器の導入による業務時間(直接介護、間接業務、休憩等)の変化(タイムスタディ調査)
  • (II)において求めるデータは、(I)で求めるデータのうち、アからウの項目とする。
  • (I)における業務改善の取組による成果が確認されていることとは、ケアの質が確保(アが維持又は向上)された上で、職員の業務負担の軽減(イが短縮、ウが維持又は向上)が確認されることをいう。

(※2)見守り機器等のテクノロジーの要件

  • 見守り機器等のテクノロジーとは、以下のアからウに掲げる機器をいう。
    • 見守り機器
    • インカム等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器
    • 介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器(複数の機器の連携も含め、データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限る。)
  • 見守り機器等のテクノロジーを複数導入するとは、少なくともアからウまでに掲げる機器は全て使用することであり、その際、アの機器は全ての居室に設置し、イの機器は全ての介護職員が使用すること。なお、アの機器の運用については、事前に利用者の意向を確認することとし、当該利用者の意向に応じ、機器の使用を停止する等の運用は認められるものであること。

生産性向上推進体制加算(I)(II)の仕組み

加算(I)及び加算(II)の関係については、加算(I)が上位区分となっています。そのため加算(I)、加算(II)を同時に算定することはできません。
両加算の違いとして、加算(I)の算定に当たって、生産性向上の取組成果の確認が要件となっていますが、加算(II)においては、生産性向上の取組成果の確認を要件としていないところです。また、加算(I)では加算(II)の要件に加え、テクノロジー(介護機器)を複数導入するなどの違いがあります。

実績データの報告

事業年度ごとに1回、生産性向上の取組に関する実績として、加算(I)を算定する場合には、次の(1)から(5)の事項について、加算(II)を算定する場合には、次の(1)から(3)の事項について原則としてオンラインにより厚生労働省に結果を報告することとなっています。

  • (3)
    年次有給休暇の取得状況の調査(図表4参照)

    図表3の「利用者向け調査票」により、5名程度の利用者を調査実施します。
    なお、利用者の選定にあたっては、利用者及び聞き取りを行う介護職員の負担が軽減されるよう、利用者自身で回答可能な方を優先的に選定しても問題ありません。

    図表3 利用者向け調査票

    図表3 利用者向け調査票
    図表3 利用者向け調査票

    出典:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定
    生産性向上推進体制加算に関する通知(令和6年3月15日策定、令和6年3月29日一部改正)
    (別添1)利用者向け調査票

  • (4)
    介護職員の心理的負担等の評価(図表5参照)
  • (1)
    利用者の満足度調査(図表3参照)

    図表4の「施設向け調査票(労働時間等調査票)」より、加算(I)では全ての介護職員、加算(II)ではテクノロジー(介護機器)の導入を行ったフロア等に勤務する介護職員、を対象に、10月(本加算を算定した初年度においては、算定を開始した月)における介護職員の1月あたりの総業務時間および超過勤務時間及び10月を起点とした年次有給休暇の取得日数の調査報告が必要です。
    なお、労働時間の把握については、原則として、タイムカード、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等、客観的な記録により把握されることが求められています。

    図表4 「施設向け調査票(労働時間等調査票)」

    図表4 「施設向け調査票(労働時間等調査票)」

    出典:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定
    生産性向上推進体制加算に関する通知(令和6年3月15日策定、令和6年3月29日一部改正)
    (別添2)施設向け調査票 (労働時間等調査票)

  • (2)
    総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間の調査(図表4参照)

    図表5の「職員向け調査票」を用いて、すべての介護職員を対象に調査を行います。
    なお、調査の実施および厚生労働省への報告について、介護職員に説明を行い、同意を得ることが必要です。

    図表5 「職員向け調査票」

    図表5 「職員向け調査票」

    出典:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定
    生産性向上推進体制加算に関する通知(令和6年3月15日策定、令和6年3月29日一部改正)
    (別添3)職員向け調査票

  • (5)
    機器の導入等による業務時間(直接介護、間接業務、休憩等)の調査(図表6参照)

    図表6の「職員向けタイムスタディ調査票」により、日中・夜間の時間帯それぞれ、複数人の介護職員を対象とした5日間の調査が必要です。

    図表6 「職員向けタイムスタディ調査票」

    図表6 「職員向けタイムスタディ調査票」
    図表6 「職員向けタイムスタディ調査票」

    出典:厚生労働省 令和6年度介護報酬改定
    生産性向上推進体制加算に関する通知(令和6年3月15日策定、令和6年3月29日一部改正)
    (別添4)職員向けタイムスタディ調査票

テクノロジー(介護機器)導入支援

テクノロジー(介護機器)導入にあたっては「導入費用が高額」という理由で二の足を踏んでいる事業所も多いかと思われます。
そこで、厚生労働省では、介護職員の業務負担軽減や職場環境の改善に取り組む介護事業者がテクノロジーを導入する際の経費を補助し、生産性向上による働きやすい職場環境の実現を推進するために、令和6年度予算の概算要求に、地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)「介護テクノロジー導入支援事業」(図表7参照)の要望が出され、令和6年3月28日に予算が成立しました。

図表7 介護テクノロジー導入支援事業

図表7 介護テクノロジー導入支援事業

テクノロジー(介護機器)導入にあたっての留意点

厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会」では「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業(令和4年度実証事業)」で、介護現場でのテクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証が行われています。
そのなかで介護ロボットやテクノロジーの導入、介護現場の生産性向上について施設職員、利用者家族の意見が報告されています(図表8参照)。

図表8 施設職員・利用者家族介護ロボット等による生産性向上の取組の意見

施設職員

図表8 施設職員・利用者家族介護ロボット等による生産性向上の取組の意見:施設職員

利用者家族

図表8 施設職員・利用者家族介護ロボット等による生産性向上の取組の意見:利用者家族

出典:厚生労働省第216回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
【資料1】テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について

報告では、左側の部分で肯定的、積極的な御意見、右側の部分では否定的、やや否定的、懐疑的な御意見でまとめられています。
テクノロジー(介護機器)導入のメリットがあるものの、否定的な意見もあるため、導入にあたっては介護現場の課題に合わせたテクノロジー(介護機器)の選定・導入に加え、利用者の状況やテクノロジー(介護機器)の機能に応じた適切な業務手順の見直し変更及び変更された手順に基づく継続的な業務改善の取組が必要です。
介護サービス事業所が業務改善を継続的な取組を進めるにあたって厚生労働省老健局が作製している「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(以下「ガイドライン」)が参考になります。

ガイドラインを参考に継続的な業務改善活動に取り組みながら、テクノロジー(介護機器)を上手に導入し、導入されたテクノロジー(介護機器)は利用者家族の方が不安や不満が生まないように十分に説明することが必要です。

まとめ

令和6年度介護報酬改定の施行時期については、令和6年度診療報酬改定が令和6年6月1日施行とされたこと等を踏まえ、4月1日と6月1日に施行時期を分けて実施することとなりました。

  • 6月1日施行とするサービス
    訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション
  • 4月1日施行とするサービス
    上記以外のサービス

今回ご紹介した生産性向上推進体制加算(I)(II)は4月1日施行とするサービス事業が対象となります。
届け出にあたっては、新たに追加された生産性向上推進体制加算(I)(II)だけでなく、既存の加算項目等であっても、算定要件が変更されたものについては改めて届け出が必要です。
各サービス事業者は、それぞれの提出期限や届け出書類、届け出の取り扱い等について、改正が度々ありますので厚生労働省からの最新情報に注意して対応してください。

著者プロフィール

株式会社 ムトウ
齋藤 暁 氏

  • 株式会社ムトウ 執行役員 コンサルティング統括部 部長、東京事業本部 CPS事業部 部長
  • 東京都医療勤務環境改善支援センター 医業経営アドバイザー
  • 東京都社会保険労務士会医療労務管理支援事業等運営特別委員会 委員

日鋼記念病院NHS研究所にて2年間在籍。医業経営に関する各種ノウハウを学ぶ。

医療法42条4号「疾病予防のために有酸素運動施設」(通称「メディカルフィットネス」)市場調査、事業計画、運営支援。

第三者評価(病院機能評価)の受審支援、医療現場の勤務環境改善支援(医師の働き方改革など)をはじめとする医業経営コンサルティング経験多数。

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