新入社員の離職防止のカギは、コミュニケーション
株式会社キャリアチアーズ
2023年9月11日
新入社員が入社してからはや半年。ほとんどの企業では既に現場に配属となり、なかにはモチベーションが下がってきているかも…と心配になる時期ではないかと思います。昨今では、入社半年から1年の間に離職する社員も多くなってきました。前回は新入社員と育成する側のよくある「ズレ」をご紹介しましたが、今回は入社して半年たった新入社員のフォローアップについてお伝えしていきます。
入社1年以内の離職は、平均7人に1人
厚生労働省が公表している「新規学卒就職者の就職後3年以内離職率」によると、平成30年卒の大学新卒における3年離職率は31.2%、高校新卒では36.9%でした。高校新卒の方が5.7%高い状況です。しかし、入社1年目の離職率を比較すると、大学新卒では11.6%、高校新卒では17.9%と、6.3%高校新卒の方が上回るという結果が出ています。
この傾向ですが、数パーセントの違いはあれ、過去20年間入社1年以内離職率15%、3年以内30%という傾向は変わりません。つまりこの20年間ずっと若手が辞めやすい環境下にあると言えます。
バブル期前の終身雇用主体であった時代には、入社1年以内離職10%以下、3年以内離職20%弱という低い離職率で推移していました。しかし、バブル崩壊と共に、日本の産業構造の変化(製造業中心からサービス業中心になったことによる離職率の高騰)や、長期安定雇用(終身雇用、年功序列)中心の企業構造から、成果主義への構造へ変化したことにより、賃金の上昇率も鈍化し、一律に年齢と共に右肩上がりで昇給していく未来が見えにくくなり、若者の離職率が上昇したことが要因であると言われています。つまり、現状成果主義主体であり、日本経済自体も鈍化しているため、この離職率については外部要因では大きく改善できないと考えた方がいいでしょう。
離職理由1位はミスマッチ、2位は人間関係、3位は労働環境
平成29年内閣府による「就労等に関する若手の意識調査※」によると、初職の離職理由の1位は「仕事が自分に合わなかったため」43.4%、2位は「人間関係が良くなかったため」23.7%、3位は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」23.4%と続きます。
この理由についても、この20年大きな変動はありません。入社前後のミスマッチについては長年言われ続けていることですが、あまり改善されていないと言えるでしょう。
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出典:特集 就労等に関する若者の意識(内閣府)
早期離職防止のための取り組み6選
ここからは早期離職を防ぐための対策について述べていきたいと思います。大手企業では十分な教育体制、ロールモデル、キャリア形成など手厚いサポートができますが、中小企業においては大手企業が実施しているサポートを全て網羅することは費用的にも人員的にも不可能です。そこで、中小企業でも少しの工夫でできること、について絞って紹介していきたいと思います。
1.現場を離れて考える「フォローアップ」の時間を設ける
「フォローアップ研修って大変そう…」という心配もあると思います。ですが、一番大事なことは、現場配属となった新入社員を集め、配属後の不安や不満は「自分一人だけか感じているわけではない」と理解してもらうことです。
入社して数日間や数週間は新入社員研修が開催されるため、悩みも共有していますし、抱えている不安も自分一人ではないと実感することができます。また、一堂に会していることで仲間意識も生まれやすいです。
しかし現場配属となり、先輩社員や上司に囲まれていると、これらは徐々に薄まっていきます。「先輩は普通にできるけど、自分はできない」という劣等感や不安感から、「このままこの会社で頑張っても無理なのでは?」「他にもっと自分に合っている仕事があるのでは?」と思い始めます。そしてそれらの悩みを誰にも言えずにいる人も多いでしょう。なかには、「誰にも分かってもらえない…」と感じる人もいます。
これは著者の感覚ですが、昔は飲み会などでそういう不安感や不満感も先輩や上司にぶつけることで発散させてもらえていたし、アドバイスや励ましもありました。私自身大いに先輩や上司に相談させてもらいましたし、相談することは良いことだと思っていました。
しかし今の若者に聞くと、「上司や先輩に、弱音を吐くと評価が下がってしまう…」と相談できずにいる若手が多いな、と感じます。相談と弱音を吐くことは異なりますが、同一視している若手が多いと感じます。また、コロナ禍の影響や飲みニケーションはNGといった背景もあり、気軽に相談できる場がなくなっていることもあるでしょう。
ですから、何か特別なことをする場、ではなく、新入社員を一堂に集めて気軽にこの半年間を振り返って自分たちの経験や感じたことを話してもらう機会を作ることが重要です。
2.小さな成功体験を話すことで自信につなげる
彼らは半年間、小さな成功体験を積み重ねています。しかしそれは、先輩や上司に囲まれていて実感するまでには至っていないことも多くあります。これを自分たちで振り返り、実は小さな成功体験を積んでいて、半年前に比べて自分って成長している!と自信を持つ機会をつくることが大切です。
しかし現場では、やらなければいけないことや、やるべきことが毎日多くあり、振り返る時間も自信を持つこともなく毎日が過ぎていきます。大きな成功体験を経験すれば現場でも自信につながることがありますが、大きな成功ができるようになるまでには、少なくても1年、平均3年近く掛かるものです。
- マニュアルを見なくてもできるようになったこと
- 仕事をするときに心掛けていること
- 自分の仕事を、自分の言葉で説明できるようになったこと
など小さな成功体験を振り返ることで、できるようになったことに自分で気付き、それが自信や、「仕事の面白さを自覚すること」にもつながっていきます。
3.なりたい自分をイメージする
1年後、3年後のなりたい自分をイメージすることです。できる限り具体的にイメージすることが重要です。誰でもゴールイメージがあることで、モチベーションも上がりますし、何より具体的に「何を」したらいいのか、が分かります。今やっている仕事が未来につながっていることを自覚していると、多少ストレスがあっても耐えられますが、「これ、やっている意味があるのかな?」「これ、やってて意味あるのかな?」と感じると、「もっと他に自分に合っている仕事があるかも!?」と探し始めてしまいます。
これもよく若手研修で伝えていることですが、逃げ道を作っていては、いつまでたっても、「今」に目を向けることができません。「他」に目がいってしまいます。今やっている仕事を面白くするのは自分自身の覚悟でしかできず、覚悟とは退路を断つことによって初めて覚悟が決まるのです。ですから、大事なことは「今」に目を向け、そこから楽しさや面白さを見つけるしかありません。
ですから、今やっている仕事の延長線上で、なりたい自分を具体的にイメージすることが大切です。
- どんな先輩だと思われたいか?
- 何の仕事をして、その評価はどうか?
- 具体的に取得している資格やスキルは何か?
- どんなお客さまと取引をして、どのくらいの売り上げを上げているのか?
- 具体的な役職(ジョブグレード)や年収は?
など具体的にイメージし、そのためには今、何をしなければいけないか?を言語化します。もちろん現場での日々の仕事でも行動目標を立てたり、PDCAを回したりしていると思いますが、それはかなり短期的なものが多いため、「to do リスト」を作っていることが多く見られます。短期的にはこのPDCAサイクルを実施することは大切ですが、一方で少し長期的に自分のキャリアを考えることも大切なのです。
4.セルフモチベート、タイムマネジメントなどの基礎的スキルを身に付ける
入社して半年もたてば、ある程度の仕事内容も理解し、ある程度自分でスケジュールを立てて仕事をできるようになっています。そこで、ヒューマンスキルとして若手に必要なスキルを身に付けることで、さらに自分自身の成長意欲を高めていきます。
よくある若手からの不安や不満として、「教育制度がない…」を聞きますが、実際には中小企業でも教育はしています。ただ、日々のマネジメントの一環としての教育や、OJTトレーニングが中心で、これは若手の彼らにとっては「教育」には入っていません。
新入社員が望む教育とは、「きちんと体系的に知らないことを学びたい」ということです。昨今では若手のメンタルヘルスや、若手のモチベーション維持が課題として挙げられます。また少ない人数で多くの業務を実施せざるを得ない中小企業においては、タイムマネジメントも大きな課題になっています。そのため、セルフモチベートやタイムマネジメントなどの基礎的スキルを早くに身に付けることができると、教育制度の充実を実感しやすくなります。
5.社内の部署や職種を説明する
入社時などで社内の部署や職種について、オリエンテーションなどで説明している会社もあるかと思います。ただ、説明は聞いたけど理解していない人が大多数でしょう。ある程度分かってきた半年後や1年後などに、こんな部署があって、こんな仕事をしている、こんな職種があって、こんな資格が必要だ、といったように説明してあげたり、実際に仕事風景を見せたりすることで、理解が進みます。もし今の部署で、今の職種で悩んでいる若手がいれば、「こんな仕事もあるのだ」と思えるかもしれません。ジョブローテーションをしている会社も多くあります。
要は「ここしかない…」といった閉塞(へいそく)感を抱く前に、いろいろあるのだと感じてもらうことで離職の防止につながることもあります。
6.1on1の人事面談を実施する
新入社員研修までは人事部主導で実施し、現場配属になれば現場の直属の上司や先輩が中心となり指導者となりますので、人事部の手から離れます。しかし現場での人間関係(特に直属の上司や先輩)に悩んでいる若手にとって、直属の上司や先輩には相談できないこともあります。また上司からの評価を気にして相談ができないという声もあります。
先述した平成29年内閣府による「就労等に関する若手の意識調査※」によると、離職の相談において直属の上司や先輩に相談した人は、たったの12%です。ほとんどが親や友達・恋人に相談しています。
そこで、採用から新入社員まで関わってきた人事担当者が相談相手となることが、早期離職防止の方法の1つです。客観的に第三者的立場で相談に乗ることができるため、効果的であると言えます。実際には人事部にはなかなか把握できない現場でのコミュニケーションの問題や行き過ぎた育成方法、ハラスメントなどの問題が見えることもよくあります。大事に至る前に対処をすることができますが、あくまでも第三者的立場に徹し、彼らの話をじっくり聞くことが大切です。
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出典:特集 就労等に関する若者の意識(内閣府)
入社半年後のフォローアップについて大切なことは、以下の3点です。
- 現場配属でバラバラになった彼らを集める機会を作ること
- 日常業務から離れ振り返る時間を作ること
- 第三者的立場に立ち相談に乗ること
たった半年で、と思う方もいるかもしれませんが、入社したての新入社員にとって半年という期間は、管理者側の3年近くの時間に該当すると考え、入社半年というタイミングでのフォローアップを実施いただければと思います。
著者プロフィール
株式会社キャリアチアーズ 代表取締役 山口しのぶ
2014年5月、「働く人と企業の比翼連理を応援し、双方を輝かせる」「情熱を持って共に走る、強力で最大の応援団である」を経営理念とし、株式会社キャリアチアーズを設立。定着化・戦力化をメインコンセプトに中心にコンサルティング、制度構築支援業務、各種研修(主に管理職向けマネジメント研修や女性活躍活用推進研修)などを手掛ける。
著書
「繁盛店のしかけ48」2012年2月発行 同文舘出版
「組織・制度・風土の10の秘策」2018年12月 セルバ出版
「絶対成果の出る オドロキの社員研修」2023年5月 幻冬舎
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