中小企業は今こそDX化!実は怖くない!?電子帳簿保存法
2024年4月22日
今年から電子帳簿保存法が本格スタートして、まだまだ漠然とした不安を持っておられる方が多いと思います。電子帳簿保存法に対応してみようとしたけれど、この方法が正しいものなのかどうか不安がある方、部分的にしか対応できていない方、いまだに全く準備ができていない方等、私の周りでも多く見受けられます。
そこで当コラムではそのような、電子帳簿保存法について漠然とした不安をお持ちの方向けに、その不安を解消すべく、電子帳簿保存法の概要とその対応策等について解説をさせていただきます。
電子帳簿保存法とは?
そもそも電子帳簿保存法とはどのような法律なのでしょうか?実は今になって創設された法律ではありません。20年以上前の1998年に創設されたものなのです。
電子帳簿保存法を一言で説明すると、『税務申告に必要な領収書や請求書等の保存を紙ではなくデータ保存でOK!とした法律』ということになります。
しかし、創設当初は、事前の承認申請や多数の細かなルール等が設けられており、実務的に有用なものとは到底言えるものではありませんでした。それが法改正を繰り返すことにより少しずつ変化し、より使いやすいものになったのです。そして今年2024年からは、後述する電子帳簿保存法の3本柱のうちの1つの柱につき全事業者強制適用とすることで本格的にこの電子帳簿保存法が世の中に浸透しつつあります。
電子帳簿保存法の3本柱とは?
では、電子帳簿保存法の3本柱とは何でしょうか?それは電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引の3つです。それぞれについて解説します。
電子帳簿等保存
パソコン等で作成した、税法上保存が必要な帳簿や書類を、プリントアウトせずにデータのまま保存することが可能になるというものです。
対象となる書類は、会計ソフトで作成した仕訳帳、総勘定元帳等の帳簿や決算書、自社が作成した売り上げの見積書、請求書、納品書、領収書等を取引相手に紙で渡したときの書類の控え等です。
こちらの電子帳簿等保存については強制されておらず、導入するかどうかについては各事業所の任意です。
しかしながら、システム概要書やシステム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等を備え付けなければならない等、かなり厳格なルールが定められており、3つの柱の中では最もハードルが高いと言えるでしょう。
スキャナ保存
仕入れ先等から紙で受領した領収書・請求書等につき、その書類自体を保存する代わりにスマホやスキャナで読み取った電子データを保存することが可能になるというものです。こちらも電子帳簿等保存同様強制されておらず、導入するかどうかは各事業所の任意です。しかしながら、任意とは言え私がこの3本柱のうち最もその導入を推奨している制度なのです。
その理由は
- 読み取った後の紙書類を廃棄できるので、紙書類のファイリング作業や保存スペースが不要になる
-
紙で受け取った領収書などをスマホで読み取って経理担当に送付すれば、書類の受け渡しから保存までをスキャナデータのみでできるので、テレワークがしやすくなる等の大きなメリットがあるからです。
紙書類の保存については商法や法人税法等で最長10年間の保存が義務付けられており、それだけの書類を保存するスペースを確保することについて年間相当なコストがかかっていると言えるでしょう。特に昨年10月から開始した消費税のインボイス制度により、例えばクレジットカードで支払った経費の簡易インボイス(領収書)等の書類の保存要件が厳しくなっており、保存すべき紙資料の量も膨大なものになっています。紙資料が不要になるということはそのようなコストの大幅な削減につながることを意味します。
また、テレワークを本格的に進めようと思うと、社員が自宅に膨大な紙資料を持ち込んで仕事をすることは労力的にもセキュリティーの観点からも現実的ではないため、スキャナ保存は必要不可欠となります。以上の理由から、私が最も推奨しているのです。
しかしながら、このスキャナ保存についても下記のようにさまざまな要件があります。最長で2カ月7日以内に書類をスキャナ等でデータ化しなければならない点や、画像の解像度や検索要件等、決してハードルは低くないでしょう。
スキャナ保存導入のカギを握るのはこれに対応したシステムの導入と内部体制の確立の双方が必須です。
スキャナ保存を行うためのルール
ルール/書類の区分 |
重要書類 (資金や物の流れに直結・連動する書類) |
一般書類 (資金や物の流れに直結・連動しない書類) |
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書類の例 | 契約書、納品書、請求書、領収書など | 見積書、注文書、検収書など |
入力期間の制限 |
次のどちらかの入力期間内に入力すること ① 書類を作成または受領してから、速やか(おおむね7営業日以内)にスキャナ保存する(早期入力方式) ② それぞれの企業において採用している業務処理サイクルの期間(最長2か⽉以内)を経過した後、速やか(おおむね7営業日以内)にスキャナ保存する(業務処理サイクル方式)
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一定の解像度による読み取り | 解像度200dpi相当以上で読み取ること | |
カラー画像による読み取り |
赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビットカラー)で読み取ること
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タイムスタンプの付与 |
入力期間内に、総務大臣が認定する業務に係るタイムスタンプ※1を、一の入力単位ごとのスキャナデータに付すこと
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ヴァージョン管理 | スキャナデータについて訂正・削除の事実やその内容を確認することができるシステム等又は訂正・削除を行うことができないシステム等を使用すること | |
帳簿との相互関連性の確保 | スキャナデータとそのデータに関連する帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこと | ー |
見読可能装置等の備付け |
14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイ及びカラープリンタ並びに操作説明書を備え付けること
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速やかに出力すること |
スキャナデータについて、次の①~④の状態で速やかに出力することができるようにすること ①整然とした形式 ②書類と同程度に明瞭 ③拡大又は縮小して出力することができる ④4ポイントの大きさの文字を認識できる |
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システム概要書等の備付け | スキャナ保存するシステム等のシステム概要書、システム仕様書、操作説明書、スキャナ保存する手順や担当部署などを明らかにした書類を備え付けること | |
検索機能の確保 |
スキャナデータについて、次の要件による検索ができるようにすること ① 取引年⽉日その他の日付、取引金額及び取引先での検索 ② 日付又は金額に係る記録項目について範囲を指定しての検索 ③ 2以上の任意の記録項目を組み合わせての検索
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※
一般書類向けのルールを採用する場合は、事務の手続(責任者、入力の順序や方法など)を明らかにした書類を備え付ける必要があります(特設サイトにサンプルを掲載しています。)。
電子取引
注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書等の書類を電子データのみで受領した場合に、その電子取引データを保存しなければならないというものです。3本柱の中で唯一強制されるものであり、今年の1月1日から本格的にスタートしました。
具体的には、取引先からメール添付で受領したPDF請求書等、Amazonや楽天等で購入した際の請求書や領収書、ソフトウエア使用料や通信クラウドサービス、スマホアプリ決済の際の領収書等は、これまでプリントアウトして紙保存をするのが原則でしたが、これが不可となり、『データで受領したものはデータで保存すること』が義務化されたのです。
なお、ECサイト上等でその領収書等データの確認が随時可能な状態である場合には、必ずしもその領収書等データをダウンロードして保存していなくても差し支えありません。
義務化された『電子取引のデータ保存』にどう対応すべきか?
電子帳簿保存法が本格スタートしたとは言え、義務化されたのは『電子取引のデータ保存』のみです。電子帳簿保存法対応の手順としては、まずは社内体制等を構築してこの強制化された『電子取引のデータ保存』にしっかり対応できるようにするところからスタートしましょう!具体的には後述する下記1の検索要件を満たし、2の改ざん防止のための措置を講じた上で書類データの保存を日々行うことです。さらにその上でさらなるDX化を進め、『スキャナ保存』にも対応してペーパーレス化を目指しましょう。
では『電子取引のデータ保存』に対応するためには具体的にはどのようにデータ保存をすればよいのでしょうか?それは、1.検索要件を満たすことと2.改ざん防止のための措置を講ずることの2つの要件を満たす必要があります。
1.検索要件を満たすこと
領収書等に関するデータについて、日付または金額について範囲を指定した検索が可能であり、かつ『日付・金額・取引先』のうち2つ以上の任意項目を組み合わせて検索できるような体制を整えておく必要があります。対応したシステムを導入するのが効率の良い方法ですが、エクセルの表計算機能を活用して索引簿を作成する方法、データのファイル名に規則性を持たせて『日付・金額・取引先』を入力し、特定のフォルダに保存する方法もあります。
2.改ざん防止のための措置を講ずること
取引先又は自社にてタイムスタンプを付与する方法の他、訂正削除記録が残るような改ざん不可であるシステムを導入する方法があります。また、事務処理規定を社内に導入してこれらに代えると言った方法もあります。
なお、基準期間(=2期前)の売上高が5,000万円以下の場合や、電子取引データをプリントアウトした書面を、日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている場合は1の検索要件が不要となります。また、資金繰りや人手不足等によってシステム整備が間に合わない等、相当な理由がある場合は1・2共に不要となり、紙での書類保存が認められるという特例措置もあります。
まとめ
電子帳簿保存法への対応の優先順位は、まずは今年から強制適用されることになった『電子取引のデータ保存』から。書類データの検索要件を満たし、かつ改ざん防止措置を講ずることが求められているため、早急にこれらに対応した社内システムを構築することからスタートしましょう。また、消費税インボイス制度により書類の保存にも従来以上の労力がかかるようになっているため、任意ではありますが『スキャナ保存』への対応も同時に進め、社内から紙資料をなくし、ペーパーレス化を促進しましょう。この法改正を社内DX化・生産効率アップのためのチャンスと捉えていただければ幸いです。
著者プロフィール
税理士法人 FIVE STAR パートナーズ
代表税理士 田淵 宏明 氏
(税理士YOUTUBERヒロ☆税理士)
大学卒業後会計事務所に入所、中小企業・個人の税務申告や経営サポートに携わる。
2005年にヒロ☆総合会計事務所を設立し、税務・会計のサポートだけでなく、起業や経営コンサルティングも行い、中小企業の経営革新推進を支援。2022年に税理士法人Five Starパートナーズを設立。
専門用語を使わずに解説するYouTubeチャンネル「税理士YouTuberチャンネル!!/ヒロ税理士」は非常に評価が高い。現在は税務のみならず起業や経営についての講演活動にも力を入れており、『世の中からお金や税金の情報弱者を一人でも減らす!』という理念の元活動中。
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