【2026年労基法改正】企業が
今すぐ備えるべき「4大テーマ」を社労士が徹底解説
2025年11月4日
2025年1月に「労働基準関係法制研究会」の報告書が公表され、労働基準法の見直しに向けた議論が本格化しています。政府は働き方改革を一層推進し、多様化する現代の就労実態に即した労働環境を整備するため、労働政策審議会労働条件分科会において具体的な制度設計の議論を進めています。
本コラムでは、法改正の議論が本格化している今だからこそ知っておくべき重要論点を「4大テーマ」に整理し、その全体像と企業経営に与える影響について解説します。
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本稿で解説する内容は、2025年1月8日に公表された「労働基準関係法制研究会報告書」およびその後の労働政策審議会での議論に基づく「方向性」です。今後の審議、答申、国会での法案審議を経て正式に決定されるため、内容は変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省の公式サイトで必ずご確認ください。
改正の背景
今回の見直しの土台となっているのが、2025年1月8日に公表された「労働基準関係法制研究会」の報告書です。この報告書が今後の労働法制の羅針盤となり、これを受けて厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)が、労使の代表を交えて具体的な制度設計の議論を進めています。
これまでの議論を踏まえると、今回の見直しは単なる微調整にとどまらず、「労働者の定義」「労働時間・休日制度」「労使コミュニケーション」といった労働基準法の根幹に関わる広範な見直しとなる可能性があり、企業実務への影響は避けられません。
そこで、労働政策審議会で議論されている主要な論点を企業実務への影響が大きい「4つのテーマ」に整理して解説します。多くの企業の労務管理に大きな影響を与える可能性がありますので、議論の方向性をしっかりと把握したうえで、予め対策しておくことが重要です。
テーマ1:労働時間・休日・休息ルールの見直し
長時間労働や休日管理の曖昧さが、企業の労務リスクとして注目されています。今後の法改正に備え、さらなる長時間労働の是正や休日のあり方、勤務体制の見直しが求められます。
連続勤務の上限は「13日」へ
- 現行の課題:「4週4日の変形休日制」により、理論上24日間の連続勤務が可能とされ、実務上の健康リスクが指摘されてきました。
- 改正の方向性:終業時刻から次の始業時刻まで11時間以上の休息時間(勤務間インターバル)を確保すること、また、連続勤務の上限を13日に制限することを義務付ける方向で議論が進んでいます。ただし、具体的な日数や適用範囲については、引き続き審議会で検討が行われています。
- 企業への影響:製造業、運輸業、医療・介護業界など、シフト制で連続勤務が発生しやすい業種では、人員配置や勤務パターンの見直しが必須となる可能性があります。
「法定休日」の特定を原則化
- 現行の課題:法定休日と法定外休日の区別が曖昧なため、休日労働の割増賃金(法定休日は1.35倍、法定外休日は1.25倍)の計算ミスが生じやすい状況です。
- 改正の方向性:就業規則等で法定休日を事前に特定することを原則化する方向で検討されています。
- 企業への影響:週休2日制の企業は、「土曜と日曜のうち、どちらを法定休日にするか」を明確に定める必要があります。給与計算システムの設定見直しも必要となる可能性があります。
テーマ2:「労働者」の定義拡大と多様な働き手の保護
フリーランスや副業人材など従来の枠組みに収まらない働き方が広がる中で、企業は「労働者性」の判断基準の見直しに備える必要があります。契約形態だけでなく、実態に基づく対応が求められる時代に入っています。
- 現行の課題:プラットフォームワーカーやギグワーカー等、実態は労働者に近いのに法的保護を受けにくい「名ばかり事業主」問題が指摘されています。
- 改正の方向性:契約形式ではなく、実態(指揮命令の有無、経済的依存度など)を重視する現代的な判断基準の確立が検討されています。研究会報告書では、労働者性の判断要素の明確化や立証責任に関する議論も行われています。他方、副業・兼業者の労働時間管理については、ルールの簡素化が検討されています。
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企業への影響:
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(1)業務委託契約で業務を依頼しているフリーランス等について、労働者性が認められるリスクがないか再点検が必要になります。
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(2)契約形式だけでなく、実態に基づく労働者性の判断がより重視される方向性です。
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(3)副業・兼業者の労働時間管理について、ルールの簡素化により副業・兼業のほか、スポットワークの活用が促進される可能性があります。
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テーマ3:「過半数代表者」の見直し
労使協定の正当性を支える「過半数代表者」の選出方法が、今後法改正によって厳格化される可能性があります。企業としては、選出プロセスの透明性と適正性を確保することがリスク回避の観点からも重要です。
- 現行の課題:「会社が一方的に指名」「知らない間に決まっていた」等、民主的プロセスを欠く不適切な選出が後を絶ちません。日本労働組合総連合会(連合)の調査(2024年)では、36協定の締結に当たり不適切な方法で選出された過半数代表者が5割超という結果も出ています。
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改正の方向性:
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(1)選出手続き(挙手や投票といった民主的な手続き)を法律で明確化する方向で議論されています。現在は労働基準法施行規則に規定されている選出手続きを、労働基準法本体に格上げすることが検討されています。
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(2)労働者側委員からは、手続きに不備がある場合、36協定などが無効となるべきことを法律で明確に規定するとの意見が出されています。ただし、この点については引き続き慎重な議論が必要な論点となっています。
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(3)過半数代表者への活動支援として、企業には活動時間の確保や必要な情報(労働時間データなど)の提供が求められる方向で議論が進んでいます。あわせて、不利益な取り扱いの禁止規定を明確化・強化することも検討されています。
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- 企業への影響:自社の選出プロセスが民主的か、透明性があるかなど、総点検が必要です。選出手続きに問題がある場合、将来的に36協定等の効力が争われるリスクがあります。
テーマ4:テレワーク・裁量労働制等の見直し
柔軟な働き方が広がる一方で、労働時間管理や健康確保の課題が顕在化しています。企業としては、制度の趣旨を踏まえた適正な運用と、規定の見直しが求められます。
- 現行の課題:「柔軟な働き方」という名の下で労働時間管理が曖昧になり、労働者の健康が脅かされたり、正当な賃金が支払われなかったりするリスクが指摘されています。
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改正の方向性:
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(1)テレワーク時の「中抜け時間」での労働の実態や、時間外等における業務の指示・報告の在り方など、労働時間の管理ルールの明確化が検討されています。
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(2)権限なく責任だけ負う「名ばかり管理職」問題に対応するため、管理監督者の判断基準の明確化や健康確保措置の強化が議論されています。
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(3)裁量労働制についても、対象業務の適用範囲の拡大や要件緩和の意見が出されています。ただし、この点については現行制度の手続きや健康確保措置等をよりいっそう厳格化するべきなど、さまざまな議論がなされているところです。
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- 企業への影響:テレワーク規定の見直しや、管理監督者の範囲・権限・待遇がその職責にふさわしいかの再点検が求められます。
改正動向を踏まえた対応
本コラムで解説した内容は、現在進行中の議論に基づく未来予測ですが、その方向性は今後の日本における「働き方」のスタンダードを大きく変える可能性を秘めています。
法改正が正式に決まってから対応するのでは準備期間が不足する可能性があります。今回の労働基準法の見直し議論は、企業の労務管理の根幹に関わる重要なテーマです。変化を恐れるのではなくこれを機に自社の労務管理体制を見直し、より働きやすい職場環境を整備することが企業の持続的成長と優秀な人材の確保につながるのではないでしょうか。特に、以下の4つは今すぐにでも検討されることをお勧めします。
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過半数代表者の選出プロセスの総点検と記録化
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シフト制勤務における連続勤務日数(長時間労働)の実態把握
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就業規則における法定休日の明記
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業務委託契約の内容と実態の再検証
これらの取り組みを通じて、より健全で信頼される企業づくりを進めていきましょう。
参考資料・最新情報の確認先
著者プロフィール
アクタス社会保険労務士法人
スタッフ約250名、東京と大阪に計4拠点をもつアクタスグループの一員。
アクタス税理士法人、アクタスHRコンサルティング(株)、アクタスITコンサルティング(株)と連携し、中小ベンチャー企業から上場企業まで、顧客のニーズに合わせて、人事労務、税務会計、システム構築支援の各サービスを提供しています。
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