改正育児・介護休業法
2025年10月対応における実務上のポイントは?
アクタス社会保険労務士法人

2025年6月24日
改正育児・介護休業法の第1弾が2025年4月施行されましたが、引き続き第2弾が2025年10月に施行されます。
10月の改正は、「柔軟な働き方を実現するための措置」という新たな制度の創設が必要になります。その際、日常の実務において長期的な運用にも耐えうるという視点での検討も大変重要になってきます。そこで本コラムでは、2025年10月に義務化となる「柔軟な働き方を実現するための措置」等を設計するうえでの実務上のポイントについてご紹介します。
2025年10月の改正概要は?
2025年10月から、企業には「柔軟な働き方を実現するための措置」を導入・運用することが義務づけられます。
具体的には、企業は以下の5つの措置の中から少なくとも2つを選び、制度として運用しなければなりません(選定にあたっては、過半数組合や労働者代表の意見を聴く必要があります)。
選択肢となる5つの措置
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始業・終業時刻の変更
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テレワークの導入
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保育施設の設置運営等
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短時間勤務制度
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新たな休暇制度(養育両立支援休暇)の付与
そして、3歳から小学校就学前の子どもを育てている従業員は、会社が用意した2つ以上の措置の中から1つを選んで利用することができます。
また、単に制度をつくるだけでなく、3歳から小学校就学前の子を養育する従業員に対して、子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間(1歳11か月~2歳11か月の間)に、個別に制度説明と制度利用の意向確認と、仕事と育児の両立(今困っていることはないか)に関して、ヒアリングしなければなりません。

出典:厚生労働省資料を基に筆者が作成
個別の周知・意向確認等は、施行される2025年10月以降において1歳11か月~2歳11か月の子を持つ従業員に対して義務付けられているため、例えば施行日時点で4歳の子を持つ従業員への周知等は対象外となります(法的義務はない)。これは、制度利用できる者の中でも、法律上は個別の周知・意向確認が義務付けられている従業員とそうではない従業員がいるということになります。具体的には以下の通りです。
-
子が4歳で、2025年10月には「柔軟な働き方を実現するための措置」の利用の対象になる場合の対応
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労使協定で勤続1年未満の労働者を利用対象から除外している場合に、子の3歳到達時点では勤続1年未満であるものの、3歳6か月時点で勤続1年に達し、「柔軟な働き方を実現するための措置」の利用の対象になる場合など将来的に措置の利用が可能になる可能性がある場合の対応
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「3歳の誕生日の1か月前までの1年間」に該当する第一子を養育する労働者が、第二子の「育児休業中」の場合の対応
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※
事業主と労働者が何らかのコミュニケーションを取りやすいタイミングを工夫するなどして行う必要があります。
出典:厚生労働省資料を基に筆者が作成
しかし、これでは社内で制度理解にバラつきが生じ、不公平感は拭えませんので、制度利用の対象となる子を持つ従業員全員に対して行うべきでしょう。また、必ずしも施行日より前において講ずる義務はありませんが、施行日から利用できるようにするため、施行日前において周知等が講じられていることが望ましいといえます。
実務視点を踏まえて10月改正にどのように対応すべきか?
「柔軟な働き方を実現するための措置」として、5つの中から少なくとも2つを選択する際、何を選択したのかによって、実務がスムーズに進められるかどうかに大きく影響するため、留意が必要です。
例えば、ある会社のA部署に、正社員のBさん、Cさん、Dさんの3人がいるとします。
3人ともフルタイムの正社員ですが、このうちCさんとDさんは「柔軟な働き方を実現するための措置」の対象者です。
会社は、制度として以下の2つを選びました。
- フレックスタイム制
- 新たな休暇制度の付与(養育両立支援休暇)
そして、
- Cさんは「フレックスタイム制」を希望
- Dさんは「新たな休暇の付与」を希望
このような場合、A部署内では3人それぞれに異なる勤務制度が適用されることになります。
従業員 | 適用制度 | 勤怠管理上の留意点 |
---|---|---|
Bさん | 従来の労働時間制度 | 通常の出退勤管理 |
Cさん | フレックスタイム制(1) | コアタイム・清算期間の管理が必要 |
Dさん | 新たな休暇制度の付与(5) | 年10日以上の特別休暇の管理が必要 |
この、同一部署の正社員の中でも「勤怠管理が異なってくる」ということに関しては、よく理解をしたうえで検討していく必要があります。社内のシステムがどこまで柔軟に対応できる仕様なのか、実務的な課題を洗い出し、効率的かつ誤りなく対応するための設定変更や、必要であればシステムのリプレイスなどを検討が必要でしょう。
また、「労働者の職種や配置等から利用できないことがあらかじめ想定できるものを措置することは、措置したことにはならない」とされています。
例えば、もともとシフト制で働いていて、日によって始業・終業時刻が異なる場合でも、それだけでは「1.始業時刻等の変更」の措置を講じたことにはなりません。
つまり、「柔軟な働き方を実現するための措置」として認められるには、単なるシフト制では不十分であり、実質的に従業員が柔軟に働ける制度であることが求められます。
そのため、パートタイマーなど多様な雇用形態の従業員も含めて、誰もが実際に利用できる制度を選ぶ必要があります。
必要であれば、企業単位で措置を考えるだけでなく、事業場単位、あるいは事業場内のライン単位や職種ごとに組合せを変えることを求められています。
これまでの内容を踏まえると、中小企業が現実的に選びやすい措置として、私であれば以下の2つを選択します。
-
始業・終業時刻の変更(1)
比較的導入しやすく、既存の勤務体系に柔軟性を持たせることが可能です。
-
新たな休暇制度(養育両立支援休暇)の付与(5)
有給ではなく無給とすることで、企業側のコスト負担を抑えつつ、制度としての整備が可能です。その他のフレックスタイム制やテレワークの導入、保育施設の設置、時短勤務の延長は、個社ごとの状況に応じて余裕があれば検討するのが現実的です。
【補足:保育施設の設置運営等(3)の「等」について】
「保育施設の設置運営等」の“等”には、以下のような取り組みも含まれます:
-
事業主がベビーシッターを手配し、その費用を補助すること
- 福利厚生サービス会社と契約し、社員がベビーシッターサービスを選択・利用できるようにすること(例:カフェテリアプラン)
このような場合でも、「保育施設の設置運営等」の措置を講じたことになります。
ただし注意点として、カフェテリアプランを導入する場合は、パートタイマーなど多様な雇用形態の従業員も含めて、全員が利用できるようにする必要があります。
まとめ
2025年4月の法改正を受けて、各企業では就業規則の見直しや制度の整備、従業員への周知など、実務対応が進められてきました。特に、子の看護休暇の対象拡大や所定外労働の制限範囲の見直しなど、育児と仕事の両立を支援するための基盤づくりが求められた時期だったといえるでしょう。
そして、いよいよ10月からは「柔軟な働き方を実現するための措置」の義務化が始まります。これは、単なる制度の整備にとどまらず、実際に従業員が利用しやすい環境を整えることが求められるという点で、より実効性のある対応が必要となります。
本コラムでは、10月の改正内容を中心に解説してきましたが、4月からの取り組みがどのように進んできたかを振り返りつつ、制度の運用状況や課題を再確認することも重要です。制度が「ある」だけでなく、「使われる」ことが、真の両立支援につながります。今後も、従業員一人ひとりのライフステージに寄り添った柔軟な働き方の実現に向けて、制度の見直しと運用の工夫を重ねていきましょう。
著者プロフィール
アクタス社会保険労務士法人
スタッフ約200名、東京と大阪に計4拠点をもつアクタスグループの一員。
アクタス税理士法人、アクタスHRコンサルティング(株)、アクタスITコンサルティング(株)と連携し、中小ベンチャー企業から上場企業まで、顧客のニーズに合わせて、人事労務、税務会計、システム構築支援の各サービスを提供しています。
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