改正育児・介護休業法
2025年4月対応における実務上のポイントは?
アクタス社会保険労務士法人

2025年3月11日
2025年4月および10月に育児・介護休業法が改正されます。共働き世帯の増加や高齢化が進み、仕事と育児・介護の両立は、多くの人にとって重要な課題です。本コラムでは、改正対応に向けて「絶対に押さえておくべき事項」といっても過言ではないものについてご紹介します。
はじめに
今回の改正は、労働者が柔軟な働き方をより取り入れやすくするために、制度の見直しが行われました。概要については、過去記事の「育児・介護休業法が2025年に大幅改正。改正内容と今から備えておくべきこととは?」を参照ください。
施行日を控え、2月に厚生労働省の関連資料(※)が更新されております。規定例はもとより、協定例、社内様式集、QA集など、改正に必要な情報が網羅されています。
これらの公開情報を踏まえ、業務に関するたくさんの質問や相談を受けていますが、特に多かった相談のうち、3点を以下よりみていきましょう。
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※
厚生労働省 育児・介護休業等に関する規則の規定例
4月に10月改正分も「まとめて行う」べきか?
4月の時点で、10月の改正も「まとめて改正する」かどうかを検討されている会社も多いのではないでしょうか。筆者は、4月の改正は4月に、10月の改正は10月に行うべきと考えています。ただし、既に社内の意見がまとまっている企業や、会社独自に法定以上の取り組みをしているなど、対応が容易である企業は除きます。理由としては、2025年10月改正では、新たに「柔軟な働き方を実現するための措置」を講じ、かつ実効性を確保するための個別の周知・意向確認等を行わなければならないからです。そのため、「まとめて改正する」ことは慎重であるべきと考えています。
「柔軟な働き方を実現するための措置」とは、会社は、過半数組合や労働者代表の意見を聴いたうえで、次の5つの中から少なくとも2つを選択して実施することになります。労働者は、事業主が選択した措置の中から1つを選択して利用することができます。
(1)始業時刻等の変更
(2)テレワーク等(月10日以上)
(3)保育施設の設置運営等
(4)短時間勤務制度
(5)新たな休暇(養育両立支援休暇)の付与(年10日以上)
このことを具体的に実務目線でみていきます。例えば、ある会社のA部署に従業員B、CおよびDがいたとします。3人ともフルタイムの正社員ですが、そのうち従業員CおよびDが今回の措置義務の対象になるとします。会社は5つのうち(1)および(5)を選択して対応した場合、従業員Cさんは(1)の措置を希望し、他方、従業員Dさんは(5)の措置を希望したとします。この場合、A部署内の勤怠管理において、Bさんは従来の労働時間制度、Cさんは始業時刻等の変更の措置、Dさんは新たな休暇の付与を前提に整理していかなくてはなりません。この、同一部署の正社員の中でも「勤怠管理が異なる」ということに関して慎重に対応する必要があります。社内の実務的な課題を洗い出し、効率的かつ誤りなく対応するためのシステム設定などを事前に検討しておくことが大切になります。
就業規則の改定作業はどのように行うべきか?
12月に年末調整、1月に給与支払報告等、そして4月に向けた組織変更、人事異動、昇給・昇格あるいは新入社員の受け入れ準備など、実務担当者はやることが多岐にわたります。その隙を縫って、ほとんどの会社が、改正対応を実施しようしています。
そもそも「規定の改定」が必要であるかどうかですが、基本的に必要になります。
休業・休暇、時短勤務等の取り扱いやその際の賃金・賞与の取り扱いなどの定めは、主たる労働条件として、労働基準法で規定する就業規則の「絶対的必要記載事項」にあたるためです。
実態が伴ってさえいれば、問題ないということではありません。
かつては、「育児休業等は関連法規による」として法に委ねる旨を一文でまとめている規定も見受けましたが、その間の賃金の取扱い等の規定がないため、厳密にはNGです。
具体的な規定の改定方法ですが、厚生労働省のWebサイトに、「規定詳細版」のワードファイルが、規定例として公開されていますので、規定例を参考に改正箇所を更新していくことになります。
このとき、従前は「産前産後休業」であったものが「産前・産後休業」に、「有期契約従業員」であったものが「有期雇用従業員」になっているなど、改正とは無関係の細部の更新が行われています。また、「第1条 本規程は、従業員の育児・介護休業(出生時育児休業含む。以下同じ。)、子の看護等休暇(4月改正)、介護休暇、育児・介護のための所定外労働、時間外労働および深夜業の制限、育児・介護短時間勤務並びに柔軟な働き方を実現するための措置等(10月改正)に関する取扱いについて定めるものである」など、改正に伴い各条文に付け足し等が行われています。さらに、10月改正部分も含めたものになっているため、正確を期したい場合は、全条文を突き合わして確認する必要があります。
全30条ほどですので、自社内での対応でも問題ないと思いますが、割ける時間の都合によっては社労士に委託してもいいかもしれません。
介護に直面した労働者からの「申し出」をどのように受けるべきか?
2025年4月から、「家族の介護が必要になった」ことを従業員が会社に申し出た場合、会社はその従業員に対し、個別に介護休業制度等を周知し、介護休業等の取得意向を確認しなければなりません。放置はNGです。よって2022年4月から妊娠・出産等の申し出をした労働者に対して、個別の周知・意向確認の措置が義務化されたときと同様に、「介護が必要な状況であること」を申し出るための仕組みが必要になります。
法令では、申し出方法を書面等に限定していないため、事業主において特段の定めがない場合は口頭でも可能とされています。
そのため、申し出の際の様式については厚生労働省のひな型集にも用意がありません。しかし、「言った、言わない」を防ぐためにも、会社はあらかじめ申し出方法を明らかにしておいたほうがいいでしょう。
できれば、簡易でもよいので汎用(はんよう)WFシステム等で「妊娠・出産の申し出」のほか、「介護に直面したことの申し出」の申請画面をつくることをおすすめします。
その際、(1)希望の面談形式(対面、オンライン面談、電子メールなど)、(2)意向内容の記録、が選択あるいは記録できるようになっているとよいと思います。
まとめ
2025年4月および10月に改正の育児・介護休業法の内容については、厚生労働省からのリーフレットや書式例等が一式公表されています。施行日前までに規定や協定書の改定を行う必要があるため、確認しておきましょう。
その際、上記3点について、特に相談が多いため、私なりのポイントを示しました。そのうえで、今後の育児に関する新制度の設計に向けて、10月までに情報収集および具体的な制度設計の検討が重要となります。社内の運用に適したものとするために、厚生労働省のWebサイトに公開中のQA集などで理解を深め、現実的な選択肢を検討していきましょう。
著者プロフィール
アクタス社会保険労務士法人
スタッフ約200名、東京と大阪に計4拠点をもつアクタスグループの一員。
アクタス税理士法人、アクタスHRコンサルティング(株)、アクタスITコンサルティング(株)と連携し、中小ベンチャー企業から上場企業まで、顧客のニーズに合わせて、人事労務、税務会計、システム構築支援の各サービスを提供しています。
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