社会保険適用拡大による二以上事業所勤務者への影響について
2024年12月25日
社会保険の適用拡大によって、社会保険の加入対象になる企業や従業員の範囲が広がります。経営者や実務担当者は手続き漏れを起こさないために、社会保険の加入対象になる企業や従業員の要件について正しく理解しておかなければなりません。
本コラムでは「二以上事業所勤務者」に着目し、実務担当者がおさえるべきポイントを解説します。すでに特定事業所として適用拡大の対象になっている事業所でも、増加する二以上勤務者について理解し、従業員への説明や届け出ができるよう確認しておきましょう。
短時間労働者の社会保険加入要件の拡大
2024年10月からパートやアルバイトなどの短時間労働者の加入要件がさらに拡大され、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等(※)で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化されました。
2022年9月までは「501人以上」でしたが、2022年10月から「101人以上」に変更され、2024年10月からさらに「51人以上」に変更されています。
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※
以下、特定適用事業所といいます
加入対象者について
特定適用事業所で働く方で、次の4点のいずれにも該当する方が、短時間労働者として新たに加入対象となります。
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週の所定労働時間が20時間以上30時間未満であること
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週所定労働時間が40時間の企業の場合
契約上の所定労働時間であり、臨時に生じた残業時間は含みません。
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契約上20時間に満たない場合でも、実労働時間が2カ月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見込まれる場合には、3カ月目から保険加入とします。
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所定内賃金が月額8.8万円以上であること
基本給および諸手当を指します。ただし残業代・賞与・臨時的な賃金等は含みません。
含まれない例
- 1月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)
- 時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)
- 最低賃金に算入しないことが定められた賃金(精皆勤手当、通勤手当および家族手当)
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2カ月を超える雇用の見込みがあること
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学生でないこと
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休学中や夜間学生は加入対象です。
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昨今の大幅な地域別最低賃金の引き上げに伴い、今まで上記2の要件を満たさなかった方が、時給増により新たに対象となることも想定されます。
(週所定20時間=月所定約87時間となるため、時給1,012円で所定内賃金月額が8.8万円以上となります)
その結果、副業として2つ以上の会社で勤務している方や、短時間労働者として複数社を掛け持ちで勤務している方は、それぞれの会社で社会保険加入要件に該当するケースが増えてくると考えられます。これを「二以上事業所勤務者」といいます。
二以上事業所勤務者は、複数事業所で勤務し、他社でも社会保険に加入している可能性があります。その場合、加入要件に該当した会社それぞれで健康保険および厚生年金保険(以下「社会保険」という。)に加入することになりますが、保険料については、被保険者が選択した事業所の管轄の保険者(年金事務所・健康保険組合または協会けんぽ、以下、保険者とします)に納付することになります。また、保険証は本人が選択事業所として届け出た一方の会社の健康保険からのみ発行されます。
二以上勤務者に該当した際の具体的な手続きについては、下記をご参照ください。
保険料額について
保険料額はそれぞれの会社の報酬額を合算して算出した標準報酬月額を、それぞれの会社の報酬額の比率によって案分して決定します。
保険料の案分計算は、資格取得時のほか月額変更届・算定基礎届により報酬月額が変更される際などにも行われます。自社での報酬月額が変わらなくても、他社分の報酬月額に変更があった場合には保険料額が変更となる点に注意が必要です。
社内準備のステップ
経営者や実務担当者は手続き漏れを起こさないために、以下のステップに沿って社内準備を進めていきましょう。
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加入対象者の把握
まずは社内の加入対象者を把握しましょう。
従前から特定適用事業所に該当している会社でも、従業員の所定労働時間の変更や賃金の引き上げにより、新たに社会保険加入対象となっている人がいないか改めて確認が必要です。これにより、全ての対象者が漏れなく把握されるようにします。
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社内周知
次に、把握した加入対象者に対して、社会保険加入の必要性を周知します。社内掲示板やメール、社内イントラネットなどを活用して、全従業員に対して情報を共有しましょう。具体的な加入手続きやそのメリット、加入しなかった場合の影響などを明確に伝えることが重要です。これにより、従業員が自分の状況を理解し、適切な対応を取ることができます。
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従業員とのコミュニケーション
必要に応じて、説明会や個人面談を実施し、従業員とのコミュニケーションを図ります。説明会では、社会保険の仕組みや加入手続きについて詳しく説明し、従業員からの質問に答える場を設けましょう。個人面談では、各従業員の具体的な状況に応じたアドバイスを提供し、不安や疑問を解消することができます。これにより、従業員が安心して手続きを進められるようになります。
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書類の作成・届け出(オンライン)
最後に、必要な書類を作成し、オンラインで届け出を行います。厚生年金保険の「被保険者資格取得届」を作成し、電子申請システムを利用して提出します。オンラインでの届け出は、迅速かつ効率的に手続きを完了させることができるため、積極的に活用しましょう。また、提出後は、受理されたことを確認し、必要に応じて追加の手続きを行います。
これらのステップを踏むことで、短時間労働者の社会保険加入手続きを円滑に進めることができます。
まとめ
社会保険の適用範囲が拡大されることで、企業や従業員の加入対象が広がりました。
経営者や実務担当者は、手続きの漏れを防ぐために、社会保険の加入要件を正確に理解しておく必要があります。特に、新たに加入対象となる従業員がいる場合は、迅速に本人に通知し、意思確認を行うことが重要です。
社会保険の加入手続きを進める際には、対象となる従業員と十分にコミュニケーションを取りながら、期限内に必要な届け出を行いましょう。
Q&A
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Q1社会保険は2つ目の会社も加入する必要がありますか?
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A1
それぞれの事業所ごとに社会保険の加入要件を満たしているか等を判断されます。
A社、B社それぞれで社会保険の加入要件を満たすと、A社、B社両方で社会保険に加入することとなります。例えば、次のような働き方をする方が対象になります。- A社およびB社で法人の代表者
- A社で法人の代表者かつ、B社で正社員として勤務する方
- A社およびB社で正社員として勤務する方
- A社およびB社で短時間労働者として勤務し、それぞれの会社で加入要件※を満たす方
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加入要件は企業規模によって異なるため、お勤めの事業所に確認してください。
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Q2何か手続きは必要ですか?
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A2
被保険者本人から「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構に提出する必要があります。
同時に2カ所以上の事業所で社会保険の加入要件を満たした場合、いずれか1つの事業所を主たる事業所として選択し、管轄する年金事務所または保険者等を決定する必要があります。-
※
健康保険組合に加入する事業所を選択する場合は、健康保険組合への届け出も必要です。詳細は健康保険組合にお問い合わせください。
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70歳以上の方は、「厚生年金保険70歳以上被用者所属選択・二以上事業所勤務届」の提出も必要です。
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上記届け書に個人番号を記載して提出する場合は、本人確認書類の添付が必要です。
詳細は、日本年金機構のホームページをご覧ください。
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Q3健康保険証はどのように発行されますか?
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A3
選択した事業所のみで健康保険証が発行されます。
被保険者本人が選択した事業所を管掌する保険者から健康保険証が発行されます。-
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複数枚発行されている場合は返却してください。
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※
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Q4保険料はどうなりますか?
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A4
それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき案分し決定されます。
それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により標準報酬月額が決定されます。
この標準報酬月額に厚生年金保険料率、選択した事業所の健康保険料率をかけた保険料額を、それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき案分して決定されます。
健康保険料率は、全国健康保険協会(協会けんぽ)の各都道府県支部、または健康保険組合にお問い合わせください。
参考文献
アクタス社会保険労務士法人 メルマガVol.663
「社会保険適用拡大による二以上事業所勤務者への影響について」
アクタス社会保険労務士法人
スタッフ約200名、東京と大阪に計4拠点をもつアクタスグループの一員。
アクタス税理士法人、アクタスHRコンサルティング(株)、アクタスITコンサルティング(株)と連携し、中小ベンチャー企業から上場企業まで、顧客のニーズに合わせて、人事労務、税務会計、システム構築支援の各サービスを提供しています。
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