労働生産性とは?計算式から向上させるための方法までわかりやすく解説
企業の利益を左右し、従業員の働き方にも影響を与える労働生産性は、企業の存続・発展に欠かせない指標です。そのため、あらゆる企業で労働生産性の向上に向けた施策が講じられていますが、実際に取り組むとなると「何から始めたらいいのかわからない」という方は多いのではないでしょうか。
そこで本コラムでは、労働生産性の定義や計算方法、メリットなどの基礎知識から、労働生産性を向上させるときの手順と方法についてわかりやすく解説します。
目次
-
労働生産性の定義とは?
- 物的労働生産性
- 付加価値労働生産性
- 生産性や業務効率化との違い
- 国際社会における労働生産性の定義との違い
-
労働生産性の計算方法
- 物的労働生産性の計算方法
- 付加価値労働生産性の計算方法
-
労働生産性を向上させるメリット
- 人材不足への対応
- コア業務に人材や費用を投資できる
- ワークライフバランスの改善
-
労働生産性を向上させる手順と方法
- 現状を把握する
- 業務を可視化し、課題を整理する
- 課題解決の方法を検討する
- KPIを設定する
- PDCAを回す
-
労働生産性の高い職場の特徴
- 目標が明確である
- 客観的に意思決定が行われている
- 心理的安全性が高い
- 社会的感受性が高い
-
労働生産性を高めた企業の事例
- 株式会社ハクブン
- 株式会社荒木組
- まとめ|労働生産性を高めることが企業価値を高める
労働生産性の定義とは?
労働生産性とは、「投入した労働量に対する産出量の割合」を指します。より具体的にいうと、「労働者1人あたり、または労働時間1時間あたりに、どのくらいの成果を上げたのかを示す指標」です。
数値が高いほどその労働の価値が高いと判断できるため、労働生産性が向上するということは「同じ労働量でより多くの成果を上げた」、あるいは「より少ない労働量でこれまでと同じ成果を上げた」ということになります。
労働生産性は何を成果にするかによって、「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2つに分類されます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
物的労働生産性
物的労働生産性は、労働量に対する産出量を、モノの大きさや重さ、個数などの物理的な量で測ります。つまり、物的労働生産性を用いれば、労働者1人あたりが生産した量や、労働時間1時間あたりで生産した量がわかるということです。
物価変動などに影響される販売額ではなく、物量を基準とする点がポイントです。そのため、製造業などの生産現場における純粋な生産能力を測定するときなどに利用されます。
付加価値労働生産性
付加価値労働生産性は、労働量に対する産出量を、生産活動によって生み出された金銭的な価値(付加価値額)で測ります。付加価値額の求め方はさまざまありますが、売上高から原価を引いた「粗利」が利用されるのが一般的です。
付加価値労働生産性を用いれば、労働者1人あたりが生み出した付加価値額(粗利)や、労働時間1時間あたりで生み出した付加価値額(粗利)がわかります。そのため、物量でカウントしづらい情報やサービスなど無形商材を扱う業界でも使用しやすいのが特徴です。
生産性や業務効率化との違い
労働生産性を正しく理解するために、生産性や業務効率化の言葉の意味も押さえておきましょう。
生産性は、労働生産性を含む幅広い概念です。その定義は「投入した生産要素(インプット)に対する産出量(アウトプット)の割合」となり、投入した生産要素が労働である場合に「労働生産性」と呼ばれます。そのほか、機械や設備、土地などの資本を生産要素とする「資本生産性」、すべての要素を生産要素とする「全要素生産性」などがあります。
ただ、日本における「生産性」は「労働生産性」を指すことが一般的です。
業務効率化は、業務のムリ・ムダ・ムラを減らして業務を合理的に進めていくことを指します。業務効率化と労働生産性向上(あるいは生産性向上)は混同されやすい言葉ですが、業務効率化は労働生産性を向上させるためのひとつの手段という位置付けです。
業務効率化によって労働人数や労働時間が適正化されれば、インプットに対するアウトプットの割合が高まり、労働生産性が向上するという構造です。
国際社会における労働生産性の定義との違い
国際社会における労働生産性(国民経済生産性)は、国内の労働生産性の計算方法とは異なります。国民経済生産性は、GDP(国内総生産)を基に算出され、計算式は「GDP ÷ 就業者数」や「就業者数 × 労働時間」で表されます。この方法では、労働者1人あたりが生み出した付加価値を示す国内の労働生産性とは異なり、国家全体の生産性を示すマクロ経済指標として使われます。したがって、国際比較を行う際には、国民経済生産性が参考にされます。
日本の労働生産性に関する国際比較は、公益財団法人日本生産性本部が毎年公表しているデータに基づいています。2023年の調査によると、日本の1時間当たりの労働生産性は52.3ドルでOECD加盟38カ国中30位、1人あたりの労働生産性は85,329ドルで31位となっています。これらの順位は1970年以降最も低い水準となり、特に人口減少と国内需要の縮小が進む中で、今後の課題となります。
日本が国際競争力を高め、グローバル市場での生産性向上を目指すためには、労働生産性の改善が不可欠です。
労働生産性の計算方法
労働生産性を算出する基本の計算式は「産出÷投入」です。ここでは、物的労働生産性と付加価値労働生産性の具体的な計算方法をわかりやすく紹介します。
物的労働生産性の計算方法
物的労働生産性の計算式は、次のとおりです。
- 物的労働生産性=生産物の物量÷労働量
- 労働者1人あたりの物的労働生産性=生産物の物量÷労働者数
- 労働者1人1時間あたりの物的労働生産性=生産物の物量÷(労働者数×労働時間)
労働量を労働者数にすれば、労働者1人あたりの物的労働生産性を算出でき、労働量を労働者数×労働時間にすれば、労働者1人における1時間あたりの物的労働生産性を算出できます。
付加価値労働生産性の計算方法
付加価値労働生産性の計算式は、次のとおりです。また、計算式にある付加価値額は、生み出したモノやサービスの金銭的価値を示します。
- 付加価値労働生産性=付加価値額÷労働量
- 労働者1人あたりの付加価値労働生産性=付加価値額÷労働者数
- 労働者1人1時間あたりの付加価値労働生産性=付加価値額÷(労働者数×労働時間)
なお、付加価値額は次のように計算します。
- 付加価値額=生み出したモノやサービスの売上高➖外部から調達した費用
外部から調達した費用には、原材料費、外注加工費、動力費、機械修繕費、運搬費といったものが該当します。
労働生産性を向上させるメリット
労働生産性を向上させると、企業と従業員の双方にとって良い効果をもたらします。主なメリットを4つ見ていきましょう。
人材不足への対応
少子高齢化に伴い労働力人口の減少が進む日本では、人材不足は慢性的な課題のひとつです。2030年には日本の総人口の約3割が高齢者となる「2030年問題」が待ち構えており、企業によっては新規採用ができず、事業継続すら危ぶまれる恐れがあります。
こうした問題の対応策として、労働生産性の向上は非常にメリットのある取り組みです。労働生産性が向上すると、少ない人数でも企業の生産力をキープできるようになります。
現状は人員が足りているという企業でも、早くから労働生産性の向上に着手することで、将来のリスクに備えることができます。
コア業務に人材や費用を投資できる
労働生産性が向上すると、人員に余裕が生まれることがあります。その空いた人材を経営に直結するコア業務に配置したり、不足している部門に配置したりすることで、さらなる利益の創出や組織体制の強化が期待できるでしょう。
また、労働生産性が上がると時間外労働などが減り、人件費のコストダウンにもつながります。その削減できたコストを新規事業に投入すれば、新しい販路の開拓も可能です。
ワークライフバランスの改善
労働生産性の向上は働き方改革にもつながる取り組みです。
労働生産性が上がり、時間外労働や休日労働が減ると、従業員はプライベートの時間を確保しやすくなり、ワークライフバランスの改善が見込めます。その結果、従業員のモチベーションが上がり、さらに労働生産性が高まることも期待できます。
また、「ワークライフバランスを重視した会社」という認識が広まれば、採用活動でも有利に働き、優秀な人材の離職防止にもつながります。
労働生産性を向上させる手順と方法
労働生産性を向上させるための5つのステップと、それぞれの方法について具体的に解説します。
現状を把握する
現状の労働生産性を数値化し、過去の数値と比較して評価します。過去の数値がなく、比較できない場合は、公表されている労働生産性のデータを利用するのもひとつの方法です。
たとえば、公益財団法人 日本生産性本部の「日本の労働生産性の動向2024」では、以下のように2023年度の労働生産性が公表されています。ただし、付加価値額はGDPを用いて計算されているため、業種や企業規模、地域性等は考慮されていません。あくまで目安として参考にしてください。
- 1人あたりの名目労働生産性(付加価値労働生産性)は833万円
- 1人1時間あたりの名目労働生産性(付加価値労働生産性)は5,396円
-
※
名目労働生産性とは、付加価値額を時価で計算したもの
また、企業規模別・業種別の労働生産性は、「2024年版 中小企業白書」にて公表されています。付加価値額は企業ベースで算出されているため、より実態に即した数値を確認できるでしょう。
業務を可視化し、課題を整理する
従業員に業務内容をリスト化してもらい、業務の可視化を行います。見える化することによって業務の全体像を把握できるうえ、客観的判断がしやすくなるのが利点です。
業務のムリ・ムダ・ムラを洗い出す際は、以下の点に注目するといいでしょう。
- 合理的な手順で行われているか
- 従業員の人数と配置は適切か
- 勤務時間は適切か、余分な時間はないか
- ミスが集中している工程はないか
- 時期や担当者による生産量や成果に偏りがないか など
課題解決の方法を検討する
課題の解決方法を検討します。抱えている課題は企業ごとに異なりますが、次のような点を意識して検討するといいでしょう。
-
業務の標準化
業務の標準化とは、誰が取り組んでも同じ成果を出せる体制作りのことです。属人化している業務があればマニュアルやルールを整備すると、労働生産性の向上に寄与します。
-
IT導入による省力化
ITツールやシステムを活用することで、業務効率化や品質の安定化を目指せます。経済産業省・中小企業庁が実施する「IT導入補助金」も視野に入れ、導入を検討しましょう。
-
ノンコア業務の外注化
利益に直結するコア業務と、それ以外のノンコア業務を分けて考えることもポイント。ノンコア業務についてはアウトソーシングの活用も有効な選択肢です。
-
従業員のスキル向上
付加価値額を上げるには、従業員のスキルアップが効果を発揮します。リスキリングや研修機会、資格取得支援制度の充実など、施策の方法はさまざまです。
-
労働環境、処遇の改善
従業員のモチベーションを上げることも欠かせない要素です。就業時間、オフィス環境、評価制度、賃金設定、報奨金など、従業員の意欲を掻き立てるような施策を検討しましょう。
KPIを設定する
KPIとは、目標設定の指標および目標達成状況を定点観測する指標のことです。日本語では「重要業績評価指標」や「重要達成度指標」と訳されます。
KPIを設定することにより、現時点の進捗状況が明らかになり、最終目標に向けてのアクションを起こしやすくなります。また、評価の基準に定量的な数値を用いるため、関係者の共通認識を得やすくなるのも利点です。
KPIを設定するときは、次の「SMARTの法則」というフレームワークを活用すると効果的です。
- Specific(具体的な)
- Measurable(測定可能な)
- Achievable(達成可能な)
- Relevant(最終目標に関連のある)
- Time-bounded(期限のある)
PDCAを回す
労働生産性向上の取り組みに限らず課題解決を図る際は、評価と改善が欠かせません。PDCAサイクルを回して、自社にとって最も効果的な体制とは何かを追求しましょう。
企業活動に影響を与える外的要因、内的要因は常に変化するものです。PDCAサイクルを回すことで改善のノウハウが蓄積され、環境変化に強い組織を築けるようになります。
労働生産性の高い職場の特徴
労働生産性を上げるにあたって、注目したいのが職場環境のあり方です。企業という集合体では従業員は何らかのチームに属し、そこで能力を発揮します。そのため、労働生産性の向上にはチームビルディングが不可欠といえます。ここでは、労働生産性の高い職場の特徴を4つ紹介します。
目標が明確である
労働生産性の高い職場は、チームの目指すべきゴールが明文化され、それを皆で共有し、自分がやるべきことを理解しています。当たり前のことのようですが、チームはさまざまな考え方をもつ人の集合体です。意思統一を図るのは容易なことではありません。
目標が明確であれば、課題と改善策の可視化が可能になり、PDCAを回しながら目標達成に近づくことが可能です。従業員はそれぞれのフェーズで自身の貢献度を実感できるため、業務に対する意識やモチベーションが高まります。
結果として労働生産性の向上につながり、チームおよび企業にとって良い成果を生み出します。
客観的に意思決定が行われている
労働生産性の高い職場では、客観的なデータに基づいた意識決定が行われています。事実から判断されることを軸に合理的な決断がなされるため、従業員の納得を得やすいのが特徴です。
一方、労働生産性の低い職場では、属人的な意思決定がされる傾向があります。リーダーの経験や推測による判断・評価は、従業員に混乱を招き、自ら考える力を妨げてしまうことも。こうなると労働生産性の向上は期待できません。
心理的安全性が高い
チームにおける心理的安全性とは、「リスクのある発言・行動をしても、このチームなら安心だと思える状態」を指します。Googleがプロジェクト・アリストテレスという研究を通じて、「生産性の高いチームに最も重要なのは心理的安全性である」と発表したことにより、広くこの概念が世間に知られるようになりました。
心理的安全性が高い職場では、チームメンバーに対する信頼が高いため、1人1人が自分の業務に集中できます。労働生産性を高めようと意識せずとも、自ずとパフォーマンスが向上するのが特徴です。
社会的感受性が高い
社会的感受性とは、他者の表情やしぐさなどの非言語的な反応から、その人の心理状態や感情を読み取る能力のこと。1人1人の社会的感受性が高いチームは成果を上げやすく、労働生産性が高い傾向にあります。
チームを構成するときは、従業員の定量的なスキルだけでなく、社会的感受性の高さをひとつの基準に加えると良いでしょう。また個々の社会的感受性が発揮されるには、チームの心理的安全性も重要です。
労働生産性を高めた企業の事例
労働生産性を向上させる施策はさまざまあり、何を優先すべきか迷う場面も少なくないでしょう。そんなとき、ヒントになるのが他社の例です。今回は、厚生労働省が実施した「第3回 働きやすく生産性の高い企業・職場表彰(2018年)」において最優秀賞に輝いた企業の事例を紹介します。
株式会社ハクブン
株式会社ハクブンは、全国規模で直営美容室を展開する企業です。「美容師が生涯にわたり安心して働ける環境を整えること」を目標に、以下のような施策によって労働生産性の向上と雇用管理の改善に取り組んでいます。
-
マニュアルによる業務の標準化で、1時間あたりの客数をアップ
従来はマンツーマンで行っていた技術指導をマニュアル教育に変更し、空いた時間での自己訓練を可能にした。それにより作業の標準化が図れ、入客数も1.8倍に増加。時間あたりの売上向上に成功した。
-
ポイント給の導入で回転率をアップ
作業工程ごとにポイントを設定し、ポイント給として従業員に還元する仕組みを構築。これにより、手の空いた従業員が率先して他メンバーのサポートに入るようになった。業務の効率化に伴い回転率が上がり、売上増に成功。
-
IT導入で従業員のモチベーションをアップ
POSレジの改良により、会計時間と発注業務の時間を短縮。勤怠管理システムの導入で残業代を1分単位で管理し、賃金配分の適正化に努めた。これにより従業員のモチベーションが向上した。
株式会社荒木組
総合建設業を営む株式会社荒木組では、建設業界の古いイメージからの脱却を目指し、労働生産性の向上と働きがいのある職場作りに取り組んでいます。主な施策例を以下にまとめました。
-
IT技術の導入で業務を効率化
土木現場の測量にドローンを導入したことで、従来であれば3人編成で4日かかっていた作業が、2人編成で1日で完了できる体制を実現。また、WEBグループウェアで各事務所と各工事現場をつなぎ、業務を見える化することで、従業員の働きやすさと業務効率化を実現した。
-
協力会社との関係性強化で労働時間短縮に成功
毎月3回、協力会社との勉強会を開催。コミュニケーションをとることで仲間意識が強固になり、現場での安全管理の品質が向上。その結果、自社の従業員の管理負担が減少し、労働時間の短縮につなげることができた。
-
オフィス環境を改善し、働きやすさを向上
アイデアルーム、畳の休憩室、社員の趣味を展示するコーナーなどを新たに設置。また、1人あたりの机のスペースを広くとり、十分な作業スペースを確保したことで、従業員の働きやすさが向上した。
まとめ|労働生産性を高めることが企業価値を高める
労働力人口の減少が進む日本において、労働生産性の向上はあらゆる企業で重要なテーマです。企業競争力が高まるばかりではなく、働く環境の是正も図れることから、労働生産性の高さが企業価値を評価するひとつの指標となるでしょう。
しかし、業務や職場環境の改善には、少なくないリソースがかかることも確かです。すべての施策を社内リソースで解決しようとすれば、どこかで無理が生じるリスクがあります。
そんなときに検討したいのが、業務の一部を外部に委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。昨今はBPOが単なるコスト削減の手段としてではなく、業務改革、競争力強化、従業員満足度や顧客満足度の向上など、企業価値につながる手段としての認識が広がっています。
私たちキヤノンマーケティングジャパングループは、お客さまのビジネス変革を、ITとBPOでご支援しています。BPOの活用方法や事例、効果などについて知りたいときは、お気軽にご相談、お問い合わせください。
関連ソリューション
こちらの記事もおすすめです
「BPOソリューション」についてのご相談・お問い合わせ
キヤノンマーケティングジャパン株式会社 BPO企画部