2030年問題とは?企業が直面する課題と対策を解説!
少子高齢化や人口減少が進行している日本では、働き手の減少や社会保障の負担の増加など、さまざまな問題が深刻化しています。
これらの問題は2030年頃に大きな社会問題として顕在化すると予測され、「2030年問題」と呼ばれています。
すでに、新卒採用をはじめとする人材獲得競争の激化や売り手市場による人件費の高騰などの影響が出始めており、企業においても早急な対策が求められています。
今回は、2030年問題が企業に及ぼす影響と、その対策について詳しくご紹介します。
目次
- 2030年問題とは
-
2030年問題が企業に与える影響
- 人材不足の深刻化と採用難
- 国内市場規模縮小とグローバル化
- 事業承継・技術承継の困難化
- 需要構造や購買行動の変化
-
2030年問題で特に労働力不足が深刻化すると考えられる業界
- 小売・サービス産業
- 建設・不動産
- 物流
- 医療・福祉
- IT
-
2030年問題で企業が取るべき具体的な施策
- 働き方改革の推進
- リスキリングの推進
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
- シニア人材・女性・外国人労働者の活用
- アウトソーシング(BPO)の活用
- 成功事例から学ぶ2030年問題対策
- まとめ
2030年問題とは
2030年問題とは、少子高齢化や人口減少によって2030年頃に顕在化すると予想されている社会問題の総称です。
対象年度によっては「2030年問題」や「2040年問題」とも呼ばれますが、少子高齢化や人口減少が原因であることは共通しています。
内閣府が発表した「令和6年版 高齢社会白書」によると、令和5年10月1日時点で日本の高齢化率は29.1%に達し、全人口の3~4人に1人が65歳以上の高齢者となっています。
また出生率も減少を続けています。2010年には人口1,000人あたり8.5人だった出生数が、2022年には6.3人に減少し、今後も緩やかに減少していくと見込まれています。
こうした問題に対し、国や行政は高年齢者雇用確保措置(定年の引き上げ・廃止や継続雇用制度の導入など)や少子化対策などに取り組んでいますが、企業としても当事者意識を持って対策を講じることが求められています。
2030年問題が企業に与える影響
2030年の日本には、少子高齢化や人口減少によって、企業にさまざまな問題がふりかかると予想されています。
企業が直面する主な問題として、以下の4つが挙げられます。
- 人材不足の深刻化と採用難
- 国内市場規模の縮小とグローバル化
- 事業承継・技術承継の困難化
- 需要構造や購買行動の変化
それぞれ、具体的な影響を解説します。
人材不足の深刻化と採用難
人口減少の中で企業活動に最も影響するのは、労働力となる生産年齢人口(15~64歳の人口)の減少です。AIやロボット技術の発展により機械化・効率化が進んでいますが、多くの業務は依然として労働者によって担われています。
日本の生産年齢人口は、2010年には8,000万人以上に達していましたが、2030年には約6,700万人まで減少すると予測されています。また、2030年の労働需要は7,073万人に達する一方で、労働人口は6,429万人にとどまる見込みです。この結果、約644万人もの人材が不足すると予測されています。
こうした人口減少により、従来の新卒一括採用が難しくなると考えられます。また、少ない労働者を奪い合う売り手市場では、給与や福利厚生を充実させることで、優秀な人材を確保しようとするため、人件費が高騰する可能性があります。
国内市場規模縮小とグローバル化
労働者は購買力のある消費者でもあるため、国内の労働人口が減少すれば、購買力のある消費者層が縮小し、需要の低下から市場規模の縮小は避けられません。
国内市場の拡大が見込めなくなる中、企業は新たな市場を求めて輸出や海外進出を進め、不足した人材を補うために従業員の多国籍化が進むでしょう。
結果として、グローバル戦略を実行できる企業に資本や人材が集中し、対応できない企業が統廃合される可能性があります。
事業承継・技術承継の困難化
特に中小企業では、後継者育成や事業承継プランの策定が不十分であることから、事業承継が進まず廃業に追い込まれる企業が増加する恐れがあります。
さらに、社内の高齢者の割合が高い場合、次世代への技術承継が十分に行われないまま、多くのベテラン社員が同時に退職し、事業規模の縮小や廃業のリスクが高まります。
2030年問題の影響は、一企業の衰退にとどまらず、特定の業界や分野における貴重な知識や技術が失われる懸念もあるのです。
需要構造や購買行動の変化
高齢化が進む中で、消費者の購買行動や、商品・サービスの需要も変化していきます。
たとえば、実店舗に出向かず商品を購入できるオンラインショップの需要は今後も拡大が見込まれ、さまざまな企業が参入を始めています。また、高齢者向けの医療・福祉関連、健康食品、リハビリ機器などの需要が増加する一方で、若年層向けのサービスや製品の需要は減少傾向が予想されます。
企業には、顧客層の変化を見据えた新しい市場への対応が求められます。
2030年問題で特に労働力不足が深刻化すると考えられる業界
2030年問題はすべての企業にとって当事者意識を持って取り組むべき問題ですが、企業の特性によって影響の大きさには差があります。
サービス産業や建設・物流などの労働集約型の業種や、医療・ITなど専門的な知識や技術が不可欠な業界は、特に影響が大きいと言われています。
ここでは、特に影響が懸念される5つの業界について解説します。
- 小売・サービス産業
- 建設・不動産
- 物流
- 医療・福祉
- IT
小売・サービス産業
労働力不足が最も深刻化すると予想されるのが、小売・サービス産業です。サービス産業では、需要に対して約400万人もの人材が不足すると見込まれています。
コンビニやスーパーマーケット、飲食店、旅館・ホテルといった小売やサービス業は人が提供する接客やサービスが中心であり、人手不足が利益の減少に直結します。
長期的には利益が減少することで従業員の待遇を維持できなくなり、サービスの品質低下に繋がる可能性があり、これにより顧客満足度が低下するという悪循環に陥ることも考えられます。
建設・不動産
不動産業や建設業には多くの技術者が必要です。しかし、職人の高齢化や入職率の低迷、離職率の上昇によって技術承継が難しくなり、担い手不足による廃業も懸念されています。
国土交通省の推計では、建設業全体の55歳以上の割合が34%である一方、29歳以下はわずか11%とされ、若年人材の確保と育成が大きな課題となっています。
物流
物流業界は運送能力をドライバーに依存しており、労働力不足は物流ネットワーク全体の品質に悪影響を及ぼします。
政府の推計によると、2030年には運送能力の34.1%が不足する可能性があり、日本全体で7.5兆円~10.2兆円規模の経済損失が生じる「物流クライシス」が発生する恐れがあると指摘されています。
これに対し、政府は高速道路の速度規制引き上げや物流効率化の努力義務などの取り組みを進めていますが、企業も独自の対策を講じる必要があります。
医療・福祉
少子高齢化により、介護サービスや医療のニーズが高まる一方で、人材不足が深刻化すると考えられます。
厚生労働省によると、2040年までに医療・福祉の就業者数が1,070万人必要とされるのに対し、確保可能な人数は974万人と推計され、約100万人の不足が見込まれています。
IT
多様な業界が人材不足に対応するためにDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進すると見込まれ、IT分野の需要は今後さらに高まるでしょう。
一方で、IT業界は既にエンジニア不足に悩まされており、2030年には最大79万人のIT人材が不足するとも指摘されています。
特に、IoTやAI、ビッグデータを活用する高度人材の育成・確保が急務です。
2030年問題で企業が取るべき具体的な施策
2030年問題が企業活動に与える影響を回避するための代表的な施策には、以下のものが挙げられます。
- 働き方改革の推進
- リスキリングの推進
- DXの推進
- シニア人材・女性・外国人労働者の活用
- アウトソーシングの活用
働き方改革の推進
採用強化で人材を確保しても、離職率が高ければ損失が大きくなります。魅力的な雇用条件や働きやすい職場環境の整備により、離職率を抑えることが重要です。
-
テレワークの推進
少子化で従業員が減少すると、従来のような大規模なオフィスに一斉出社しての勤務は多くの職場で現実的ではなくなります。特に、事務処理やWeb会議などパソコンを利用するデスクワークは自宅やレンタルワークスペースなどを活用したテレワークへの移行が必要になります。
しかし、紙媒体での業務が残っている場合、書類の確認のためだけに出社の必要が生じてしまうこともあり、これでは本末転倒になってしまいます。
テレワークの導入を検討する場合は、書類の電子化を進めることで、効率的なテレワーク環境を構築することが推奨されます。
-
フレックスタイム・裁量労働制の導入
従来は始業・終業の時刻が決まっていることが一般的でしたが、2030年問題に向けて多種多様な人材を受け入れる場合、働き方にも柔軟性を持たせることが重要になります。
フレックスタイム制では、コアタイムと呼ばれる時間帯以外は自由に労働時間を決めてよく、通勤ラッシュを避けて出勤したり、子育て世代の社員は子供の送り迎えのために朝は早く出勤したり、夕方前に退勤するといった対応が可能になります。
一方で、会社としては勤怠管理が困難になったり、従業員同士のコミュニケーションが取りづらくなったりする可能性があります。
裁量労働制では労働時間ではなく成果で評価するため、労働時間を満たす義務がなくなります。
一方で、一定の成果が出ない場合はその成果を達成するために長時間労働が常態化してしまう懸念もあります。
メリット・デメリットを見極めて適切な制度設計をする必要があります。
-
ワークシェアリングの導入
ワークシェアリングとは、これまで1人で担当していた仕事を複数の従業員に分散する取り組みです。
例えば、フルタイムの仕事を分割してパートタイムの仕事にすれば、1人あたりの仕事量を減らし、雇用を増やすことができます。
1970~1980年のヨーロッパにおいて、不況による労働者の過労・失業を防止するために取り入れられた仕組みであり、日本では雇用保険・労災保険など雇用時にかかる経費の高さをはじめとした課題はありますが、2030年問題に直面した日本でも今後検討が進む可能性があります。
リスキリングの推進
2030年問題に備え、新たな人材確保が難しい状況で、既存の従業員に新たなスキルを習得させる『リスキリング』が注目されています。
特に、ITスキルを持つ人材を育成して業務効率化や自動化を促進できれば、労働力の不足に対応しやすくなるでしょう。
企業は研修制度の充実や実践の場の提供を通じて、従業員のスキル向上を支援する必要があります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
労働力の不足に対して、上記のような採用の工夫だけではカバーしきれないと考えられます。そのため、従業員一人ひとりの生産性を向上することによって、必要な労働力の確保に取り組むことも重要です。
生産性を向上させるために重要なのが、デジタル技術の導入・活用を推進する取り組みであるDXです。
たとえば、サービス業ではデジタルプラットフォームを活用した無人化や自動化が進み、製造業でもIoTやロボットなどを導入したスマートファクトリー化が加速するでしょう。
また、今日ではインターネット経由で利用できるクラウド上のソフトウェア・サービスであるSaaS(Software as a Service)や、プログラミング不要で画面操作のみでアプリケーションを開発できるノーコードツール、ChatGPTに代表される生成AIの登場など、個人のITリテラシーに依存せず活用できるIT技術が飛躍的に進歩しています。
これらの先端技術の活用によって、ミドル・シニア層以上の非IT人材にもDXに関わるチャンスが生まれ、人材活用の幅が広がることが期待されます。
シニア人材・女性・外国人労働者の活用
少子高齢化が進む日本では、企業が若年層人材を確保するのはますます難しくなっていきます。そこで、シニア人材、女性、外国人労働者を含めた多様な人材活用も採用戦略のひとつとして重要です。
-
シニア人材の活用
政府の調査によると、現在働いている高齢者へのアンケートでは、「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答した人が8割に上るなど、シニア人材の労働意欲が高いことがうかがえます。豊富な経験を持つシニア人材の採用は、若手人材の育成や業務の安定にも寄与します。
-
女性
女性の労働参加に関しては、20代後半から50代の間に出産や育児による離職期間が発生する「M字カーブ」の解消が課題となっています。
保育所の定員が多い地域では女性の労働参加率が高いというデータが示されており、企業による保育所の設置、ベビーシッター利用への支援、また柔軟な勤務制度の整備などの取り組みが求められています。
-
外国人労働者
日本人だけでなく、外国人の労働者を積極的に雇用することも重要な選択肢となります。
ただし、外国人労働者を採用するためには、言語や文化の違いを尊重しながら、受け入れ態勢を整えることが必要です。また、ビザや雇用条件に関する法制度の理解と遵守も求められます。
さらに、グローバルな人材は国際的な人材確保競争にさらされるため、給与や福利厚生など待遇面を整備することで、グローバルな人材確保を進めることが重要です。
アウトソーシング(BPO)の活用
自社の労働力やノウハウが不足する場合は、業務の一部を外部企業に委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を活用することで効率化を図ることも重要です。
BPOを活用することで、専門的な知識やスキルを外部リソースから調達し、社内のリソースを戦略的に重要なコア業務に集中させることが可能です。たとえば、ルーチン的な事務作業やデータ処理業務を外部に委託することで、限られた人材で効率的に業務を進めることができます。
このようなBPOの活用は、2030年問題による労働力不足への対応策として注目されています。特にIT技術との組み合わせにより、業務のデジタル化と効率化を推進し、人的リソースをより高度な業務に充てることが可能となります。この戦略は、労働力の減少が予測される中で、企業の持続的な成長を支える重要な解決策の一つといえるでしょう。
成功事例から学ぶ2030年問題対策
2030年問題に向けた対策に今から取り組むにあたり、まず何から手をつけるべきか、どのように取り組めばよいかを検討する際には、他社の取り組みを参考にするとよいでしょう。
ここでは、企業が実施している取り組みの中から、2030年問題への対策として参考になる事例をいくつかピックアップし、成功事例としてご紹介します。
味の素株式会社|教育プログラムを実施して「ビジネスDX人財」を育成
アミノ酸研究で有名な食品企業の味の素では、2019年にDX推進部を立ち上げ、全社でデジタル変革を推進するDX人材の育成に取り組んでいます。
具体的な取り組みとしては、統計学や機械学習、ビジネススキルといったDXに必要な知識やスキルを身に付ける教育プログラムを整備し、社員が無料で受講できるようにしています。
これにより、3年間で社員の74%が教育プログラムを受講し、社員間の知識格差が是正され、共通認識を持って業務に取り組めるようになりました。
サイボウズ株式会社|100人100通りの働き方を許容する魅力ある職場づくり
グループウェア「サイボウズ Office」シリーズなどを手掛けるソフトウェア開発会社であるサイボウズでは、人材の確保や定着のために、「100人100通りの働き方」を掲げて働き方改革に取り組み、2005年は28%だった離職率を、3~5%まで減少させることに成功しました。
具体的な取り組みとしては、短時間勤務制度やフレックス制度を導入し、個人のライフスタイルに合わせて労働時間を選択できるようにすることや、副業を積極的に容認することなどが挙げられます。
また、リモートワークが中心となる中で社内コミュニケーションの醸成やチームビルディングにも力を入れており、社員同士が感謝を伝え合うことを奨励して表彰する「サイボウズオブザイヤー」などの取り組みが成果を挙げています。
セブン&アイグループ|効率化・省力化に留まらないDX推進の取り組み
セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂などを傘下に持つ日本の大手総合流通持株会社であるセブン&アイグループでは、新型コロナウイルス感染症の流行による社会環境の変化を受けて、業務の効率化・省力化に留まらないDX推進に取り組み、成果を上げています。
具体的な取り組み事例としては、AI(人工知能)を活用した発注提案システムの導入や、タブレットや重量センサーを搭載した新型カートの採用によるレジの無人化、ビデオ会議システムを利用したオンライン接客やライブコマースによる販路の拡大などが挙げられます。
また、このようなDX推進によって、単に効率化・省力化するだけでなく、接客など従業員が「人にしかできないこと」に注力でき、サービスの顧客満足度を高めることが可能になります。
株式会社AIRDO|給与計算業務をアウトソーシングしてコア業務に専念
北海道を中心に航空サービスを提供する航空会社のAIRDO(エア・ドゥ)では、アウトソーシングを活用することでノンコア業務の負担軽減に成功しています。
同社は、職種ごとに賃金構成が異なるため給与計算業務が複雑化しており、給与計算の時期になるとコア業務に支障が出ていました。
具体的な取り組み事例としては、給与計算業務のうち、データ入力や集計、事務処理など単純作業をすべてアウトソーシングすることで、社員がコア業務である航空サービスの提供に集中できるようになりました。
まとめ|2030年問題に備えるには今から具体的な対策を
2030年は目前に迫っており、早急な対策の検討と実施が必要です。ただし、自社の課題や対策の検討項目は多岐にわたり、何から手をつけるべきか迷うこともあるでしょう。
そのような時に活用を検討したいのが、業務の一部を外部に委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。BPOは2030年問題の対策として業務効率の改善や働き方改革の支援のみならず、外部の専門的な知見やノウハウを活用できるという大きなメリットをもたらします。
たとえば、リソースをコア業務に集中させ、BPOベンダーによる業務の標準化や効率化を図ることで、組織の業務改革に貢献できる点は非常に重要です。
私たちキヤノンマーケティングジャパングループは、ITとBPOを通じて、お客さまのビジネス変革をご支援いたします。ご相談やお問い合わせをお待ちしております。
こちらの記事もおすすめです
関連ソリューション
「BPOソリューション」についてのご相談・お問い合わせ
キヤノンマーケティングジャパン株式会社 BPO企画部