失敗しない!年末調整の電子化導入ガイド
(チェックリスト付き)

年末調整書類の配布・回収や記載内容の不備確認、修正業務の繰り返しに、ストレスを感じている人事労務担当者の方は多いのではないでしょうか。手作業による負担を減らし業務効率を向上させる方法として、年末調整の電子化が注目されています。しかし、導入に失敗すると、かえって業務負担が増えてしまうことも。
本コラムでは、年末調整を電子化することで得られるメリットや導入手順、失敗しないためのシステムの選定のポイントを分かりやすくご紹介します。
公開日:2025年3月12日
目次
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年末調整業務の課題と電子化の必要性
- 紙申告が抱える課題とは?
- 電子化がもたらす効果とメリット
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年末調整業務の電子化を進めるための導入ステップ
- ① 課題の洗い出し
- ② 必要なツールとシステムの選定
- ③ 申請承認書を提出する
- ④ 社員への教育・サポート
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年末調整の電子化を失敗させないためのシステム選びのポイント
- ① 従業員・担当者が行うプロセスをデジタル化できるか
- ② 自社の実情に合った運用ができるか
- ③ セキュリティと法令順守を確保できるか
- 年末調整の電子化を失敗させないためのチェックリスト
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アウトソーシングでさらに業務の効率化を
- 電子化だけでは解決しきれない課題とは
- アウトソーシングを活用するメリット
- 電子化×アウトソーシングで得られる具体的な効果
- まとめ
年末調整業務の課題と電子化の必要性

年末調整は毎年発生する業務ですが、書類の回収や確認作業に多くの時間と手間がかかります。この業務負担を軽減するために、多くの企業が年末調整業務の電子化に取り組んでいます。まずは従来の紙申告における課題と、電子化によるメリットを整理してみましょう。
紙申告が抱える課題とは?
従来の紙申告には多くの課題があります。特に、「書類の回収と管理」、「確認作業の手間と不備対応」等が大きな負担となり、人事労務担当者の業務効率を低下させています。
① 書類の回収と管理の負担
年末調整では、従業員から扶養控除申告書や生命保険控除証明書などを回収する必要があります。用紙の準備、印刷、配布、回収、管理といった作業が発生し、さらに紛失や提出遅れなどのリスクもあります。
② 確認作業の手間と不備対応
提出された書類は、担当者が手作業で確認し、不備があれば従業員に修正を依頼する必要があります。この作業は時間がかかるうえに、手作業によるミスの発生率も高まります。さらに、税制改正の影響を受けるため最新の法律知識を把握し続ける必要があることも課題です。
③ 人的ミスの発生
手作業による記入や計算では、誤記や計算ミスなどが発生するリスクがあり、確認作業に時間を要します。特に、控除額の計算や申告内容のチェックには正確性が求められるため、ミスが許されないプレッシャーの中で作業を進めなくてはいけません。
④ 運用の非効率性
紙申告では過去のデータが蓄積されにくく、従業員が前年の記入方法を忘れてしまうこともあります。そのため、毎年同じような問い合わせが発生し、担当者の負担が増える要因となります。
電子化がもたらす効果とメリット
次に、年末調整を電子化するメリットをご紹介します。
① データ入力のサポート機能によるミス軽減
システムによっては、入力項目のガイドやエラーチェック機能があるため、従業員の記入ミスを防ぎやすくなります。これにより、不備の修正依頼が減少し、担当者の確認作業も軽減します。
② 控除額の自動計算による業務負担軽減
控除額をシステムが自動計算することで、手計算の手間が省け、計算ミスを防止できます。これにより担当者が訂正作業に追われることがなくなり、業務の精度が向上します。
③ 書類の回収・管理の効率化
従業員がオンライン上で申告書を提出できるため、書類の回収や管理にまつわる手間、コストの削減につながります。また、過去のデータが蓄積されるため、従業員自身が前年の記入内容を参照できるので、問い合わせの削減にもつながります。
このように、年末調整の電子化は、正確性向上、作業時間の短縮、コスト削減といった多くのメリットをもたらします。企業の業務効率を向上させるだけでなく、従業員の負担軽減にもつながるため、今後ますます導入が進むでしょう。
年末調整業務の電子化を進めるための導入ステップ

年末調整の電子化は、企業の業務効率を向上させるだけでなく、コスト削減や人的ミスの防止にもつながります。しかし、スムーズに導入するためには、適切なステップを踏むことが重要です。ここでは、年末調整の電子化を成功させるための4つの導入ステップを紹介します。
① 課題の洗い出し
現在の年末調整業務において、何が人事労務担当者の負担になっているかを下記のように細分化します。
- 書類の回収や確認業務が煩雑で業務負担が大きい
- 申告内容のミスが多く、修正対応に負担がかかる
- 従業員からのお問い合わせ対応に時間がかかる
- 保管スペースや用紙・郵送費のコストがかかる
さらに、どの工程が特に負担を感じているか優先順位をつけてみましょう。そうすると、「どこから電子化するか?」「どの範囲を電子化するか?」を検討しやすくなります。
② 必要なツールとシステムの選定
次に、上記で挙げた課題を解決するために必要なツールやシステムを選定します。
年末調整のツールは、下記の2つに分けられます。
- 国税庁が提供している「年調ソフト」
- 民間のクラウドサービス
民間のクラウドサービスの中には、さらに給与システムと連携できるタイプのものと年末調整業務の負担削減に特化したタイプのものがあります。ツール選定のポイントは後述しますが、最初に挙げた課題の「どこを電子化したいか?」「どこまで電子化したいか?」に合わせてツールを選択しましょう。
③ 申請承認書を提出する
従業員から年末調整申告書および控除証明書等を電子データで受け取るためには、事前に税務署へ「年末調整手続の電子化に関する申請書」を提出しなければなりません。この申請が承認されることで、紙の提出を省略し、電子データでのやり取りが正式に認められます。
提出方法はe-Taxを利用するか、所轄の税務署に直接提出する方法があります。事前に申請期限や必要な添付書類を確認し、スムーズに手続きを進めましょう。
④ 社員への教育・サポート
電子化された年末調整をスムーズに運用するためには、従業員への教育とサポートが不可欠です。従業員が適切にシステムを活用できなければ、結果的に担当者の負担が増えてしまうため、導入前後のサポート体制を整えましょう。
具体的な取り組みとしては、下記を参考にしてみてください。
- マニュアルや動画を作成し、分かりやすく説明
- 社内研修を実施し、実際の操作方法をレクチャー
- 問い合わせ窓口を設置し、トラブル時に迅速対応
また、年末調整の電子化をスムーズに進めるため、事前に従業員の理解度を確認し、必要に応じて追加のサポートを行うと効果的です。従業員がマイナンバーカードを取得するための期間や、民間送達サービスの開設のために要する期間を考慮すると、年末調整手続電子化の初年度においては、年末調整の時期のおおむね2ヶ月前には周知することが国税庁からも推奨されています。
年末調整業務の電子化を失敗させないためのシステム選びのポイント

年末調整の電子化を成功させるためには、目的を明確にし、導入するシステムが実際に課題を解決できるかを慎重にチェックすることが重要です。特に、以下の3つのポイントを押さえてシステムを選定しましょう。
① 従業員・担当者が行うプロセスをデジタル化できるか
「ここは電子化したい」と決めた部分が全てシステムで完結するかどうかは、必須のチェックポイントです。自社の電子化希望範囲によって、下記をぜひ確認してみてください。
マイナポータルとの連携が可能か
マイナポータルと連携できるシステムなら、控除証明書のデータを自動取得し、手入力不要で申告可能です。従業員が控除証明書(生命保険料控除や住宅ローン控除など)を手入力するのは、手間がかかるだけでなくミスの原因にもなります。関係書類の回収や記載ミスを電子化でカバーしたいとお考えの場合は、導入するシステムがこの機能を備えているか確認しましょう。
e-Taxとの連携が可能か
e-Taxとの連携がスムーズに行えるシステムであれば、まず税務署への書類提出作業や提出にかかるコストを削減できます。また、電子申告と同時に必要なデータを自動で保存できるため、電子帳簿保存法への対応がスムーズに行えるでしょう。さらに、控除額の計算が自動化されるため手作業による計算ミスが防げます。また、提出前にエラーチェック機能が搭載されているシステムもあるため、不備を事前に修正できることにより後から修正申告をする手間も減らせることもメリットです。
給与計算ソフトとのデータ連携が可能か
給与計算ソフトとのデータ連携が可能なシステムであれば、年末調整の結果を給与システムに手入力で反映する手間が減らせます。給与計算ソフトとAPI連携やCSVインポート機能があるかをチェックし、データが自動で取り込めるシステムを選ぶと、作業負担を大幅に軽減できるでしょう。
② 自社の事情に合った運用ができるか
自社の規模や従業員の状況に適した運用ができるかどうかも、重要なポイントです。ただ便利なシステムを導入すれば解決するわけではなく、現場の実態に即した使い方ができるかどうかが鍵になります。システムの要件は上記を参考に選択していただき、それ以外の要素として、下記を確認しましょう。
紙申告や控除証明書を紙で提出する従業員への対応
企業によっては、一部の従業員が電子申告に対応できないケースもあります。例えば、パソコンやスマートフォンなどの申告するための端末を持っていない従業員がいる場合、従来通り紙での提出を希望することも考えられます。控除証明書を紙で提出したい従業員が一定数いる場合は、システム上で電子データと紙の書類を一元管理できるかを確認すると良いでしょう。
システム導入前後のサポート体制
- 導入が複雑で時間がかかると「結局、紙申告の方がスムーズだった」と形骸化してしまうリスクがあります。そのため、導入前後のサポート体制が充実しているかをチェックしましょう。導入時に手厚いサポートを受けられるか(ヘルプデスクや導入研修の有無)
- 社内の担当者が迷った際にすぐ対応してもらえるか
- FAQや動画マニュアルが整備されているか
コストと運用のバランス
電子化の導入にはシステムの月額費用や年間コストがかかりますが、企業の規模に見合った価格設定であるかを考える必要があります。たとえば、従業員数が少ない企業なら、年末調整だけスポット利用できる低コストのサービスが適しているでしょう。
一方で、従業員数が多い企業では、一括管理できるクラウド型サービスやアウトソーシングも視野に入れるべきです。コストを抑えることを優先しすぎて、結局運用が複雑になり、担当者の負担が増えてしまっては意味がありません。
使いやすさ(UI・社内のITリテラシーに適した設計)従業員がスムーズに入力できるかどうかも重要なポイントです。下記もチェックしましょう。
- 入力画面が直感的に操作できるか
- 社内のITリテラシーに合った複雑すぎない設計になっているか
- スマホやPCから簡単にアクセスできるか
使いやすいシステムを選ぶことで、入力ミスの削減や従業員の負担軽減につながります。
③ セキュリティと法令遵守を確保できるか
年末調整業務の電子化では、個人情報の適切な管理と法令遵守が不可欠です。従業員のマイナンバーや控除証明書などの情報を扱うため、セキュリティ対策と国の基準を満たす運用ができるかどうかを必ずチェックする必要があります。
法令への対応が万全か
年末調整の電子化には、国税庁が定める「電子帳簿保存法」や「e-Taxによる電子申請要件」に準拠した運用が求められます。たとえば、控除証明書の電子データの保存形式や提出方法に変更があった場合、その改正に迅速に対応できるシステムを選ぶことで法令違反のリスクを防ぐことができます。
セキュリティ対応(個人情報保護とアクセス管理)
システムを選ぶ際には、アクセス権限の設定や情報へのアクセス履歴の管理機能が備わっているか、確認しましょう。
- 従業員ごとに適切なアクセス権限を設定できるか
- マイナンバーの暗号化や厳重な管理が行われているか
- 情報漏えいを防ぐためのログ管理・監視機能があるか
年末調整の電子化を失敗させないためのチェックリスト

以下は、電子化導入時に確認すべきポイントをまとめたチェックリストです。導入前の段階で一つひとつ確認し、スムーズな導入を目指しましょう。
システム選定のチェックポイント
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□控除額の自動計算など、自社に必要なプロセスがデジタル化できるか
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□システムの操作性が高く、担当者・従業員が利用しやすい設計か
セキュリティと法令遵守の確認ポイント
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□個人情報の漏洩防止策(暗号化やアクセス制御)が実施されているか
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□最新の税制/法令改正に適応しているか
運用のスムーズさを確保するためのポイント
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□紙申告を希望する従業員への対応が用意されているか
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□社員への周知や教育プログラムが整っているか
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□トラブル発生時のサポート窓口が利用可能か
アウトソーシングでさらに業務の効率化を

ここまで、電子化を導入するメリットや手順を説明してきました。しかし、企業がいきなり年末調整を電子化するのは、システムの連携や社内の運用ルール策定など、ハードルが高い場合があります。
そこで、電子化では解決出来ない課題に対応するための手段として、アウトソーシングというサービスをご紹介します。年末調整の負担削減と電子化導入の課題を解決できるサービスですので、電子化の導入に不安がある方はぜひ参考にしてみてください。
電子化だけでは解決しきれない課題とは
年末調整の電子化は、業務効率化やペーパーレス化を促進する一方で、以下のような課題が発生するケースもあります。
① 運用管理や従業員対応の負担
年末調整を電子化する場合、システムの導入や運用管理が必要です。その結果、システムの使い方に関する問い合わせ対応やシステムトラブルへの対処など、人事労務担当者の負担が増加する事も考えられます。導入や運用に手間取ってしまい、結局業務の負担が変わらないようでは本末転倒です。
② 特殊な申告方法が必要なケースへの対応
たとえば「外国税額控除を受ける」「住宅ローン控除の初年度申請」「海外扶養や障がい者控除」等、特殊な申告方法や複雑な控除が必要な場合、電子システムが標準対応しきれないことがあります。このようなケースでは、手作業での対応が求められ、結果として業務効率化の効果が薄れる可能性があります。
アウトソーシングを活用するメリット
これらの課題を解決する手段として、年末調整業務のアウトソーシングが注目されています。アウトソーシングを活用することで、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。
① 専門家に任せる安心感
年末調整専門のアウトソーシング業者は、年末調整の全体像を熟知したプロフェッショナルです。専門家が対応することで、法令遵守や最新の税制改正への対応も確実に行われ、法律関連のリスクを軽減できます。また、従業員からの問い合わせ対応に対して専用のサポート窓口を設けることで、問い合わせへの対応にかかる時間を大幅に削減できるでしょう。その結果、社内の人事労務担当者はスムーズな業務運営が可能になります。
② イレギュラー対応やトラブル処理の迅速化
アウトソーシング業者は、年末調整業務のプロフェッショナルとして多様なケースに精通しており、イレギュラーな事象にも迅速かつ的確に対応できます。
たとえば、従業員の転職による源泉徴収票の未提出、海外勤務者の税額控除、税制改正による計算方法の変更など、企業ごとに異なる複雑なケースが発生します。こうした問題に直面した際、企業内の担当者だけでは調査や対応に時間がかかってしまうこともありますが、専門業者に依頼することで、適切な処理が迅速に行えます。
③ 自社リソースを戦略業務に集中
煩雑な年末調整業務を外部に委託することで、社内の人事労務担当者はコア業務や戦略的な人材育成、組織開発などにリソースを集中できます。その結果、企業全体の生産性向上や競争力強化につながるでしょう。
電子化×アウトソーシングで得られる具体的な効果
年末調整の電子化は、システム化かアウトソーシングかどちらかを必ず選択しなくてはいけないものではありません。一部は電子化、残りはアウトソーシングなど、2つの手段を業務によって使い分けることも可能です。それでは、2つの手段を使い分けた場合、どのような効果が得られるのでしょうか。
① 人的リソースの最適化
電子化・アウトソーシングを下記のように割りふることで社内の人的リソースを最適化できます。
電子化による対応が向いている業務
- 書類の回収や管理
- 控除額の自動計算
- 従業員の申請や修正対応
アウトソーシングによる対応が向いている業務
- イレギュラーケースへの対応
- 税制改正への正確かつ迅速な対応
- 問い合わせ対応やサポート業務
書類の回収やデータ入力、内容確認などの手作業が減り、本来注力すべき戦略業務やコア業務に社内のリソースを振り分けることが可能です。限られた人員の中で効率的に業務を進められるため、生産性の向上にもつながります。
② 業務精度と従業員満足度の向上
専門家による正確な業務の遂行により入力ミスや計算ミスを防ぎ、年末調整業務の精度が向上します。また、従業員もスマホやPCを使って簡単に申請できるため、紙の提出や手書きの負担がなくなり、手続きがスムーズに。従業員からの問い合わせ対応やサポートも充実し、従業員満足度の向上にも寄与するでしょう。
まとめ
年末調整を電子化すると、人事労務担当者・従業員双方の負担が減り、スムーズな年末調整が実現するという大きなメリットがあります。しかし、いざ導入しようとすると手間取ってしまったり、ツールの選定に迷ってしまったりすることもあるでしょう。その場合は、一度に全てを電子化するのではなく、アウトソーシングを利用しながら徐々に移行していくという手順がおすすめです。
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