このページの本文へ

健康経営とは?意味や取り組み方をわかりやすく解説!

  • 組織活性・人材育成

企業の生産性を上げる手段のひとつとして、近年「健康経営」が注目されています。健康経営とは、企業が従業員の健康増進に積極的に取り組むことで、働きやすい環境を整え、組織の活力を向上させる経営手法です。

今後日本では、少子高齢化や出生率低下により労働力人口が減少し、人材不足や採用競争の激化が大きな課題となる見通しです。そこで、少ない人数でも社内の生産性を上げる取り組みが求められています。

当コラムでは、健康経営の定義から、企業におけるメリットや具体的な取り組み方、導入事例までをわかりやすく解説します。

目次

健康経営とは?

まずは、健康経営の定義や、生産性向上の手段として注目されている背景について解説します。

健康経営の定義

健康経営とは、従業員の健康管理を経営の一環として戦略的に進めることで、従業員の活力向上や生産性の向上などをもたらし、結果的に業績向上や株価向上につなげる取り組みです。経済産業省が「国民の健康寿命の延伸」を目指す取り組みのひとつとして推進しています。

一般的には以下のように従業員が日常的に健康状態を確認・維持するための取り組みです。身体だけではなく精神的な負荷にも配慮し、適切なワークライフバランスを保てる取り組みが求められています。

  • 健康状態の確認と維持
  • 健康に関する支援制度
  • 社員の健康課題の把握
  • ワークライフバランスの促進

健康経営が注目されている背景

健康経営という概念を最初に発表したのは、アメリカの臨床心理学者ロバート・ローゼン博士です。1994年に出版された著書「ヘルシー・カンパニー:人的資源の活用とストレス管理」において、従業員の健康は企業の生産性・業績向上につながるという考え方を提唱しました。

この健康経営を経済産業省が推進するようになったのは、少子高齢化のさらなる深刻化と、それに伴う社会的・経済的な課題が関係しています。

  • 少子高齢化による労働力人口の減少

    日本の少子高齢化はますます深刻となり、労働力不足が進んでいます。将来的な労働力人口の減少は、日本経済に大きな影響を与えるため、各企業が早急に対応策を講じることが求められます。
    「日本の将来推計人口」によると、日本は65歳以上の人口がさらに増え続けると予測されています。65歳以上の人口の割合は2038年に約33.9%、つまり3人に一人が高齢者となる推計です。加えて日本は出生数も減少し続けており、2030年時点で約644万人もの労働力人材不足が生じると見込まれています。
    企業が健康経営に取り組み、働きやすい環境を提供することは、貴重な労働力を長期的に維持し、労働力の不足を補う戦略として期待されています。

  • 現役世代の長期雇用の必要性

    先述のように少子高齢化が進み、労働力不足が予測される状況では、定年延長や高齢者の再雇用を視野に入れた雇用戦略が重要になります。
    新規雇用獲得のための戦略はもちろん、既存の社員にいかに長く勤めてもらうかという観点で対策を立てることが必要です。そのため、病気やメンタル不調による離職を防ぐための積極的な対応が求められます。

  • 医療費・介護費の抑制

    高齢化による医療・介護費用の増大は、日本の社会保障制度に大きな負担をもたらしています。この影響は企業にも及び、社会保険料の負担増が課題となっています。社会保険料は企業と従業員で折半する仕組みのため、医療費の増加は企業のコスト負担増につながります。
    厚生労働省が公開した資料によると、社会保障給付金総額は2025年度に約140兆円、2040年度には約190兆円に達する見込みです。この増加は、高齢者人口の増加だけでなく、労働力人口の減少による財源確保の困難さも背景にあり、社会保障制度そのものの持続可能性が懸念されています。
    健康経営により従業員の健康を守り、医療・介護費を抑えることは、社会全体の財政負担の軽減につながります。

このように、健康経営は企業が単に従業員の健康をサポートするだけでなく、日本社会全体の課題解決にも貢献する取り組みとして注目されています。企業が従業員の健康維持・向上を支援することで、長期的な経済成長や社会の安定に寄与することが期待されています。

企業が健康経営に取り組むメリットとは?

実際に健康経営に取り組むと企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは5つのメリットを紹介します。

離職率の低下

従業員の健康管理やワークライフバランスを改善することで、従業員満足度が向上し、離職率が低下します。経済産業省の調査によれば、健康経営に積極的な企業は離職率が低いという結果が示されています。
従業員が仕事と生活のバランスを取りやすい環境があると、家族や自分自身の生活を大切にしながら仕事を続けられるため、長期的に勤務を続けたいと感じやすくなります。従業員が定着することで、企業は教育コストや新規採用コストを削減でき、経済的メリットを得られます。

企業イメージの向上

健康経営の優良法人に認定されると、企業イメージが向上し、社会的な評価も高まります。SDGsやCSR(企業の社会的責任)に取り組む取引先やビジネスパートナーからの信頼を得やすくなり、健全な企業イメージが強化されます。また、健康経営の表彰を受けることで、企業のブランド力や知名度の向上につながる可能性があります。

リスク回避と生産性の向上

従業員が健康を損ない離職や休職が発生すると、企業はその分の人員調整や体制変更を迫られます。既存社員の負担が増加すれば、さらなる離職を招くリスクもあります。健康経営により従業員の健康状態を保つことで、こうした負のスパイラルを防ぎ、安定した業務を遂行できます。
また、心身の健康が保たれることで、突然の欠勤や遅刻なども減少し業務が円滑に進みます。健康な従業員は集中力と業務のパフォーマンスが高いので、多くの従業員が健康であれば組織全体の生産性も向上します。

採用活動の競争力強化

近年、求職者は年収や仕事内容だけでなく、職場環境や働きやすさを重視するようになっています。特に、働き方やワークライフバランスを重視する若年層や、育児・介護と仕事を両立したいと考える求職者にとって、健康経営を実施している企業は安心して長く働ける職場として期待ができ、魅力的に映ります。
また、職場環境に満足した従業員がいることは、「リファラル(社員紹介)採用」や「口コミ採用」にも有利に働きます。現職の社員からの紹介で人材が集まりやすくなり、優秀な人材の獲得につながります。

コスト削減

従業員が健康で医療にかかることが減れば、社会保険料の負担も減少し、コスト削減につながります。この浮いたコストを新たな採用活動や従業員研修などに活用すれば企業のさらなる活性化につなげることができます。
また、病気やケガによる長期の休職や頻繁な欠勤が生じれば一時的な代替人材の確保や残業対応が必要となり、人件費がかさむこともあります。健康経営を実践することで、こうした間接的なコストも抑えられます。

健康経営の取り組み方

ここからは、実際に健康経営に取り組む際の手順や具体的な施策例について解説します。企業が従業員の健康を維持・促進するためには、継続的で一貫した取り組みが必要になります。

健康経営の実践手順

  • 社内の体制づくり

    健康経営は単なる注意喚起で終わらせるだけでは効果は見込めません。長期的な取り組みを視野に入れ、専任の部署や担当者を配置する必要があります。業務の一環として兼任するのではなく、専任のチームを設けることで、より効果的で本格的な実施が可能になります。

  • 健康課題の洗い出し

    次に、従業員の健康状態や職場環境における問題点を明確にしましょう。具体的には、健康診断の受診頻度や残業時間をデータ化し、ワークライフバランスが崩れている傾向はないかを探ります。また、普段の従業員の勤務状況にも気を配り、頻繁に勤怠の乱れが発生している部署・従業員がいないかを確認することも効果的です。

  • 実施計画の立案

    健康課題が明らかになったら、それを解決するための具体的な計画を立てます。他社の取り組みを参考にするだけでなく、自社の状況や課題に適した施策を計画することが最も重要です。計画の実施にあたっては、予算や期間が現実的かどうかも十分に考慮し、企業のリソースに合った内容であることを確認しましょう。

  • 計画の周知と実行

    計画が整ったら、その内容を従業員に周知し、実行に移します。重要なのは、健康経営の取り組みが企業全体の方針であることを明確にし、調査で明らかになった課題に対応するための具体的な施策を伝えることです。従業員に対して協力をお願いし、理解を得た上で健康経営の施策を実行に移すことで、より効果的な実施が可能になります。

健康経営の施策例

では、健康経営の具体的な施策例を「職場環境の整備」と「健康に対するアプローチ」の2つに分けて紹介します。

  • 職場環境の整備

    健康経営を推進するためには、従業員が快適に働ける職場環境の整備が重要です。例えば、オフィスのレイアウトを見直して作業効率を高めるとともに、心理的なストレスを軽減する空間づくりを行うことが効果的です。空調や照明の最適化、休憩スペースの充実も大切なポイントです。さらに、リモートワークやフレックスタイム制の導入など、柔軟な働き方をサポートする仕組みを整えることで、従業員のライフワークバランスを改善し、健康経営の基盤を築くことができます。

  • 健康に対するアプローチ

    従業員一人ひとりの健康維持と向上を目的とした施策も欠かせません。健康診断の実施やストレスチェックを積極的に取り入れるほか、栄養指導や運動プログラムを提供する企業も増えています。例えば、社内にフィットネス施設を設けたり、オンラインで参加できるヨガやエクササイズのクラスを開講したりすることで、従業員が無理なく健康維持に取り組める環境を作ることが可能です。さらに、産業保健スタッフやメンタルヘルスケアの専門家によるカウンセリングを導入することで、心身の健康を総合的にサポートすることができます。

効果測定と改善策

健康経営の施策がどのくらい成果を上げているかを確認するためには、定期的な効果測定が欠かせません。具体的には、以下のような方法でデータを収集・分析することが効果的です。

  • 健康指標のモニタリング

    従業員の健康診断データやストレスチェックの結果を活用し、体調の変化やメンタルヘルスの改善状況を把握します。特定の健康課題が改善されている場合、それに関連した施策が有効だったと評価できます。

  • 業務生産性の分析

    欠勤日数の減少や業務効率の向上といった指標を観察し、健康経営施策が生産性に与える影響を測定します。これには、部署ごとや全社的なパフォーマンスデータを比較する方法が有効です。

  • 従業員の声を反映

    定期的にアンケートを実施し、従業員が施策についてどう感じているか、またどのような改善を望んでいるかを把握します。従業員の声は、施策の効果を定性的に評価する貴重なデータ源です。

  • 改善策の実施

    測定結果をもとに、効果が見られない施策については原因を特定し、適切な改善を行います。例えば、参加率が低い健康プログラムがある場合、スケジュールや内容の見直しを行うことで、従業員の関心を引きやすくなります。また、新しい健康課題が浮上した場合には、それに対応した施策を追加する柔軟性も必要です。

このように、継続的なPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回すことで、健康経営はさらに効果を発揮し、企業全体の成長に寄与します。

健康経営を推進する際のポイント・注意点

健康経営を成功させるには、組織一丸となって推進する姿勢が大切です。ここでは健康経営を推進する際のポイントや注意点を解説します。

経営陣の積極的な推進姿勢

健康経営を持続的に実施するためには、経営陣が「健康宣言」を行い、組織全体にその方針を共有することが大切です。経営層が健康経営を重要視し、従業員が健康を意識する文化を根付かせることが第一歩です。健康経営は一部のメンバーの努力だけでは成し遂げられないため、経営陣との意思統一体制を確立することが重要です。

自社の実情に最適な施策を実施する

健康経営を推進する際には、自社の実情に合った施策を常に見直し、適切に実施することが鍵となります。例えば、従業員が健康維持に関心を持っていない場合、急に健康関連のコミュニティを作っても参加者が少ない可能性があります。
まずは、従業員の健康意識を確認し、その状態に合わせた施策を導入します。健康維持の意識を高める必要があるのか、または具体的な行動に移すサポートが必要なのかを明確にし、必要な施策に焦点を当てることが重要です。

継続可能な施策を検討する

健康経営は一時的なものではなく、中長期的に継続して取り組むことが大切です。そのため、従業員が無理なく継続できる仕組みを作ることが重要です。具体的には、従業員が意識せずとも習慣化できる内容や、施策によって得られるメリットが明確なものが効果的です。
例えば、通勤中に実践できるウォーキングルートの提案や、昼休みに簡単なストレッチを推奨する取り組み、社員食堂で健康的なメニューを割引価格で提供することなど、日常生活に溶け込んだ施策を実施することで、継続率を高められます。また、従業員が施策による経済的・時間的なメリットを実感できるような工夫も重要です。

健康経営の認定制度

健康経営には認定制度が存在します。健康経営の優良法人として表彰されることで、取引先への信用につながったり、採用活動における自社のアピールポイントになったりと企業において大きなメリットがあります。

健康経営銘柄
健康経営銘柄は、東京証券取引所に上場している企業の中で、特に健康経営に優れた企業を選定し、その情報を投資家や消費者に提供する制度です。この制度は、企業が従業員の健康管理を積極的に推進することを奨励し、その取り組みを広く周知させることを目的としています。選定される企業は、健康経営に関する施策や取り組みが高く評価され、投資家や消費者から信頼を得ることができます。
健康経営優良法人

健康経営優良法人制度は、特に優れた健康経営を実施している企業を見える化し、その取り組みを広く認知させることを目的とした制度です。この制度によって、従業員、求職者、取引先、金融機関などからの社会的評価を得ることができ、企業のブランド力や信頼性が向上します。

健康経営優良法人は、東京証券取引所の上場企業に限定された「健康経営銘柄」とは異なり、企業の規模に関係なく申請が可能です。このため、大企業から中小企業まで幅広い企業が健康経営に取り組み、その成果を認められる機会が提供されます。

この制度は、大規模法人部門と中小規模法人部門の2つのカテゴリーに分かれており、東京証券取引所に上場している企業は大規模法人部門に含まれます。さらに、大規模法人部門で認定された上位500社には「ホワイト500」という称号が与えられ、中小規模法人部門では上位500社に「ブライト500」という称号が授与されます。

健康経営優良企業の取り組み事例

最後に、健康経営優良企業として認定された上位企業が、実際に取り組んでいる施策をご紹介します。

TOTOグループ

TOTOグループは「一人ひとりの個性を尊重し、いきいきとした職場の実現」を企業理念のひとつとして掲げ、以下の4つを重点的な取り組み項目としています。

  • 健康管理

    従業員がどのような環境下でも自らの健康を管理できるよう、健康リテラシーの向上に重点を置いています。その一環として、健康ポータルサイトを導入しています。このサイトでは、従業員が自分の健康診断結果を確認できるほか、個別の健康状態に応じた記事や重症化予防通知を受け取ることができる仕組みが整備されています。

  • メンタルヘルス対策

    心の健康づくりのため、セルフケア、上司によるケア、産業保健スタッフによるケア、そして事業場外のリソースを活用したケアの4つの方法を実施しています。また、社員に相談窓口カードを配布し、相談先を明示することで、メンタルヘルスに対する意識を高めています。

  • 感染症対策

    新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症から従業員を守るため、情報発信を行い、海外渡航者に予防接種を推奨しています。また、海外出向者には産業医による出向前研修を実施し、感染予防に努めています。

  • 健康増進

    ウォーキングイベントを開催し、従業員の健康維持をサポートしています。また、ベジチェックを通じて野菜摂取量の把握と、健康的な摂取方法を学ぶことで、生活習慣病やがん予防に取り組んでいます。さらに、卒煙サポート施策や喫煙所の屋外化を推進し、喫煙改善にも力を入れています。

花王グループ

花王グループは2008年に「花王グループ健康宣言」を発表し、それ以降、従業員とその家族の健康づくりに力を入れています。
ヘルスケア事業と連携し、長年にわたり「内臓脂肪と“くらし”に関する研究」や「歩行と健康に関する研究」を行ってきました。これらの研究を通じて得られた知見をもとに、健康増進プログラムを作成し、実際の取り組みに活かしています。

花王グループではこの独自の取り組みを「kao GENKI ACTION」と呼び、以下のような具体的な活動を実施しています。

  • 健康状態の見える化

    生活習慣測定会を実施し、従業員の健康状態を見える化する取り組みを行っています。この活動を通じて、従業員は自分の健康状態を正確に把握し、改善に向けた意識を高めています。

  • 健康改善プログラム

    健康改善策として、社員食堂で「スマート和食」の提供を行い、従業員の食習慣の改善をサポートしています。また、独自の活動量計「ホコタッチ」を配布し、歩行生活年齢を表示することで、歩行の活性化を促進しています。

大和証券グループ

大和証券グループでは、グループ全役職員の健康状態を分析した「健康白書」を作成し、定期的にCHO(Chief Health Officer)が主催する「健康経営推進会議」を開催しています。この会議では、従業員の健康状態に関する課題認識や取り組みの評価・改善を行い、健康経営のPDCAサイクルを回しています。このプロセスを通じて、健康経営の改善を継続的に推進しています。具体的な取り組み内容の一例として以下のようなものがあります。

  • オンライン診療の提供

    大和証券グループは、全国各地から受診可能なオンライン診療「ダイワオンラインケア」を提供しています。この取り組みは、従業員が地域に関わらず手軽に健康相談を受けることができ、健康維持や病気予防に役立っています。

  • 男女の性差に応じた健康支援

    性差に応じた健康支援強化の一環としてDaiwa ELLE Plan+(ダイワエルプランプラス)を実施しており、女性従業員の健康支援に力を入れています。特に、月経・更年期の体調不良や不妊治療に対応するために「エル休暇」を新設し、健康リテラシーの向上、仕事と不妊治療の両立支援を拡充しています。これにより、従業員が仕事と個々のライフイベントを両立しやすい環境を整えています。

まとめ

健康経営はこれからの日本社会に必要不可欠な取り組みであり、企業にとっても生産性の向上や社員の定着・採用率の向上、コスト削減などさまざまなメリットにつながります。

しかし、いざ健康経営に取り組んでみたいと考えても、専門のチームを作るなど本格的な体制づくりをする人材・時間の確保ができない、とお悩みの方もいらっしゃるかと思います。そんな時は業務の一部を外部に委託できるBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用を検討するのもひとつの有効な選択肢です。BPOを活用することで、社内のリソースを健康経営推進などのコア業務に集中させることが可能になります。

私たちキヤノンマーケティングジャパングループは、お客さまのビジネス変革を、ITとBPOでご支援しています。BPOの活用方法や事例、効果などについて知りたいときは、お気軽にご相談、お問い合わせください。

こちらの記事もおすすめです

「BPOソリューション」についてのご相談・お問い合わせ

キヤノンマーケティングジャパン株式会社 BPO企画部