国土交通省が進める遠隔臨場とは? 概要やメリット、課題、事例まで徹底解説
2020年度から建設現場の「遠隔臨場」の試行が始まりました。コロナ禍ですっかり普及したリモートワークの建設現場版ともいえるシステムです。国土交通省や厚生労働省など政府が立ち上げに力を入れ、建設業界やIT業界でも関心が高まっています。
そこでこの記事では、遠隔臨場とはどのようなものか、推奨される背景や課題、メリットについて詳しく解説します。また、遠隔臨場するための具体的な機器についてもご紹介します。
遠隔臨場とは
遠隔臨場(えんかくりんじょう)とはウェアラブルカメラやネットワークカメラを活用し、現場に行かずとも離れた場所から臨場を行うことです。国土交通省の定義によると「材料確認」「段階確認」「立会」を遠隔で行うこととされています。
ウェアラブルカメラとはヘルメットや頭部・身体などに装着して使用する小型カメラのことです。ハンズフリーで撮影することを前提に設計されているため、両手が使え安全に現場での作業を進められます。
ネットワークカメラとは、インターネットに接続できるカメラのことです。LANケーブルでネットワーク機器に直接接続して使用します。
遠隔臨場の仕組み
遠隔臨場では作業員がウェアラブルカメラを装着したり、ネットワークカメラを設置したりすることで、リアルタイムに現場の状況を確認することができます。
材料確認を例にとると、通常は発注者が建設現場に出向き、仕様通りの材料を使っているかを検査します。一方遠隔臨場の場合、発注者は現場に出向かず、受注者が装着したウェアラブルカメラで撮影した現場の映像を見て、仕様通りの材料がそろっているか確認します。確認作業の映像を録画する場合もあります。
仕様書では材料の型番やサイズなどが詳細に定められているので、小さな文字で表記されている型番などは、その部分をクローズアップして発注者が確認できるようにします。
遠隔臨場を導入することで移動のコストと時間の削減が可能で、建設現場の生産性向上につなげられます。
国土交通省の試行要領
国土交通省では以前から、公共工事への遠隔臨場の導入をめざして来ました。2020年5月には令和2年度における遠隔臨場の試行方針を発表しています。2020年3月発表時よりも機器に求められる仕様が軽減されており、導入がしやすくなりました。
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参考:令和2年度における遠隔臨場の試行について|国土交通省
(1)対象工事
対象となる工事は、各地方整備局で発注する工事のうち「段階確認・材料確認又は立会を、映像確認できる工種」及び「本試行を実施可能な通信環境を確保できる現場」です。とくに施工現場が遠隔地で、立会等を実施するにあたり発注者が施工現場との往復に多くの時間を要する工事や、構造物等の立会頻度の多い工事が対象として想定されています。
(2)撮影に関する仕様
撮影に関する仕様は下の表の通り、国土交通省が発表している試行要領案で映像と音声の許容数値が提示されています。通信環境や映像による目的物の判別が可能であることを条件に、受発注者の協議によりカメラの画素数は640×480 、フレームレートは 15fps まで落とせます。
項目 | 仕様 | 備考 |
---|---|---|
映像 | 画素数:1920×1080 以上 | カラー |
フレームレート:30fps 以上 | ||
音声 | マイク:モノラル(1 チャンネル)以上 | |
スピーカ:モノラル(1 チャンネル)以上 |
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出典:建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)|国土交通省
(3)配信に関する仕様
配信に関する仕様についても下の表の通り、国土交通省の試行要領案で定められています。ただ、受発注社の協議で仕様を落として撮影した場合は、平均1Mbps 以上の転送レートを選択できるとしています。
項目 | 仕様 | 備考 |
---|---|---|
映像・音声 | 転送レート(VBR):平均 9 Mbps 以上 |
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出典:建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)|国土交通省
(4)費用負担
費用の負担については2つの方法が示されています。
- 発注者指定型:試行にかかる費用の全額を技術管理費に積上げ計上する
- 受注者希望型:試行にかかる費用の全額を受注者の負担とする
詳しくは国土交通省の発表資料をご参照ください。
国土交通省の試行要領をもとに遠隔臨場を試行する動きも進んでいて、なかには試行要領より一歩踏み込んだ対応をしている都道府県もあります。
たとえば福岡県では遠隔臨場の施行範囲を拡大すると発表しており、同県の「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」ではその範囲について下記のように記載されています。
建設現場の遠隔臨場に関する試行要領 別紙|福岡県県土整備部
ウェアラブルカメラ等の使用は、「段階確認」、「材料確認」と「立会」だけではなく、現場不一致、事故などの報告時等でも活用効果が期待されることから、受注者の創意工夫等、自発的に実施する行為も遠隔臨場の適用とする。
種別 | 細別 | 確認時期 | 確認項目 | 区分 | 確認の程度 |
---|---|---|---|---|---|
指定仮設工 | 施工時 | 使用材料、幅、長さ、高さ、深さ等 | 中間 | 1 回 / 1 工事 | |
河川・海岸・砂防土工(掘削工)・道路土工(掘削工) | 土(岩)質の変化した時 | 土(岩)質、変化位置 | 1 回 / 土(岩)質の変化毎 | ||
法面工施工前 | 出来形 | ||||
道路土工・(路床盛土工)・舗装工(下層路盤) | プルーフローリング実施時 | プルーフローリング実施状況 (締固め不良箇所の有無) |
1 回 / 1 工事 | ||
軽量盛土工 | 施工時 | 基準高、設置基面状況、 設計図書との対比、使用材料 |
1 回 / 1 工事 | ||
補強土壁工 | (補強土(テールアルメ)壁工法)(多数アンカー式補強土工法)(ジオテキスタイルを用いた補強土工法) | 施工時 | 使用材料、幅、延長、間隔、接合状況 | 1 回 / 1 工事 | |
大規模埋立工(港湾等) | 盛土工、埋立工 | 施工時(中間層) | 使用材料、基準高 | 1 回 / 1 工事 | |
鉄筋圧接工 | 施工前試験 施工完了後 |
溶接部の適否 | 1 回 / 1 工事 |
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出典:建設現場の遠隔臨場に関する試行要領 別紙|福岡県県土整備部
また上記のように朱書きで遠隔臨場の対象項目を定めていますが、それ以外の箇所も十分な確認ができると判断した場合には、対象にできるとしています。
遠隔臨場に注目が集まる理由
建設業界各社が続々と導入を進める建設現場の遠隔臨場。なぜ、遠隔臨場に注目が集まっているのでしょうか。その理由を探ってみましょう。
(1)建設現場における課題
建設現場の工程において段階確認をはじめとした現場への臨場は不可欠です。しかし小規模事業所などは人員も限られるため、臨場にかける時間が負担となっています。また現場におけるICT活用においても、十分進んでいるとはいいがたい状況です。遠隔臨場はその課題を解決する有力なソリューションといえます。
(2)建設現場におけるICT/IoT活用プロジェクト
こうした背景を受けて、国内ではさまざまな取り組みが行われています。
国土交通省が推進する「i-Construction」
「i-Construction(アイ・コンストラクション)」とは国土交通省が推進するプロジェクトで、ICTの活用によって建設現場の生産性を2025年までに2割向上させることを目的としています。
その一つ、「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」において、公共土木工事におけるICT/IoT活用の試行による研究開発の推進が行われています。
たとえばリアルタイムに更新される3次元設計データをもとに遠隔臨場をする、といったプロジェクトなどです。
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参考:建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト|国土交通省
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参考:i-Construction|国土交通省
内閣府が推進する「PRISM」
内閣府による官民研究開発投資拡大プログラム、通称「PRISM(プリズム)」は政府が推進する600兆円経済実現に向けた、戦略的研究開発の柱のうちのひとつです。イノベーション創出につながる官民研究開発投資の拡大をめざしています。PRISMによって後述する「北海道開発局」や「滝室坂トンネル」などの現場で先進的な取り組みが実施されています。
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参考:官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM:プリズム)|内閣府
(3)新型コロナウイルス感染症拡大
遠隔臨場への関心が高まる要因のひとつに新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあります。遠隔臨場を導入することで、現場へ足を運ぶ必要がなくなり、感染リスクが抑制できるためです。
厚生労働省が定める新型コロナウイルス感染予防対策ガイドラインにおいても遠隔臨場が推奨されています。公共工事は安定した社会を維持する観点から、緊急事態措置の期間中であっても継続を求められるためです。
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参考:建設業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン|厚生労働省
遠隔臨場のメリット
官公庁から民間まで、注目が集まる遠隔臨場には、さまざまなメリットがあります。代表的な4つのメリットをご紹介します。
(1)移動時間の削減
遠隔臨場のメリットは臨場にかかる移動時間の削減です。現場の臨場においては往復の移動時間がかかりますし、また複数現場を巡回することも少なくありません。遠隔臨場を行うことで、移動時間を減らし、他の業務などに時間を割けます。遠隔臨場の場合は、現場で不特定多数の人と接触しないため、新型コロナウイルス感染予防にもなります。
(2)人材の育成
遠隔臨場によって、若手人材の育成につながるケースもあるようです。ウェアラブルカメラなどを通して、本社と現場とのコミュニケーション頻度が高められるため、本社の熟練技術者の指導などを受けやすい環境がつくられます。若手では判断できない事項を熟練の技術者がどう捉えるのかを実際に学べ、技術者教育の機会として有効です。
また、臨場映像を録画しておけば、研修等の教材としても役立ちます。特殊な現場では、その場で特有の検討事項が発生する場合があり、研修で利活用することで、全社的な技術力の底上げを図れます。
(3)安全性の向上
遠隔臨場は現場の安全性向上にも寄与します。移動時間がなくなることで、臨場の機会を増やせるため、異常やトラブルを早い段階で検知し、適切な対応を取れるようになります。
また土木の現場では天候等によって状況が常に変化します。大きな事故になる可能性もゼロではありません。ウェアラブルカメラだけでなく、ネットワークカメラを設置することでリアルタイムに現場の状況を確認でき、災害防止にも役立つでしょう。
万が一、自然災害等が発生した場合も、ネットワークカメラを設置していれば、災害状況をリアルタイムに確認できます。
(4)人手不足の解消
建設業においては、コロナ禍で短期的な人材の需給バランスが変わりました。以前は人手不足でしたが、延期や中止になった現場も多く待機状態の労働者もいます。
しかし、中長期的には建設業も人手不足が見込まれます。遠隔臨場等の取り組みにより現場の業務効率があがることで、人材不足の解消にもつながるでしょう。さらに働き方改革が推進され、職場の魅力が上がれば、新たな人材の獲得機会につなげられます。
遠隔臨場の課題
プラス面がクローズアップされている遠隔臨場、もちろん課題もあります。実際に導入した場合の課題について詳しく考えてみましょう。
機器の導入コスト
遠隔臨場を実施するには、ウェアラブルカメラなどのカメラ機器や録画機器が必要となります。ウェアラブルカメラは一般的にリースやレンタルですが、台数が増えれば当然ながらコストが増加するでしょう。
発注者が費用の全額を技術管理費として負担する発注者指定型なら比較的影響は少ないですが、受注者が費用負担する受注者希望型の案件では、導入に必要なコストと効果とを見比べて検討する必要があります。
建設現場の遠隔臨場に特化した建設システムもあり、なかにはIT導入補助金の対象となるものもあります。臨場の撮影画像の管理や助成金なども考慮するとよいでしょう。
IT機器に不慣れな技術者への対応
遠隔臨場に必要な機器は比較的簡単に使える機器が大半です。しかしIT機器に不慣れな作業員が負担に感じることも考えられます。マニュアルやサポートなどのサービスを充実させたり、必要にあわせて自社で研修などを実施する必要があるでしょう。別途マニュアルを作成する場合には、その分の作業が負担となることもあります。
通信環境の確保
遠隔臨場はインターネットなどで映像をやり取りするため、通信環境の影響を受けます。トンネルなど電波が届きにくいエリアではスムーズに映像が視聴できない可能性もあります。また現在の通信規格は4Gが主流のため、映像品質や通信環境によっては映像や音声が一瞬途切れる瞬断などが生じることもあり、注意が必要です。
材料の確認や段階確認は少々の瞬断で大きな問題になることは少ないのですが、重要工程の立合の場合は事前に通信環境を確認し、若手が作業する場合に熟練技術者がカメラを通してサポートできる体制を整えて進めるとよいでしょう。
撮影時のプライバシーへの配慮と理解
ウェアラブルカメラやネットワークカメラで現場を撮影する際に、作業員のプライバシーに配慮する必要があります。現場での撮影時に作業員が映り込んでしまうことは避けられないことですが、カメラを導入し撮影することについて、現場の理解を十分に得る必要があります。とくに撮影画像を社内研修などで継続的に使用する予定の場合は、撮影後に不特定多数が視聴する可能性もあることを必ず伝えましょう。
遠隔臨場の取り組み事例
建設工事で試行が実施されている遠隔臨場、実際にどのような取り組みがされているのでしょうか。事例を見てみましょう。
映像臨場を活用した現場確認の効率化
2019年、北海道増毛郡増毛町の老朽化したトンネルと覆道の補修工事において遠隔臨場の試行が実施されました。
現場は本社から約61km、事務所からも約57km離れた遠隔地でした。また本社と事務所も約51kmの距離にあったため、ネットワークカメラを活用した遠隔臨場によって、移動にかかる往復約70分を省力化することに成功しています。
固定したネットワークカメラによるリアルタイムな現場全景の臨場確認、モバイルカメラによるリアルタイムな詳細臨場確認、などによって、移動時間をなくすだけでなく受発注者間のコミュニケーションがスムーズになり、迅速な合意形成にもつながったと報告されています。
山岳トンネル工事におけるICT施行管理
熊本県阿蘇市を横断する国道57号のトンネル工事で、ICT活用として遠隔臨場の取り組みが実施されています。
タブレットを使った遠隔立会検査システムを活用することで、掘削現場の出来形を事務所でリアルタイムに確認できるようになりました。
地区の特性上、突発湧水などが生じやすい掘削現場においては、これまでは都度現場担当が状況を確認し報告していましたが、遠隔立会によってリアルタイムで掘削面の状況を確認でき、現場の安全性を高められています。
リアルタイムに事務所で状況を確認できることから、作業の中断時間が減少し、安全への対応がスムーズになったのです。
遠隔臨場に役立つツールやサービス
遠隔臨場の事例をご紹介しましたが、実際にどのようなツールを使って遠隔臨場をおこなうのでしょうか。遠隔臨場する際に重要なカメラにスポットをあててご紹介します。
(1)ウェアラブルカメラ「Safie Pocket2」
Safie Pocket2はバッテリーで駆動する小型のウェアラブルカメラです。ヘッドセットを使えば、映像だけでなく音声で遠隔地との通話が可能。IP67という高い防水・防塵性能を実現しているので建設現場にも最適といえます。
専用のクリップを使って作業着のポケットなどに装着すると、建物の内部などをハンズフリーで移動しながら映せ、ヘッドセットと合わせて使えば、通信相手と会話しながらの遠隔臨場が可能です。幅広いアタッチメントで、三脚や足場のパイプなどさまざまな場所に固定することもできます。
LEDライト搭載で、暗所や暗い時間帯でも撮影が可能なため、トンネル工事や掘削工事にも重宝します。
(2)LTE搭載型クラウド録画サービス「VisualStage GO」
キヤノンのVisualStage Goはネットワークなどの配線工事が不要な、カメラとクラウド録画サービスがセットになった「オールインワン」のネットワークカメラ。LTE通信が備わっており、電源を入れるだけですぐに防犯カメラとして活用できます。
また、YouTubeへのライブ配信が可能で、建設・工事現場の遠隔臨場や、氾濫が起きやすい河川等のインフラ監視にも最適です。また、赤外線投射機能も搭載しているため、夜間など光量が少ない条件下での監視にも対応しています。PTZ機能を使えば、外出先などからカメラの画角変更やズームアップなども可能です。光学ズームなので、画像も粗くなりません。
まとめ
遠隔臨場は本格的に試行がはじまっています。建設現場での感染対策や人材不足、働き方改革の推進などに対する、解決策としてその技術には熱い視線が注がれています。
キヤノンマーケティングジャパンでは、長年培った技術や実績をもとに、建設現場で働く皆さまに最適なソリューションを提供しています。遠隔臨場の取り組みをご検討の際には、お気軽にご相談ください。
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