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「KPIマネジメント」を活用して、自律自転する組織を作る

  • 会社の処方箋
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2024年4月4日

「KPIマネジメント」を活用して、自律自転する組織を作る

「KPI」という言葉を耳にする機会が、ここ数年で急激に増えました。
KPIがこれほど市民権を得るようになった要因としては、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展に伴い、ウェブでビジネスをするサービスが増えてきたという背景があります。結果、さまざまなデータが比較的容易に把握できるようになり数値管理がしやすくなったことで、KPIを活用する会社が増えてきたというわけです。

KPI:Key Performance Indicator、「事業成功の鍵」を「数値目標」で表したもの。KGI:Key Goal Indicatorを達成するための最重要プロセス(これが事業成功の鍵)指標です。

「KPI」は誤解だらけ

ただ、これほど広く使われるようになると、KPIについて間違った解釈をしている会社もかなり散見されます。例えばあるシンクタンクのホームページには、KPIの説明としてこんな記載があります。

「通常、KPIというと、EVAや営業利益率といった会社全体での財務指標がまずイメージされますが、それだけではありません」

この記載のどこが問題なのか、みなさんは分かりますか?
この他にも、ちまたでよく見かける誤った記述のうち典型的なものを挙げてみると——

  • 「多数の数値」を管理することをKPIマネジメントだと考えている
  • 売り上げや利益、あるいはそれらの率といった「結果指標」をKPIだと考えている
  • 自分たちで「コントロールできない」、例えば経済指標をKPIだと考えている

1はKPIマネジメントではなく、数値管理ですね。

2の売り上げや利益はもちろん重要な指標ではありますが、これらはプロセス指標ではなく結果指標です。このような結果指標は「KGI(Key Goal Indicator)」にはなりえても、KPIにはなりません。先ほどのシンクタンクの例も、「財務指標」という結果指標をKPIと言っている時点で疑問符が付くわけです。

3については、例えば国内総生産(GDP)をKPIにしているようなケースです。こうした経済指標は、売上予測などに活用できるという意味では重要ですが、一企業がコントロールできるものではないのでKPIにはなりません。

こんな間違ったKPIもどき(KPIではない)を使っている人が「KPIは使えない」と言っているのを耳にすることも少なくありません。KPIを正しく理解し、活用しているのに使えないというのであれば仕方ありませんが、そもそもの定義が間違っているのに「使えない」と言われたのでは、KPIがかわいそうすぎます笑。

KPIを正しく使えば「自律自転する組織」に

なぜ私がこんなにKPIの肩を持つのかというと、私はリクルート在職時にKPIマネジメントを実践して既存事業を成長させ、新規事業を立ち上げ、全社のIT化を進めるなどしてきたからです。
その経験が元になって、リクルートでは11年間にわたってKPIマネジメントの社内講師を務め、1100人に正しいKPIマネジメントを教えた経験があります。
加えて独立後は、上場企業から中小企業、病院、市役所、政府外郭団体など、さまざまな組織に対してKPIマネジメントの導入支援をしています。これらの経験を踏まえて、KPIマネジメントに関する書籍も3冊出版しました。

こうした経験から実感を持って言えるのは、KPIマネジメントを導入すると、事業にとって今一番強化しなければならないことが明確になるということ。ひいては、現場のメンバーがやるべきことも明確になる、ということです。
この「一番強化しなければいけないこと」を制約条件と言います。別名はボトルネック。水を流すホースをイメージしてみてください。何か所かホースがへこんでいて、水の流れが悪くなっています。どうすれば良いでしょう。

最もへこんでいる箇所(制約条件)を広げれば良いのです。そこを広げた後は、その箇所の水の流れは良くなります。次に一番へこんでいる箇所を広げれば良いのです。へこんでいる箇所を順々に広げれば水の流れはよくなります。
「やることが明確」になると、現場のメンバー1人ひとりが能動的に動きやすくなるのが分かると思います。つまり、何をすれば良いか、自分で考え、自分で行動し、振り返るようになるのです。まさに「自律自転」している状態です。
このように、KPIマネジメントを正しく導入すると、結果的に「自律自転する組織」になるのです。

KPIマネジメントの4兄弟

KPIマネジメントで最もよく知られた“登場人物”はKPIです。ところが、実はKPIは4兄弟の4男なのです。つまり兄が3人いるのです。

長男:Goal:最終的に到達したいゴール。利益、売り上げ、ユーザー数など。

次男:KGI(Key Goal Indicator):Goalを数値目標で表したもの。

三男:CSF(Critical Success Factor):ゴール到達のために最も重要となるプロセス。制約条件(ボトルネック)。KFS(Key Factor for Success)やKSF(Key Success Factor)とも呼ばれる。

四男:KPI(Key Performance Indicator):事業成功の鍵(=CSF)を数値目標で表したもの。

これら4兄弟がそろってKPIマネジメントなのです。しかし、世の中では四男のKPIだけ議論している組織も少なくありません。

「正しいKPIマネジメント」はこの手順

では、どうやって4兄弟を確定していくと良いのでしょうか。正しいKPIマネジメントのステップは10あります。これはプロジェクトを進める際の標準的な手順(PIMBOK:Project Management Body Of Knowledge)に準拠しています。

STEP1:KGIの確認 利益〇〇億円など STEP2:ギャップの確認 「現在」と「KGI」のギャップは〇〇 STEP3:プロセスの確認 モデル化 STEP4:絞り込み CSF(最重要プロセス)の設定 STEP5:目標設定 KPIの目標設定は〇〇 STEP6:運用性の確認 整合性・安定性・単純性があるかどうか STEP7:対策の事前検討 KPI悪化時の対策と有効性の事前検討 STEP8:コンセンサス 関係者との合意 STEP9:運用 STEP10:継続的に改善

1~3で、長男Goalと次男KGIを確認します。次に、このままだとどれくらいGAPがあるのかを把握し、ビジネスモデル(業務プロセス)を確認します。

そして、4・5でKPIを設定するのですが、特に重要なのが4のCSF候補の「絞り込み」です。3で確認したプロセスの中で、どこを強化すれば効率的にKGIを達成できるのかを特定します。CSF候補はたくさんありますが、「最も」大事なのは1カ所のみ。その1つに絞り込むのKPIマネジメントの勘所です。ホースの一番へこんでいるところを見つけるという事です。

その後、6で運用性を確認し、7で事前にKPIが達成できない時にはどうするのかを考えます。達成できない時には、経営資源(人やモノやカネ)の投入が必要です。これを事前に決めておくわけです。その後、関係者でコンセンサスを得て、運用を始めます。

つまりKPIマネジメントの運用を始めるまでの準備が8ステップもあるのです。そして運用し始めた後も、常に「最も」大事なCSFに着目し続けて、10のステップで改善をし続けるわけです。これは前述のホースのへこんだ箇所を順々に広げていくイメージです。

これらのプロセスをしっかり押さえておくことで、正しいKPIマネジメントを実践することができます。

そもそも、4兄弟をどう把握すればいいの?

私がお勧めするのは、4兄弟確認のためのワークショップを実施する事です。

ステップは

  • 個人それぞれが4兄弟を考えます
  • 次に同じ組織の4人程度のグループで意見交換し、グループ内での4兄弟を確定します
  • 組織を超えて、4人程度で意見交換し4兄弟を最終確定していきます

この2・3の対話に価値があります。特に3の、組織を超えた対話が極めて重要です。極論すると、KPIマネジメントの最重要ポイントは、組織を超えた対話にあると言っても過言ではありません。

この対話を通じて、組織を超えてそれぞれの組織の状況理解が進むのです。
KPIマネジメントは、部分最適(サイロ化、あるいはたこつぼ化)になりがちな組織に、全体最適の考え型を導入できる方法でもあるのです。

ぜひ、この記事を読んだ、皆さんの組織でも正しいKPIマネジメントを導入して、自律自転する組織を作ってみてはいかがでしょうか?

プロフィール

株式会社中尾マネジメント研究所
代表取締役社長 中尾 隆一郎 氏

現在日本で最も売れているKPIマネジメントの著者。29年間勤務したリクルートでは、リクルートグループのITカンパニー化、既存事業成長、新規事業立上げなどをKPIマネジメントで実現。事業責任者をしながらKPIマネジメントの社内講師を11年担当1100名が受講。2019年起業後、上場企業からスタートアップ、中小企業、官公庁などでKPIマネジメント導入を支援。
詳しくは運営ホームページcustomer‘s voiceを参照ください。

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