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2024年物流業界に迫る問題とは?

  • 会社の処方箋
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2024年2月22日

働き方改革関連法により「時間外労働の上限規制」が設定されることで、建設/物流/医療業界において「2024年問題」が話題となっています。法令順守と業務効率向上のためには、どのような視点でこの問題を捉えていくべきでしょうか?
経済・社会の発展を支える主要要素の一つである「物流」に着目し、解説していきます。

2024年物流問題とは?

2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に上限が課せられることと改正改善基準告示の適用によって発生する問題の総称のことです。人手不足が慢性化している物流関係企業では十分なドライバーを確保できず、安定的な長距離輸送能力が不足しており、「モノが運べなくなる」可能性が懸念されています。
物流は私たちの生活に密接に関わっているだけでなく、経済・社会の発展を支える主要要素の一つです。日常生活でみても、物流の重要性は言をまちません。

問題となっている時間外労働の上限の規制は業界ごとに異なり、既に大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月からスタートしています。しかしながら、物流業界については、業務の特殊性や取引慣行の課題が考慮され、上限の適用が5年間延期されていました。2024年4月が迫っている今、対応に備えた準備が進行中であり、対処するためにはより一層のトラック事業者・荷主企業・一般消費者の協力が必要なのです。

物流業界とトラックドライバーの現状

物流業界の現状

国土交通省のデータによると、令和4年度の宅配便取扱個数は、50億588万個(うちトラック運送は、49億2508万個、航空等利用運送は8080 万個)でした。これを前年度と単純比較すると、5265万個・対前年度比1.1%の増加となります。スマートフォンの普及によりネットショッピングを利用する人が増加、継続する巣ごもり需要により増加傾向が見られると考えます。

また、実際に宅配便等を運ぶ手段ごとの国内貨物輸送量の推移では、国内貨物のモード別輸送量はトンベースで自動車が9割超、トンキロベースでは自動車が約5割と自動車(トラック)での輸送が大半を占め、トラックドライバーの必要性が明確に伝わってきます。しかしながら、トラックドライバーの数は年々減少傾向にあり、求人の募集は増加している一方で、求職者は少ないのが現状です。

トラックドライバーの現状

トラックドライバーは、全職業に比べて低い賃金と長時間労働の傾向にあり、これこそが人手不足の要因と考えられています。厚生労働省が調査した、令和4年度の主な産業、性、年齢階級別賃金を表で見ますと男性の運輸業は323.4千円と一番低い結果です。

また、トラックドライバーを全産業と比較すると、年間労働時間は約2割長いと言われており、長時間労働の要因としては以下3点が主にあげられます。

運転時間

運転時間の効率化には限界があります。
高速料金を浮かせるために、一般道路を利用しているドライバーでは、さらに運転が長時間化してしまいます。交通渋滞や天候の影響、配送先の制約など、ドライバーは予定通りに運転できないことも多く、ストレスや焦りが生じ疲労にもつながっているのです。

荷待ち時間

多くの事業者やドライバーが直面している課題は、積み卸しによる待機時間の長さです。この問題の主な原因は、荷主企業の荷役能力不足です。積み卸しの集中する時間帯には、トラックの行列ができることもあります。また、人や場所が不足しているケースも多く、積み卸しの順番待ちが発生しているのです。
このような荷待ちによって業務が滞ることで、ドライバーの労働時間が長くなるという悪循環が生じています。

業界構造と給与体系

荷待ちの発生には、業界の構造が関係しているため、運送会社の努力だけでは解消できない課題です。
ドライバーは所属する会社の指示のもと、着荷主の荷物を運ぶ役割を担っていますが、その上には発荷主が存在します。このような階層構造において、運送会社やドライバーは立場が弱いとされています。さらに、孫請けなどの関係も存在し、業界内の力関係が複雑化しているのです。
また、トラック運転者の労働時間等に係る実態調査事業報告書によれば、収入を増やすために基準を超えて働きたいと考えるドライバーが4割以上いるとされています。これは、歩合制の給与体系を採用している事業者が多いことと関連していると考えられます。

以上の要因からトラックドライバーは、若年層や新しい労働者の定着率が低く、ドライバー不足につながっています。業界全体での取り組みや制度改革などの対応策が急務です。

主な改正内容

時間外労働の上限規制

2024年4月より、年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用されます。
通常の労働時間規制とは異なり、トラックドライバーの場合は「2~6カ月平均」や「単月」などの1カ月の上限規制が存在せず、例えば1カ月に120時間の時間外労働があっても、年間トータルが960時間未満であれば問題とされません。

☆ドライバー上限規制内容 ・年960時間 ・月あたり上限なし ・複数月平均規制なし ・月45時間越え月数上限なし 法律による上限(特別条項) ・年720時間 ・月100時間未満 ・複数月平均80時間 ・月45時間超は年6か月まで ※休日労働を含む 法律による上限(原則) 月45時間 年360時間 法定労働時間 1日8時間 週40時間

自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)

「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)は、トラックなどの自動車運転者について、労働時間等の労働条件の向上を図るため、その業務の特性を踏まえ、全ての産業に適用される労働基準法では規制が難しい拘束時間、休息期間、運転時間等の基準を定めています。
自動車運転者の長時間労働を防ぐことは、労働者の健康確保だけでなく、国民の安全確保にもつながることからトラック、バス、ハイヤー・タクシーなどの自動車運転者に対して、労働時間や労働条件の向上を図るために、拘束時間の上限や休息期間などの基準を設けています。

見直しのポイント

現行 変更後
1日の拘束時間 原則:13時間
最大:16時間
  • 15時間超は1週間2回以内
原則:13時間
最大:15時間
宿泊を伴う長距離運行は週2回まで16時間
  • 14時間超は1週間2回以内
1か月の拘束時間 原則:293時間
最大:320時間
原則:284時間
最大:310時間
(1年の拘束時間が3,400時間を超えない範囲で年6回まで)
  • 284時間を超える月が3か月を超えて連続しないこと。
  • 月の時間外・休日労働が100時間未満となるよう努める。
1年の拘束時間 3,516時間
原則:3,300時間
1日の休息時間 継続8時間
継続11時間を基本とし、9時間下限
  • 長距離・泊付きの運行の場合は、運行を早く切り上げ、まとまった休息を取れるよう例外を規程。

行動しないことの代償とは?

何も対策を講じない場合、以下のような問題が生じる可能性があります。

トラックドライバー

  • 荷主や一般消費者の要求に応えることができず、従来のような輸送(例えば長距離輸送など)を実施することが困難になります。
  • 輸送業務を順調に継続するためには、ドライバーの追加採用が必要ですが、適切な人材を確保することが困難になります。

荷主企業

  • 必要な時に必要な物資が届かない可能性があります。
  • 輸送の受け入れが拒否される可能性があります。

一般消費者

  • 即日または翌日の宅配サービスを利用できない可能性があります。
  • 水産品や青果物などの新鮮な商品の入手が困難になる可能性があります。

解決に向けた3つの視点

トラック事業者と荷主企業の協力

1.荷待ち時間・待機時間の削減

荷待ち時間は、ドライバーにとって長時間労働の大きな原因となっています。この問題は、荷主や物流施設の都合によってドライバーが待機せざるを得ない時間を指しますが、ドライバーがいくら時間短縮を心がけても、ドライバーだけでは解決が難しいものです。ドライバーの時間を奪うこの問題に対しては予約システムの導入や出荷受け入れ態勢の見直し・受付・誘導のシステム化などが必要です。

2.作業削減・効率化

バラ入庫(ダンボールや袋に入った商品を手作業で一つ一つ入庫する方法)の車両はバース(荷降ろしスペース)を専有する時間が長いので、待機車両を生む要因となります。パレット化(数量ごとにまとめて荷物を載せ、輸送・保管を行うこと)することで大幅に荷役時間が短縮し、待機車両削減につながります。一方で、パレット返却のために倉庫側パレットに積み替えるケースもあるので、パレット循環システムの構築が必要といえます。

3.リードタイムの延長

リードタイムとは商品・サービスの発注から納品までの時間・日数のことです。以前と同じように毎日長距離輸送を行うとすると、限られた労働時間内での実現は現実的ではありません。そのため、長距離輸送を中1日空けることで、労働時間の制約に合わせることができます。中1日空けた分の荷物は次の輸送で効率的に積載し、満載での効率的な輸送を目指しましょう。

トラック事業者から荷主企業にお願いすること

1.「標準的な運賃」等の収受

標準的な運賃は、①ドライバーの労働条件を改善するとともに、②貨物自動車運送事業の健全な運営を確保し、その担う貨物流通の機能の維持向上を図ること、を目的として、能率的な経営の下における適正な原価と適正な利潤を基準として、国土交通大臣が望ましい水準の運賃を示すものです。ドライバーの労働環境改善や働き方改革に取り組むための適正な運賃を収受してください。

2.運送以外に発生する料金の収受

燃料サーチャージや付帯作業料金、高速道路利用料など運送以外の役務が生じる場合はトラック事業者にその対価となる料金を支払う義務があります。運送状に記載がない作業や荷待ち時間が発生した場合においても料金を支払う必要があります。また、運送状には「運賃」と「料金」を区別して記載する必要がありますので確認しましょう。

トラック事業者から消費者にお願いすること

1.再配達を減らす配慮

再配達を減らすための有効な手段として、確実に受け取れる日時・場所の指定、宅配ボックス・ロッカーの利用や置き配の推進などがあげられます。また、不在の場合、配達日時や場所が変更できるサービスも有効です。荷物を送る際は、自分や相手が受け取りやすい日時や場所を指定しましょう。

2.まとめ買い(まとめ注文)による運送回数の削減

ECサイトや通販を利用する際には、できるだけまとめ買いを心がけましょう。日用品や賞味期限の長い食品などを一度にまとめて購入することで、運送回数を減らすことができます。これにより、送料の節約にもつながります。

物流革新に向けた政策パッケージ

国土交通省は荷主企業、物流事業者(運送・倉庫等)、一般消費者が協力してわが国の物流を支えるための環境整備に向けて、①商慣行の見直し②物流の効率化③荷主・消費者の行動変容について抜本的・総合的な対策として「物流革新に向けた政策パッケージ」として策定いたしました。
具体的な施策は以下の通りです。

商慣行の見直し

  • 荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減(荷待ち、荷役時間の削減等)に向けた規制的措置等の導入
  • 納品期限(3分の1ルール、短いリードタイム)、物流コスト込み取引価格等の見直し
  • 物流産業における多重下請構造の是正に向けた規制的措置等の導入
  • 荷主・元請けの監視の強化、結果の公表、継続的なフォロー及びそのための体制強化(トラックGメン(仮称))
  • 物流の担い手の賃金水準向上等に向けた適正運賃収受・価格転嫁円滑化等の取り組み
  • トラックの「標準的な運賃」制度の拡充・徹底

物流の効率化

  • 即効性のある設備投資の促進(バース予約システム、フォークリフト導入、自動化・機械化等)
  • 「物流GX」の推進
    (鉄道・内航海運の輸送力増強等によるモーダルシフト、車両・船舶・物流施設・港湾等の脱炭素化等)
  • 「物流DX」の推進
    (自動運転、ドローン物流、自動配送ロボット、港湾AIターミナル、サイバーポート、フィジカルインターネット等)
  • 「物流標準化」の推進(パレットやコンテナの規格統一化等)
  • 道路・港湾等の物流拠点(中継輸送含む)に係る機能強化・土地利用最適化や物流ネットワークの形成支援
  • 高速道路のトラック速度規制(80km/h)の引き上げ
  • 労働生産性向上に向けた利用しやすい高速道路料金の実現
  • 特殊車両通行制度に関する見直し・利便性向上
  • ダブル連結トラックの導入促進
  • 貨物集配中の車両に係る駐車規制の見直し
  • 地域物流等における共同輸配送の促進
  • 軽トラック事業の適正運営や輸送の安全確保に向けた荷主・元請け事業者等を通じた取組強化
  • 女性や若者等の多様な人材の活用・育成

荷主・消費者の行動変容

  • 荷主の経営者層の意識改革・行動変容を促す規制的措置等の導入
  • 荷主・物流事業者の物流改善を評価・公表する仕組みの創設
  • 消費者の意識改革・行動変容を促す取り組み
  • 再配達削減に向けた取り組み(再配達率「半減」に向けた対策含む)
  • 物流に係る広報の推進

まとめ

今回、物流業界の現状から解決に向けた視点まで解説しました。
現状の把握をするためにも勤怠管理による労働時間の把握は企業にとって大切な業務の一つです。これまでも残業(時間外労働)に対する規制はありましたが、今回の改正でより明確に上限が定められたことになります。多くの企業が労働環境の見直し・対策に取り組んでいることと思いますがそれぞれの立場での改善が重要です。

労働時間の管理には、労働時間の把握による人材配置等の見直しや残業時間の予測による長時間労働の抑止などメリットはさまざまあります。
そのための一助として「勤怠管理システム クロノス Performance」のご紹介です。働き方改革関連法にも対応し、勤務形態に合わせた打刻方法や、アラート機能がついた残業管理など、今求められる機能が多数搭載されています。小規模から大規模ユーザーまで、多様な規模・業態にマッチしたパッケージシステムです。この機会に勤怠管理システムの見直しを進めてみてはいかがでしょうか。

 

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