3Dプリンターと3D CADの新しい関係を考える
ますます進化を遂げている3Dプリンター。その高精細な造形性能を十分に活かすには、3Dプリンターの特性を理解した、高精度な3次元モデリングが必要になります。そんな中、密かに注目を集めつつある3D CADソフトウェア「Vectorworks」。その活用事例と特徴をご紹介します。
進化する3Dプリンターの性能を、どう引き出すか?
活用領域が広がる「Vectorworks」
3Dプリンターが日本で話題を呼びはじめた数年前、「何でもつくれる魔法の箱」というような紹介とともに情報が広がりました。しかし、造形のもととなる「3次元データ」が存在しなければ、何もつくれないただの箱に過ぎません。
ますます進化を遂げている3Dプリンター。その高精細な造形性能を十分に活かすには、3Dプリンターの特性を理解した、高精度な3次元モデリングが必要になります。
そんな中、密かに注目を集めつつあるのが、ミドルレンジの価格帯と高精度な3次元モデリングを両立させた3D CADソフトウェア「Vectorworks」です。
3D CADにお詳しい方は、「Vectorworksは、建築設計向けじゃないのか?」と意外に思われるかもしれません。しかし今や、機械設計やプロダクト開発など、幅広い業務・用途で活用が進んでいます。
まずは、その事例をご覧いただきましょう。
Vectorworks活用事例01ニシャルコストを抑えながら、生産性の向上や、人材の有効活用など、多くのメリットを実感。
株式会社野田テック
3Dレーザー加工機を利用する産業機械メーカー野田テックは、製造設計や機械設計で主流となるハイエンドCADではなく、Vectorworksを利用したワークフローを確立しています。
優れたコストパフォーマンスで、初期投資を削減
将来性を見込み3Dレーザー加工機の導入を決断した野田テック。しかし当時、メーカーが提供する3DCAD・CAMソフトを含めたシステム導入コストは1,000万円ほどにのぼり、予算を大幅に上回っていました。少しでもそのコストを抑えるために、Vectorworksを選定されたといいます。
ハイエンドCADを1ライセンス導入する価格で、複数ライセンスを揃えることができるVectorworksは、コストパフォーマンスの点で断然優れているソフトウェアだったのです。
他の3D CADデータでつくった過去データも活用可能
特に、当時リリースされた「Vectorworks2009」から、モデリングカーネルがParasolid(※)ベースになり、過去に他の3D CADソフトウェアで作成したデータとも高い互換性能を持つようになったことが、導入の決め手になりました。
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カーネルは、3DCADソフトウェアのエンジンに相当。ソフトウェアごとにさまざまな形式のエンジンが存在しますが、Parasolidは、SOLIDWORKSなど多くの3次元CADソフトウェアで採用されている、高性能なモデリングカーネルです。
現場での作業工数も、試作コストも軽減
それまで、大阪の設計本部で製作された2D CADを工場へ流し、加工を行っていた野田テック。Vectorworksによる3D設計と3Dレーザー加工機の組み合せにより、ワークフローを改善し、多くのメリットを得ることに成功しています。
そのひとつが、現場での設計フローの確立です。VectorworksのモデルデータをParasolidでCAMに渡し、NCデータを自動生成。従来のようなデータ受渡しを必用とせず、現場で設計し、レーザー加工から組み立てまでを行うことが可能になりました。
現場でデータ入力からレーザー加工機の稼働までを行うことで、プレス機器などの作業に取られていた工数を、他の作業に割り振ることができるようになり、現場の人材をより有効に活用できるようになったのです。
さらに、これまで外注していた試作も、社内のVectorworksとレーザー加工機のよって内製化。工期と工賃を大幅な削減も達成しています。
野田テックでは、Vectorworks上で部品や部材のデータベースを構築することで、より効率的なワークフローを確立し、社員一人ひとりの生産性を向上させようとしています。
http://www.nodatec.co.jp/ (取材協力:株式会社野田テック)
Vectorworks活用事例02空間全体が見えるプレゼンテーションで、お客さまにリアルなイメージを伝え、提案の幅も広げていく。
株式会社三和製作所
三和製作所は、「ひとの健康と安全を守る」をコンセプトに、医療機器、介護用品、防犯防災用品など、さまざまな商品を取り扱う企業です。中でも、学校に関わる商品は多岐にわたり、学校ごとのニーズに細やかに応える商品づくりを強みとされています。
同社では、これまで利用してきたSOLIDWORKSに加え、新たに導入したVectorworksを活用することで、より良い商品開発と高度なプレゼンテーションを可能にしています。
製品の使用環境を想定した、パースの作成を
学校向け商品を多く取り扱う三和製作所では、カタログ掲載商品の1割ほどを自社で開発。社内の設計担当者が製品の基本設計を手がけています。
それまで、製品設計にはSOLIDWORKSが使われていましたが、新しく保健室に納入する備品を開発するとき、商品の図面だけでなく、搬入時などの現場環境を想定した寸法入りの平面図が必要となり、SOLIDWORKSがパースの作成に不向きなため、Vectorworksの導入を決断されました。
SOLIDWORKSのデータも、スムーズに取り込み
ectorworksは、SOLIDWORKSと同じParasolidベースのため互換性も高く、スムーズなデータのやり取りが可能な点も、導入を決定づける要因の一つとなっています。
SOLIDWORKSで作成した製品モデルをParasolidX_T形式でVectorworksに取り込み、製作した空間へ自在にレイアウトすることができます。プレゼンテーション用のパースも、簡単に作成できるようになりました。
製品単体の図面で提案を行うだけでなく、空間に製品を配置したパースを同時に提案することで、クライアントに対して、より現実に近い完成イメージを伝えられるようになったのです。
このようなプレゼンテーションは、今後も増えることが考えられ、色やテクスチャなどを何パターンも提示することで、お客さまへのより幅広い提案も可能になると期待されています。
また、新たな取り組みとして、「保健室や理科室など、その空間に適した家具を設計し、空間をまるごとプロデュースするような提案にも取り組んでいきたい」と意欲を見せられています。
https://www.sanwa303.co.jp/ (取材協力:株式会社三和製作所)
新機能が加わり、
さらに使い方が広がったVectorworks2016。
2016年1月にリリースされた「Vectorworks2016」。モデリング機能に「サブディビジョンサーフェス」が実装され、より自由度の高い3Dモデリングが可能となりました。
サブディビジョンサーフェスとは、ピクサー・アニメーション・スタジオのテクノロジーをもとにしたモデリング機能で、プリミティブ(単純な形状のモデル)から、専用の編集ツールを使い、粘土細工を変形させるような感覚で3Dモデリングを行えるのが特徴です。
さらに、3Dプリンティングに関連する機能も、さらなる拡充を遂げています。
STL形式の取り込みに対応
3Dプリンターの出力形式として採用されている汎用フォーマットSTL(.stl)形式の書き出しに加え、取り込みにも対応。
これにより、他の3Dソフトウェアで作成された3DモデルをVectorworksに取り込み、Vectorworks上で加工して3Dプリンティング用のSTL形式で取り出すことができるようになりました。
点群データの取り込みに対応
3Dレーザースキャナで計測した地表面や建物、ハンディ3Dスキャナでスキャンした物体の点群データなど、ポイントクラウドとも呼ばれる点群データの取り込みに対応。
取り込んだ点群データをベースに、カスタマイズや他のオブジェクト配置などのベースデータとして利用できるようになりました。建築用途はもちろん、学術研究などさまざまな用途への活用が期待される新機能です。
OBJ形式の取り込みにも対応
もともと高度なファイル互換機能を誇るVectorworksですが、2016バージョンからは3Dプリント用データとしても利用されることの多い、OBJ(.obj)形式の取り込みにも対応。
3DCADソフトウェアだけでなく、3DCG系ソフトウェアなどからのデータ取り込みも簡単に行えるようになりました。
互換性の向上により、
3Dプリンターとの相性も、さらにアップ。
これから一層、高まる期待。
建築設計の分野では、すでに長く愛用されてきたVectorworks。Parasolidモデリングカーネルを採用したことで、SOLIDWORKSをはじめとした多くの3次元CADソフトウェアと互換性が高まり、ご紹介した事例のように、機械設計や製品開発など、さまざまな分野への活用が広がっています。
また、2016バージョンから新たに採用された「STL形式の取り込み(書き出し)」「OBJ形式の取り込み」機能により、他のソフトウェアを介さずに、Vectorworksからダイレクトに3Dプリント用データの生成を行うことが可能になりました。
ユーザーの皆さんのアイデア次第で、その活用範囲は飛躍的に広がっていくことが期待されています。