人事労務の法改正で業務負担が増大!? トラブル回避のために 中小企業担当者が行うべきこと
人事労務の業務は非常に広範であり、担当者の負担を軽減し業務効率化を実現するだけでなく、関連する法改正に柔軟に対応するためには、適切な人材、ツール、ノウハウを活用してトラブルを防ぐ体制を整える必要があります。特に中小企業では、人材不足やアナログな作業の多さなどが顕著であり、これらに対処するための対策が重要です。
そこで、この記事では、2023年11月時点での人事労務に関連する法改正の現状と今後の動向について説明し、さらに、事務・バックオフィスのデジタル化の必要性と具体的な方法についても解説します。もし事務・バックオフィスのデジタル化を検討している方がいらっしゃれば、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
【2023・2024年】人事労務関連の法改正を解説
「労働基準法」は労働契約や賃金、労働時間、休日など、労働条件としての最低基準を定めており、人事労務関連の代表的な法律の1つです。
主に義務的な観点で「効率化・省力化を企業に迫っている」とも捉えられる労働基準法の改正。2023・2024年に実施されたもしくは実施される予定のその他の法改正もあわせて、それぞれを以下で確認してみましょう。
月60時間超割増賃金率引き上げ
一部の大企業で先行して適用されていましたが、2023年4月には、猶予されていた中小企業も「月60時間超割増賃金率引き上げ」の対象になり、月60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率が50%以上となりました。
時間外労働の上限規制
2024年4月には、「時間外労働の上限規制」が5年間の猶予期間が設けられていた建設業、医師、自動車運転業務従事者にも適用され、残業の上限が月45時間、年間で360時間となります。これにより、より幅広い業種において対応が迫られることになります。
労働条件明示のルール
同じく2024年4月、労働基準法第15条において規定されている「労働条件明示のルール」も改正されます。求人企業などから明示される労働条件に以下の明示事項が追加されます。
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就業場所と業務の変更の範囲
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有期労働契約の更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)
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有期契約労働者に対する無期転換申込機会
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有期契約労働者に対する無期転換後の労働条件
変更のポイントとしては労働条件を明示するタイミングの新規追加です。現行法もすべての労働契約において、雇用契約書や労働条件通知書を通して「雇い入れ直後の就業場所」「業務の内容」を明示することは義務づけられていますが、すべての労働契約の締結および有期労働契約において「更新のタイミング」ごとに雇い入れ直後の就業場所・業務内容や変更の範囲についても明示しなければならなくなります。
このような書面の作成や管理、共有、印刷といったアナログ作業を都度のタイミングで行うと業務負担の増加につながります。ただ、同制度では労働者が希望すれば電子メールやSNSでも明示できるため、電子書類にすることでスムーズに対応しやすくなると考えられるでしょう。
他の領域の制度改正
総務・人事・経理・購買・営業事務など、企業によってバックオフィスの組織体制はさまざまです。ただ、書類管理、作成などの業務では複数領域が関連するケースは珍しくなく、それは法改正においても同様です。例えば、経理や会計分野では電子帳簿保存法やインボイス制度の適用など、デジタル活用の必要性がより高まっている制度が相次いで実施されており、証憑だけでなく電子取引における契約書なども電子的に保存しなければならないとされています。上記に対応した管理ソフトの導入、更新や体制の構築、その後の運用などを考えると、経理業務だけでなくバックオフィス全体で再構成を図る企業も珍しくないでしょう。このような背景もあり、人事労務のデジタル化を図る必要性は高まっているのです。
法改正による事務・バックオフィスで生じる
「課題」とその「解決方法」
前述した法改正に合わせて人事労務などのバックオフィス業務において、多くの企業で対応すべき課題が生まれています。その代表的な3つの課題と解決方法を解説します。
多様化する雇用形態への対応
働き方改革関連法によって推進されている影響もあり、正社員、短時間正社員、副業、業務委託、契約社員など幅広い雇用形態や働き方を実践する企業が増えています。適材適所に優れた人材を配置することで利益を生み出せるというメリットがありますが、人事労務の業務においては、さまざまな雇用形態に対応するために、契約関連の書類が複雑化して業務負担が大きくなることが懸念されています。そのため、一元管理できる環境づくりが必要です。
コンプライアンスを遵守した対応
コンプライアンスとは法律や条例、モラル、倫理、社内規定など、企業や従業員が遵守すべき事柄を指します。さまざまな事項がありますが、「情報漏えいや社内データ持ち出し」、「ハラスメント」、「超過勤務やサービス残業」などの不適切な労働環境については人事労務の領域では特に注意が必要です。デジタル化することにより情報管理を効率的かつ適切に行いやすくなるほか、細かな勤怠管理なども自動化が図れるため、近年、重要性が高まるコンプライアンスに対しても省力化を図りつつ、速やかな改善が可能になります。
多様な就業環境への対応
働き方改革やBCP(事業継続計画)の推進、コロナ禍の影響により、テレワークは多様な働き方の選択肢の一つとなりました。各従業員がテレワーク環境でも従来のように業務を滞りなく進めるためには、就業場所に関わらず安全なネットワークでアクセスするためのセキュリティー対策、円滑にコミュニケーションや資料のやりとりができる環境づくりが欠かせません。そのためには通信環境などのインフラ整備はもちろん、クラウドストレージやワークフローの導入といった「どこにいても業務が完結できる体制づくり」も欠かせません。
人事労務のデジタル化
人事労務をデジタル化できれば、業務が効率化するだけではない大きなメリットがあります。そのメリットを理解し周知していくことで、より円滑なデジタル化を実現することが可能になります。
デジタル化できる人事/労務/総務業務と関連書類
人事労務や総務に関連し、デジタル化やペーパーレス化できる書類をピックアップする際は業務カテゴリーごとに洗い出すことをおすすめします。例えば就業規則や社内規定といった社内文書はデジタル化できるほか、被保険者報酬月額算定基礎届や被保険者資格取得届・喪失届といった社労・労働保険に関連する書類も電子化できます。従業員の入退社管理業務においては、社会保険や雇用保険など資格取得届のほか、扶養控除等申告書、被扶養者(異動)届などの資料一式をデジタル化することでより効率的かつ効果的にメリットが大きくなるでしょう。同様に年末調整は2020年から、生命保険料控除、地震保険料控除および住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等を電子データで受け取れるようになったので、入手、配布、回収、申請をデータで行いやすくなりました。いずれにしても書類の作成、管理、申請、共有を電子化し、ペーパーレスな業務体制をつくることは、前述したさまざまな課題を解決することができ、人事労務におけるデジタル化を進めていく過程の第一歩であるといえるでしょう。
デジタル化成功のための5つのポイント
デジタル化を成功させるためには、デジタル化を行うための目的を明確に設定した後、継続的な運用を見据えたツールの導入、従業員の理解と必要なITリテラシーの教育も不可欠です。注意すべき点としてデジタル化に伴う課題と対策も必要になります。さらに導入効果の検証・改善を繰り返すことも求められます。具体的なポイントは以下の通りです。
5つのポイント
中小企業における人事労務業務のデジタル化の課題と対策
中小企業が抱えるデジタル化においての人材不足については、デジタル化支援やコンサルタントなどの活用といった従業員採用以外の方法も選択肢に加える必要性があるでしょう。最近ではデジタル化に必要なツールの提供業者がその活用までサポートしてくれるケースもあります。また、デジタル化に対する目標やイメージが高すぎるため、費用や必要な人材が揃えられないといった可能性もあるでしょう。バックオフィス業務のデジタル化はできるところから始められるのがメリットの1つです。人事労務業務であれば「採用業務の資料をクラウドストレージで保存する」など個々の業務からデジタル化を図ってみてはいかがでしょうか。
中小企業のデジタル化を推進させる必須ツール
業務のデジタル化を促進するためには、ハードやソフトウエアの導入が欠かせません。その代表的なツールを紹介します。
人事労務システム
人事労務に関連するIT・デジタルツールは多種多様です。紙書類での人事管理や労務手続きが負担となっているのであれば、労務管理システムを導入することで効率化を図ることができます。また、入社処理や雇用契約、年末調整などをペーパーレス化し効率化を図るクラウドサービスもあります。
解決したい悩みに合わせて、勤怠・人事労務・給与・経費・ワークフローの中から、必要なサービスを選択すれば、課題解決をサポートしてくれます。
電子契約サービス/契約管理システム
従来の押印による契約をインターネット上で行えるのが電子契約サービスです。第三者機関によって実印相当の法的効力を有する「電子署名」は重要な契約書に、第三者機関が関与しない「電子サイン」などは社内文書や請求書などに多く使われます。
契約管理システムは、契約書を電子データで管理するシステムです。「文書の電子化」、「破棄・整理機能」、操作や承認・変更などの履歴管理の「バージョン管理」、文書名・日付・カテゴリーなどのメタデータによる「検索と資料の閲覧機能」、の4つが主な機能です。
グループウエア
グループウエアは組織内のコミュニケーションの円滑化や効率化、活性化を図るためのツールです。既読やログイン情報が把握できるチャット機能などを有しているツールを導入することで、メールよりもタイムラグが少なく連絡しやすいほか、データの送付も容易になります。また、書類の申請、承認、決裁まで行えるグループウエア(ワークフローシステム)であれば、テレワーク環境であっても迅速に業務を行いやすくなるでしょう。
MFP(複合機)
既存の紙の資料を電子化するための「スキャン機能」や取引先から送られてきたファクスをPDF化する「ペーパーレスファクス機能」、電子化したデータを自動でアプリケーションと連携して保存・管理する機能など、MFP(複合機)はペーパーレス化やデジタル化の起点ともいえるツールです。
バックオフィスの業務を効率化させることが
お客さまへの迅速な価値提供につながる
人事労務のデジタル化について解説しました。法改正によって人事労務の負担が増大するリスクを軽減しつつ、働き方改革のために効率化を実現する必要性が高まる昨今、特に中小企業においては人事労務を含めたDXに取り組むべきといえるでしょう。バックオフィスの業務を効率化させることでひいてはそれが、お客さまへの迅速な価値提供にもつながります。キヤノンマーケティングジャパンでは、業務効率化を支援するサービスを提供しております。以下のフォームからお気軽にお問い合わせください。
2024年2月キヤノンマーケティングジャパンオンラインセミナー
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