労働人口が減っていく中、 必要性が高まる「現場DX」とは?
コロナ禍に伴う出勤制限などが後押しする形で、テレワークをはじめとするオフィスワークのDXが一気に進みました。一方で、業務効率化を推進しにくいのが「デスクレスワーカー(ノンデスクワーカー)」、つまりデスクから離れた「現場」で働く人々です。「デスクレスワーカー(ノンデスクワーカー)」の作業は、業務の性質上デジタル化が進めにくく、働き方改革もなかなか進まないのが実情のようです。今後、労働人口の減少がさらに進むと予測される中で、「現場DX」の導入が喫緊の課題と言えるでしょう。そこで本稿では、中小企業に求められている「現場DX」の必要性について解説します。
中小企業に「現場DX」が求められている背景
労働人口は減少傾向にあり、総務省調べによると労働力人口(15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、2022年平均で6,902万人と、前年に比べ5万人の減少となったことが明らかになっています。
中小企業庁調査による従業員数過不足数DI(従業員数が「過剰」と回答した企業の割合から「不足」と回答した企業の割合を引いたもの)を見ても、建設業や製造業、サービス業などが、深刻な人手不足に直面している現状がうかがえます。
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出典:労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の概要
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index.pdfを加工して作成 -
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出典:2023年版「中小企業白書・小規模企業白書概要」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/2023gaiyou.pdfを加工して作成
こうした厳しい状況の中、中小企業が事業の継続を図るためには、何らかの「現場DX」導入によって生産性向上と省力化を進める必要性が高まっています。実際、「業務プロセスの見直しによる業務効率化」や「IT化等設備投資による生産性向上」などに取り組む動きが、あらゆる企業で盛んになっているのは間違いないようです。
人材不足への対応方法
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出典:2023年版「中小企業白書・小規模企業白書概要」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/2023gaiyou.pdfを加工して作成
中小企業のDXへの取り組み状況について
「DX」と聞いて、大がかりなシステムの導入や高額なクラウドサービス等をイメージし、断念している中小企業経営者も少なくはないようです。中小機構((独)中小企業基盤整備機構)による「中小企業のDX推進に関する調査」の結果を見ても、「理解していない・あまり理解していない」は46.8%と約半数を占めています。
DXに対する理解度
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出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業のDX推進に関する調査。アンケート調査報告書(令和4年5月)を加工して作成
とはいえ、冒頭に解説したとおり業務効率化は喫緊の課題です。今後のDXに対する具体的な取り組み予定・検討内容の回答は「文書の電子化・ペーパーレス化」が23.1%と、一番多くを占めていました。
アナログな業務が多く残っている現場業務の中で、まずは電子化しやすい部分から取り組みたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
DXの具体的な取組予定内容
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出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業のDX推進に関する調査。アンケート調査報告書(令和4年5月)を加工して作成
経済産業省による優良事例選定事業「DXセレクション2023」には、そうした「比較的安価に始められる」「できるところから始める」DXによって、効率化や売り上げ拡大に成功した中小企業の事例が20件も掲載されています。
掲載事例のうち、審査員特別賞を受けた(有)ゼムケンサービス(建設業/福岡県北九州市)と、可能な限り自社内の人材でDXを推進中の(株)共進(金属製品製造業/長野県諏訪市)の取り組み内容を、詳しく見てみましょう。
(有)ゼムケンサービスの取り組み内容~DXによる女性の現場起用比率、生産性の向上~
同社は建築業界内では珍しい、社長以下社員の約8割が女性という、従業員数9名の建築会社です。女性正社員の雇用を積極的に推進していますが、出産・育児に伴う休業や退職など、女性ならではのハードルがあることなどから、DXによる女性の現場起用比率の向上及び生産性向上に取り組む方針を決めました。
主な取り組み
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外部講師を招聘し、全社員にDXに関する勉強会を実施。建設業において、どのような情報技術が今後有効なのかを考え、DXの土壌づくりを進めた。
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スマホやタブレットを活用し、現場から撮影・送信した建築現場の画像に事務所で待機しているベテラン作業員が細かなアドバイスやタスク指示などを画面上に貼り付けて返信。現場に不慣れなスタッフだけでも仕事ができるようにした。
社員のITリテラシーがばらばらで、全社に浸透するまでには苦労もあったそうだが、子育て中、介護中、自身の体調など、様々な背景を持つ女性を中心に、若者も高齢者も建設業で働き続けることができワークライフバランスやワークシェアリングの仕組みが浸透。
こうした取り組みの結果、同社の生産性は向上し、社員数は変えていないにも関わらず売り上げが4倍以上となり、1人当たり売上は大手ゼネコンを含む業界平均を超えるという成果を実現している。
(株)共進の取り組み内容 ~デジタル化への取り組み強化~
事業概要
同社は、切削加工や研削加工、独自の「カシメ接合方法」により、自動車部品や建設・農業関連など産業機械部品の製造を行う従業員数140人のメーカーです。ビジネスモデルの変革が求められている現状をDXによって克服すべく、デジタル化への取り組みをこれまで以上に強化する方針を固めました。
主な取り組み
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グループウェアや電子決裁の導入など、デジタル化により「業務が楽になった」ということが見えやすい取り組みから進めた。
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作業日報を手書きからタブレット入力に移行した。
生産現場にはデジタルツールの扱いに慣れてない人もおり、作業日報の入力などは「紙の方が簡単だ」ともなりがちで苦労もあったそうだが、デジタルの良さや、データがどう役立っているかなど、説明して理解してもらう取り組みを続け、今では作業時間の短縮や省エネ等の大きな効果が得られている。
現場が効果を実感すると「こんなこともできる?」といった提案が出てくるようになり、次の新たな取り組みにもつながっている。
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出典:「DXセレクション2023」選定企業レポート(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dxselection2023report.pdfを参考に記載
DXへの取り組みを阻害する要因とは
デスクレスワーカーの職種は、農林水産業などをはじめ製造、建設、運輸、小売、福祉介護など多岐にわたり、一部業種ではIoT機器やデジタルツール導入の動きが盛んになっているものの、大半の現場はアナログな業務形態なのが実情です。では、なぜアナログな業務が残りがちなのでしょうか。それは、現場の作業者はPCなどのデジタル端末をあまり使用していないため、業務上、紙だけで完結するケースが多いためです。また、年配でITリテラシーの低い方が多く、デジタル端末の導入が進めにくい場合もあります。こうしたアナログ業務のため、現場の業務実態が正確に把握できていない場合も多くあります。そのため現場作業者を含めたDX=現場DXが必要となるのです。
阻害要因を取り除くため、中小企業が取り組むべき内容
前項で述べたDX阻害要因を取り除くためには、まず、労働条件や労働時間の見える化を実施し、健全な労働環境の分析を行うことが重要です。しっかりした分析に基づく労務管理を行うことで、紙書類をデジタルデータに移行するなど、自社にとってのDXの第一歩が明確化できて、生産性向上を実現しやすくなります。
その上で、業務デジタル化を図る上での社内環境の整備、特にセキュリティ対策を推進するのが、現場DXの“道筋”だと言えます。「労務管理」「生産性向上」「セキュリティ対策」という、3つの課題に取り組むための概要と解決例について、「よくある困りごと」別に見てみましょう。
労務管理に関する困りごと
- 日報がすぐに集まらない
- 現場からの報告時間の信ぴょう性に欠ける
- 紙やエクセルの申請承認が大変
- パソコンの利用ログなど客観的な労働時間の把握ができていない
解決例
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録取得
- システムによる勤怠管理のデジタル化
勤務時間等の自動集計や給与ソフトに連動したデータ作成、変形労働時間制への対応などの機能で、様々な事業所における多様な勤怠環境に柔軟に対応できるインストール型勤怠管理システムや、PCやスマートフォンなどを使って各種申請・承認ができるクラウドサービス、ネットワーク型タイムレコーダーなどの導入がお勧めです。
生産性向上に関する困りごと
- 紙による業務が残っており申請承認に時間がかかる
- 上司が不在だと承認フローが回らない
- 現場での記録を、事務所に戻ってから報告書に記載し直す必要がある
解決例
- 申請業務のデジタル化
- 申請内容の適切な管理
社内・外からいつでもアクセスできて、スケジュール管理や文書共有管理、経費精算や支払管理などが行える多機能グループウェアが、月額数百円程度のコストで提供されています。また、テキストや手書き文字で入力することができて、WebやPDF、表計算ソフト等も操作できる、“現場向け”のタブレット型デジタルノートなども市販されています。
複合機でスキャニングした各種書類を、様々なクラウドサービスに直接送信することで、スムーズな情報共有や業務効率の向上を支援するツールも導入企業が増えています。
セキュリティ対策に関する困りごと
- 現場でモバイル端末を利用させるのは紛失リスク等が不安
- ITリテラシーが高くない社員でも安全に使用できるモバイル環境がほしい
- 社外から社内データへアクセスできるセキュリティ環境が整っていない
解決例
- PCとモバイル端末の管理
- セキュリティインシデント対策
インターネット接続環境さえあれば、事業所内はもちろん支店や各店舗、在宅勤務端末など、様々な環境下の端末を管理できて、自動脆弱性診断など多彩なセキュリティ機能を提供するクラウド型のPC管理&セキュリティ対策サービスが人気です。
メールによる標的型サイバー攻撃の防御から、利用中のクラウドサービスやネットワークサービスのセキュリティ、データ保護まで、総合的なセキュリティ機能を提供するソリューションも注目されています。
以上、DXを推進する上での取り組み事例を紹介しました。もちろん、これら対策の全てを一気に進めるのではなく、自社業務にとって、より重要な事柄から段階を踏んで進めていくのも有効な方法です。
とは言え、自社業務にマッチしたDX推進策や、そのために最適なツール等を、自社だけで検討するのは難しい面もあるかもしれません。キヤノンマーケティングジャパンは中小企業を経営する皆さんからの、働き方改革に向けた相談を随時受け付けています。お困りの際は、是非お気軽にお問い合わせください。
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