ポストコロナにおけるリソース戦略
-今後企業活動はどう変化するのか
2020年~2021年にかけて、多くの企業において新型コロナウイルス感染症の影響による、非常に大きな環境の変化がもたらされました。いずれの企業も、その変化に適応するための試みや、あるいは変化を機会とした新たなサービスの創出といった試みを行っていることでしょう。
ポストコロナは今後の企業活動にどのような変化をもたらすのでしょうか。本コラムでは4つの段階を経て企業は新たな環境へ対応していくと予想し、それぞれの時期における活動ポイントを解説しています。
コロナをはじめとする環境変化への適応のために
環境変化に適応するために、いま私たちには以下のような改革が求められています。
- 生産性の改善
- 働き方改革
- 事業継続性の担保
これらすべてを両立しつつ、改革を進めていくことが必要です。
ここ数年で、労働法制、労働力の需給環境とコスト、ITで実現できること、企業に必要とされるファシリティの規模と機能は大きく変化しています。それにともない、「IT活用」と「人材活用」、そして「自社経営」と「アウトソーシング」に対する考え方も変わってきました。これら4つの面をどのようにコントロールするのかという視点で、自社のリソース、投資について考える必要があります。
今後の企業活動の変化予測と抑えるべきポイント
自社のリソースや投資といった資源の再配分について検討するにあたり、私たちは何に注目すべきなのでしょうか。
業界や企業によって時期は異なるものの、以下のような段階を経て、企業の変革が行われると考えられます。
1)安全のための危機適応期
この期間には、以下のような対応が行われました。
- 在宅勤務のためのインフラ拡充
- 在宅、リモートへの人事制度適応
- 採用抑制、雇用調整
- それまでの投資検討の中止
- 事業所内感染防止インフラの施設
- 既存事務フローでのペーパレス化
この局面では、未だ将来がどうなるのかわからない状況だった上に、企業によっては業績が低下したことから、それまでの成長・拡大施策を停止し、従業員の安全と企業資産の保全、当面の対応に適応した制度改正が中心になったと思われます。
在宅勤務の推進によって、ITインフラにおける補強の動きは活発だった一方で、人材活用については雇用調整や外部委託の範囲縮小、コストの見直しなどもみられました。
2)デジタル化推進期
この期間に行われるのが、以下のような取り組みです。
- 印鑑、契約事務のデジタル化
- 管理部門業務のデジタル化
- 事業部門オペレーションのデジタル化
同期間には、新規ITツールの検討、および新規ITツールの導入と社内規定の改定などによって、出社しなくても業務を行える環境の整備が進みました。「現在のプロセスを、そのままデジタル化する」のはもちろんですが、今後はさらに一歩進んで「デジタル化に合わせてプロセスを見直す」という試みも増えていくのではないでしょうか。
これらの取り組みを行っていくなかで、改めて自社資源の最適化を検討する企業が増えていくと予想されます。具体的には、外部環境の性質上「紙」がなくならず、在宅化をはじめとするプロセス変革が進まない業務では、自社の従業員の在宅化率を高めるために、オペレーションそのものを外部へ委託することも検討されるでしょう。
一方で、業務委託のコストが既存の組織コストに加算されるだけでは、外部委託の取り組みは進められません。社員の役割を再配分することも検討しつつ、「IT活用」と「人材活用」および「自社経営」と「アウトソーシング」という4つの面で企業全体の機能とコストを見直す必要があります。
見直すべき項目は、以下の通りです。
- 在宅化をどこまで進めるのか
- どの事業所から進めるべきなのか
- 事業継続性の担保にとどめるか、既存業務の改善も併せて実行するか
3)オペレーション変革期(定型化と簡素化)
この期間には、以下のような変革が行われると考えられます。
- 判断要素の整理による自動化率の向上
- 事業所の縮小化
情報がテキスト化され、分類整理されることで、定型・例外の分岐や例外の要素分解がさらに進むことでしょう。従来、業務の継承や標準化は非常に困難であり、ベテラン社員に依存していました。しかし、インプット/アウトプットだけでなく、中間プロセスも含めてデジタル化することによって、判断要素・根拠の定義設定がしやすくなると予想されます。
また、エンド to エンドのオペレーションがデジタル化されることでもたらされるのが、それまでは不可能だった変革の、実現可能性の向上です。その結果、場所に依存しない設計が可能になり「組織の在籍」「出社」「対面コミュニケーション」の意味・目的が変わります。
それにともない、本社機能や事業部門がこれまでの場所に存在する必要性は、希薄になっていくことでしょう。上司や部下、同僚が同じ場所にいる必要性は低くなり、オフィスの在り方が見直されていきます(もちろん、対面によるメリットも勘案しながら検討していくことが前提です)。
この段階まで進むと、自社の社員に期待すること、そしてキャリアの意味合いが大きく変化してくるのではないでしょうか。判断をともなうオペレーションは判断軸が整理され、事業所内で行うべき業務はコンパクトになっていきます。
アウトソーシング事業者(ITO、BPO)も市場における激しい競争によって、選択肢の拡大やコスト削減効果と品質の向上が進む見込みです。企業が利益を最大化させるためのリソース戦略は、従来とはまったく異なる次元になっていくと考えられます。
4)高度なナレッジマネジメント変革期(柔軟性と拡張性)
前述したように、多くの企業では「労働力などの役務で得る対価」と「知的財産により創出する価値で得る対価」について、後者の割合が高まっていくことでしょう。多くの企業が「自社の中核となる知的財産は何なのか」を再定義し、情報蓄積と活用のサイクルをデザインしていく未来が想像されます。
この段階で起こると予想されるのが、外部委託業者の利用目的の変化です。これまでのオペレーション・役務の委託から一歩進んで、ナレッジマネジメントについても外部委託業者を活用し、中核領域のナレッジは自社で研ぎ澄ましつつ、その他の分野では外部委託業者の知見・リソースを活用する、といった考え方も生まれてくることでしょう。
このように、ITO、BPO事業者だけでなく、コンサルティングファームの事業領域も大きく変わっていくと予想されます。
さいごに
2020年は、多くの企業がおもに従業員の安全を確保し、収益の落ち込みを最小化すべく「守り」の活動に注力していたと考えられます。一方で、未知のウイルスとの闘いを通じて、私たちはどこまでが安全なのか、どのような行動がリスクとなるかを学んできました。そして今年は、そういった学びに基づいて次の一手、さらにその先を読んで二手目を検討し、アクセルを踏み始める時期なのではないでしょうか。
コロナがもたらした変化を味方につけ、事業を成長させている企業も出てきています。変化をチャンスに変えられるのか、その成功のカギがリソース戦略の見直しと私たちは考えます。
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