2018年5月に没後20年を迎えたhideのドキュメンタリー映画「HURRY GO ROUND」が公開された。若手俳優の矢本悠馬がナビゲーターを務め、hideの墓石に刻まれている楽曲「HURRY GO ROUND」の歌詞に隠されたメッセージをもとに、彼の足取りをたどるドキュメンタリーである。本編の撮影ではキヤノンのEOS C700とC200が使用され、神奈川県の三浦市や横須賀市、さらには亡くなる3ヶ月前に滞在していたアメリカ・ロサンゼルスなど、hideに縁の深い地を印象深い映像で捉えている。撮影監督の髙砂よういち氏(株式会社ポジティヴワン代表取締役社長)にCINEMA EOS SYSTEMから2機種を選んだ理由、ドキュメンタリー撮影において役立った機能や操作性などをうかがった。
─ なぜ今回の映画の撮影にCINEMA EOS SYSTEMを選んだのですか?
普段からキヤノン製のカメラを使っていて、EOS 5Dでムービーを撮っていた頃からキヤノンの質感が大好きだったというのが理由としては大きいですね。ブルーやグリーンの発色、黒の質感が好みに合っているんです。
ただ選択肢はいくつかありました。じつはある番組で別のスタッフが他社のカメラを使っていて、ビデオライクな質感の中では良いものもあったんですけど、実際にテスト撮影をしてポスプロでグレーディングまでやってみて、やっぱりキヤノンが一番良いという結論に至りました。
─ EOS C700とEOS C200を使用していますが、CINEMA EOS SYSTEMのラインアップからこの2機種を選んだ理由は何ですか?
単純に、現行機種の中でEOS C700が最上位機種だったというのはありました。大きくて重さもありますが、カメラ自体の信頼性やシネレンズとの相性は抜群だったと思います。ただドキュメンタリーなのでハンディでの機動性も考えて、EOS C200と使い分けました。例えば横須賀のどぶ板通りを歩いてそのままお店の中に入っていったり、お店の方のお話を伺ったりする場合、大きなカメラでは威圧感を感じさせてしまいます。店に入る前まではサポートスタッフも付いてきてましたが、店内では照明部、録音部、監督、演者だけという少人数で回していたので、EOS C200はコンパクトで扱いやすいカメラでしたね。
ちなみにロサンゼルスの撮影ではXF405も使っています。出演者にカメラを意識させずに、いかにリアリティを保つかが重要でしたが、もう一つ撮影前に気になっていたのはEOS C700との画の差です。画質や質感でギャップがどれくらい出るのか、撮って繋いでみないとわからなかったところもありましたが結果的に違和感なく観られたのは良かったと思います。
ロスのロケはEOS C200とXF405の2台体制で、予算も限られていたので撮影部は私1人、録音部も1人で、あとは助監にLEDのライトを持ってもらったりもしました。日本ではEOS C700とEOS C200がメインで、ロスとは違ってマンパワーもあったので、たまにXF405も入れて3カメ体制ということもありました。
─ レンズは単焦点のEFシネレンズ群とシネサーボレンズを使われていますね。
EOS C200は単焦点レンズで、EOS C700は主にサーボレンズを使っています。たとえばインタビューのときにEOS C700は大きく寄りの画で撮っておいて、EOS C200はレールに載せてワイドな空間を見せるなど、使い分けて間を作ったりしました。EOS C700+サーボレンズはリモートで動かすときにサイズも変えて、ゆっくりとドリーしながらズームしていくというような表現で活躍しています。
─ カメラを使い分けされる場合、フォーマットはどう扱っていましたか?
フォーマットも自ずとバラバラになりますがすべて4K収録という点で統一していました。最初は外部レコーダーを使う予定だったのでRAW収録を予定していたのですが、じつはそこの準備が間に合わず、全部CFastで収録したんですよ。ものすごいカードの量が使われて、レンタル屋さんのCFastがなくなるくらいに……。
台本を大筋でしか作っていなかったので、監督確認用にプロキシデータも有効活用しました。現場ではベースにPCをセットして、収録データは撮影後すぐにHDDに取り込み。それをXF-AVCとCinema RAW Light、ProResなどに分けて現場でオフラインをつなげてチェックしてそのままポスプロに送ったりもしました。
─ ルックについてCanon Logは使用しましたか?
Canon Logを使わずにかつ色を調整しやすい設定で撮っておくパターンと、Canon Logを使うパターンの2パターンで使い分けました。主にドキュメンタリーブロックの場合はCanon Logを使わずに流れの中で画を切り取り、その他のインサートやビューティ系の撮影のときにCanon Logを使っていましたね。
全体の質感については照明部と事前に打ち合わせて、カメラの感度が高いので地明かりをメインにする方針にしました。自然光をうまく使うことで、2パターンの使い分けも活かせたと思います。
─ 今回の現場で高感度特性は活躍しましたか?
全体的に地明かりでつくる方針だったので高感度特性を活かすことができました。テレビのドキュメンタリー番組では暗部を持ち上げて背景も見せることがありますが、「映画の暗部は暗部のままでいいでしょ」というのが私の結論でした。明るくしなくても主人公はわかるしストーリーもちゃんとわかる。必要なところだけわかればよくて、わざわざフィクションぽく撮りたくなかったわけです。
ナイトシーンではISOの設定は2000台から徐々に下げていって調整しました。月明かりの埠頭を主人公が歩いていくシーンでは人物奥の明かりは十分でしたし、感度を上げることによって月を飛ばしたくありませんでした。そこで月にはフィルターを入れて、人物は街頭の明かりだと物足りないので少しだけ抑えたくらいですね。感度はあまり上げる必要がなく、月そのものの質感や月明かりの雰囲気をすごくきれいに切り取ることができました。
トーンを活かすという意味では高感度特性とダイナミックレンジの特性にだいぶ助けられたと思います。暗がりが美しく、暗部特性の質感が特に気に入ってます。
─ 操作性はいかがでしたか?
EOS C700に関しては、カメラをコントロールできるリモートコントロールユニットが本体に取り付けられるようになっています。現場では完全にロケスタイルで動かなきゃいけない場合があったので、ビデオエンジニアがカメラの横について、色や明るさを管理できたのがすごく便利でした。モジュールとしてファインダーも良かったですね。有機ELはピーキングの有無にかかわらずエッジがわかりやすい。あとは、ボディーの重さは結構ありますがシネレンズを付けたときのバランスがすごく良かったので、助手たちも持ちやすかったと思います。
EOS C200に関しては、普段EOS C300 Mark IIを使っているのですんなり操作することができました。軽くてコンパクトだけど必要な部分は網羅されていて、かゆいところに手が届くという印象でした。EOS C200はリグで動くこともあったので、フォーカスマンがつけなくなるときはフォーカスガイドを重宝しました。
─ ドキュメンタリーだからこそ、コンパクトなEOS C200を選んで良かったという点はありますか?
ロサンゼルスで撮影したエリアは、じつは観光客がいたら身ぐるみを剥がされることもあるくらい危険な場所でした。実際に私たちが車から降りるといろんなところから視線を感じましたし、もし、ライトを付けて大きなカメラで撮影したらさらに注目を浴びていたと思います。しかも薄暮を過ぎたくらいの一番怪しい時間帯だったので、撮影スタイルを簡略化できたのは助かりましたね。
ドキュメンタリーなので演者との距離はものすごく近いし、長玉よりもワイドでリアリティな空間を切り取るという画作りをするには、カメラの性能と特性がとてもマッチしていたと思います。
あと、意外と省電力なのもポイントですよね。運用したバッテリーの数は覚えてないですが頻繁に換えた覚えはないですし、高温にもならなかったのは助かりました。
─ 今後、CINEMA EOS SYSTEMを使ってみたいプロジェクトはありますか?
EOS C700はアナモフィックレンズにも対応しているので、今後は色々なレンズを使って撮ってみたいですね。あとは普通だったらウェアラブルカメラで代用できるようなところでも、大きなカメラだからこそできる、びっくりするような撮影をしてみたいなと思います。いろんな現場でカメラを活かした撮影ができるといいですね。