CINEMA EOS SYSTEMは既存のEFレンズ群を活用できるためスチールに携わってきた方にとって相性の良いカメラだが、今回お話を伺った写真家の公文健太郎氏は、実際に写真の撮影スタイルや空気感をそのまま動画の撮影に置き換えられないかと、写真と動画の両面から日々研鑽を重ねている。同氏は、雑誌、書籍、広告でスチールカメラマンとして活動しながら、10年以上にわたり世界各地の人々の暮らしを撮影することをライフワークにしており、写真集に『大地の花』(東方出版)、『BANEPA』(青弓社)、フォトエッセーに『ゴマの洋品店』(偕成社)、写真絵本に『だいすきなもの』(偕成社)などがある。日本の農家のある風景を写真に収めた『耕す人』(平凡社)はキヤノンギャラリー Sで写真展も開催され好評を博した。
同氏が写真家としての活動をしていく中で、なぜ動画に興味を持ち、CINEMA EOS SYSTEMを使って撮影するようになったのか、その背景や動画に求めているクオリティ、クライアントである星野リゾートで撮影された実際の事例についてお話を伺った。
─ 公文さんが動画を撮影するようになったきっかけを教えてください。
私が師事していた本橋成一さんは写真家であり映画監督でもあって、ポレポレ東中野という映画館のオーナーでもある人なのですが、その本橋さんからずっと「映像を撮れ、写真と同時に映像を撮れ」と言われていました。スチールに集中できないという理由でずっとやらないようにしていたんですが、写真をやっていると「これが動いたらな……」という欲求が常にあったんです。もちろん写真で時間の流れを表現するのはひとつの技術として必要なことなのですが、それだけでは補いきれない動画ならではの魅力があって、動画をやりたいと思いつつその衝動を抑えているというのが正直なところでした。
そんな背景があったので、EOS-1D Xを使って試しに動画をいくつか撮り始めました。ただ、やってみると画を追えるのはいいのですが、その頃はまだLogやRAWという大事な要素が欠けていて、自分の理想としてスチールで実現できていた空気感のようなものが動画で表現することができず、動画への熱は一時ストップしていたんです。
ところがあるときに仲間からLogの存在を知らされて……「撮影後にある程度調整が効くLogこそ、動画には必要だ!」というようなことを言われたんです。その情報を出発点にEOS C300 Mark IIを使い始めたというのが動画に深く関わり始めたきっかけですね。
─ Logの他にEOS C300 Mark IIに求めた機能や性能をお聞かせください。
もともと動画に携わっている方はマニュアルフォーカスが当たり前ですよね。でも、スチールのEOSでスタートしている我々写真の人間はオートフォーカスありきで画作りをしてきているので、AFがどれだけ使えるかというのがとても大きなポイントでした。それと動画に片足を突っ込んだとしても、自分のロケスタイルの規模を大きくはしたくありませんでした。1人もしくは助手を入れて2人でできる規模なら、写真での作品作りのスタイルをそのまま動画に活かせるだろうという目算があって、まずは機材を小さく、取り回しをよくしたいという要望がありました。
EOS C300 Mark IIは問題なくそれらの要望に応えてくれました。スーパー35mm相当のセンサーサイズなので、35mm換算だと画角がおよそ1.53倍になります。つまり人間の目と近い感覚の50mmくらいで動けるというのも使い勝手がよかったですね。
─オートフォーカスはどんな使い方をしていますか?
AF Boost MFとContinuous AFという2つのAF機能を、カメラのフロントにある左右のアサインボタンに振り分けて使っています。具体的な使い方としては、AF Boost MFを使って大まかにピントを合わせておいて、Continuous AFでカメラに被写体を追ってもらい、最後はマニュアルで寄せて微調整するという使い方です。
普段は一眼レフの実像でフォーカス合わせをしているので、モニターでピント合わせする時に正確に合っているかどうか自信がない時にもカメラがアシストしてくれるので安心です。このスタイルでやると構図ありきで動きを捉えていくという自分のやりたい撮影方法と相性が良いですし、昔の中判カメラのように胸元にかかえるかたちで構えるとすごく安定して動けるので手持ちでも上手く操作することができます。
─ 実際にはどんな撮影でEOS C300 Mark IIを使いましたか?
昔から星野リゾートのスチール撮影の一部を担当していたのですが、動画でも少し見せることはできないか、という相談を受けました。そもそも、これは動画で撮った方がいいんじゃないかという場面が多々ありました。もちろん大きな広告などを撮るために動画の専門部隊が入る時もあるのですが、私はミニマムな考え方であくまでスチールの延長として、スチールを撮っているところでそのまま動画も撮ってしまうというスピーディーさが利点のやり方でやらせてもらいました。
規模を小さく、時間をかけないというのはスチール出身者の強みだと思います。
スチールで培った画作りを踏襲する際に、CINEMA EOSに搭載しているLogなら思い通りに仕上げられるので、仕上がりも想像がつきやすいのです。EOS C300 Mark IIが持つ自由度の高い画を残せるというカメラの性能は、スチール的な撮り方をする自分にとって不可欠だと思いました。
─ 星野リゾートの撮影では景色や建物の撮影が多かったのでしょうか。
撮影したのは、星野リゾート 青森屋の敷地内にある古民家レストラン「南部曲屋」という施設です。もともとはエンターテインメント寄りだった施設を上質な空間に改装したので、プレス向けにアピールしたいということで、短い時間でも臨場感を伝えることができるコンセプトムービーの作成依頼を受けました。
その場の空気感が伝わることにフォーカスを絞った動画なので難しい編集もなく、とにかく雰囲気を捉えることが求められました。風景や建物の側面が見えてくるのは面白かったですね。
─ カメラのボディーやボタンレイアウトなどの操作感はいかがでしたか?
スチールでよくEOS-1D X Mark IIを使うのは、ボディーの形状が頭に入っていて暗闇でも動かせるというのが理由の1つにあります。でも動画の場合は写真に比べて設定や確認することが多いですよね。スチールよりもゼブラを確認しなきゃいけないし、フォーカスも状況によって使い分けなきゃいけない。感度も頻繁に変えるし、フィルターを入れたり、シャッタースピードを変えたりもする。だからアサインボタンがたくさん欲しくなるんです。EOS C300 Mark IIは割り当てられるボタンの数がたくさんあって、一つひとつにちゃんと分かりやすく割り当てて自分なりに設定できるというのはすごく大きいポイントだと思いました。また、スチールとメニューの作りが同じであることもメリットのひとつでした。
それと重さも全然気にならないんですよね。そもそも私が機材に軽さを求めていないというのもありますが、中判のデジタルカメラはもっと重いので、EOS C300 Mark IIを持った時は「こんなに軽いの?」という印象でした。
公文健太郎
www.k-kumon.net/
※その後EOS C200を導入して、さらなる映像制作に取り組んでいる。
あとは電池が思ったより長持ちするところもいいですね。CMOSが常に動いているというのを想像すると、毎回バッテリー1本で撮り切れてしまうということに驚いています。ドキュメンタリーの撮影をしていると、そこは本当にポイント高いと思いますよ。
─ Canon Logを使ったメリットや編集時のノウハウなどがあったら教えてください。
スチールの質感を動画で再現できることを知ってもらうために、先に自分で作っておいたトーンカーブを読み込んで現場でクライアントに見せるようにしています。スチールと同じく、トーンカーブを全部自分で調整できるというのはスチールをやっていて良かったなと思いましたね。
それとLogは色だけじゃなく、ダイナミックレンジが広いというのもすごくありがたいです。当たり前ですが、デジタルでスチールを撮る時はハイライトが飛ばないように、フィルムの場合はシャドウがつぶれないように撮っているんですけど、EOS C300 Mark IIならダイナミックレンジも広いので大抵の場合そんな制約を考えるまでもなく撮れてしまっています。
ポスプロはカット編集もグレーディングもすべてDaVinciでやっています。アシスタントの一人が後々役に立つということで編集技術を勉強して、サポートしてくれていますが、スチールと一緒で撮影した時の空気感をプリントの仕上げに反映できるのは自分しかいないので、どんなにソフトが上手に使えても最終的なグレーディングは自分でやっています。LogやRAWで撮ってDaVinci上で一貫してできるというこのワークフローは、スチール出身の自分にとって馴染みやすかったですし、これからやってみようという方にも取り組みやすいやり方だと思います。