2017年6月17日より公開となった水谷豊主演兼初監督作品「TAP -THE LAST SHOW-」。15年以上続くテレビ朝日系列の人気TVドラマ「相棒」で、主人公の杉下右京役を務める人気俳優の水谷豊さんが、40年以上も温めてきたという題材を元に、主演とともに念願の監督デビューを果たした作品だ。伝説のタップダンサーが大ケガを負って第一線から離れるも、タップダンスに魂を燃やし、スポットライトを浴びることを夢見る若者たちを指導者として鼓舞し、ステージで奮闘するまでを追った本作品。人間ドラマが主題の映画作品でありながら、随所にドキュメンタリーに近い演出が施され、特にラスト24分間の圧倒的なタップダンスショウは大きな見どころとなっている。ストーリーとドキュメンタリー、またライブショウの融合である新たなスタイルの映画作品作りに、シネマティックな画作りができ、かつコンパクトで機動力の高いカメラであるEOS C300 Mark IIが全編にわたって使用された。
本作は映画作品でありながら、通常のドラマシーンとライブ映像さながらの迫力あるダンスシーンが混在する。特にラスト24分の圧巻のタップダンスショウのシーン撮影では、東映スタジオ内にショウステージを作り、舞台照明機材をいれて本格的なステージを再現。バックスクリーンにはプロジェクションマッピングによる映像演出が行われるなど、映画撮影用に工夫を凝らした演出がなされた。このシーンでは最大3台のEOS C300 Mark IIが使用され、クレーン、レールドリー、手持ち撮影などさまざまなスタイルでの映像撮影の機動性が求められた。
また、出演するダンサーは役者ではなく、本物のダンサーであったこと、そして監督でありながら主演でもある水谷さんが本番でしか本気の芝居を見せられなかったことから、実際の撮影現場の雰囲気もドキュメンタリーに近かったという。特に高揚感のあった、オーディションシーンでは、「全員だ!」という渡(水谷さん)のセリフで出演者全員が踊り出すのだが、緊迫した本番のみで飛び出した、全く予期していなかったセリフだったので、スタッフ全員も思わず「我々も踊るのか?!」と勘違いしたほど。スタッフも思わず熱くなったという、ある意味で何が起こるか分からない現場では、意図せずともドキュメンタリーに近い機動力と描写力がカメラに求められた。
「水谷監督から、この作品はドキュメンタリータッチで撮りたいという話があり、特にオーディションのシーンは躍動感があるように撮りたいというイメージを聞き、これは大きくて、重たいシネマカメラじゃ撮れないなと思いました。大きなカメラや高額な機材だからいい映像が撮れるというわけじゃないですからね。いかに作品に機材のサイズがあっているかが重要です。EOS C300 Mark IIはEFレンズを付けて小さく手持ちにもなる。その機動性と画質は、今回の作品にとてもマッチしていたと思います」(撮影監督 会田正裕氏)
映画作品の表現では必ずしも解像度が良い事が有利に働くわけではない。すでに素材は4K収録が多い映画撮影の現場において、本作ではあえて2Kで収録されている。
「今回は実は4K収録ではなく2Kで収録しており、ファイルフォーマットもRAWではなくて、普通のXF-AVC/Canon Log 3でカード記録しています。現在の映画の上映環境を考えると、多くが4K上映に対応している訳でもなく、また実際に4K上映であったにしても、その解像度を感じる事ができるのは前列の数席だけだと思います。この作品の撮影で考えていたのは、解像度よりもちょっとレトロな色彩やある種のノイズ感、そして陰影を意識した階調表現が、作品全体の雰囲気を演出するのに非常に効果的だと考えました。さらに2Kであればポストプロダクション作業に余計な負担をかける事もありません。しかもCanon Log 3で記録されていれば2Kであってもカラー表現や階調の幅も担保できます。またデュアルピクセルCMOS AFなどの多彩なAF機能もライブステージの撮影など、さまざまなカットで使用して有効でした。」(撮影監督 会田正裕氏)
EOS C300 Mark IIの使用は、同じ会田氏が長年撮影監督を務める人気TVドラマシリーズ「相棒」でも、2015年のseason14より使われている。近年TVドラマ制作の現場でシネマカメラが使われることは増えて来たが、「相棒」は映像技術の先端を真っ先に取り入れていく制作体制でも有名だ。シネマカメラを使用したその画質の違いは、主演である水谷さんも実感しているという。
「『相棒』がこれだけ長く続いていて、多くの方が見ていて飽きないと言ってくれているその理由の一つに、その画質の進化のおかげというのが確実にあったと思いますね。常に見ている側に新鮮な何かを提供してくれているのです。そういう意味では、(EOS C300 Mark IIにした)効果はとても大きいと思いますね」(水谷さん)
ドラマとドキュメンタリーが混在する「TAP -THE LAST SHOW-」での、カメラの特性を活かした作品作りは、新しい映画のカタチを代表する作品の一つとなるのではないだろうか。