目の前で体験しているまばゆいほどの明かりを鮮やかな色彩で、そのまま表現してくれるHDR映像。日本でも試験放送が開始されている。有料多チャンネル放送のスカパー!ではスカパー!プレミアムサービス契約者を対象にオリジナルの4Kコンテンツを放送。数あるプログラムの中でも人気が高いのは東京の夜景をヘリで空撮した映像だ。このプログラムはこれまでEOS C500で撮影されていて、これ以上のクオリティの映像を撮るのは難しいと言われていた。ヘリコプターで見る空からの東京の夜景を映像で再現するのは容易ではない。地上から三脚を据えて夜景のHDR映像を撮ることはなんとかできるが、空撮でそのクオリティを維持できなかった。実際に撮ってみるとダイナミックレンジが足りず、見た目通りには映らない。 今年11月中旬に行なわれたINTER BEEに合わせて新たに東京の夜景をHDRで撮影するべく、準備を開始。今までにいくつかの4Kカメラで試験撮影していたが、EOS C 500で撮った夜景を超える映像にはならなかった。そこで窓の明かりの色や暗部など、複雑なディテールを残した撮影ができてHDR映像の制作に最適なEOS C700で撮影が行なわれることになった。
パイロットは夜景の空撮に慣れていて、「このエリアは新しいビルが立ち並んでいい画になっている」といった情報も頭に入っている。そこで空撮にあたってどういう画を撮るのかを事前にパイロットと空撮オペレーターに相談する。キラキラしたガラス窓に光る反射を狙いたいとなると、「あの地区のビルが建ち並んでいるところから回り込もう」、「この高さで右から寄っていこう」など、コース上にいくつかポイントを決めておく。EOS C700はヘリ前面に設置、ジャイロ機能が付いていて、右向き左向き、ズームなど遠隔で自在に動かせる。回転や上下に動きのある映像やビルの横や上をカメラで追いながら撮りたいなど、パイロットにどう撮るのかを伝えて、ルートを決めた。
「ヘリにはパイロットと私と空撮オペレーターとVEの4名が乗ります。ヘリのルートや速度はHDモニタを見ながら指示しています。狙った場所に近づくのも、ヘリで寄るのか、レンズで寄るのかその場で判断する必要があるので、乗っていると外を見ている余裕はないですね」(スカパーJSAT 今井豊氏)。
家電メーカーにて映像機器のマーケティングおよび技術企画業務を経て、2009年より現職であるスカパーJSAT 株式会社 多チャンネル事業部門で新規映像サービスの企画業務を担当する。受信機の企画や新規放送技術の導入、3D放送の立ち上げ、4 K放送の検討・立ち上げ、最近ではHDR放送の実施を行う。
─ EOS C700で東京の夜景を空撮する。しかも単なるテストシュートではなく、実際に4KでHDR放送(近日放送予定)を計画するという、発売直前のカメラにとってはかなり難しいシチュエーションだが、実際にどのような印象を持ったのか。今井豊さんに解説してもらった。
今井 ヘリで夜景を撮るというのはかなり条件が厳しくて極端な撮影です。性能の限界を使っています。例えばキラキラと光るビルの明かりと暗く落ちている部分。ハイライトと暗部、ダイナミックレンジの明暗両脇を入れて撮らなければならないので、カメラの性能をごまかす場所がない。多少絞って使おうとすると暗すぎて撮れなくなる。カメラとレンズの素の性能が良くないと撮れない被写体。テストチャートよりも厳しい点光源ばかりですから。
夜景では被写体がごまかせないし、ビルにライトを当てることもできません。EOS C500よりもベース感度が少しだけ下がっていたので心配だったんですが、S/Nも良く充分に光が映っていたし、これならもっと絞って使っても撮れたかもしれません。特に暗部側の表現がいいと感じました。
─ EOS C500で撮った夜景と比較してもきれいになっていましたか。
今井 撮影当日にモニタで画を見た段階で「これはきれいだ、今まで以上だ」というのはすぐにわかりました。VEに信号レベルで確認してもらっても「余裕がある」という話でした。充分なダイナミックレンジを持つEOS C700を選んだのは正しかったと確信しました。ビルの窓の明かりは一見同じように見えて、どれも明るさや色温度が違うのですが、印象通り再現されていました。
EOS C700の映像をモニタで見ながら飛行ルートを指示していきますが、EOS C500で撮影した時よりも映る光が3倍くらい多く感じました。またさらにHDRを採用することで鮮やかで細かなディテールも再現されています。家庭用の4Kテレビでいかにこの雰囲気を残すかですから、編集の段階で忠実に作り込んでも再現できない部分もありますし、逆により多く見せたいところもある。元がちゃんと撮れていれば当然ですが編集での自由度は上がります。その映像を階調のどこに乗せてどうやって見せるか考える上でもダイナミックレンジが広くてすべて映していてくれるカメラは助かりますね。
デジタルでの制作はレンズとセンサー、ポストプロダクションとの組み合せでどういう画が撮れるのかを考えながら、というのが一番大事だと思っています。今回のEOS C700の売りはセンサーだと思いますが、センサーの性能は数値だけではわからないものです。機能やスペックだけではなくて、そのカメラ/センサーで何がどのように表現されるのかが最も重要なことだと改めて認識しました。
EOS C700で養老の瀧や木更津の夕陽も撮りに行きました。やはり階調にしても色域にしても申し分なかった。このセンサーがEOS C500から向上したことはすごいなと思います。
─ 4K画質の面でも満足していますか。
今井 画質の総合点はかなり高いと思います。EOS C500は暗部のノイズが少なかったのでライブの収録などでも使っていました。EOS C700はより低ノイズですからそういう使い方もできると思いますし、ロケなどテレビ番組制作用の4 Kカメラとしても充分に使えるカメラだと思います。
15STOPがそのまま使えるのも信頼できます。15STOPと書いてあってもノイズだらけでは使いにくいし、理論上ではなく、実際には表記通りに使えない場合もあるものもありましたし、ポストプロダクションで苦労しながら調整してやっと使えるということではなく、EOS C700はほぼ記載通りなので安心して使えます。暗部に残るノイズも編集で消しやすいので、扱いやすいですね。
─今後の展開などをお聞かせください。
今井 スカパー!では今年10月からHDR放送を体験チャンネルで開始しており、現在は15本ほどのHDR番組を準備しています。来春にはHDR対応の4K中継車も完成しますので、今後はHDR放送をより積極的に増やしていこうと計画しています。
HDR放送は視聴者の期待はもちろんですが、制作側にも今まで諦めていたような厳しい条件のロケ撮影への期待とか、舞台など演出家の意図を映像にどう落とし込むかという時の解決策になると思いますので、EOS C700のようにダイナミックレンジの広いトータル的に画質性能の良いカメラがこれからますます求められて、活躍できるだろうと期待しています。