駿河台大学メディア情報学部では、EOS 5D Mark Ⅱを活用して、実習・演習や専門ゼミを通じて学生に映像制作の基礎を学ばせてきました。 2012年に、CINEMA EOS SYSTEM EOS-1D Cを導入して、学生に4K制作を体験できる機会を設けました。さらに2014年春には、機材をEOS 5D Mark Ⅲへと変更するとともに、新たにCINEMA EOS SYSTEM EOS C300を1台追加導入しました。文科系大学で業務用機器を活用しながら、映像制作を学ばせることの狙いとは。
(右)斎賀和彦さん(駿河台大学メディア情報学部教授)
(左)高野光太郎さん(駿河台大学メディア情報学部非常勤講師、Cosaelu株式会社 代表取締役)
現在、メディア情報学部の映像・音響メディアコースで、「映像ストーリー論」「プリプロダクション演習」「ポストプロダクション演習」「デジタルフォト実習」のほか、2年次の専門基礎ゼミや3・4年次の専門発展ゼミを担当しています。ゼミでは、EOS 5D Mark Ⅲ、 EOS-1D C、EOS C300を活用して、短編ドラマ制作を行なっています。現在、ゼミの卒業生の半数が、ポストプロダクションに入ったりADとして現場に入ったり、役者になったりと、映像に関連する仕事に就いています。
よく文科系私立大学で映像の授業を?と尋ねられますが、もともと駿河台大学には図書館、文書館、博物館の情報を総合的に学ぶことができる文化情報学部がありました。それらの社会情報学分野に映像制作やデザインの分野を加えて、2009年度にメディア情報学部に改組したのです。
駿河台大学には、業務用HDVカムコーダーやメモリーカムコーダーなどを活用できる映像収録スタジオもあったのですが、それをよりいっそう活用することを考えました。改組する前年の2008年、学部準備段階からカリキュラムと機材および演習室構成に関わったのですが、その頃、キヤノンのデジタル一眼レフEOS 5D Mark Ⅱが発売になり、映像業界的にも動画撮影にデジタル一眼レフを活用する流れができて来ました。そこで、メディア情報学部での授業スケジュールを作るにあたり、まず最初に半分の機材をEOS 5D Mark Ⅱにリプレイスしました。そして2014年度からEOS 5D Mark Ⅲを標準機材として導入しました。
2009年にいち早くEOS 5D Mark Ⅱを導入したのは、学生に映像制作の企画、撮影、編集を経て完パケを作るワークフローを体験させるのに、通常のビデオカメラでは画を工夫できる幅が狭いと感じていたからです。35mmフルサイズのEOS 5D Mark Ⅱを使うと、しっかり絞りをコントロールしないと必要以上にぼけたり、浅い絞りでは必要な部分にフォーカスが合わなかったり甘くなったりします。こうしたシビアな調整は、イメージセンサーが小さく開放F値も暗くてパンフォーカス的なビデオカメラとは異なり、学生が絞りとフォーカスの関係を体感しながら画作りを学べるという利点がありますね。
大学の90分授業×15回で教えられることも限られていますし、私が担当している授業を選択する半数の学生は、映像業界に入ることを強く意識してというよりもむしろ、卒業要件を構成する単位のひとつとして選択しています。教育機関である以上、これは避けられないことです。ですから、とくにゼミに関しては学生を本気にさせ、火を点けるための場でありたいと思って取り組んでいます。まず大学として通常の授業があります。つぎに専門の授業があります。とくに一部の専門の授業ではプロの制作現場の第一線で働いている人に非常勤講師として加わってもらい、最新の情報と現場の空気感を持ち込んでもらっています。そこでは、EOS-1D CやEOS C300という業務用機材も使用します。さらに、斎賀ゼミでは、学生の有志を募って、大学の休み期間にスタッフとして制作の実務に関わらせます。このような3段階の取り組みにしています。プロの現場の人がいて、業務用器材を使えるということは、学生を本気にさせるために重要な要素ですね。
斎賀ゼミでは、3年生は強制的に分けられたグループで、お互いの意見を擦り合わせながら共同で制作を行なっていきます。相手の意見を取り入れたり、説明を繰り返しながら説得したりするなかで、お互いにスムースにいくことも険悪になることも出て来ますが、そうして1年間に何本かの作品を仕上げます。4年生になると各自の作品をプロデュース/ディレクションしながら、互いの制作に協力しながら仕上げていきます。この時に3年生の時のグループ制作でやってきた経験が生きるんです。「意見は合わないけど、撮影はこの人が巧いから頼みたい」「自分は脚本は書けるけど、演出部分はこの人にやらせたい」という、本来の映像制作のスタイルが身に付いて来ます。
夏休みや春休みに行なう制作は、大学の授業を離れた課外活動です。私がヘッドになって、有志の学生がスタッフとして加わり、2013年はEOS-1D CでCanon Log収録をしながら10分ほどのショートムービー制作に取り組ませました。今年はEOS C300も活用できますね。その現場では、学生は一スタッフとして、スケジュール調整から機材の設置や片づけ、弁当の手配まで関わります。最終的に映像業界に入るか一般企業に就職するのかは、それぞれの学生次第の選択ではありますが、どの分野においても意見の違う人とも関わりながら、共同で取り組むことは社会の基本だと思います。授業や課外活動を通して共同制作をするなかで、何か総合的に身につけられることがあれば良いなと。一般大学で映像の専門教育を行う意味は、そこにもあると思っています。
メディア情報学部ができた初年度は、HDVカムコーダーとEOS 5D Mark Ⅱを使っていました。ビデオカメラにはビデオカメラの良さがあるんですが、EOS 5D Mark Ⅱの表現力や画の強さがあることもあって、学生はEOS 5D Mark Ⅱしか使わなくなってしまうのです。ワークフロー的にもビデオカメラとEOS 5D Mark Ⅱとでは分断されてしまうという反省もありました。そこで、CINEMA EOS SYSTEMの画の良さを活用できないかと検討を始め、EOS-1D Cを2012年に導入しました。4K解像度での制作を見据えなければならないと感じたからです。そこで、学生が充分に活用できる業務用機材であり、4K収録が可能な機材を検討したところ、使い慣れたEOS 5D Mark Ⅱの操作感を生かしながら、高精細な4K解像度での制作を体験させる機材としてEOS-1D Cの導入を決めました。2014年度からEOS 5D Mark ⅡをMark Ⅲへと機材変更しましたが、豊富なEFレンズを共用できるだけでなく、EOS 5D Mark ⅢにはないCanon Log収録に対応しているので、必要な時にはカラーグレーディングも体験させることができます。教育において、必要な時に使える機能があるということは大きなメリットで、コストパフォーマンスに優れた機材だと思います。また、学生が映像制作を行う際も機材を言い訳にせず、本気で制作に取り組むことが可能になりました。
2014年度になってEOS C300を導入しましたが、ずいぶん悩みました。最初はEOS-1D Cを増やすことも検討しました。しかし、学生の制作スタイルを考えた時に、さまざまな撮影方法を学ぶことも重要だと考え、立ち位置の違うEOS C100、EOS C300、EOS C500および他社製シネマカメラに絞って検討しました。EOS C500では、4K収録に対応させるためには外部収録機器が必要になり、学生が扱うのはオーバースペックで難しいと感じました。学生に外部収録の方法を教えるのは大学の役目ではありません。結果として、バランスのとれたEOS C300を導入することにしました。EOS C300はフルHD収録機ですが、4K収録対応カメラではないことは問題にはなりませんでした。EOS-1D Cの導入から1年余りが経ちましたが、未だにすべての学生が4K制作を必要とする状況にはありません。4Kが必要な時にEOS-1D Cを活用すれば充分と考えています。EOS C300は、EOS-1DCやEOS 5D Mark Ⅲのように1人でも扱えてしまう機材とは異なり、撮影クルーが必要になる機材です。学生には、制作ワークフローの理解や共同制作を通して、チームとして映像制作をしていくこと学んでもらいたいですね。
2011年度から3年生・4年生の「デジタル制作演習Ⅱ」「映像演出論」という春学期選択科目を担当するようになって、4年目になります。大学は職業訓練校ではないので、現場でカメラマンに怒られないようにEOS C300を問題なく使いこなせるようにする教育では意味がありません。むしろ、使い方は間違っていたとしても、作品として面白いものを制作して欲しいんです。芸術系大学でも専門学校でもないので、そこに通う学生とは立ち位置が異なります。単に映像が好きというだけで入って来た文科系の学生が中心ですから、3年生以降の専門の2年間で、卒業後に映像業界に関わりたいと、どう本気にさせるかが重要ですね。
僕らの仕事と学生との大きな違いは、僕らはクライアントから何々を撮ってくださいという前提があって、予算をもらって制作を行なっているということです。学生は、何を撮ってもいいけれども、全く予算はありません。ただ、一生のうちで自由に撮ってもいいと言われて制作できるのは、学生時代しかないのではないでしょうか。アイデアも自分たちで出さなければならないし、実際に撮ってみなければならないし、工夫しながら制作をしなければなりらないので、おそらく制作としては一番苦しい状態です。そのなかで、実際に業務で使われている機材であるEOS 5D Mark Ⅲ、EOS-1D C、EOS C300をはじめ、各種EFレンズや、ジブアーム、スライダー、クロマキーのスタジオまで活用できることは、学生が本気を出さなければもったいない環境にあるとも言えますね。実は、大学で扱う機材が民生のビデオカメラだったりすると、学生は表現できないことの言い訳として機材を理由にしたりします。
その点、僕らも実際に制作に活用している機材を揃えていますので、機材を言い訳には出来ないのです。学生は予算はないぶん努力するしかないですけれども、そのなかで学生のうちに何か1本を制作することができたら、仕事として制作をやっていけるスキルが身に付いているのではないかと思っています。
EOS-1D C、EOS C300の利点の一つは、Canon Log収録ができることですね。コンポジットが必要なシーンを撮影しようと思ったら、いかにきれいなデータを収録するかにかかってきます。プロの制作現場では、合成用に撮影されたデータしか渡されませんし、そのデータからより良く仕上げていくことが求められます。汚いデータでコンポジットを練習してもプロにはなれません。EOS-1D C、EOS C300のポテンシャルは高く、コンポジット時に必要なクオリティを満たしたデータを収録できます。
もっとも、学生の間にVFXを多用するような制作はほとんどないと思いますが、学生から人物と背景をうまく合成できないかと相談を受けたことがありました。その時は、大学にあるグリーンバックスタジオを活用して、背景とは別にグリーンバックで人物の撮影をしてコンポジットするようにアドバイスしました。ただ、それ以上のコンポジット技術に時間を費やすのであれば、基本的な撮影をしっかりできるように時間を使った方が良いとは思います。
必要な時に撮れる機材や撮影環境があるということは、学生を言い訳に逃げさせずに、本気で制作に取り組まなければならないようにするためにも重要ですね。