今回のGLAY『Bible』のミュージッククリップでは、アクセントとしてカラーの場面を使用するほかは、全体をモノクロームで仕上げたいと決めていました。GLAYは、ビジュアルロックバンドの代表的な存在ですから、格好良くないといけません。モノクロームのポートレート写真には味があって、格好良いじゃないですか。年齢を重ねたミュージシャンもスーツを着るようになってくるので、モノクロームが似合ってくるんですよ。GLAYは男性のバンドですから、黒を締めて、シャドウを活かしてシャープ感を演出した方が、より格好良く表現できると思いました。EOS C300のダイナミックレンジにより、豊かなモノクローム表現ができました。
ミュージッククリップを作るにあたり、仮歌の入った楽曲を元にどういう映像にしようかと考えているうちに、「子供など登場人物が多いものがいい」「コーラスを生で入れたい」という要望があったので、GLAYのミニチュアバンドを作ろうと考えバンドを結成しました。
ミュージッククリップでは、このミニチュアバンドの演奏のほかに、2つのストーリーが同時進行します。老夫婦がいて、お爺さんがスティックを渡されて、やっと叩き始めて、楽しい表情を見せていくストーリーと、ちょっと落ち込んでいる女子学生が、みんなに励まされてだんだん元気になっていくストーリー。これらが重なっていき、最後にコーラスへとつながっていきます。楽曲の『Bible』はCDオリジナルのものではなく、コーラスが入るように最後を変えたものを使っています。
撮影は、スタジオの演奏と、学校と野外のロケで各1日、2日間で終えました。自分自身で監督とカメラマンを兼任していましたが、EOS C300の機動性もあって、なんとか撮り終えることができました。映画やCMのように撮影に時間をかけられるのであれば、シャッタースピードやアイリス、フォーカスなどを厳密にしっかり調整して、42型以上のモニターでフォーカスを確認しながら撮影します。しかし、自然撮影やミュージッククリップの場合は低予算でスタッフの人数も限られますし、その場、その時にしか撮れないものがあり、その瞬間を撮り逃すくらいならフォーカスを合わせて撮ってしまった方がいい場合も多いんです。また、撮影中は、シーンを再生して確認することもしません。プレビューして確認する時間があるなら、もう1テイク撮っておきます。この点は、フィルム撮影をひきずっている撮影スタイルなのかもしれませんね。
EOS C300で撮った映像はきれいすぎるくらいで、50MbpsのCanon XFで必要十分なクオリティですね。1コマずつ確認して見ると、ものすごく良く映っています。映り過ぎているぶん、せっかくの映像を汚すようですが、役者のニキビなどを消すためにカラーグレーディングを変更して、ガンマも調整して肌を飛ばしつつ、白トビを抑えるような作業を行いました。
最近の映像系の学生はフィルムで撮ることを知らない世代ですが、彼らに16mmや35mmのフィルム映像を見せると、フィルムグレインノイズが分からずに「ザラザラしていて汚い」と言うんです。デジタル撮影が一般的になり、大判イメージセンサーも利用できるようになって、背景の大きなボケをもったきれいな映像が当たり前になりました。EOS C300は、通常のカムコーダーとは異なり、撮影後にカラーグレーディングが必要になるクリエイティブなカメラです。しかし、電源を入れてすぐに撮影が始められるEOS C300の機動性とCanon Logのダイナミックレンジの広さは、時間の限られた撮影現場においても大きなアドバンテージになると思います。
『Bible』ミュージッククリップはすべての作業をFinal Cut Proで行いました。撮影後、すべてのカットのルックを作りながらProRes 422(HQ)コーデックにトランスコードし、そこから編集しています。GLAYの4人のメンバーそれぞれに、寄り映像と全身の引き映像があり、さらに楽器を強調した斜めからのドリーショットが加わって4レイヤーありますから、これで16レイヤー。さらにメンバー全員や2人がフレームに入るショットや、ミニGLAYの学生の演奏シーンが積み上げられ、回想シーンやコーラスシーンなども加わり、最終的に74レイヤーにもなりました。そこで、16レイヤーごとにマルチカメラクリップを作成して編集しました。
このマルチカメラクリップから、GLAYメンバーのTAKUROを中心に美味しいところを集めたクリップを作り、さらに他のメンバー、TERU、HISASHI、JIROのベストクリップを作り、それらを組み合せればGLAYのベストクリップができあがるというわけです。74レイヤーもある映像を組み合せていると、このショットはどうしても欲しいというベストカットが分かりにくくなりますから、そのカットはサブクリップを作成して75レイヤー以降にコピーして配置し、分かりやすくしながら作業しました。
映画ですと、多くても10テイクくらいで、その中でOKカットに迷っても2テイクくらい。基本的にOKテイクしか使わないですし、シナリオもあるので編集自体はシンプルになります。しかし、ミュージックビデオの場合は、基本的に全部のカットを使って、楽曲の4分間にどこを切り取って表現していくかです。2秒の演奏を1秒10フレームにして、残りをロケ映像にしようとか。楽曲の変わり目にメンバー映像を使うなら、1人だけ目立ちすぎないようにグループショットにしようとか。どうしてもレイヤーが増えてしまうのですが、RAIDディスクを組んだMac Pro環境で十分に作業することができました。
昨年、EOS 5D Mark IIやEOS 7Dで撮影していて、このコンパクトさを生かしつつ、もっと色をコントロールできるカメラが欲しいと思っていたところにEOS C300が登場したので、とても嬉しかったです。GLAY『Bible』ミュージッククリップを撮影することになった時、まずEOS C300で撮りたいと思いました。『Bible』の撮影後、その表現力に魅せられ、自然を撮影してみようと思い立ち、桜のある風景を撮ってきました。長野県・高遠、東京・千鳥ヶ淵、福島の3カ所で撮りましたが、EOS C300の映像はすごく素直で、スッキリとした表現ながらも、本当によく映っています。これはMPEG2 50MbpsとEFレンズの2つの性能の組み合せがバランスが取れているからからでしょうね。
EOS C300は本当に色が豊かで、桜の薄いピンク色を再現するのに、クロマを最高にしてもまだ色が足りない感じでしたので、中間調を補正して赤やピンクの色作りをしました。この方法だと、ディスプレイによっては全体が紫がかったりするので、さらにクロマを補正して再現しています。実は、映像を撮ったときの色を参考に記録しておくために、現場でEOS 5D Mark IIを使って風景写真を撮っておきました。Canon Logはコントラストが低く、若干暗い映像で撮影されるので、記憶色とでも言いますか、記憶からどんな色だったのかを呼び覚ますのには、写真は有効でしたね。現在は、Final Cut Pro 7のカラーコレクションを使って色作りをしているので、ロングショットで似たような色が複数混在している部分は色の表現に苦労しましたが、アップのショットはまったく問題なく、とても自然な仕上がりになりました。
EOS C300はデジタルシネマカメラであり、フィルム撮影のように、ネガからテレシネしてから色作りを行うという、以前のワークフローに戻ってしまうような部分もあります。しかし、プロの映像制作者として考えると、それもまた必要なことではないかとも思えます。製作予算がある場合にはカラーリストと一緒にカラーグレーディングツールなどでもっと厳密に色を追い込んでいけるでしょうし、自分でもしっかりとルックが作れるソフトが欲しくなりました。EOS C300は、それだけポテンシャルがあるカメラですね。