今回の撮影は、キヤノンの新しいビデオカメラiVISのテレビCMでした。運動会のシーンをほとんどスタジオで撮っているんですが、スタジオ撮影には見えない仕上がりになっていると思いますよ。オンエアを見ていただければわかります。
機材はEOS C300とEFレンズを主体に、EFシネマレンズの14.5-60mmズームをワンカットに使用しました。
使ってみた率直な印象は、"印象がない凄さ"ですね。私はこれまでも新製品のビデオカメラを使ったときは、どのメーカーでも、欠点が印象として強く残ってしまうんです。新しい製品って、ファイルにトラブルがある、データが落ちる、電源が落ちる、アクセサリーが不十分などなど、とにかく気になることが多いんですよね。僕の経験で言うと、ですが。
だけどEOS C300は、ファイルの取り扱いにストレスは感じないし、電気系統も問題がない。カメラの取り回し良い。しかもこの(コンパクト)サイズでしょう。つまり、CINEMA EOS SYSTEMはネガティブな印象が残らなかった。悪いところが出てこないんですよ。言い方を換えれば、新製品なのに非常に完成度の高い製品だと思います。
僕は何年もフィルムカメラを使っているんですが、EOS C300とEFレンズの組み合せで撮った映像は、まさにフィルムの色合いと同じだったんです。何とも言えない柔らかな色味が美しくて好きです。しかも、EFレンズならではのきれいな画づくりができることも実感しました。
このカメラの用途は幅広いと思いますが、ドキュメンタリーの撮影などには強力な一台だと思います。こんなにコンパクトなのに、録音も含めパッケージングされているし、データはコンパクトフラッシュに収録できる。ヨーロッパやアメリカで撮影しても、その国でコンパクトフラッシュは買えますからね。それに、圧縮も非常に上手なので、ホテルに戻ってノートブックで展開、なんてこともできるでしょう。
EFレンズが使えるっていうのも、強みですね。たとえば自主制作で作品を撮る場合、レンズのコストも負担になる。EFレンズだったら、自前で持っていたりするし、シネマ用のレンズに比べてレンタル費も安いですから。それに、僕がEFレンズの画が柔らかくて好き、というのもあります。
新しいカメラが出てくると、実は編集の現場は困るんですよ。基本、扱ったことのないデータなので。データが重すぎるという問題はしばしばあります。でも、EOS C300はそういう話題がまったく出なかったですね。すごい扱いやすいデータですよ。先ほども話しましたが、自分のノートパソコンでも編集できるのに、画質も良いわけですから。
新しい撮影の仕事があると、カメラはだいたい僕が選びます。監督からフィルムで撮ってねと言われることもあるけど。機材を選ぶ立場からしても、EOS C300は、上位にくる感じですね。
今回の撮影現場ではEOS C300を最大3台を使用したのですが、収録段階のワークフローの構築/運用を当社で行いました。Canon Log収録をしたのは初めてだったのですが、当社が担当している最近のCMはLog収録が主流になっており、EOS C300も全く違和感なく使用することができました。
Log収録はフィルム撮影に近いので、これまでのビデオ撮影のように撮影現場にVE(ビデオエンジニア)が入って作業するのではなく、Logデータを使ってカラーグレーディングを行った段階で色が決まることになります。今回の監督は、フィルム経験も豊富であり、色を作るのは撮影後ということを理解されていたので、撮影はスムーズに行えました。
Canon Logに限らず、Log収録をすると中間調ばかりの映像が出力されるため、これまでのビデオ出力映像に慣れた人にとっては、違和感のあるプレビュー映像となります。そこで、プラックマジックデザインのHDLinkを使用してViewing LUT(ビューイング ルックアップテーブル)を適用し、これをカメラプレビューとクライアント用モニタとして利用しています。
今回の撮影は、運動会の様子を捉えたものですが、青空を背景にしたクレーンのシーン以外は、すべてスタジオで収録しています。クレーンのシーンは、3台のクレーンがあるように見えますが、実際は3カットを収録して合成しています。撮影現場で、LUTを当てたプレビュー映像を活用して簡易合成を行い、このシーンの合成確認を行っています。
また、撮影監督を務めた梅根秀平さんは、カメラだけでなく照明も自分でコントロールするスタイルで撮影します。梅根さん自身が、照明責任者であるガファー(照明技師)に指示を出して、監督の意図する演出に合わせて照明環境を作り上げていきます。Canon Log収録は、ダイナミックレンジが広く、ハイライトから暗部までしっかり使える映像なので、ライティングも階調が広く使えるよう気を遣いました。Viewing LUTを適用したモニターとは別に、ハイライトが飛ぶか飛ばないか、暗部がつぶれないかどうかを確認するのは、露出計を使用しました。
Log撮影時のプレビュースタイルは、今回のようにLUTを用いることもありますし、朋栄マルチパーパスシグナルプロセッサFA-9500などを使って簡易的に確認する場合や、ハイライトと暗部の状態が分かればよいと割り切ってLog映像だけを見る場合など、撮影現場によってさまざまなプレビュー方法があります。いずれの方法もLog撮影のスタイルとしては一般的なもので、EOS C300用に特別にワークフローを変更することはありませんでした。新しいカメラが登場すると、そのカメラ用にワークフローを合わせる必要が生じることも多いのですが、EOS C300の場合は既存のワークフローをそのまま使えるのは、大きな強みだと思います。
今回の収録はCanon Logを適用したMPEG2 50MbpsのMXFフォーマットをコンパクトフラッシュに記録。これをマスターとして利用しています。撮影現場には、アップルのFinal Cut Proを持ち込み、CFカードに収録した素材をCanon XFからProRes 422(HQ)にトランスコードしました。これは、カラーグレーディングに利用するブラックマジックデザインDaVinci ResolveのLinux版が、MXFファイルを読めない可能性があったためです。作業効率を考えると、撮影段階であらかじめProRes 422(HQ)にトランスコードしておく必要があると考えました。最終的に、DaVinci ResolveのMac版を使用したためMXFファイルは問題なく読み込めたので、トランスコードしたProRes 422(HQ)を利用することはありませんでした。
Final Cut Proでは、コンパクトフラッシュの元素材から、オフライン編集用にタイムコード同期したベータカムテープも作成しました。アビッドのMedia Composerでオフライン編集をするのは、ProRes 422(HQ)を使うよりもデータが軽く扱えるためです。Media Composerのオフライン編集をもとに、ブラックマジックデザインのDaVinci Resolveで必要な素材のカラーグレーディングを行い、HDCAM SRに書き出し、最終的にオートデスクのFlameでフィニッシングをしています。
今回は本線の素材をコンパクトフラッシュだけで収録しました。コストパフォーマンスの良いEOS C300だからこそ、コンパクトフラッシュを利用しない手はないと思います。SDI出力を利用してHDCAM SRに外部収録をするほどの制作予算があるのであれば、カメラの選択自体も変わってきてしまいますし。実際にCM撮影をしてみましたが、MXFのラッピング方法も一般的ですし、Log収録した50MbpsのCanon XFコーデックは取り扱いもしやすく、品質も満足いくもので、十分に実用できると感じました。
システム図にあるパナソニック社製P2レコーダーは、本線ではなく、現場での合成確認用として、Viewing LUTを適用したSDI出力映像を収録しています。これによりカメラを再生モードに変えることなくプレイパックを可能としています。
EOS C300の撮影はEFレンズを使用できるので、レンズを含めたコストパフォーマンスが良いことも魅力ですね。これまで、EFレンズを使用してEOS 5D mark IIやEOS 7Dといったデジタル一眼でCM撮影をしていたときに感じたのは、映像はきれいに撮れるんだけれども、編集段階で別収録した音声を合わせ込む必要があってスムースなワークフローが構築できないということ。CM撮影は、音声を同時収録しないものの方が少ないくらいなので、タイムコード同期させたサウンドを入力できるEOS C300の登場で、格段に作業性が向上しました。
今回は、ミキサーにTCを送り、録音部にてTC同期の取れた物を収録してもらうと同時に、XLRにてC300ににも収録しています。これが可能になったことで、Canon Log収録をしないCM撮影においても、EOS C300が利用されていくのではないかと思います。