WHY NOT Canon?
2020.7月 石川幸宏(HOTSHOT編集長/映像ジャーナリスト)
今からちょうど12年前の2008年夏、突然ネット上にアップされた1つのムービー作品が、世界の映像プロフェッショナルを震撼させた。
ピューリッツァー賞受賞のカメラマン、Vincent Laforet(ヴィンセント・ラフォーレ)氏が、キヤノンの最新デジタル一眼レフカメラ、EOS 5D Mark IIの動画機能を使ってニューヨークで撮影したショートクリップだ。
35mmフルサイズセンサーの浅い被写界深度(DoF/ Depth of Field)を使って演出されたダイナミックで魅力的な描写、鮮やかな写真画質がそのまま動き出した上品な質感とクリアなスキントーン。そのどれもが、それまでのフィルムやビデオカメラで撮られてきた映像とは明らかに違う、まさにワンランク上の質感がそこにあった。
当時のデジタルビデオカメラはまだまだセンサーサイズが小さく、フィルムカメラで撮った時のような浅い被写界深度を得ることができなかった。そこでDoFアダプターなどを駆使して、擬似的に浅い深度を作ったりすることで、いわゆるシネマ的な描写にチャレンジしていた。そんな中に登場したのがEOS 5D Mark IIの画期的な映像だったのだ。
その後、多くのプロがこの映像スタイルを追い求め、デジタル一眼レフカメラでできるなら、自分にも撮れる!と、ここから多くの映像クリエイターが誕生した。まさにデジタル一眼レフカメラによる映像革命が一気に進んだのである。
もちろんEOS 5D Mark IIが起こしたこの映像革命は、瞬く間に世界中のプロフェッショナルに広がり、元々映画系カメラマンの間でも愛用者が多かったEOSとEFレンズの普及もあって、ハリウッドを中心とした世界のフィルムメーカーが、キヤノンの映像描写とその技術へ着目。さらには世界中から多くのプロ目線の注文(!)が寄せられた。やがて、それは『シネマカメラ』という新たな一つのカメラ様式を生み出すことになる。
2011年11月、CINEMA EOS 誕生
CINEMA EOS SYSTEMは、EFマウントのレンズ交換式カメラでありながら、当時主流の4:2:2 8bitの業務用ビデオカメラの基本性能に加えて、『Canon Log』という、これまでにない概念の機能をカメラ本体に備えた。これが、ポストプロダクション(後処理工程)での画像処理を意識した機能をカメラ本体へ搭載する、現在の「シネマカメラ」の言わば原型となる。
初号機のEOS C300は、ビデオカメラの手軽さとデジタルスチルカメラの高画質、そしてシネマ領域で活躍する更なる機能が同梱されたコンセプトで、これも瞬く間に全世界の映像プロフェッショナルの中に信奉者を獲得、HD画質でありながら現在でもその愛用者は多く、名機とされている。
以後、様々なメーカーが、シネマカメラとデジタル一眼ムービーの世界に参画するが、そのきっかけになったのも、その多くがこれらキヤノンプロダクトからの影響だと言っても過言ではないだろう。
プロフェッショナルが寄せる信頼とは?
特に映像系のプロフェッショナルも認めている、これまで語られて来たキヤノンのカメラ製品の信頼のポイントを挙げてみよう。
- ・人物撮影を数多くこなしてきたEOSの歴史から導き出された、スキントーン重視のカラー特性
- ・機種別や個体差別の少ない、ほぼ傾向が統一されたキヤノンカラー
- ・スイッチを入れればすぐに起動できる、シューティングチャンスを逃さない機動力
- ・現場で最も重要なフォーカス合わせに対応した優秀なAF機能(デュアルピクセルCMOS AF)
- ・映像表現とその演出に必要なダイナミックレンジを確保し、ポストプロダクションでのカラー調整を有利にするCanon Log
- ・レンズにおける色収差を軽減する蛍石やUDレンズなどに代表される光学技術
- ・フィルム時代から継承される映画用カメラと同じ、レンズのズーム回転方向
等々…
技術的な部分では長年カメラメーカーとして、またレンズメーカーとしての経験値が最大限に活かされた部分こそが、世界の映像プロに認められているのは言うまでもない。
しかし、最も重要な決め手となっているのはこの機能面、技術面を包括した際の、カメラ製品に対する、カメラメーカーとしての一貫した信頼性という意見が多いのである。
これまでもスチルカメラの世界では、たとえばオリンピックの現場では報道プロ向けにEFレンズの貸し出しやカメラのメンテナンスセンターを設置するなど、ワールドワイドでプロサポートを行なってきたのも、キヤノンならではのプロフェッショナルへのサポート体制への拘りだ。
そして、これは映像の世界でも同じ。例えばハリウッドの現場は、まず映像に対する保証が最大限に重要視される。もしロケ現場でカメラが壊れた時、映像が撮れない、データがダメになったなどで、大きな訴訟問題に発展するケースも多いからだ。
だから現場では、最も壊れにくくて製品ブレのないカメラが信用され、好まれる。
その意味では現在、ハリウッドの多くの機材レンタルショップがCINEMA EOSやEOSを扱っているし、たとえ現場で壊れても、同機種の代替え機との個体差や機能差がなく、機種が多少違っても撮れる映像品質やカラー傾向もいつも同じで安定している。そしてそのどれもが世界に1億4千万本もあるEFマウントレンズに対応している安心感。
この安定した機材供給とサポートへの信頼という一貫性が、まさに世界のプロフェッショナルがプロの道具として認められ、キヤノンに寄せられている信頼の証である。
そして2020年。まさに次の時代に入った。
コロナウイルス感染拡大という未曾有の天災が地球規模で降り注ぎ、映像制作のリテラシーもまた大きな変革を強いられている。それは考え方も方向性もこれまでとは全く異なる、おそらく別次元の様相になるだろう。
特に制作系においては、大人数のロケ撮影やスタジオワークがしにくくなる傾向はすでに現れている。これからはドキュメンタリータッチの作品を中心に、ワンマンオペレーションや少数精鋭で行う撮影スタイルが世界中で強いられる中、その中で確実なプロとしての映像を獲得しなければならなくなるのだ。
だからこそキヤノンがこれまで培ってきた技術、浸透した一貫した信頼性を礎に、EOS、そしてCINEMA EOSの活躍の場が、今後ますます拡がるだろうと予測する。