社会インフラ構造物の定期点検における対応策とは?
公開日:2024年12月20日
豊かな社会や人々の暮らしに欠かせない橋梁やトンネルといった社会インフラ。日々、全国各地で多くの交通量がある中、それらの構造物に欠陥があれば重大な事故につながる恐れがあるため、近年では適切な点検による安全管理の重要性が叫ばれています。しかし、実際に点検を行う際、さまざまな課題が指摘されているのも事実です。
そこで本コラムでは、自治体や関係各所の方々向けに、インフラ構造物の点検における対応策や取り巻く環境、将来の見通しなどについて解説します。今後の事業活動に、ぜひ参考にしてみてください。
インフラ構造物の点検の重要性と背景
1960年代以降の高度経済成長期、日本では流通網の拡充と生活の質向上をめざして、高速道路(橋梁やトンネル含む)をはじめとした社会インフラの建設ラッシュが起きました。それから60年以上が経過した今、経年劣化によるインフラ構造物の老朽化が社会的な課題となっています。
その発端となった出来事の一つが、2012年に山梨県で発生した「笹子トンネル天井板落下事故」です。日本の高速道路における事故としては、過去最悪の被害を招き、各メディアで大きく報道されました。これを背景に橋梁やトンネルといったインフラ構造物の適切な点検による安全確保が議論されるようなり、現在に至るまで国を挙げての対策が講じられています。
近接目視によるインフラ構造物の定期点検義務化
インフラ構造物の老朽化による事故を未然に防ぎ、適切に保全管理していくことを目的に、国土交通省は2014年7月からすべてのトンネルや2m以上の橋梁などを5年に1回、近接目視で定期点検することを義務化しました。
近接目視とは、土木技術者が点検対象物を間近で見て、コンクリートの亀裂やひび割れ、腐食、剥離といった変状の有無や劣化の度合いを確認することを指し、その記録内容に基づいて深刻な箇所から優先的に補修が行われるのが一般的な流れです。
近接目視による点検の課題
近接目視は、長年にわたる個人の経験で培われた熟練技術者のスキルと五感に頼る点検方法で、これまで建設業界において重要な役割を果たしてきました。しかし、近年では近接目視による点検において、次のような課題も指摘されています。
人材不足と技術継承の難しさ
現場の中核を担っていた熟練技術者の高齢化に加え、少子化による人材不足が深刻化しています。また、近接目視は経験に基づいた属人的な技術のため、継承が困難で若手の育成が進んでいないのが現状です。
点検の質のばらつき
個人の経験や技能のほか、担当者の体調などにも左右されやすく、点検結果にばらつきが生じる可能性があることが懸念されています。
安全面への配慮
トンネルや橋梁は大型構造物のため、点検おいては高所や狭い箇所など、危険な場所での作業となるケースが少なくありません。そこで事故防止などの対策が重要となっています。
過大なコストと労力
安全対策から複数人で作業にあたることが多いほか、必要に応じて点検用の大規模な足場を組む場合もあり、費用が増大する傾向にあります。近接目視はアナログ的な作業となるため、時間や労力も掛かってしまいます。
国が新技術の利用を推進
国土交通省は、インフラ構造物の点検の効率化と高度化を図るため、「新技術活用ガイドライン」を策定。さらに、2019年には橋梁とトンネルの点検要領を改定し、近接目視と同等の診断を行うことができる先進技術を用いた点検方法を認めました。その一例を下記にてご紹介します。
ドローン点検
各業界でドローンによる空からの撮影が実用化した近年。インフラ構造物の保全においても、高所などの危険な場所の点検・診断作業で効果を発揮しています。高解像度カメラを搭載した機体では、点検箇所の変状をモニター越しにその場で確認できます。
非破壊検査技術
その名の通りモノを壊すことなく、赤外線やレーザー、電磁波などを用いてインフラ構造物の表面や内部の状態を点検・診断する方法です。短時間で広い範囲の情報を得られるのも特徴です。
リアルタイムモニタリング
技術者による点検で把握される前に、インフラ構造物に生じた変位や異常を常時察知することができる技術です。インフラ構造物に予め取り付けたさまざまなセンサーが振動などのデータを計測し、その情報がリアルタイムで管理用のPCに表示されます。異常発生時には警報で通知する機能も備えています。
特に期待されるAIによる変状の自動検知
多彩な新技術が開発される中、特にニーズが高まっているのがAIを活用した点検方法。これは事前に撮影・処理された高精細画像をシステムにアップロードするだけで、AIが自動でひび割れを検知する画期的な技術です。
近接目視による点検で約720分を要していた点検作業が、約90分※に短縮できた例もあり、点検作業の高度化・効率化はもちろん、安全面の向上にも効果があると期待されています。
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キヤノン調べ
インフラ構造物の点検の実態
日本全国でトンネルは約1万本、2m以上の橋梁は約70万橋が存在すると言われており、これまで2018年度に1巡目、2023年度に2巡目の点検が完了しています。
2019年以降、新技術が積極的に活用されはじめた影響もあり、全道路管理者の2巡目の点検実施状況は、橋梁99.4%、トンネル98.6%、道路附属物(シェッド、大型カルバート、横断歩道橋、門型標識等)99.3% と、ほぼ100%に近い結果となっています。
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国土交通省「橋梁等の 2023 年度(令和5年度)点検結果をとりまとめ~道路メンテナンス年報(2巡目)の公表~」の資料より
まとめ
この先、老朽化が顕著になるインフラ構造物の割合は急速に増加。日本国内において50年を経過する橋(橋長2m以上)は2018年3月時点で約25%だったものが、2033年には約63%にまで膨らむと推測されています。安心・安全な社会を守るため、点検を担う関係各所が果たすべき役割は、今後ますます重要になってきます。
キヤノンマーケティングジャパンでは、点検作業の高度化や効率化、安全面の向上といった現場のニーズに応える、画像ベースインフラ構造物点検サービス『インスペクション EYE for インフラ』をご提供しています。新技術による点検をご検討の際は、ぜひ当社までお気軽にお問い合わせください。
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