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オムニチャネルとは?戦略から事例まで一挙に解説

  • 事業拡大・販路拡大
  • 生産性向上

オムニチャネルとは、企業が顧客に対してもつすべてのチャネルを統合し、顧客の購買体験を最適化するマーケティング戦略のことです。スマートフォンやSNSの普及、さらにはコロナ禍の経験によって、国内外の企業でオムニチャネル化は基本戦略に据えられているものの、その推進方法に悩むマーケティング担当者は少なくありません。

そこで本コラムでは、あらためてオムニチャネルの概念を解説するとともに、オムニチャネルのメリットや推進方法、導入事例までをまとめてご紹介します。

目次

オムニチャネルとは?

OMNICHANNEL(DIRECT MAIL/WEBSITE/E-MAIL/TV/SOCIAL MEDIA/CATALOG/PHYSICAL LOCATION/RADIO/PAID SEARCH)

はじめに、オムニチャネルの概念について整理しておきましょう。

オムニチャネルとは、顧客への販売経路を統合し、顧客に一貫して最適な購買体験を提供することで、売上増を目指すマーケティング戦略を指します。

オムニ(omni)とは「すべての」を意味する言葉で、チャネル(Channel)は「水路」を意味する言葉ですが、マーケティングにおいては「企業と顧客を結ぶ販売経路」という意味をもちます。

企業と消費者を結ぶ販売経路には、以下のようなものが挙げられます。

  • 実店舗
  • ECサイト
  • アプリ
  • SNS
  • メールマガジン
  • カタログや雑誌
  • テレビやラジオ、動画コンテンツのコマーシャル
  • 屋外看板やデジタルサイネージ
  • コールセンターやチャットボット
  • イベント など

販売経路がオムニチャネル化されると、さまざまなチャネルから流入してきた顧客が、その時々で最適なチャネルを選び、自由に横断しながら商品の注文・受け取りを行えるようになります。

わかりやすい例として、「ECサイトで注文した商品を実店舗で受け取る」「スマホアプリで取得したクーポンを実店舗で使う」などのパターンが該当します。このとき顧客はチャネルの違いを意識せず、自由に行き来するのが特徴です。

なぜ注目されているのか?

オムニチャネルが注目されるようになった主な要因として、スマートフォンやSNSの普及に伴う購買行動の変化が挙げられます。

スマートフォンの普及により、ユーザーは時間や場所に囚われることなく買い物ができるようになりました。また、スマートフォンひとつで価格や品質を比較し、即座に自分の価値観に合った商品を選んだり、その購買体験をSNSやECサイトのレビューで発信したりすることが可能です。

こうした状況において、企業が顧客満足を追求すると、「いつでも」「どこでも」「適正な価格・品質」で商品を購入できる仕組みの構築にたどり着きます。その戦略の基盤となるのがオムニチャネル。各チャネルで得た情報を統合し、チャネルの特性を活かしながらパーソナライズされた提案をスピーディに提供することが、現代を生き抜くために不可欠な戦略のひとつになっているのです。

マルチチャネル、クロスチャネル、O2Oとの違い

オムニチャネルと混合されやすいマーケティング戦略に、「マルチチャネル」「クロスチャネル」「O2O」があります。これらとの違いを明確にしておきましょう。

マルチチャネル

マルチチャネルとは、顧客との接点を複数もつ戦略のことです。よくある例としては、実店舗とECサイトを展開し、オフラインとオンラインの集客を見込む手法が挙げられます。

顧客とのタッチポイントが複数あるのはオムニチャネルと共通していますが、それぞれのチャネルが独立して機能している点がオムニチャネルとの大きな違いです。そのためマルチチャネルでは、顧客は各チャネルを同一ブランドだと認識しづらく、チャネル同士の相関性がないため、在庫情報や顧客情報の一元化もされていません。

たとえば、「実店舗で欲しい商品を見つけたが、希望のサイズやカラーの商品が品切れだったケース」を想定してみましょう。マルチチャネルでは、店舗を出たあとに顧客自らがECサイトで商品を検索し、欲しかった商品を購入する流れとなります。

クロスチャネル

クロスチャネルはマルチチャネルを発展させた戦略です。顧客は複数あるチャネルを同一ブランドだと認識し、在庫管理も一元化されているため、マルチチャネルと比べて購入プロセスのストレスは格段に減ります。たとえばクロスチャネルでは「注文はECサイト、受け取りは実店舗」など、チャネルをまたいだ購買行動が可能です。

ただし、顧客情報は完全に集約されていないため、顧客はそれぞれのチャネルを別のものと捉え、目的に応じて使い分ける必要があります。

その点、オムニチャネルでは顧客情報まで一元化されているため、顧客はどのチャネルを利用しても同様のサービスを受けられます。具体例を挙げると、「店頭での購入履歴がECサイトにも反映される」「どのチャネルでも共通のポイント制度を利用できる」などがあります。

また、オムニチャネルはチャネル間の境界がないため、顧客はチャネルの違いを意識せず、あくまで顧客都合による購買行動である点が大きな特徴です。

O2O

O2O(オーツーオー)は「Online to Offline」の略で、オンラインで集客した顧客を実店舗への集客につなげる戦略のこと。大きな括りで見れば、O2Oはオムニチャネル化に含まれる施策のひとつということができます。

しかし、両者の目的には大きな違いがあります。O2Oがオンラインからオフラインへの動線を作り、新規顧客獲得を目的としている一方で、オムニチャネルは顧客の購買体験を最適化することを第一の目的としています。オムニチャネルはO2Oより複雑かつ、長期的なマーケティング戦略といえるでしょう。

オムニチャネルのメリット

これまで紹介してきたことを踏まえ、オムニチャネル化によって企業が得られるメリットを解説します。

機会損失を減らせる

販売機会損失は、顧客が購買意欲の高い状態にあるのにも関わらず、以下のような状態によって購買意欲をなくしてしまうことで起こります。

  • 欲しい商品の品切れ
  • 購入プロセスが煩雑
  • 顧客対応の遅れ
  • 顧客ニーズの理解不足 など

オムニチャネルでは各チャネルが統合されているため、他店や倉庫からスムーズに商品の取り寄せが可能になり、受け取り方法も顧客が自由に選択できます。また、さまざまなチャネルの連携によって、顧客からの問い合わせに即時対応することも可能です。購買プロセスの途中での離脱を防ぎ、機会損失を減らすことができます。

顧客満足度が向上する

オムニチャネルでは、すべてのチャネルにおける購買履歴を紐付けて管理します。そのため、これまで見えなかった顧客ニーズをキャッチし、適切な方法でアプローチすることが可能に。SNSやアプリなどリアルタイムで配信できるチャネルから情報発信すれば、顧客の購買体験は格段にアップするでしょう。

ブランドロイヤリティの向上も期待でき、顧客のファン化も促せます。

高度な顧客分析が可能に

前述のように、オムニチャネルでは全チャネルの購買履歴を紐付けて一元管理します。これにより、顧客一人ひとりの購買行動の総合的かつ高度な分析が可能になり、よりパーソナライズされたサービスの提供が可能になります。変化する購買行動にも柔軟に対応できる点も利点です。

また、データを蓄積することで、経営判断をするうえで重要な指標となるLTV(顧客生涯価値)の向上に向けた施策も打ち出しやすくなるでしょう。

オムニチャネル化にあたり考慮したいポイント

ここでは、オムニチャネル化の戦略を立てる際に意識しておきたいポイントを6つ紹介します。

チャネルごとで顧客を囲い込まない

マルチチャネルからオムニチャネル化を図る際に考慮したいポイントが、ひとつのチャネルで顧客を囲い込まないことです。マルチチャネルでは売上管理もチャネルごとに行われるため、ポジティブな意味では売上競争、ネガティブな意味では顧客の奪い合いが起こりやすくなります。

しかし、すべてのチャネルを連携して全体の売上向上を目指すオムニチャネルでは、この体制はマイナスに作用します。目指すべき目標を全社で共有するなど、組織の意識改革が必要です。

受注体制を整える

ECサイトで注文した商品を実店舗で受け取れるなど、チャネルの違いを意識させないシームレスな購買体験の提供がオムニチャネルの大きな強み。これを実現するときに鍵となるのが受注体制の整備です。

ただ、OMS(受注管理システム)の導入・リプレースを検討する企業は多いものの、受注担当者などへの教育・フォローが追いついていない企業が少なくないのが現状です。スタッフの理解が伴わなければ、オムニチャネル化の成功は難しいでしょう。

受注フローのなかで人が介在する業務において、人的リソースが足りない、業務の標準化が困難な場合は、アウトソーシングも視野に入れて検討することをおすすめします。

カスタマーサポートを連携させる

オムニチャネル化において、顧客の疑問や不満の解消は欠かせない要素です。したがってカスタマーサポートの充実・連携にも注力する必要があります。

スマートフォンの普及に伴い、WEB上で問題解決できる仕組みが主流になっているものの、顧客が抱える問題によって適切なツールは異なります。運用後の人的リソースを考慮すればチャットボットが有力な選択肢となりますが、企業の特性に応じて、有人チャットや電話窓口と組み合わせるなど方法はさまざまです。

サイトやアプリなどにFAQを設置し、顧客が自力で解決できる環境を作るのも効果的です。

ブランドイメージを一貫させる

オムニチャネル化で目指すべき場所は、顧客に一貫して最適な購買体験を提供することにあります。そのためには、顧客がどのチャネルを見ても同一ブランドだと認識してもらうことが重要です。

ブランドイメージを一貫させることは、オムニチャネル化の推進に必要なだけでなく、企業が顧客との信頼関係を築くうえで不可欠な取り組みです。オムニチャネル化をきっかけに、ブランドロイヤリティの向上にも着手しましょう。

初期投資がかかることを理解する

在庫情報や顧客情報の統合には、各チャネルがもつ膨大な情報のデータベース化と、それを運用するシステムの導入が必要です。プロジェクトの規模が大きいため、それなりの初期費用がかかります。

ただし、構築後は少ないリソースで効率的に運用することが可能です。長期的に見ればコスト削減や業務効率化につながり、企業の生産性を上げることができるでしょう。

すぐの効果を期待しない

オムニチャネル化はすぐに実現できるものではありません。運用までには、従業員の意識改革や企業・商品のブランディング、各チャネルのデータベース化やシステムの検討・導入、業務フローの見直しなど、やるべきことは多様にあります。運用がスタートしてからもPDCAを回し、繰り返し改善を重ねる必要があるでしょう。

長期的戦略として取り組むとともに、必要なリソースについては入念に検討しなければなりません。

オムニチャネル戦略の推進方法

オムニチャネル化への道のりは簡単なものではありませんが、適切な戦略と実行により成功に導くことは可能です。ここでは、推進にあたり押さえておきたいステップを解説します。

ロードマップの策定

オムニチャネル戦略は全社を挙げて取り組む一大プロジェクトです。推進にあたり、明確なロードマップの策定が欠かせません。

プロジェクトの規模が大きいため、短期的戦略、中期的戦略、長期的戦略などに分けてロードマップを策定すると、プロジェクトの進捗を把握しやすくなります。また、施策においては5H1W(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を明確にしておくことも重要です。

目標の共有と社内体制の整備

オムニチャネルでは、すべてのチャネルを統合し、顧客に一貫した購買体験を提供することで売上増を目指します。これまで別々に機能してきた部門の足並みをそろえるために、目的とブランドイメージの共有、各チャネルの役割の明確化、社内体制の整備が必要です。

縦割り組織を横割り組織に編成するのは容易なことではありません。組織の意識改革を行うつもりで取り組みましょう。

システムの統合

顧客情報や在庫情報を一元管理するためのシステムを導入します。企業ごとにチャネルの種類や規模、運用方法は異なるため、自社に合ったシステムの選定が必要です。

また、顧客のニーズは刻々と変化するため、運用後に機能変更が必要になるケースもあります。システムの機能拡張は可能か、その際のコストは適正かなど、長期的視点でベンダーやシステムを選ぶことが大切です。

実店舗をもつ企業であれば、在庫管理、顧客管理、ポイント管理などを可能にするPOSの導入や連携も不可欠です。スタッフの使いやすさも考慮して製品の選定を行いましょう。

継続的な改善

オムニチャネル戦略はシステムや設備を整えたからといって、すぐに効果が現れるものではありません。軌道に乗せ、安定させるまでにはPDCAサイクルを回し、定期的な改善が求められます。

また、当初策定したロードマップの目標を達成しても、顧客の購買行動は常に変化するものです。時代に合わせた継続的な改善が必要になるでしょう。

オムニチャネル導入事例

それでは、オムニチャネル戦略に取り組み、成功した企業の例を2つ紹介します。

JR東日本旅客鉄道株式会社

まずは、ECサイトと実店舗の連携や、顧客目線に立ったポイント利用の施策によって、顧客が循環する仕組みを確立した企業の事例を見ていきましょう。

JR東日本旅客鉄道株式会社では、駅ビル内の店舗の商品を扱うECサイト「ネットでエキナカ」を展開。「駅」というライフラインの特性を最大限に活かしたオムニチャネル戦略が特徴です。

主なポイントを以下にまとめました。

  • 受け取り場所の多様化
    注文した商品は自宅、エキナカ店舗、駅、ロッカーで受け取りが可能。
  • 「ネットでエキナカ」の利用でJREポイントを付与
    ポイントはエキナカ店舗での買い物、交通系ICカードへのチャージ、特定区間の新幹線や在来線特急のチケットへの交換が可能。

株式会社コメ兵

続いて、さまざまなチャネルを有機的につなぎ、社内改革にも意欲的に取り組んでオムニチャネル化を成功させた好例をご紹介します。

国内最大級のブランドリユースショップを展開する株式会社コメ兵は、オムニチャネル化にいち早く取り組んだ企業として知られています。2010年にオンラインとオフラインの相互利用を促すオムニチャネル戦略を始動し、在庫管理や業務の効率化を実現するとともに、ブランドロイヤリティの向上にも取り組んでいます。

そんな同社の成功の秘訣は、「デジタルツールはあくまで手段のひとつ」と捉え、顧客本位、現場本位でオムニチャネル化を進めてきたことにあるようです。

特徴的な取り組みを以下にまとめました。

  • オウンドメディアの立ち上げ
    オウンドメディアで顧客とのタッチポイントを拡大。記事執筆を外部に依頼するのではなく、豊富な商品知識をもつ従業員にすることで、ブランドロイヤリティの向上につなげた。
  • 店頭買取の真贋判定にAIを導入
    顧客と鑑定士の対話時間を確保するために、AIによる真贋判定(しんがんはんてい)を導入。
  • 社内コミュニケーションツールのチャット化
    デジタルツールに慣れてもらうために、社内コミュニケーションツールをチャットに変更。
  • チャネル間の連携を考慮した人事評価制度の構築
    チャネル間での摩擦を防ぐために人事評価制度を見直し、従業員が積極的にオムニチャネル化に関われるよう努めた。

BtoBビジネスにおけるオムニチャネル

オムニチャネルは、アパレル小売業などのBtoCビジネスを中心に発展したマーケティング戦略です。しかし、コロナ禍以降はeコマースの加速によって、BtoBビジネスでもオムニチャネル化への取り組みが進んでいます。

日本での現状

WEBマーケティングの先進国である米国では、BtoB企業のオムニチャネル化はすでに主流の戦略として定着しています。一方、日本ではどうでしょうか。

日本のBtoB企業においても、コロナ禍以降はあらゆる業界において、オムニチャネルは有効な営業手段という認識が広がっています。新型コロナウイルス感染症の影響により、対面によるサービス提供が困難になり、回避策としてeコマース(EC)の構築に乗り出した企業は少なくありませんでした。

BtoBビジネスにおけるオムニチャネルの今後

米国マッキンゼー社によるBtoB企業の意思決定者に行った調査によれば、83%の人が「従来の対面型の販売アプローチよりも、オムニチャネル販売のほうが新規ビジネスの開拓と確保に効果的だ」と回答しています。

この結果からも推察されるように、オムニチャネルはすべてのビジネスシーンで、今後もスタンダードな戦略として取り入れられていくものと考えられます。

まとめ|オムニチャネルは企業の基本戦略へ

オムニチャネル化は、販売機会の損失を減らし、顧客満足度を向上させるなど、企業にとって大きなメリットをもたらします。同時に顧客ファーストの概念であることから、消費者はより便利に快適にサービスを受けることが可能です。

しかしながら、オムニチャネル化は一朝一夕にできるものではありません。相応の時間・コスト・人員を必要とします。そのため、オムニチャネル化の推進に不安に感じる方も多いでしょう。

そんなときに活用を検討したいのが、業務の一部を外部に委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。たとえば「受注業務BPO」を導入すれば、社内の限られたリソースをコア業務に集中させることができ、オムニチャネル化に必要な施策を積極的に打ち出していけるでしょう。

私たちキヤノンマーケティングジャパングループは、お客さまのビジネス変革を、ITとBPOでご支援しています。BPOの活用方法や事例、効果などについて知りたいときは、お気軽にご相談、お問い合わせください。

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