出版文化の未来を変える新たな挑戦「DNP×Canon」が描くサステナブルな印刷プラットフォーム株式会社DNP出版プロダクツ
(写真左:株式会社DNP出版プロダクツの本社があるDNP市谷加賀町ビル、写真右:株式会社DNP出版プロダクツの皆さま)
業種:印刷・出版・デザイン | 拠点:本社 東京都(新宿区)/工場 埼玉県(久喜市)ほか | 成果:多品種小ロット短納期製造の実現
在庫リスクと機会損失を解消し、サステナブルな出版DXを牽引
DNP出版プロダクツ様は、「出版文化の継続的な発展に、価値あるものづくりで貢献する」を使命とし、書籍の在庫リスク解消と販売機会損失回避のため、今回「ProStream 1800」を導入し、出版製造において飛躍的な処理能力とスピードを実現しました。これにより、「必要な時に必要な部数だけ作る」生産体制を確立し、在庫情報などのデータドリブンを通じて、業界で130億円規模にのぼる販売機会損失の削減へ強い課題意識を持って取り組んでいます。本の絶版が無いビジネスモデルを目標に掲げ、部数によっては、オフセット印刷と比較してCO2排出量を削減できる、サステナブルなものづくりを目指しています。この取り組みについて、DNP出版プロダクツの各部署の方々にお話を伺いました。
01.ミッションと業界背景
生活者の“知を支える”出版文化の継続的な発展
出版文化の継続的な発展に貢献する「価値あるものづくり」へ
DNP出版プロダクツは、出版コンテンツの価値を最大化するモノづくりで、出版文化の継続的な発展と持続可能な社会の実現に貢献することを目的とし、2025年4月に発足しました。当社の使命(ミッション)は、「高品質な製品を通じてお客様の期待に応えるだけでなく、社会の変化や課題を捉え、価値の種を発見し、それらをサービスに変換していくこと」です。単純な受託製造ではなく、ソリューションとセットで、厳しい状況にある出版市場を持続可能な世界へと進める提案ができる会社として活動しています。
DNPの強みの一つである「モノづくり」をコアコンピタンスとしながら、生活者の声に耳を傾け、課題意識を持って価値あるモノづくりに変えていくことを目指しています。
出版市場の現状としては、紙メディアがデジタルメディアに置き換わり、書店数や雑誌・書籍の発行部数が減少していることなどが挙げられます。しかし、紙の本が無くなることはないと考えており、例えばコミックにおいては電子化が進む一方で、紙で保管したいという声も多く聞かれます。
02.在庫削減と短納期化デジタル製造の戦略的価値と導入目的
デジタル製造は、従来のオフセット印刷のような版(プレート)がない方式です。この方式により、「必要な時に必要な部数だけ製造する」ことが可能になり、出版社側が在庫リスクを抱えなくて済むというメリットがあります。デジタル製造では、版型や用紙の使用においても意識すべき点があります。
当社は需要に応じた製造で在庫リスクを抱えず、環境負荷の低減を目指しています。
初版/重版の切り分け
メガヒットが見込まれる話題作などは初版を「オフセット印刷」で大量製造し、その後在庫が減ってきたら重版をかけて「デジタル印刷」で必要な最適部数を製造するといった、市場の需要や予測される数量に応じて製造方式を柔軟に切り替える考え方があります。
用紙について
本の製造において、CO2排出負荷が最も高いのは用紙であり、その割合は7〜8割を占めます。デジタル製造は、オフセット印刷で必要とされるような調整段階で用紙の無駄が少なくて済むため、環境負荷の低減に繋がります。DNP出版プロダクツでは同仕様において、オフセットで1,500部を作る場合と、デジタル製造で500部を3回作る(合計1,500部)場合とを比較すると、後者の方がCO2排出量を約26%削減できるという試算もあります。
小ロット短納期への対応と飛躍的な生産性向上への期待
デジタル印刷機の導入にあたっては、大量の印刷案件に対応できる処理能力の強化と、作業スピードの向上を重視していました。現場からは「従来のデジタル印刷機と比較して、生産スピードに大きな違いを実感しています」との声が上がっています。新たなデジタル印刷機の導入により、小ロットでも高品質な印刷物を効率よく製造可能となり、在庫を抱えるリスクを抑えながらコスト面でも柔軟な対応が可能になりました。

03.デジタル印刷機導入と協力体制技術導入とパートナーシップ
販売機会損失の削減に繋がる提案を実現
「ProStream 1800」の導入により、出版社様に対して従来とは異なるアプローチが可能になりました。大ロット製造が主流だったオフセット印刷の課題を解消し、短納期・小ロットといった多様なニーズに柔軟に応えられる体制を確立しています。
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在庫リスクの削減と確実な販売
出版市場では、需要変動のスピードが年々高まっています。従来は「まとめて刷る」ことでコストを抑えていた一方で、在庫リスクを抱えるという課題がありました。
「ProStream 1800」の導入によって、「必要なときに、必要な部数だけ」印刷できる環境を整備。これにより、出版社様は無駄な在庫を持たずに販売機会を逃さない柔軟なビジネスを実現しています。
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プロセスの効率化による安定供給
版の準備工程が不要となり、作業プロセスが大幅にシンプル化。短納期案件への対応力が向上し、急な部数変更にも即応できるようになりました。現場の負担を軽減しながらも、出版社様のスケジュールに合わせて確実に納品できる体制を構築。「ビジネスを止めない製造ライン」として、高い信頼をいただいています。
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高品質印刷による提案力の向上
インクジェット印刷では文庫や新書、文芸書などで求められる品質をどこまで再現できるかが懸念点でした。しかし「ProStream 1800」は、「網点の再現性」「黒の締まり」「紙面の安定性」いずれも高水準を維持。また、FMスクリーンを採用しているため、網点が非常に小さくモアレの影響を受けにくいという特徴があります。この結果、「品質的に提案できない」という制約がなくなり、従来の版を活かした再提案や新たなジャンルへの展開も可能になっています。
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出版社様との新たな価値共創へ
「ProStream 1800」の活用により、「印刷=生産」ではなく「印刷=販売支援」の視点で提案ができるようになりました。
たとえば、以下のような新たな取り組みが進んでいます。
- 発売初動の需要増に合わせた柔軟な増刷計画
- 小ロット多品種対応による在庫リスクの低減提案
- 既刊本の再流通(リバイバル・短期施策)
- 限定カバーやテスト流通などの差別化施策
これらにより、出版者様にとっては“売れるタイミングを逃さない”出版戦略が可能に。私たちにとっても、「印刷を通じてビジネス価値を拡大する」という新しいステージへの進化を実感しています。

デジタル印刷課 第1係 係長 福森様


協働パートナーとしてノウハウを共有し、システム課題の解決へ
今回導入したような製造ラインの安定稼働は、出版製造において何よりも重要です。トラブルが発生すると製造が停止してしまい、短納期・小ロットのメリットを活かせなくなるからです。DNP出版プロダクツ様とキヤノンプロダクションプリンティングシステムズ株式会社(以下、キヤノンPPS)は、以下の点を中心に協力体制を築き、課題解決に取り組んでいます。保守を担当するキヤノンPPS 安孫子にも話を聞いてみました。
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ノウハウの蓄積と共有
「ProStream 1800」は国内において初めての導入であったため、予期せぬトラブルやイレギュラーな事象が発生しました。DNP出版プロダクツ様とキヤノンPPSは、トラブル対応だけではなく、様々な用紙のテストやカラープロファイルに関する相談などを日々の対話を通じて行い、互いにノウハウを蓄積し改善してきました。
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システム連携の対応
デジタル印刷機と後加工機は複雑なシステムで連携しています。システム連携がうまくいかないとエラー停止の原因となるため、様々な対処方法を模索し、対応しています。
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キヤノンPPSの取り組み
エンジニア人員の増員に努め、定期点検(OJTを含む)を通じて、ノウハウを蓄積しています。また、DNP出版プロダクツ様からの情報を基に、早期に不具合を解決できるよう尽力しています。
04.出版市場の課題と事業展望課題解決に向けたDXソリューションの提供とマーケットイン視点での流通最適化
出版市場をとりまく課題
(右)デジタル製造推進部 部長 長山様
在庫情報の不透明性
出版市場が直面する課題として、まず流通システム間の分断による在庫情報の不透明性が挙げられます。これは、書店、取次(流通)、倉庫(自社・委託)がそれぞれ異なるシステムで在庫情報を管理しているために、業界全体で「どれくらいの在庫があるのか」が不透明な状態を生み出しているからです。
約130億円の販売機会損失と約40%の高返本率
出版市場では、需要があるにもかかわらず在庫切れによって販売機会を損失しているケースがある一方で、書店から返本された本が最終的に廃棄されるという矛盾がおきています。従来のオフセット印刷が大量生産を前提としているため、ある程度の部数以下はコスト高となり製造されないことが多く、結果として130億円規模の失注があるといわれています。その一方で返本率は40%台に達し、ダメージを受けた本が倉庫で大量に廃棄されています。
DNP出版プロダクツとキヤノンPPSが考える出版DX
DSR(デジタルショートラン)製造がかなえるロングテール需要への対応とサステナビリティへの貢献
(右)キヤノンPPS 営業本部 斎藤
在庫情報の不透明性については、市場全体の共通課題として、解決へ向けた取り組みが始まっています。
販売機会の損失と高返本率については、今回導入いただいたブック製造ラインで、DSR製造を実現することにより、課題解決に貢献しています。DSR製造は、従来の大量生産(オフセット印刷)とは異なり、版(変動費)がないため、小ロットの製造に適しています。必要な時に必要な最適部数を製造することで、在庫リスクの削減や「読者が欲しい時に欲しい本が手に入る」出版プラットフォームの実現により販売機会の損失や高返本率という課題を解決することができます。さらにキヤノンPPSは、単に印刷方式をオフセットからデジタルに変えるだけでなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)を包括的に支援しています。
また、流通最適化と環境対応のソリューションとして、デジタル製造の特性を活かし、流通と環境の問題を以下の二つの側面から考えています。
第一に、デジタル製造はロングテール(過去のベストセラーなど)の需要や、SNSでの話題化など「瞬間的に欲しいという声」に迅速に対応できるスキームを構築することで、常に市場の需要に応えることができます。
第二に、環境配慮という観点から、過剰製造(在庫や返本)を減らし、サステナブルな仕組みを実現します。特に環境問題に対する課題意識が高いEUでは、デジタル印刷機の導入が進んでいます。
この二つの側面に加えて、DNP出版プロダクツ様の求める品質や生産速度が実現できる印刷機として、「ProStream 1800」を採択いただきました。
コスト効率を追求するための追加要望とキヤノンPPSの解決策
安定稼働、生産性、および流通用紙の利用
デジタル印刷機について、短納期・小ロット対応やコスト効率の観点から、キヤノンPPSに期待している点は大きく三つあります。
第一に、安定して稼働し続けることです。デジタル印刷機は精密機械という性質上、トラブルが起きると生産が止まってしまい、短納期対応が難しくなります。安定稼働は、私たちのビジネスにおいて最も重要な前提条件であると考えています。
第二に、より幅広の用紙に対応できる印刷機の開発です。用紙幅が広がれば、同じスピードでも一度に処理できる面積が増えるため、生産性が大きく向上すると期待しています。
第三に、一般流通の用紙サイズをそのまま使えることです。現状、特殊サイズの紙を使っているため購入にはひと手間掛かり、価格も高くなりがちです。一般的な規格に対応できれば、用紙コストを抑えられると考えています。
サービス体制強化と日本市場への技術開発
キヤノンPPSでは、デジタル印刷機に対するお客様の要望に対し、日々安定稼働の強化と日本市場に即した技術開発の推進に取り組んでおります。「生産が止まることへの懸念」に対しては、日々メンテナンスを行い、装置を安全かつ安心してご使用いただけるようサービス体制の強化に努めています。また、用紙対応力を向上させることで、生産性向上とコスト削減という更なる二つのメリットに繋がるため、技術的なハードルはあるものの、従来のオフセットの仕組みを踏襲した機械構造を開発段階から考えていく必要があると思っております。
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組織・役職名は2025年12月時点です。
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キヤノンプロダクションプリンティングシステムズ株式会社 マーケティング統括本部 商品企画本部 商品企画部