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改正電子帳簿保存法の施行は業務DXの好機
~企業が必ず対応すべきこととは~

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改正電子帳簿保存法の施行は業務DXの好機~企業が必ず対応すべきこととは~

令和3年度の税制改正に基づき施行される「改正電子帳簿保存法(電帳法)」。昨年12月に公表された税制改正大綱により、メール等で受け取った書類の電子保存義務化について2年間の猶予を設ける経過措置が発表されましたが、法改正そのものが無くなったわけではありません。電子データで授受した書類については、改正法に則った方法での保存を始めなければ、法令違反となる可能性もあるのです。そこで、この度キヤノンマーケティングジャパンと業務提携をし、改正電帳法の要件に対応した機能を有する多機能グループウェア「NI Collabo 360」を提供する株式会社NIコンサルティングの長尾一洋代表取締役に、今後、事業者側はどのような準備を進めなければならないかについて聞きました。

電子データとして保存するための「一定の要件」とは

電子データとして保存するための「一定の要件」とは

改正電帳法について、まだ詳細を把握できていない中小企業経営者も少なくないようですね。

確かにそのようですね。まず、「電子帳簿保存法」とは何なのかを説明しましょう。この法律は、紙による保存が義務付けられていた税務関係の帳簿や書類などを、一定の要件を満たせば「電子データ」として保存できるように定めたものです。

 法律そのものは20年以上前に制定され、これまでにも何度かの改正が行われてきたのですが、2021年度の税制改正で、それまで必要だった「所轄の税務署長への事前承認制度」が廃止されたほか、電子データの作成日時を記録する「タイムスタンプ」の要件緩和、電子データの不正改ざん等を防止するために義務付けられていた「適正事務処理要件」の廃止など、これまで以上に大きな見直しが行われました。

 法改正を難しく考えておられる方も多いようですが、面倒だった事務処理作業などが大幅に緩和されたことで、電子帳簿を導入しやすくなったのです。

株式会社NIコンサルティング 代表取締役 長尾一洋氏
株式会社NIコンサルティング 代表取締役 長尾一洋氏

『一定の要件を満たせば』という部分が理解しにくい…と感じている経営者も多いのではないでしょうか。

電帳法の対象となる保存方式には、

  1. 会計ソフト等を用いて電子的に作成した国税関係帳簿や国税関係書類を、作成データのまま保存する「電子帳簿等保存」
  2. 紙で受領したり作成したりした書類をスキャニングまたは撮影して、タイムスタンプ付与、あるいはタイムスタンプ付与の要件に代えられる機能で、データとして保存する「スキャナ保存」

  3. 取引先などからの電子メールや、ネットからのダウンロードなどで授受した取引情報を、タイムスタンプを付与、あるいはタイムスタンプ付与の要件に関する代替措置を満たしてデータのまま保存する「電子取引」

…の、3種類があります。
このうち、(1)電子帳簿等保存(優良以外の帳簿を除く)と(2)スキャナ保存に関して特に必要な要件をまとめると、「帳簿の内容に改ざんがないこと」「関連する帳簿書類間で関連性が確認できること」「取引年月日や勘定科目などを検索条件として設定でき、必要に応じて出力できるようにすること」の3項目。(3)電子取引については、「受け取ったオリジナルの電子データのまま保存すること」という項目が重要になります。

国税庁の資料では『真実性の確保』『可視性の確保』という言葉が用いられているため、難しい印象を受けるかもしれませんが、書類に改ざんが無いこと、訂正や削除を行った場合は、その履歴が確実に残るようにすること、税務調査等の場合には必要なデータをすぐに出せるようにすることの3つだと考えれば判りやすいでしょう。

その他、「一定の要件」の中には、帳簿・書類の種類による保存方法、スキャナ保存の場合の「重要書類」と「一般書類」の分類、読み取り時の解像度など、細かな規定があります。詳細に確認したい場合、弊社が提携しているキヤノンマーケティングジャパンのホームページ上に記事掲載されていますので、そちらを参照頂くと理解が深まると思います。

今回の改正電帳法施行は全ての事業者が対象に

電子帳簿系のシステムを導入していない事業者の中には、電帳法改正は無関係だと考えている人もいるようですが

そんなことはありません。見積書も請求書も全て手書きで、毎月の収支計算も電卓で計算して表に手書きしているような事業者は、今どき存在しないでしょう?

個人経営の内装業者などでも、不足分の資材をネットで購入し、クレジットカード決済するくらいの取引は行っているはずです。ネット通販による請求書なり領収証はネット経由で届くはずですから、これは先ほど言った「電子取引」に他なりません。

例外的に、前々事業年度の売上げが1千万円未満の場合は、電子メールの検索要件などが緩和される措置があるのですが、いずれにせよ発生した支出を経費として計上するには何らかのエビデンスが必要です。データの保存が必要ですから、法人はもちろん個人事業者にとっても、改正電帳法は無関係ではないのです。

電子帳簿保存法の対象となる帳票の例

電子取引のデータ保存は“そのまま”でなければNG

電子取引のデータ保存は“そのまま”でなければNG

先ほど、メールなどで受け取ったデータは「オリジナルのまま保存」という話題が出ましたが、これについて詳しく教えてください。

そうですね、この「電子取引」におけるルールは、今回の電帳法改正の中でも事業者にとっての影響が一番大きい部分だと言えます。以前は郵送したりFAX送信したりするのが一般的だった紙の見積書や請求書を、pdfやExcelデータなどでメール送・受信したり、固定の取引先とはEDI(電子データ交換)ツールを用いて授受する事業者が急増しているからです。

今後、社会のキャッシュレス化が進み、様々な分野でのDXが進めば、いわゆる『電磁的方式で行う取引情報の授受』はさらに増えるでしょう。「当社あての帳票類は全て紙にして下さい」など、時代に逆行したことを取引先に依頼するわけにはいかないのですから、事業規模の大小を問わず、事業者の皆さんに知っておいていただきたいポイントです。

簡単に言うと、メールやオンラインストレージ、EDIツール等で送信したり受け取ったりした商取引関連データは、自社サーバやWebサイト、クラウドサーバ等に「そのまま保存」しなければいけないということです。メールで受け取った請求書などを、紙に出力して保存している事業者も多いようですが、その方法は2年後から認められなくなります。先ほど言った「改ざんが無い書類」であることを担保するためにも、受け取ったデータを加工してはいけない…ということです。


受信側のPCに帳票類専用のフォルダを作り、届いたデータを「そのまま保存」するやり方でも大丈夫ですか。

その場合、「検索機能の確保」という要件を満たすのが難しいですね。単にデータをそのまま残せば良いのではなく、取引相手、金額、日付などの条件で検索できるようにしなければ、改正電帳法のルールに則っていないことになります。

使用中のメーラーにそのまま残すのも同様で、メール件名だけ検索できてもダメです。データのバックアップについては、今回の改正で特に要件は設けられていませんが、事業所の経理関連データであれば10年程度は残す必要がありますよね。その点でも、メーラーにそのまま残しておく方法は現実的ではありません。

なお、あまり一般的ではないかもしれませんが、「EDIツールを使った取引情報のやり取りをXMLデータで行っている」「電子取引で受け取った取引情報と同じ内容のものを紙書類でも受領している」などの場合の保存要件については、国税庁が昨年11月に「お問い合わせの多いご質問(令和3年11月)」というQ&Aを公開しています。そうした資料にも目を通しておくことで、改正電帳法への理解が深まるかもしれません。

2年間の「義務化猶予」はDXに着手する絶好のチャンス 

2年後の「義務化猶予」はDXに着手する絶好のチャンス

メール等で受け取った取引データの電子保存については、令和3年末に2年間の義務化猶予が決まったと聞きますが。

はい、昨年12月に発表された「令和4年度税制改正大綱」において、電子データで受け取った書類の電子保存義務化を令和5年12月31日まで猶予する内容が盛り込まれました。電帳法改正の中でも事業者にとっての影響が一番大きい部分であるだけに、事業者側の混乱が非常に大きかったのです。

今回の電帳法改正は、電子保存のための要件が大幅に緩和された分、対応しなかった場合は青色申告や連結納税の承認取り消しなどの罰則も制定されたのが特徴ですが、これについても義務化猶予と同時に、いったんは見送られました(※)。もちろん、書類の改ざんが行われていたり、当局の調査に応じなかったりと、悪質な行為があれば相応のペナルティはありますが、改正電帳法の要件に沿っていなければ、いきなり罰則…ということにはなりません。

私としては、この2年間を「猶予」ではなく、自社の業務DXを推進するための「準備期間」として活用していただきたいと考えています。すでに何らかの経理システム等を導入している事業者にとっては、既存システムのままで改正電帳法に対応できるかどうか、システム導入を検討中の事業者にとっては、どんなシステムを入れれば電帳法の要件が満たせるかが、現在の懸案事項でしょう。

改正電帳法の施行とは別に、令和5年10月からは「インボイス制度」が導入されることが決まっているので、電帳法対応だけを基準に考えていると、インボイス制度導入時にも同じように混乱してしまうでしょう。「電帳法対応」が目的なのでは無く、帳簿に関する従来業務の中から“ムダ・ムリ”を洗い出し、改正法に対応することで効率化できる業務を見定め、システム導入によって改善する。そのための準備を、この2年間で進めることが重要なのです。
(※令和3年12月時点での公表内容に基づきます)

その観点から、システム導入を検討中の事業者にシステム選びのアドバイスをお願いします。

自社の取引形態や、帳票類に関する現在の電子化状況、今後デジタル化したい業務などを明確にして、それに合った適切なシステムを選ぶべきです。導入予定のシステムが電帳法対応かどうかは、ベンダーに問い合わせれば判りますし、JIIMA(日本文書情報マネジメント協会)の認証マークが付いている最新システムであれば、概ね間違いありません。ただ、「電帳法対応」だけを選定基準にすると、オーバースペックになりかねません。

例えば、電子保存要件の一つとして述べた「タイムスタンプ」。これは大幅に要件緩和された項目の一つです。スキャナ保存する場合、訂正削除の履歴が残る、あるいは訂正削除できないシステムで、入力期間内に入力したことを確認できる時刻証明機能を備えていればタイムスタンプがなくてもいいことになりました。電子取引であればこれに加えて事務処理規程が必要なケースもあります。こちらに関してはケースバイケースで確認が必要ではありますが、いずれにせよ高額なタイムスタンプを不要にする方法もあります。

ところが、現在販売されている「改正電帳法対応システム」の中には、最初からタイムスタンプ機能が標準搭載されているものが多く、1ヵ月あたり1,000スタンプ/8,000円が最低料金の相場になっています。10年間合計で96万円ですから、1ヵ月に1,000スタンプも必要ない中小事業者にとっては、かなり無駄な支出になります。
『タイムスタンプ5年間押し放題』といったシステムもありますが、そのタイプの販売価格は60万円程度ですから、これも決して安い買い物ではありません。「自社に合ったシステム選び」は、やはり信頼できるベンダーにご相談いただくのが、一番間違いないやり方でしょうね。

「分散処理」で進める業務DX
二度手間、三度手間を減らし業務効率化を実現

「電帳法対応を業務DXの準備期間に」とのことですが、例えばどのようなやり方がありますか。

効果的な方法の1つとして、グループウェア導入による「分散処理」の実現があります。複数の事業部や営業拠点を持つ事業者の場合、取引関連の書類を本社経理部でしか処理しない、電子取引データの送受信も本社経理部からしか行わない…といったことは、まずあり得ません。事業部ごと、営業拠点ごとに作成した書類やデータを本社経理部に送り、その情報を本社経理部スタッフが分類し、検索できるようにデータ保存したりスキャニングしたりという、二度手間、三度手間が必要です。

各種書類を拠点ごと、事業部ごと、担当者ごとに『分散処理・入力』し、システム内の電帳法対応ストレージに簡単にアップロード・管理ができれば業務効率の向上が実現します。営業マンの経費レシートなども、スマホで撮影するだけでスキャナ保存要件を満たした状態で保存され、簡単に精算が可能です。

業務提携によって全国各地の中小企業へのDX推進を

NIコンサルティングはキヤノンマーケティングジャパンと業務提携したそうですが、今後、両社でどのような取り組みを推進する計画ですか。

最も大きな取り組みは、キヤノン製複合機からファクスする文書を紙で出力することなく、当社のグループウェア「NI Collabo 360」に対してデータとして送信したり、スキャニングデータを直接グループウェアに保存したりできる、クラウドアプリケーションを提供することです。
「NI Collabo 360」は、多機能・低価格な経営改善型グループウェアであり、社内や取引先との情報共有機能ばかりでなく、電帳法の保存要件に対応した経費精算・支払管理機能を有しています。この機能と、キヤノン製複合機とを結びつけることで、改正電帳法への対応はもちろん業務DXを強力に支援しようというのが、戦略的業務提携の最大の狙いです。
 
キヤノン複合機と連携させることで、様々なファクス書類をデータとして当社グループウェアに送信し、必要に応じて紙出力したりデータとして保存したりといった、ムダの無い業務が可能になります。また、2022年4月からは、改正電帳法の要件を満たした状態で紙の帳簿類をスキャニングし、そのスキャンデータをグループウェア側で保存できるアプリケーションの提供も開始します。
NI Collabo 360はクラウド上で活用できるサービスなので、日本各地の事業者に提供できますが、サポートを行うシステムコンサルタントの人数が限られています。全国各地に複合機を納入しているキヤノンマーケティングジャパンと業務提携することにより、複合機やシステムのサポートはもちろん、システム導入した事業者のDX推進を、色々な面からフォローできるはずです。

<長尾 一洋氏プロフィール>

横浜市立大学商学部経営学科卒業。経営コンサルティング会社にて各種経営指導に取り組み、課長職を経て1991年株式会社NIコンサルティングを設立。ローコストで経営コンサルティングを実現する仕組みづくりに取り組み、1998年には「コンサルティングパッケージ」を開発。8000社超の導入実績をあげている。中小企業診断士。



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