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街の今、人の今を、残す。フォトソリューションレポート

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上通写真館 熊本県熊本市

熊本地震を経験し、家族写真の大切さをあらためて認識したという上通写真館の代表・原田辰之さん。写真館ならではの高品質な写真で家族の「今」を撮るとともに、ホームフォトグラファーとして地域の復興に貢献するさまざまな活動を行っている。


代表・フォトグラファーの原田辰之さん

“わが街“上通商店街”から、写真の魅力を発信したい。

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熊本市の中心部に位置する上通商店街は、通町筋から並木坂まで全長600mもあり、休日になれば3万人を超える人が行き交う大きな商店街だ。この地に上通写真館を出店したのは、代表の原田辰之さんの特別な思い入れがあってのことだ。「まず2003年に独立開業したのですが、この時は熊本市の出水というところに店を立ち上げました。ただ、上通には祖父が経営する写真館があり幼い頃から慣れ親しんでいたのと、東京での修行後も祖父の店で働いていたこともあり、友人や仲間も多かった。だから、いつかは上通に店を出したいと思っていました。また上通は古くからの文化的な香りを残す街。『写真館らしい写真』の良さをアピールするうえでも最適な場所だと思っていました」と原田さん。
そうした上通への想いを叶え、2014年に上通写真館をオープンしたのだが、その約2年後に熊本地震が発生した。ライフラインが大きな損害を受け、商店街の多くの店は休業を余儀なくされた。上通写真館もレンズやスタジオ機材などを破損、しかし本震の5日後には店を開けた。それはとにかく「街を元気づけたい。活気づけたい」という気持ちからだったという。
「熊本地震を経て、お客さまから『やっぱり家族写真はいいわね』という声を聞くようになりました。一枚の写真のなかに、その日、家族ひとりひとりが写真館に集まるために都合をつけたり、準備をしたりといった、すべてのプロセスが刻まれている。だからこそ、家族の絆を感じる。写真館で撮る写真の価値をお客さまも感じてくれているのだと思います。そういう写真を撮り、その魅力を伝えていくことが、ホームフォトグラファーの仕事だと思っています」と原田さんは語る。

地域復興のために。できることを、ひとつひとつ。

子どもたちの今を街の今とともに撮影。上通Kid’s写真展の作品。
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原田さんは「自分ができることを、街のためにどう活かすか」を考えて行動しているという。たとえば、地震の1ヵ月後に実施した「ワンコイン撮影会」もそのひとつ。500円で証明写真、家族写真、終活写真などを撮影。その撮影料はすべて熊本城災害復旧支援金に寄付したそうだ。また、上通商店街のファンづくりと活性化を目的とした「まちゼミ」にも積極的に参画。これはお店の人が講師となって、専門店ならではの知識や情報を無料で教えるというゼミナール企画で、上通写真館は「写真の撮られ方講座」や「デジカメのお悩み相談」などの講座を行っている。
また、この夏には「上通Kid’s写真展」を実施した。「形あるものは永遠ではないし、人間も成長していく。そこで、子ども達と街をテーマに写真を撮ろう、と思いつきました。この商店街のなかで子ども達に好きな場所を選んでもらい、その場所で撮影することで、今の街の風情や情景を思い出にしてほしいと思ったんです」と原田さん。好物のかき氷が食べられるお饅頭屋さんや、いつも買い物をするスポーツショップの前など、商店街の端から端を網羅するようにさまざまな場所で撮影を行い、写真はキャンパス仕上げにして、アーケードでのイベントに併せて展示した。「10年後、20年後、子ども達が写真を見たときにどんな気持ちで会話をするのか、それが楽しみですね」。

撮影料を熊本城災害復旧支援金に役立てた「ワンコイン撮影会」。
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伝統と革新を融合し、「鑑賞に堪える写真」を。

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写真館が提供する写真のスタイルはさまざまな拡がりをみせているが、上通写真館は『昔ながらの写真館の写真』にこだわっている。それは、営業写真館が受け継いできたポージングやライティングなどの撮影技術を大切にしながら、進化しつづけるデジタル一眼レフの新しい表現力を活かすことで、『鑑賞に堪える写真』を提供したいと考えているのだ。「たとえば着物のラインを美しく見せるといった“型物”の知識や技術も、最近ではなおざりにされています。せっかく良い表情を捉えても、着物に乱れがあったら表情に目がいかないですよね。その人らしさ、個性や内面を表現するには、そうした細部にも気を遣って撮影すべきだと思うんです」と原田さんは語る。
スタジオではEOS 1D-XとEF85mm F1.2L Ⅱを使用、タングステンによる定常光ライティングで撮影を行っている。「黄色く柔らかな光が、家族のほんわかとした温もりを表現してくれる。タングステンの世界が好きなんです。また1D-Xと85mmの組み合わせは、個人的にベストだと思っています。色の表現が素晴らしく、ボケ味も気に入っています。自分がイメージしている絵に近づけてくれるボディであり、レンズですね」。営業写真師として日々、技術に研鑽を重ね、写真のクオリティを高めていく。その姿勢が、原田さんが撮る一枚一枚に表れている。

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撮影という体験を落ち着いて楽しめる空間。

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上通写真館の店内に入ると、商店街にいたことを忘れるくらい驚くほど静かだ。「アーケードでは土日にはイベントなども行うので、かなりうるさいんですね。そこでしっかり遮音するための壁を作りました。写真館で撮影するという非日常的な体験をゆっくり楽しんでほしいと考えたからです」と原田さん。「ここに来ると落ち着ける」といって立ち寄ってくれるお客さまもいるそうだ。
スタジオは、原田さんがカメラやライトなどの機能を効率よく使えるように設計。さらにインテリアは室内全体をひとつの上質なトーンでコーディネイトしながら、4つの壁面にそれぞれ異なる造作を施すことで、どこからでも撮影できるようにしている。
熊本地震から2年半。上通写真館の営業はようやく軌道に乗ってきたところだという。「写真館として地域の復興に積極的に関わるとともに、写真館だからこそ撮れる写真の価値をより多くの人に伝えていく。ホームフォトグラファーの仕事を楽しみながらつづけていきたいですね」と原田さんは熱く語ってくれた。

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写真:上通写真館

上通写真館
2006年、株式会社写真館はらだ設立。2014年、熊本市の中心商店街である上通に上通写真館をオープン。九州写真師会連盟 文部科学大臣賞、日本写真文化協会 ハイテクニカルフォトコンテスト1部金賞、日本婚礼写真協会 日本婚礼写真協会会長賞など受賞歴多数。
URL:https://www.shashin-kan-harada.com/
(上通写真館のサイトへ)