自治体サービスを変える本人確認の高度化犯収法改正を機会に考える共通基盤整備のポイント
公開日:2026年11月6日
2027年4月に施行予定の犯収法施行規則改正を契機に、本人確認のあり方が大きく変わろうとしています。従来の目視や画像確認から、ICチップや電子証明書を活用した電子的な真正性確認へと移行が進む中、その影響は金融分野にとどまりません。本記事では、こうした変化を自治体DXの視点から捉え、住民サービスの高度化を支える本人確認基盤の整備ポイントについて解説します。
本人確認の厳格化で「目視・画像」から「電子的な真正性確認」へ
本人確認の方法が大きく変わり始めています。背景にあるのは、偽造・変造された本人確認書類や、画像加工技術などを悪用したなりすましへの対策強化です。従来の運転免許証やマイナンバーカードなどの目視確認、本人確認書類の写しや撮影画像の提出だけでは、書類や画像が真正なものかを十分に見極めることが難しくなっています。
そのため、券面や画像を人が確認する方法から、ICチップや電子証明書を用いて情報の真正性を電子的に確かめる方法へと、本人確認の軸足が移りつつあります。こうした変化を示す動きの1つが、2027年4月1日に施行予定の犯収法施行規則改正です。
犯収法は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防ぐため、特定事業者に取引時確認や記録保存を求める法律です。改正後は、オンライン本人確認で利用されている身分証画像の送信方式(いわゆる現行ホ方式)が廃止され、ICチップ情報や公的個人認証(JPKI)を活用する方法への移行が進みます。
犯収法上の取引時確認が求められる特定事業者では、対象となる取引の本人確認方法を見直す必要があります。対面でICチップ付きの顔写真付き本人確認書類を使用する場合も、券面の目視だけでなく、ICチップ情報の読み取りが必要になります。
自治体は犯収法の直接の対象ではなく、今回の改正によって自治体に新たな対応義務が生じるわけではありません。ですが、本人確認が「目視・画像中心」から「電子的な真正性確認」へ移るという、社会全体の流れについては自治体としても注目すべきでしょう。

本人確認の変化を自治体サービスの高度化につなげる
自治体では、住民票や戸籍、税証明、国民健康保険、介護、福祉、子育て、給付金、電子申請など、さまざまな場面で本人確認を行っています。申請の種類によっては、本人確認に加え、住所や世帯構成、振込先口座などを正確に確認する必要があります。社会全体で本人確認の電子化・高度化が進む中、自治体でも、本人確認を単に申請者を確認する手続きではなく、住民サービスの安全性と利便性を支える仕組みとして捉え直す必要があるでしょう。
現在、自治体窓口では、マイナンバーカードのICチップに記録された基本4情報を申請書の作成や住民情報との照合に活用できます。これにより、住民が複数の書類を何度も記入したり、職員が書類から転記したりといった作業が減り、正確な情報に基づいて手続きを進めやすくなります。
将来的に期待されるのが、マイナポータルの活用や、行政機関・民間事業者との情報連携の拡大です。例えば引っ越しでは、住民票の異動以外にも自治体内で複数の手続きが発生します。マイナンバーカードを起点とした本人確認と情報連携がさらに広がれば、自治体内だけでなく、金融機関や保険、運転免許証など、住所変更に伴う自治体外の手続きの手間も軽減できる可能性があります。同様に、子育て支援や給付金の申請でも、マイナンバーカードを起点に住民の世帯情報や受給資格の確認が電子的かつ正確に行えるようになれば、複数窓口をまたぐ手続きや必要書類の準備といった住民の負担を軽減できる可能性があります。これらすべてが現時点で実現しているわけではありませんが、制度や本人同意、システム連携などの条件を整えながら、段階的に実現していくことになるでしょう。
本人確認基盤がつなぐ窓口、オンライン申請、出張対応
本人確認の高度化は、窓口だけを対象とした取り組みではありません。対面窓口だけでなく、オンライン申請や出張対応など、住民との接点に応じた本人確認の仕組みを整えることで、安全性を保ちながら手続きの選択肢を広げられます。
その一例が、総務省やデジタル庁が推進している窓口変革(フロントヤード改革)です。窓口で「待たない」「書かない」「回らない」という3つのキーワードが、住民体験改善の重要なポイントとなります。重要なのは、これらを単独で進めるのではなく、確実な本人確認と取得した情報の活用を一体で設計することです。
オンライン申請や庁舎外での出張対応でも、同じ考え方と運用ルールで本人確認を支えられるようにすることで、住民は状況に合った方法を選びやすくなり、自治体も接点ごとに分断されていた業務を見直せます。
例えば、住民が自身のスマートフォンでマイナンバーカードを読み取り、公的個人認証を利用して本人確認と申請を行える仕組みを整えることで、来庁せずに完結できる手続きを増やせます。申請書の記載漏れや本人確認書類の確認、システムへの転記作業を減らせるのも大きな利点です。高齢者施設や福祉施設、地域の相談拠点、災害時の避難所対応などに職員が出向く場面では、タブレット端末とカードリーダーを組み合わせることで、現地で本人確認から申請受付までを一体的に行える可能性があります。
さらに、本人確認の仕組みを共通化できれば、住民の再来庁や手続きの差し戻しを減らすとともに、限られた人員でも安全で正確な住民サービスを継続しやすくなります。

本人確認を個別の機器ではなく共通基盤として考える
自治体DXを進める上では、本人確認をカードリーダーの導入や1つの業務だけの仕組みとして捉えないことが重要です。窓口、オンライン申請、出張対応をつなぎ、本人確認結果や読み取った情報を各種手続きで安全に活用できる共通基盤として設計する必要があります。
まずは自治体の組織内で本人確認が必要な業務を棚卸しし、手続きごとに必要な確認レベルを整理する必要があります。また、児童手当や介護保険、各種給付金などの申請には、なりすましリスク、扱う個人情報の機微性、金銭給付の有無、代理申請の有無などが伴います。本人確認だけでなく、住所や世帯構成、振込先口座などの確認といった要件に応じて、住民にも職員にも分かりやすい運用ルールを設計することが出発点となります。住民向けの案内やFAQ、職員向けマニュアルを整えるとともに、カード未保有、読取エラー、代理申請などの代替手段とエスカレーション先を定めておくことも重要です。
その上で、対面窓口のICチップ読み取り、オンライン申請の公的個人認証、出張対応のタブレット連携などを、既存の窓口・基幹系システムや電子申請とどうつなぐかを検討します。システムや機器の選定では、連携性、セキュリティ、操作性に加え、将来の制度変更やサービス拡張に追随できるかも確認する必要があります。個別に仕組みを導入すると、接点ごとに異なる運用が並立し、かえって職員負担や管理コストが増える可能性があるためです。
目指すべきなのは、現在利用できる仕組みを着実に整えながら、将来的な情報連携による安全性や利便性の向上にも拡張していける体制をつくることです。本人確認を共通基盤として整備することは、「待たない」「書かない」「回らない」に加えて、「行かなくてもよい」行政サービスを支え、住民サービスと自治体業務を持続可能なものにすることにつながります。
導入にあたっては、本人確認の要件や運用ルール、既存システムとの整合性を整理した上で、業務に適した進め方を検討することが重要です。本人確認の高度化に必要な仕組みは、利用シーンや運用上の課題によって異なるため、早い段階から機器やソリューション、その連携方法について情報収集を進めておくことが、円滑な導入につながります。
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