第二回 MSIコンピュータージャパン株式会社
MSIコンピュータージャパン株式会社(以下MSI)は、世界をけん引するゲーミングブランドとして、ゲーミング業界、eSports業界から最も信頼されているメーカーの1社です。1986年台湾で創業し、日本市場へ参入した1999年以降、MSIが日本市場でどのように展開を拡大し、現在の地位を確立していったのか。キヤノンマーケティングジャパン(以下キヤノンMJ)との協業の内容について、ご紹介いたします。
[対談メンバー]
MSIコンピュータージャパン株式会社
社長
江富盛 様(Ricky Chiang様、以下敬称略)
2015年MSI台湾本社に入社後、ノートPC事業に携わり、2017年から日本に赴任し、2019年から日本法人の社長に就任。日本のマーケットには長年携わっており、精通している。
ノートPC営業本部本部長
洪晧 様(Felix Hung様、以下敬称略)
2016年MSI台湾本社に入社、2018年から日本法人へ。マーケティングとEC法人向けのアカウントセールスを担当。
GDT & GMNT部長
余亞庭 様(Eva Yu様、以下敬称略)
2019年MSI台湾本社に入社、最初はタイを担当、2020年から日本を担当している。モニターとデスクトップPC部門の責任者。
●日本参入当時から、キヤノンMJとタッグを組むまでの経緯
キヤノンMJ:1999年から日本市場に参入となりますが、当初はどのような計画でスタートされたのでしょうか?
Ricky:1999年当時、MSIはOEM/ODMがメインの会社でした。日本に参入した時も、大手パソコンメーカーのOEM/ODMと、リペアセンターがビジネスのスタートです。その後、自社ブランドのコンポーネント(部品)のマザーボード・グラフィックスカードを、そして、ノートパソコンへ展開を広げていきました。
ゲーミングマーケットへは、2008年MSI初のゲーミングPC「GX600」の発売を機に参入しました。この時はキヤノンMJではなく別の代理店で量販店やパソコンショップへ展開を致しました。
当初は、コンポーネントがメインの商売をしていたので、コンポーネントの取り扱いを行っている代理店経由で市場展開しましたが、日本でノートPCを本格的に展開するには量販店に強い代理店に変えていかなければいけないとの判断から、キヤノンMJと契約をすることに致しました。
キヤノンMJ:量販店に強い代理店の中でもキヤノンMJを選んだ決め手とは何だったのですか?
Ricky:当初は、まだMSIと一緒にゲーミングPCマーケットの将来に熱意を持って考えてくれる代理店さんはキヤノンMJしかいなかったからです。キヤノンMJの当時の担当者に「既存のビジネスでは面白くない、他の人がまだ見えないところがチャンスだ」と言われまして、私も同じ考えでした。
キヤノンMJ:フィーリングや考え方が近かったということですか?そこには人間と人間の関係が土台としてあったということですね?
Ricky:そうですね、メーカーと代理店は、相棒にならないと絶対成功しないと思います。
●将来性のある市場、パートナーとともに成長を続ける
Ricky:この数年でどんどん市場は伸びてきまして、キヤノンMJと一緒にビジネスを成熟させてきました。MSIは日本マーケットの基礎を作り上げる仕事とプロモーションをやってきました。
2015年に、大手量販店でゲーミング体験ができるゲーミングゾーンを提供し始め、現在まででゲーミング装飾をした店舗は300店舗を超えました。
キヤノンMJ:当初はターミナル駅の大型店からスタートして、現在は身近な家電量販店でもゲーミングPCに触れる機会がありますね。
Ricky:また、当初キヤノンMJは量販店には強みがありましたが、パソコン専門店向けにはそうではありませんでした。しかし、専属契約以後、もともと得意ではないパソコン専門店に対してもしっかり取り組んで実績を出してもらい、お互いノウハウを共有して成長できてきたのではないかと思います。
キヤノンMJ:キヤノンMJももともと得意ではなかったチャネルに対して、MSIの商材を扱わせていただくことで、開拓していくことでき、一緒に成長することができたのですね。
Ricky:はい、8年一緒にやってきて、お互いに成長できました。ゲーミングマーケットは非常に難しいですが、取り組んで本当に良かったと思います。数字は絶対にごまかすことはできませんから、今の売上はその成果だと思っています。
キヤノンMJ:直近の活動の中では、特に意識されているようなことはありますか?
Felix:ゲーミングノートPCの市場は著しい成長をしていますが、まだすごくポテンシャルがあると思っています。海外と比較すると、ノートPCで独立グラフィックボードの搭載率が低いこと、また、独立グラフィックボードを搭載するPCの中でも日本はノートPCの比率が低いです。
日本のゲーマーの皆さんの中にはノートPCの性能に対して不信感をお持ちの方もいるのかもしれません。しかし最先端の技術のおかげで、今や性能はもうデスクトップに負けないぐらいになっています。
こういったノートPCの魅力をユーザーさんに気付いてもらえるように、オフラインのイベントや、インフルエンサーの力を借りた情報拡散、また、エンドユーザーさんにもっと良い買い物の環境を提供するということを意識して取り組んでいます。
キヤノンMJ:そんなにまだまだ伸びしろがある市場っていうのは、すごい夢がありますね。
●本格的な提携へ、2019年のモニター契約
キヤノンMJ: 2015年からキヤノンMJとノートPCの代理店契約を結んだ後、さらに2019年にはゲーミングモニターへと取引商品を広げることになったのですよね。
Ricky:MSIがゲーミングモニターの販売を日本で始めたのは2017年からです。当初は、別の代理店経由でしたが、私が日本で社長に就任した2019年の時に、キヤノンMJにモニターもお願いすることにしました。それまでにノートPCで大きな成功を得ていましたので、デスクトップとモニターもキヤノンMJと組んだ方が一番市場導入が早いだろうと考えたからです。実際に、2019年からゲーミングモニターも御社にお任せしてから1年で大きな成功を獲得しました。
実は、2020年のキヤノンMJ向けのゲーミングモニター出荷台数が、2017年から19年トータルの数字と同じなのです。つまり1年間で過去3年の合算の数字を達成してもらったということになります。
Eva:日本のモニター市場規模はとても大きいのですが、2019年はそのうちゲーミングモニターの比率は10%程度しかありませんでした。ですが、2021年には構成比は50%にもなりました。日本のゲーミングモニターの成長率は大きくて成長性があると思います。
MSIとしては湾曲ゲーミングモニターを展開しているのですが、日本では平面モニターの人気もあって、湾曲モニターだけでなく平面のゲーミングモニターも引き続きシェアを拡大していきたいと思います。
●MSIオフィシャルオンラインストアの運営もキヤノンMJとともに
キヤノンMJ: 2019年からMSIの公式オンラインショップをキヤノンMJと運営していますが、どのように役割・職務を分けているのでしょうか?キヤノンMJに運営を任せることによるメリットはありますか?
Felix:役割の分担としては、キヤノンMJに、サイトの基本運営、在庫調達や、カスタマーサービスを担当してもらっており、MSIは商品のプライシングや、セールプランを担当しています。マーケティングと運営計画を2社共同で行っています。
このECサイトも毎年成長しています。2022年は当初設定していた目標より8倍ぐらいの売上を達成していますね。今ではMSI・キヤノンMJの両社とも、専属のチームが運営するほど大きくなりました。
オンラインストアを作った経緯ですが、ダイレクトカスタマーはこれからグローバルでどこのブランドでもトレンドになります。やはり親和性が高いのは、ユーザーの購買履歴から趣味嗜好を分析できることですね。好きなものなどをちゃんと分析できるので、もっと良い製品のプランが作れると思います。
我々が、オンラインストアを作るのはチャネルカスタマーと競争するわけではなく、1つにはもっといいサービス・製品の提供ができるようになるためです。例えば、ものすごいスペックが高いノートPCなど、一気に広く展開することができないようなものは、自社のサイトがあれば、必要なお客さまにだけ届けることが可能になります。
もう1つには、メーカーの公式ショップから買った方が安心感がある、そう思っているお客さまがたくさんいらっしゃるからです。今のMSI製品のユーザーさまの80%が35歳以下の若い客層ですが、MSIショップでは利用者層が大きく変わり、35歳以下の割合は45%に留まります。このことから、オンラインストアではキヤノンブランドを信頼している40代50代のお客さまがMSI商品を購入していただいているのだと、個人的には考えています。
メーカー直営という安心感に加え、キヤノンの名前でダブルの安心感を提供できていると思います。
さらに、キヤノンMJとは、マーケティングで協力できると思っています。キヤノンのSNSのアカウントとの協業なども実施して、カメラ業界のユーザーなど、親和性が高い新しいお客さまを開拓することができました。
●キヤノンMJと提携して感じたメリット
キヤノンMJ:皆さまが、キヤノンMJと付き合うことで、感じているメリットがあれば教えていただけますか。
Felix:キヤノンMJは量販店さんとのグリップ力が強いと思いますので、一緒に新しいビジネスをスタートしたいと思ったとき、すぐに、量販店のキーマンと面談できてビジネスが展開できるのがよいと思います。
2つ目に、仕入れ、在庫管理、出荷をしっかりと管理していただいている点です。毎年実績が伸ばせるのもキヤノンMJが、しっかりと在庫管理していただくことが要因だと思います。
3つ目としてキヤノンMJは歴史のある会社ですが、新しいことにも取り組んでくれます。例えば、今MSIのオンラインショップを共同で運営していますが、そういうビジネスを展開する際にもスピード感ある動きができますし、マーケティングの共同活動やBtoB商流開拓など、新しいことをできるのが、他社にはないところだと思います。
キヤノンMJ:マーケティングの協業はどのようなことをされてらっしゃるのですか。
Felix:有名な写真家の方に、MSIのノートPCで写真の編集をしていただいて、使用感をシェアしていただくなど、MSIショップへ誘導する協業を一緒にやりましたね。
キヤノンMJ:なるほど。キヤノンのユーザーとの連携もすることができる。そういうことですね。
Felix:伝統的なチャネルもできるし、新しいことも取り組めるのは、キヤノンMJの一番強いところだと思います。
Eva:私が担当するモニターの方でも、在庫を持っていただいていることはすごく大事です。モニターの納期は長いのですが、急に市場が変化することもあるので、先々の在庫を持っていただいているのは大変助かります。
Eva:「この先大きなセールがあるので、在庫を多く用意しなければならない」という情報も細かくもらえますし、数か月先の市場予測はギャンブルみたいな要素もあるので(笑)。でもキヤノンMJはビジネスパートナーとして、MSIと一緒に市況を精査しながらモニターの市場を支えてくれていますね。
Ricky:今MSI本社ではさまざまな世界的な要因の影響で、在庫管理も厳しくなってきました。その中でも、キヤノンMJは、一番良くできていると褒められています。毎週在庫や販売の詳細なデータをしっかり管理して共有してくれているからです。我々メーカーは、そういった市場の状況を詳しく把握できるので、市場への対策、戦略、プロモーションへも早めに反映できるのですよ。
キヤノンMJはチャネルへの出荷だけでなく、販売店から直接お客さまに届くところまで見てくれています。私は2015年からの戦略でセルアウトを重視したのですが、この考え方を受け入れてくれたのはキヤノンMJのみでした。 ほかの代理店さんだと、販売店への出荷までで、販売店からエンドユーザーまでのセルアウト実売を管理するという認識はありませんでした。あの時は御社が最先端のビジネスセンスだと思いました。だからこそ今健全な体制で、良い実績に繋がっているのだと思います。
キヤノンMJさんは、MSIのポリシーをよく理解していただいて本当に感謝しています。そういう意味で協業の相手というだけでなく、パートナー、相棒といった関係に近いと感じています。 自分で言うのもおかしいかもしれないですが、今業界のほかのメーカーさんやチャネルさんからも、MSIとキヤノンMJさんが手を組んだらもう業界最強のコンビだと呼ばれるようになりました。(笑)
これまでキヤノンMJとビジネスをしてきて、これからも末永く御社と一緒にビジネスを続けたいと思っています。
将来様々なチャレンジもあるあると思いますが、我々は必ず一緒に乗り越えると、確信しています。