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毎日つかう文房具を、五感全部で愛でる。

公開日:2021年6月25日

最終更新日:2022年12月23日

Photo :Misato Kan
Special Thanks :Shino Suzuki

小さい頃、引っ込み思案でなかなか友達の輪に入れなかったと話す菅さん。そんな彼女のことをぐいっと後押ししたのは手元にあった文房具。実用ではなく、ビジュアルのユニークさや彩色の美しさ、書き心地の良さが伝わる音やこだわりの感じられる香り。そんな発見が、思わぬ会話の糸口に繋がったのだそう。見れば、知れば、きっと好奇心がくすぐられる。そんな文房具のめくるめく魅力について、文具ソムリエールの菅さんにご案内いただきます。

PROFILE

菅未里(かん・みさと)

文具ソムリエール。文房具売場での販売員を経て、感性面の魅力を通じて文房具を薦める。

ひとをつなげる、文房具

はじめまして。菅未里です。
文具ソムリエールを名乗り、文房具の魅力をみなさんにお伝えしています。

この仕事柄、人前で話す機会を度々いただきますが、実は「おしゃべり」への苦手意識が少なからずあります。小さい頃は今以上に話すのが苦手で、内気な人見知りのこどもでした。クラスメイトに声をかけることはおろか、みんなの会話の輪にも入れない。そんな私におしゃべりのきっかけを作ってくれたのが、サッカーボールの面白消しゴムでした。「それ、なに?こんな消しゴムがあるんだ!」。そう憧れの同級生に話しかけられたとき、緊張しながらも当時集めていた面白消しゴムをどんどん見せては、会話のラリーが続いていく。文房具がおしゃべりのきっかけになる、となんとなく気づいたのはこの時でした。

それからの学生生活というもの、多数派のMONO消しゴムに対してフォームイレーザーを敢えて使ったり、プニプニのドクターグリップが流行る中ひとり珍しい製図用のシャープペンを筆箱に忍ばせてみたり。鞄や制服などの決まり事からはずれて「人と違う文房具を持っている」ことに気づいてもらい、会話の糸口をつくる。そんな風にして文房具に助けてもらいながら、次第に周りの人とのつながりを深めていったのです(お陰様で少しずつ明るく、社交的になっていったように思います)。

学生時代には気づきませんでしたが、文房具は年齢や性別を問わずあらゆる方とお話しするネタになるんです。ペンひとつあれば、学生の頃に使っていたアイテムの思い出話へつながったり、人生の先輩方からも「それ、自分も使ってたよ」なんてお声がけいただけることも。文房具は、コミュニケーションの潤滑油なんです。

文房具を五感であじわう

文房具の魅力を言い出したらキリがありません。実用性はもちろんですが、私にとってはそれ以前に、「気持ちの良い音」とか「美しい色」、「良い香り」などの感性に訴えかけるところにときめきを感じます。誰とでも感じたままに共有できること、とでも言うのでしょうか。自分の琴線に触れたことを共有すると、案外「私もそう思っていました!」と反応がくるので面白いものです。

たとえば、私は鉛筆を削ったときに出る木屑がひだになって、ふんわりしている様子にたまらなく見惚れてしまいます(だから、削りカスの出る鉛筆削り以外は基本的に使いません)。本当に美しいんですよ。黒い芯まで削ってしまうと見た目が毒々しくなってしまうから、削りすぎないように。鉛筆を使う前には必ず、削ってから使い始めるくらいです。それから鉛筆つながりで言えば、香り。実は文具メーカーの展示では鉛筆の香り比べなんかもあるんですよ。芯材の種類や作り方によって全然違うんです。ご存知でしたか?

そういう細部に焦点をあてて、語られざる文房具の魅力を伝えていくのが私のスタイルでもあり、楽しみ方なんです。撮影する写真も「ここを見てほしい!」と思うパーツをアップで切り取った画角が多いですね。これまでの文房具は商品の全体写真が多かったことから、たまにご意見をいただくこともあるのですが、素晴らしい技術を伝えたいと思うと自然とそうなるんです。文具メーカーさんは控えめでご自分の魅力をあまり大きな声でおっしゃらない分、おこがましくも私がそうやって代弁できれば、なんて思うのです。

たとえば、補充用のアラビックヤマトをご覧になられたことはありますか?スタンダード8本分の容量のビッグサイズで、パッと見るとその大きさに目がいきがちなんですけれども、底部にこそこだわりが詰まっています。ここには取り替え用のスペアキャップが8つ、それにキャップを取り換えるためのスポンジキャップオープナーが収納されています。にも関わらず、全体のプロポーションを崩すことなくすっきりとしていて、かつ見た目のインパクトが相まって、面白い!

それから回転印のスタンプパッドについて。くるんと半回転することで印が押され、引くことでさらに回転してインクが付着する。この動きはもちろん、いろんな機能を考えに考え尽くした結果、このかたちに設計され、この場所にスタンプパッドがおさまっている気持ちよさ。もう、たまんないですね。

語り出したら止まらないのですが……セロハンテープの切り口がスパっと気持ちよく真っ直ぐ切れるだとか、黒インクと一口に言っても、青みがかっていたり薄黒だったり、ペンのガイドカラーと実際のインク色が違うとか、よく「鳴く」万年筆のいい音だったり……。

すぐに気づけることも、よくよく観察しないと気づけないことも、文房具それ自体にたくさんこだわりが詰まっていて思わず感動してしまいます。だいたいの文房具は掌におさまるほど小さいですけれども、これこそメーカーさんの知恵の結晶なんです。

文房具は自由で、可能性に満ちている!

日本の文房具は、外国人の文房具好きからも評価が高いんですよ。ただ捉え方は少し違います。とくにアジア圏の文房具好きインフルエンサーの方々にとっては、「文房具=ファッション」なんですよ。実用性も重視する一方で、ファッショナブルだったりかわいさだったりと、自分を表現するツールでもある。いままでの日本の文房具業界では邪道とされる考え方でしたが、ここ数年でだいぶ感性寄りになりましたね。ただの道具から、こだわりの「装うもの」に変わりつつある、というような。

そのいい例が、ピンク色の変化に見られます。一時代前までは文房具業界にも「ダサピンク現象」、いわゆるどぎつい残念なピンク色の商品が多く見られましたが、最近ではピンクの豊かさが認められてローズピンクやサーモンピンク、ベビーピンクなど使い手に寄り添うバリエーションが増えました。女性の使う「色」と一括りにせず、使い手ひとりひとりの感覚や美意識を尊重した変化だと思います。個人的に、これは非常にうれしい改革ですね。

文房具は、その価値基準の多さゆえに文具好きのこころを掴んで離しません。可能性に満ちていて、規定されることがない。重いパソコンが軽いパソコンより良いとされることはないでしょうし、洋服にもTPOへの配慮が求められます。でも、文房具はそうじゃないのです。それぞれのライフスタイルに合うだけのバリエーションが豊富で、なにが正解か、なにが不正解ということもありません。どれだけ自分の生活が変わっても、その時々に寄り添ってくれるものがある。どれだけ自分が変わっても、新しい出会いがあるのです。だからこそ、文房具への恋心はずっと醒めることがない。そんな風に思います。

  • Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場面)の頭文字を取った略語であり、時と場所、場合に合わせて行動や言動をわきまえること
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毎日つかう文房具を、五感全部で愛でる。
https://personal.canon.jp/articles/life-style/itoshino/list/stationery
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https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/life-style/itoshino/list/stationery/image/thumbnail-main.jpg?la=ja-JP&hash=5BC01A19E3B709FDAB01C9032EF5E06A
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