■原田大三郎氏メッセージ
Dynamics
衝突の力学
―ある有機体との出会い―
戦闘機と水様性有機物の衝突。
流体力学によって引き起こされたそのカタチは
すべての瞬間、未知なる美しさに溢れている。
飛行物体と流体力学
ある物体に対して、水様の特性を持った物体が衝突して生じる運動・形態。
昔から僕は何故だかこの“水様物(有機物体)が力(抵抗)に出会い変化する”
時の曲率、曲線の変型率にキュッと来るような感動を覚える。
それはコンピュータに代表される先端技術を駆使したCG表現の孤独な世界から、
砂漠や氷河、火山といった大地のうねりや水滴や雲や光に宿る自然界の
圧倒的な美を切り取ろうとする実写の世界という、正反対の活動を同時に
行って来た、僕の矛盾を融合させる一つの“試み”であるかもしれない。
僕はそのうねりの向こう側が見てみたい。
振動のはじめからおわりまで、その動きのひとつひとつを凝視したいのだ。
ある力が作用する事によって引き起こされる有機的なゆらぎ。
全く無理のない“形状”、“曲線”、“波”、それこそ僕がずっと作品の中で
成立させようとしてきたものだ。
『ジュラシック・パーク』以降、あらゆる物の形が時間さえかければCGで作れてしま
うようになっても、この波、あるいは歪みは容易に空間上に表現することは難しい。
それはまったく予測不可能な形状で現れ、しかもそのフォルムは常にこの上もなく
エレガントなのだ。
一方、子供の頃から飛行機、とりわけ戦闘機の持つ美しさが大好きだった。
ライト兄弟が始めて空を飛んで以降、ボイジャーが太陽系の向こうへ消えるまで
実に100年余の間、飛行機(飛行物体)という存在はあらゆる形や方法論に挑戦する、
他に類を見ないクリエイティブな試行錯誤を重ねて来た(または表現の多様性を持つ)
人工物だろう。
中でも究極の機能を持つ飛行物体である“戦闘機”はテクノロジーが進歩すれば
するほど、そのカタチは有機的なつややかさを持ち、動きは自在になっていった。
それはまるで海を泳ぐイルカのようにも思え、限りない“自由”を感じさせる形状を
携えている。空気の抵抗を得て、それを浮力に換え、調和をとって自由に進む美しい
もの。それは、暴力的な推進力で大気を一直線に飛び出すロケットでも、
究極的に速くそして美しいが、地上を離れることの出来ない限定された宿命を
負うF1マシンでもない。
FA18が未知の有機物と衝突する。
最新の技術の結晶が兵器であるという矛盾。その危うさも僕には意味深いものだ。
しかし何よりも、僕を惹き付けてやまない、この“美しい物体”たちが出会う“ある事件”。
その現場を、僕は観察してみたいと思った。