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手作りおもちゃのアイデアはどこから? 生粋の工作好き佐藤さんの頭の中。

Photo : Fuki Sato

おもちゃ作家・佐藤蕗さんにとっての手作りおもちゃとは、自分の半生を通じて「ただ好きこのんで」作り続けてきたもの。それがお子さんが生まれたことで一転! 相棒として、仲間として、大きな意味をもつように。「我が子だけれどもどうやって一緒に時間を過ごせばいいのかわからなかった」と話す彼女にとって、アイデア勝負の簡単な手作りおもちゃやダンボールで作ったおもちゃは、とても心強いコミュニケーションツールになったのだとか。そんな「ありがたい」存在の手作りおもちゃについての想いと、夏休みの自由研究などにも活用できるアイデアの育み方をお聞きしました。

PROFILE

佐藤蕗さん
佐藤蕗(さとう・ふき)

おもちゃ作家。第一子出産後、「自分と子供のため」作っていたおもちゃがSNSにて反響を呼ぶ。現在、オンラインコミュニティ「佐藤蕗の手作りおもちゃ教室」も開講

手作りおもちゃで生まれた、我が子とのコミュニケーション

初めての出産、初めての母子生活。

いくら自分がお腹を痛めて産んだ子どもとはいえ、お世話をする以外の時間にどうやって一緒に過ごしたらよいかわからない……。そんな悶々とした日々を過ごすうちに、子どもとのコミュニケーションツールとしておもちゃが有効な手段だということに気づいたんです。

もとより手先を動かすのは好きな性分。そうして初めて作ったのが「顔シール」でした。これは床やカーペットなどにチラシなどから人の顔を切り取ったものをセロテープで貼っただけのごく簡単なもの。生後半年くらいの、ようやくうつ伏せになれるようになった長男はちょうど人の顔を認識する頃で、大喜びで剥がして遊んでいました。

0〜1歳児向けの「顔シール」。お子さんに向けた、デビュー作のおもちゃ。
お子さんに向けた、デビュー作のおもちゃ「顔シール」

そもそもは市販のおもちゃも買い与えていたのですが、すぐに子どもは飽きてしまうもの。しかも、面白がって遊んでくれるかどうかなんて実際に与えてみないとわかりません。ならば日常の行動から興味や関心の芽生えた対象をうまくおもちゃにしてあげよう、とふと思ったんです。

もしかするとちょっとした美談のようにも聞こえますが、実際のところは子供のためというよりも「自分の『作りたい欲』を昇華させるための格好のネタを見つけた」というのが正しい表現かもしれません。子どもと一対一で過ごす時間は孤独でしたし、自分は幼い頃からなにかとものづくりが好きだったこともあって、精神安定のためにちょうどよい「遊び」を私自身が見つけたということなんです。

にいちゃんが作ったお風呂シールを見つめる次男坊。
にいちゃんが作ったお風呂シールを見つめる次男坊

振り返ると小学生の頃から「フォーク一本でどんな遊びができるだろう?」と限られた条件のもと、どんな遊びができるか考えることが当たり前でした。習い事にも通っていませんでしたし、おそらくすごく暇だったからでしょう(笑)。兄も同じようなタイプでしたので、影響を受けた部分もありそうです。

この工作癖はその後も変わらず、道端に落ちていたブラウン管のテレビを拾ってきて分解したり、電化製品の基盤をいじったりしていたのをよく覚えています(当時はリサイクル法が今ほど整備されていなかったこともありますが、今思えば結構危ないことをしていましたね)。

惑星探査機好きの息子さんのために発案した「いろいろなピック」。食事が楽しくなるひと工夫。
惑星探査機好きの息子さんのために発案した「いろいろなピック」。食事が楽しくなるひと工夫。
2歳児向けの「とりてぶくろ」。佐藤さんとともに子育てをした「相棒」のような存在。
2歳児向けの「とりてぶくろ」

そういうわけで私自身「知育にいいから!」などという高尚な親心からではなく、ただ自分が好きで作っていて、それを子どもも喜んでくれたから「お互いにWin-Winだよね」みたいな感じです。

子どももそれを分かっているのか「僕たちのために時間を作ってくれてありがとう!」みたいな気持ちはきっとないんじゃないでしょうか(笑)。

ダンボールを使った手作りおもちゃの最高傑作

今までの手作りおもちゃの中でも、長男が1歳半くらいのときに作った「インスタントトンネル」は私にとっての最高傑作のひとつです。作り方はすごく簡単。ダンボールの側面を切って穴を作って、トンネル状にするだけ。

0〜1歳児向けの「インスタントトンネル」。子どもの空間認識能力の芽生えからアイデアを着想。
インスタントトンネル

とても簡単なのに長男はものすごく喜んで、小学2年生になってからも「ダンボールのトンネルで遊ぶのが楽しかった!」と思い出しては、夢中になっていた頃の話をしてくれます。1歳半のことなんてほとんど覚えていないはずなのに! 忘れないほど記憶に焼き付いていたことがすごく嬉しかったですね。

この手作りおもちゃの着想は、長男に車のおもちゃを与えた時にずっと前後に動かして遊んでいたことに衝撃を受けたことからです。「(この動作って)冗談みたいだけど本当にするんだ!」と(笑)。アニメの中では子どもの描写として多用される行動ですが「誰も教えていないのにまさか自然にするなんて」とじっと見ていたんです。

お子さんがインスタントトンネルで遊んでいる様子

そうしたら、立体物の後ろに置いたり出したり、ソファの下に隠したり取り出したりしていて。「あ、これは空間を認識するためにやっているんだ」と、遊びながら彼なりになにか学んでいることを私が気づいたんです。この仮説が正しければきっと喜ぶはず……と思って生まれたのがダンボールで作ったトンネル。見事に彼にはまったと気づいた時、私にも快感が走りました。

なにせその行為や遊びに興味がなくなる前におもちゃを完成させて、遊んでもらわなくては意味がありませんから。とにかく子どもが育つ前に作ってしまわないと。アイデアはとにかくいっぱいあるんです。遊んでいる絵面が面白いものも……。

かまぼこの板を活用した「かまぼこケーキ」。見立てる面白さがある。
かまぼこケーキ

一方、興味深いもので長男がどハマりしていた「インスタントトンネル」は、次男には笑ってしまうほどに全くささりませんでした。同じ性別とは言っても興味や対象は全然違う。その個性のありかたも、おもちゃを通じて知ることができた面白さですね。

手作りおもちゃを作品集の写真のように撮影する

お伝えしてきた通り、手作りおもちゃは子どもが遊んでくれる「旬の時期」に完成させて、遊んでもらわなくてはいけません。

子どもが実際におもちゃで遊んでいる様子を撮影するのは案外難しいのですが、できる限り写真に収めるようにしています。子どもってすぐ大きくなっちゃいますから。撮れるうちに撮ってしまわないと。

佐藤さんのお子さん作の手作りおもちゃ。撮影環境を整えるだけで、「記念写真」としての価値が大きくなる。
佐藤さんのお子さん作の手作りおもちゃ

それから手作りしたおもちゃは白バックで撮影しておくこともよくしています。きちっとして、ちゃんとした作品っぽく見えるんです。

子どもが作ってきた工作おもちゃもバック紙を使って撮ると立派に見えるもの。溜めてもいつか捨ててしまうので、ちゃんとした姿で写真に残しておこうという親の魂胆もあります(笑)。

佐藤さんに聞く! 夏休みの自由研究に活かせる手作りおもちゃのアイデア

手作りおもちゃのためのアイデアは、日々の生活のなかに散らばっているものをキャッチして頭の中にストックしています。それが自然に熟成されてレシピになることもあれば、テーマから逆算して作ることもあります。

お子さんが手作りおもちゃで遊んでいる様子
暗い部屋でスマホのライトをかざすとプロジェクションマッピングのように壁に絵が投影されるおもちゃ。自然光の下でも楽しく遊べる。
お子さんが手作りおもちゃで遊んでいる様子

組み立て方をとても簡単に説明するとなれば、まずはひとつの物事をいろんな角度から見ることから始まります。その時に、ちょっとだけずらして観察することもいいですね。

そうして見つけた視点が、どうして面白いのか考える。面白さの理由を因数分解していく。するとだいたい2つくらい、面白いと思える理由が見つけられるものです。見つけてしまえばあとはもう、それを際立たせるためのストーリーをひたすら考えるだけ。

特別なことはしなくても部屋の中で「面白さの種」を見つけることは簡単です。たとえば、ガラスに光が当たって室内で虹が現れる現象。これをじっと観察すると、虹の光がどこからくるのかが気になったりするものです。「じゃあ、出どころを探してみよう」となる。

手に虹ができる様子

それを探し当ててみると、どこに反射して虹が生まれたのかまで見つけることができる。手をかざしてみる。すると虹が消える。手をどけると、また虹が現れる。自分の手ひとつで虹を出したり消したりすることができる。ひとつめのアイデアです。

続いて、虹の当たるところに絵を置いてみる。ただそこに置くだけで勝手に虹が架かる。これもまた面白い遊びです。続けて、絵を描いた紙を曲げたり伸ばしたりすると虹はどうなる……?

虹の当たるところに絵を置いた様子
虹の当たるところに絵を置いた様子

そうこうして遊びながら、ひとつの発見をどこまで広げられるかを頭の中でぐるぐる考えていると、手作りおもちゃのヒントは案外あちこちに散らばっていると気付けるものです。私はもう癖のようになっていますが、そういった視点をもって生活していると何気ないことがアンテナに引っかかってくるようになりますよ。

手作りおもちゃは私の存在意義

幼い頃の手作りおもちゃのアイデアが大人になり、自分の子どもが生まれてからもう一度命を宿すなんて不思議な気分です。当時ひとりで遊んでいた私が一緒に遊ぶ友達を見つけたかのような感覚で、子どもの頃の私が喜び、大人になった私も満たされるような心地があります。

お子さんととりてぶくろで遊ぶ様子

私にとって手作りおもちゃを作ることはある種の救済でしたし、こと子育てにおいては、ともに子どもを育ててくれた相棒のように思います。喜怒哀楽やいろんなトラブルを一緒に乗り越えてくれた頼もしい仲間として、まるで人格を感じるような作品もあるほどです。

今では自分だけではなく、知らない人からも「ありがとう」とお礼を言われることも増えました。「まさか、そんなことが人生にあるなんて」という感じですが、人の役に立つことができた実感が湧き、自分の存在意義を感じられるようになりました。

私にとっておもちゃは、お守りであり、自分を自分たらしめてくれるものなんです。

好きをかたちにするヒント

手作りおもちゃをつくって、こどもとの思い出を写真に残そう

好きなものを飾ったり、写真に残したり、アルバムにしたり。あなたの「好き」をかたちにするアイデアをご紹介します。

こどもと過ごす日常をありのままに撮ってみよう

おもちゃで散らかったお部屋も「いまだけ」の特別な瞬間の一つ。こどもの目線で日常を撮影するコツを見て、楽しそうに遊ぶお子さんの姿を残してみませんか。

遊ぶ子供の足元を撮影した写真

ふたりで遊べる!もぐらたたきを作ってみよう

定番のアクションゲーム「もぐらたたき」。キヤノンのプリンターがあれば、自宅で簡単に手作りできます。工作の時間まで楽しめるかわいいおもちゃ、ぜひチャレンジしてみてくださいね。

ペーパークラフトで出来たもぐらたたき
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手作りおもちゃのアイデアはどこから? 生粋の工作好き佐藤さんの頭の中。
https://personal.canon.jp/articles/life-style/itoshino/list/toys
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https://personal.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Personal/articles/life-style/itoshino/list/toys/image/thumbnail-main.jpg?la=ja-JP&hash=4B88A4CA5B2F7121A765BBE593F107AB
2022-07-25