市場に出回らない「本当に美味しいいちご」の感動を届けたいから



Photo :Mika Watabe

一粒のいちごが、ひとりの女性の人生を華麗に変えた。いちごのお菓子専門店「MAISON DE FROUGE」オーナー渡部さんのことです。それまでは「人並だった」いちごへの愛情は一転、今では栽培に関するアドバイザリーを務めるなど専門家として深くいちごに関わるまでに。その愛はとどまらず、いちごを眺めては美しい姿形に色気を見出し、品種や収穫時期ごとにアートピースとして楽しむことも。そんな彼女のただならぬ偏愛ぶり、そして数々のいちごを食べてきた彼女ならではの美味しいいちごとは?

プロフィール

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渡部美佳(わたべ・みか)
いちごの専門家。いちごのお菓子専門店「MAISON DE FROUGE」オーナー。いちご本来の味が活きるシンプルなお菓子を100種以上展開。「苺の研究所」を設立するほか農業研究機関のアドバイザリーなどアカデミックな立場からいちごの開発にも取り組む。
Instagram:@maison_de_frouge

一粒のいちごが新たな人生を切り拓いた

服飾業界の企画デザイン室に勤めていた私が一転、いちごのお菓子専門店を立ち上げたきっかけ。それはとてもシンプルな理由です。「美味しいいちごに出会ったから」。それに尽きます。

そのいちごとは愛媛県で栽培される「さちのか」。ポピュラーな品種のひとつですが、スーパーなどで売られるいちごとは味が全然違いました。とにかく味がとても濃い。「濃いってどういうことですか」とよく質問されますが、例えるならば原液のカルピス。水っぽくなく強い甘みが口いっぱいに広がる。思いがけず感動しました。

いちごを手に持っている写真

その美味しさの理由はいちごが十分に完熟しているから、と農家さんが教えてくれました。真っ赤に色づいたいちごは本当に美味しくて、農家さんもこのいちごを届けたいと願っています。けれども市場や消費者の手元に届ける際、日持ちのする、かつ綺麗ないちごが求められるため、その願いは叶いません。どうしても完熟前の痛みにくい状態で出荷するほかないのです。

ならば適切なスピード感をもって、美味しいいちごをお客さんに届けられる体制を私たちが作ればいい。私が感動したように、いちご本来の美味しさを多くの人に知って欲しいから。

そうして一粒のいちごとの出会いから、「MAISON DE FROUGE」は生まれたのでした。

「甘いイコール美味しいいちご」ではない

では美味しいいちごとはなんでしょうか。お店にお越しくださるお客様とお話しをしていると、「甘いいちごが美味しい」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。ですが是非機会があればいちごを品種ごとに食べ比べてください。ひとつの品種をとっても、収穫される時期や作り手の違いによって味は全く違います。それにいちごの美味しさは甘さだけではないと自然にわかります。

いちごの味わいは、甘味と酸味のバランスに加えて、香りや硬さ、大きさによります。面白いことに糖度が高ければ甘いと感じられるわけではありません。人間にとっては、適度な酸味があるほうが甘みを感じやすいのです。糖度が12度、酸味がほとんどないものより、糖度が10度で酸味が一定値ある方が甘味をより濃厚に感じられるものです。

1粒のいちごとその後ろにぼけた女性の姿

甘さの種類も様々です。砂糖液のようなぺとっとした甘さ、花の花粉のようなさらっとした甘さ、メロンのような爽やかな甘さ、洋梨のようなとろっとした甘さ、りんごのようなすっきりした甘さ。そこに味わいの華やかさや含まれる水分量、香りなどが加わり、いちごの個性が表れます。

20名ほどいる社内スタッフそれぞれの好みも三者三様です。「これを美味しく感じるのね!」という発見も日々のこと。いちごの味の幅の広さは面白いといつも思いますね。

何と言っても日本は、世界で一番いちごの品種が多い国(その数およそ360種!)。農業技術の革新によって、今まで存在しなかった夏採れのいちごも新たに生み出されるほどのいちご大国なのですから。

渡部さん流! 美味しいいちごの見つけ方

最近いちごのビジュアルに色気を感じるんですよ。色気のありかは、いちごの「首筋」に見えるところ。詳しく説明すると、ヘタといちご本体の接合部分から可食部にかけてふっくらと広がっていく部分です。なで肩いちごの、首から肩にかけて伸びた部分。眺めていると、すっと伸びたラインに色気を感じませんか?(笑)

半分見切れたいちごの写真

ここがつやつやとして透き通った赤みが斑点状に見えるいちごは色っぽいだけではなく、間違いなく味がのっていて美味しい! それを収穫せずにもっと長く生育するとこの部分がひび割れてきますが、その手前がとびっきりの食べごろ。

農家さんに話すと「そのかんじ、美味しいよね!」と共感いただけますが、美味しいいちごの一般的な見分け方ではないかもしれませんね。あくまでも我流です。

いちごのビジュアルの魅力はまだまだあって。「クラウンルージュ」と私が勝手に名前をつけた、いちごのヘタの下に小さなおしべがぐるっとついている部位もいいですね。

おしべは茶色いものが多いですが、ごくまれにピンク色のものがあります。これはアントシアニンという天然色素がおしべまで行き渡っているために見られる現象。緑のヘタにピンク色のおしべが載っていると、本体のいちごがまるで王冠をかぶっているように見えるんですよね。研究者の方に聞いたところ、美味しさには関係ないそうなのですが、それがまたいいんです。

それからいちご本体と粒々のこの可愛い感じ。粒々は本来の実に当たる部分なのですが、大きないちごアパートに粒々の実が住人として住んでいるように見えるのです。

種類ごとの魅力をクローズアップする

お伝えしてきたように、いちごには味わいだけでなく実にさまざまな魅力があります。品種の数だけ、それを開発した研究者の方の想いがありますし、それを育てる作り手の方の考えもあります。だから私たちは生産者一人ひとりにお会いして、その場でいちごを食べさせてもらいお話をお聞きします。

6つのいちごの写真

そこで聞き感じたことや自分たちが味わった印象を「MAISON DE FROUGE」というお店を通じて、たくさんの方にご紹介できたらと思っています。ぜんぶ同じではない「いちご」の魅力や好きないちごの味に出会っていただくきっかけになれたらなによりです。

それらのいちごの個性は、写真で写しとりたいもの。品種ごとの味わい(味覚)を視覚で表現するということですね。シャッターを切る瞬間には、どんな構図でどんな色味だったら、この子(いちご)の魅力が一番に伝わるかを考えています。

色とりどりのたくさんのいちごの写真

トロピカルな味わいの子であれば、感覚的に明るさが欲しくなります。そうなると直射日光の当たる時間帯のパキっとした光の質感が向いていそう。ころころとしたフォルムの子の可愛らしさは、一粒ではなくいくつも並べて真上からイラストのような画角がぴったり。すっと細長いクールな子は、青っぽい色味で仕上げて「ほら、私美しいでしょ」という感じに(笑)。

いちごがもつ個性をそのまま自然な雰囲気で撮ってあげる。そんなことを意識しています。

いちご研究家として、「MAISON DE FROUGE」のオーナーとして

いちごは、そうやって私の人生をかけて、あらゆるかたちで表現していくものです。お菓子といい、色味といい、ビジュアルといい。その魅力を通じて「ほらほら、いちごってすごくない?」と世の中に言い続ける感じでしょうか。

いちごのエキス写真

(実はいちごの赤色に魅せられてエキスを抽出したものを150本くらいコレクション中。いつかアートピースにできたらと考えています)

たとえば、いちごで世界を面白くできたらいいなと思っています。私が一粒のいちごに感動したように、世界中の人々に完熟のいちごを食べてもらいたい。ちょっとアタリがあってもいいよ、ちょっと形が悪くてもいいよ、美味しさのためなら。

そんな寛容な、優しさのあるコミュニティーを作っていきたいと思っています。

いちごのおいしさを存分に味わおう

好きなものを飾ったり、写真に残したり、アルバムにしたり。あなたの「好き」をかたちにするアイデアをご紹介します。

いちごのタルトをおいしそうに撮る

いちごのおいしさを写すポイントは、魅力的な部分をクローズアップすること。いちごがたくさんのったタルトをおいしそうに撮るコツを参考に、とっておきの一枚にチャレンジしてみてくださいね。

ジャムのフタをかわいくアレンジ

おいしいいちごのジャムが手に入ったら、お手製のジャムカバーでかわいくアレンジしてみませんか。プリンターがあれば、簡単な工夫でジャムのフタをもっとかわいく、便利にできます。

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